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フレーメンちう
2025-08-18 00:30:23
7047文字
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独占欲
軽い嫉妬でビーマにモヤモヤしちゃうヨダナの話。また食べてます!
ランチタイムの食堂は賑わいに溢れている。殆どのテーブルが埋まり、楽しげな話し声で満たされていた。
そんな賑やかな食堂へ、ドゥリーヨダナは頬を緩ませながら向かう。確か、ビーマは今日の当番では無かった筈だ。ビーマが居ても構いやしないが、少々居心地が悪い。
正直なところ、面倒見の良い兄貴のオーラを嫌と言うほど振りまきながら、誰彼構わず屈託の無い笑みを向けている。それが気に食わなかった。
わし様の飯を作りたがるなら、わし様だけに作れば良いものを。そう言った所で与えることが大好きで見返りを求めないお利口さんなビーマの奴は、困った様に笑って受け流すのだろう。
……
まぁ、言うことを聞いてわし様だけの料理人になっても気味が悪いが。
勝手な想像で苛立ちを募らせてしまった自分自身が気に食わない。不満げな息を漏らすドゥリーヨダナは食堂へと入ると、妙な光景が目に付いた。
真っ先に目に付いたのは、珍しく食堂のテーブルに着いている。そのテーブルには巨大なエッグサンドが載っており、手のひら程の大きさに切り分けたサンドイッチに齧り付いていた。テーブルの向かいには標準サイズのサンドイッチを嬉しそうに食べているマスターと、その隣にはメイド姿のバーゲスト。バーゲストは、ほんの少しだけ頬を染めならマスターと同じサイズのサンドイッチを口にしていた。
「何だこの状況は」
余りにも予想をしていない光景に、どこから突っ込んでいいのかすら分からない。
恐らくあの巨大なサンドイッチを作ったのはバーゲストなのだろうが、バーゲストがビーマに対して奉仕するとは思っていなかった。だが、バーゲストの視線はサンドイッチを頬張るマスターに向いており、ビーマの為だけに作った様ではなさそうだ。
その様子に、ドゥリーヨダナはほんの少しだけ安堵の息を漏らす。ふと、この安堵の意味を不思議に思う。だが、それよりも心置きなく食事を取る予定が潰れた事が問題だ。ビーマが料理当番でいる事よりも面倒な状況だ。
訝しげな視線を向けてくるドゥリーヨダナに気付いたバーゲストは、不思議そうに声を掛ける。
「何か御用でしょうか?」
「いや、妙なメンツだと思ってな。
……
ビーマ、何で料理人のお前が振る舞われておる」
「俺が無理言って作って貰ったんだ」
「その、俺も食べたかったから、バーゲストに作って貰ったというか
……
」
ドゥリーヨダナの不機嫌な視線に怯むこと無く応えるビーマ。少しだけ縺れそうな様子に、マスターは刺激しないようにと事の顛末を話し始めた。
始めは、ビーマの依頼だった。
前に、レイシフトした際に見た、バーゲストのルームサービス。巨大なサンドイッチと立派に育ったプチトマト、そしてたっぷりの牛乳。ビーマのお腹を満たせる程のボリュームだ。その時はバーゲストのバフとしての物だったため、ビーマの口に入ることは叶わなかった。
だが、どうしても魅力的なサンドイッチ達が忘れられず、食堂で姿を見かけたバーゲストに声を掛けた。
「なぁ、バーゲスト。レイシフト先で出していた大きなサンドイッチを作って貰えないか?」
キッチンを取り仕切るメインの一人でもあるビーマからの願いに、バーゲストは驚いた。確かに、サーヴァントの中でも特に食欲旺盛な者だ。それ故、あのサンドイッチを希望したのだろうとバーゲストは察したが、小さく首を横に振った。
「私が仕えるのはモルガン陛下と旦那様だけですので、ご希望に添えられませんわ」
毅然と答えるバーゲストだったが、ほんの少しだけ申し訳なさそうに眉を下げる。騎士としての規律を重んじ、主君への従事を最優先にしなければならないため、他の者の頼みを断るほか無かった。
「どうしたの二人とも?」
丁度食堂を通りかかったマスターは、悲しそうに眉を下げる二人に声を掛けた。楽しそうに話している姿を見かけたことはあったが、何か問題でもあったのだろうか。
「ん? あぁ、いや、俺が悪かったんだ」
「ビーマが?」
「あぁ、バーゲストの立場もあるのに、サンドイッチを強請っちまってな」
「サンドイッチ?」
バーゲストに改めて視線を向けたマスターは状況を察した。バーゲストのサンドイッチと言ったら、大きなサンドイッチ。あのサンドイッチをビーマが食べたがるのは当然だった。そして、バーゲストの立場も。
とはいえ、以前食べたサンドイッチの味を思い出して食欲が湧いてしまう。バーゲストに約束を取り付けておけば、ビーマも誘えるだろう。
「あれ、凄く美味しかったよ。トマトもジューシーだし、チーズも美味しかったし!
