望月 鏡翠
2025-08-18 10:39:23
882文字
Public 日課
 

#1816 「待遇」「幽鬼」「訶梨勒」

#毎日最低800文字のSSを書く


 三ヶ月に一度、あの男が訪ねてくる時期になるたびに私は憂鬱になる。いつ来るとは言わないが、時期が近づくとなんとなくわかるようになる。秘密のお使いが増える。応接室は窓から光が漏れないように遮光性が高くて、一回り大きなものを二重に取り付ける。
 普段からそちらのカーテンにしておかないのは、窓から漏れてくる灯りを頼りに、来客の有無を判断しているものがいるからだ。来客の存在は、私にこの家は監視されているのだということを思い出させる。
 そして家族の振る舞いは、家族が監視されるに足る後ろ暗いことをしているのだということを思い出させる。
 街で一番の問屋である我が家にはさまざまなものが、持ち込まれる。米や味噌や酒の荷車。海沿いからは干した魚屋貝柱なども届く。
 あの男は、それらの大きな荷物に混ざってあの男はやってくる。荷物の中に紛れているのだ。
 その日は、うっかりと蔵の鍵をかけ忘れる。そうして使用人が帰った真夜中に、こっそりと這い出てくるのだ。幽鬼の若き青白い容貌の男が、闇の中から強張った手足でふらつき這い出してくる様は、恐怖の一言である。
 初めて見たとき、私は悲鳴をあげて両親に助けを求めた。両親は寝室におらず、母は台所におり父親は応接室にいた。
 大きな声をあげるんじゃない、このことは誰にも話すんじゃない、と言い含められ、気づいてしまったのなら仕方がないと男と話す場所に同席した。
 不気味な男は、家に出入りするどんな商人よりも好待遇でもてなされていた。しかし存在を隠さなくてはいけないらしかった。それは男の顔立ちが、私たちと違うことと関係しているのかもしれない。
 本当はこの国にいてはいけない存在なんだろう。それなのに危険を犯してまで家に招き入れるのは、彼の商いものが関係している。
 男を使えば訶梨勒を手にいれることができるのだ。それは少量でも高価で取引することができ、確かに意味がある取引なのだ。
 一体どこから海の向こうにわたり、どこからこの国に潜り込んでくるのか知らないが、私は訶梨勒よりもその道の方を知りたいと常々思っていた。