2025-08-18 12:09:22
1308文字
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ずっとそこにあったもの

ひょんなことから🐍☀️が始まるお話。
🐍さんの髪を綺麗と褒める☀️くんがいます。

「バイパーの髪って綺麗だよな」
 部活後のロッカールーム。ふとそんな言葉を投げかけてきた同級生に「いきなりどうしたんだ」と顔を向ければ、相手は「ああいや、変な意味じゃなくてさ」と顔の前で両手を振った。
「オレ、妹がいるんだけど髪伸ばすのが大変〜って愚痴られてさ。バイパーもその長さだろ? 綺麗だけど、手入れ大変だろうなって思ってさ」
「ああ……
 たしかに大変だ。結っても癖のつかない長い黒髪は我ながら気に入っているが、日々の洗髪とドライヤーにはどうしても時間がかかる。
「まあ、慣れだよ」
「モチベがないと続かなさそうだよな〜。妹も、彼氏が褒めてくれるから伸ばすけどって口尖らせてたぜ」
「ふぅん、そんなものか……
 俺の場合、髪を伸ばしだしたきっかけはバスケ雑誌で見たかっこいいヘアアレンジを真似したかったからなのだが。恋人からの評価のために伸ばすこともあるのか。なるほど。
「まあ、ショートも似合うと思うけどって言われたって惚気られたけどな〜。恋人がいる奴はいいよなぁ。あーやってらんね」
 自分に恋人がいないことを嘆きはじめた部活仲間の肩を小突き、「そう腐るな」と言いおいてロッカールームをあとにする。
 モチベーションか……俺の場合はどうだろう。自分のために伸ばしているのだし、そんなこと気にしたこともなかった。
「カリム、帰るぞ」
 軽音楽部の活動場所である空き教室のドアを開けて声をかければ、先輩たちと談笑していたカリムが立ち上がる。
「おっ、もうそんな時間か。じゃあな、ケイト、リリア!」
「おっつー」
「じゃあの、カリム」
「いつもありがとな。帰ろうぜ、ジャミル!」
「ああ」
 並んで歩き出したカリムが俺の頭を見上げ、首をかしげる。
「おっ、なんか頭がいつもと違うな!」
「ああ、違うヘアアレンジを試してみた」
「そっか。かっけーな!」
 にかっと笑ったカリムが俺の髪の先に触れる。
「ジャミルの髪は綺麗だから、惚れ惚れするぜ」
「そうか……――ッ!」
「うおっ? どうしたんだジャミル!」
 突然足を止めて顔を背けた俺に驚いたのか、カリムが慌てたような声を上げる。
「〜っなんでも、ない」
「なんでもないって感じじゃねぇぞ!? 顔赤くないか? 熱か!?」
「大丈夫だ!」
 早足で歩き出した俺の後ろを、「どうしたんだよ〜」とカリムが追いかけてくる。
『ジャミルのかみはきれいだな!』
『ジャミルの髪は黒くてまっすぐしてて、綺麗だ』
『オレ、ジャミルの髪好きだなぁ』
 幼い頃から何度も、何度も聞かされた賛辞。
 聞かされるのが当たり前すぎて、気にもしていなかった褒め言葉がいくつもいくつも、耳に蘇る。
『モチベがないと続かなさそう』
 ああそうだよ、その通りだ。面倒なドライヤーやヘアケアがそこまで苦じゃないのは、いつだって褒めてくれるやつがそこにいるからで。
「ジャミル〜?」
「うるさい」
「名前呼んだだけだろぉ!?」
 うるさいんだよ。何百、何千回も言ってきたくせに。
「〜っくそ、最悪だ」
 口ではそう言いながら、気分は悪くなく。
 ひどく熱くなった頬に、夜風が心地よかった。