……
バーゲストの時間があるときで良いから、また作ってくれる?」
「勿論です。旦那様さえ宜しければ、今すぐ準備いたしますわ。併せてビーマ様のサンドイッチも作りましょう」
「それなら、バーゲストも一緒に食べようよ」
マスターの言葉に嬉しさを隠せないバーゲストは、柔らかな笑みを二人に向けた。
「俺の希望で作って貰ったんだ」
「で、俺も御相伴に預かってるって訳だ」
無邪気な笑みを浮かべるビーマは、手にしていたサンドイッチを既に食べ終わり、次の一切れを切り始めていた。
ドゥリーヨダナは呆れた様に溜息を吐くと、ビーマを見据える。
「ビーマセーナとあろう者が、子供のような我儘を言っていたとはな」
「何とでも言え。皆が納得してんだ問題無いだろ」
文句を軽く受け流し、ドゥリーヨダナに視線を向けること無くサンドイッチをもう一口頬張る。いつも美味そうに食べるビーマだが、普段よりも満足そうに食べていた。間接的とはいえ、自分の為に作ってくれた料理であることが嬉しいのだろう。
「
……
」
眉間に皺を寄せたドゥリーヨダナは、小さく息を吐くと踵を返す。
「あれ、何か食べに来たんじゃ無いの?」
「興が削がれた。帰る」
マスターの問いかけを背中で返し、食堂を後にした。
* * *
鼓膜に響くのは、通路に響く自身の足音と空調の音。普段であれば食堂で酒を酌み交わす賑やかさで満ちているのに、今日は珍しく誰一人の姿も無かった。
食堂内に灯る微かな灯りを頼りに、ドゥリーヨダナは厨房の灯りを点ける。綺麗に片付けられた調理場は灯りを静かに反射させていた。
「さて
……
」
たまにはビーマへ料理のひとつでも作ってやろうかと思ったが、昼時の光景を思い出してしまう。
決して、バーゲストに対して嫉妬をしている訳では無い。他人から出された料理を、ましてやキッチン組以外の者が作った物を美味そうに食べているビーマに腹が立つのだ。
事あるごとにドゥリーヨダナの為に料理を作り、その料理を食べている時に向けてきた無垢な笑顔を思い出す。
「わし様を慕うのなら、あの顔もわし様だけに見せておればいいものを
……
」
不満しか無い大きな溜息を吐いたドゥリーヨダナは、カウンターへと寄りかかった。
カウンター越しにキッチンを覗き、そこに自身が立つ姿を想像する。
さて、何を作ろうか。夜食になるのであれば、手軽につまめる物が良いだろう。甘い物なら、レモンを振りかけたシュガークレープが良さそうだ。材料はどこに置いてあるのかとキッチンの中を見回すが、見当がつかない。ドゥリーヨダナは眉間に皺を刻む。
そもそも、ビーマの様に上手く作れるのだろうか
あのビーマが「美味い」と言わせる程の料理を作れるのか
色々な飯を食って作ってきたビーマだ。何を作ろうとも、奴を唸らせるような料理を作り上げる事が出来る訳がない。厨房に立ったことなど数える程しか無く、フルーツの蜂蜜和えを妹にねだられて作った程度しかない。
その程度の技量では、喩え知識があったとしても、どの様なモノを作ろうがビーマは愛想混じり笑顔を向けて「美味い」というのだろう。
恥をかかせない程度の気遣いをされるのであれば、寧ろプライドを傷つけられてしまう。
「
……
」
ほんの少しの苛立ちと高鳴る高揚感が、一気に冷めていく。浮かれすぎていた自分自身が馬鹿馬鹿しい。
「こんな事、時間の無駄だ」
触れていたカウンターから手を離し、仮眠を取ろうと部屋へと向かった。
* * *
「ドゥリーヨダナ! ワッフル食おうぜ!」
もうすぐ自室に着くという所で、廊下に響くほどの大声が背後から響く。振り向けば無邪気な笑みを向けるビーマがいた。
タイミングが酷く悪い。
勝手に。とはいえ、ドゥリーヨダナの心をかき乱した張本人に捕まるとは。ドゥリーヨダナは大きな溜息を吐くと、ビーマに向き直った。
「なんでこんな時間に食わなきゃならんのだ。時間も相手の都合も考えぬとは、呆れた奴だ」
ドゥリーヨダナは目を細め、眉間に皺を寄せる。温厚で芯の強いガウェインでも一歩身を引く程の嫌悪感に満ちた表情で見据えるが、ビーマは怯むこと無くドゥリーヨダナの手を握ってきた。
想定外の行動にドゥリーヨダナは目を見開き、身体を引き攣らせる。
「おい! 強引すぎんか?!」
「お前が素直に付いてこないからだろ。ほら、行こうぜ」
ニカッと笑い、ドゥリーヨダナを引っ張っていく。その手を振り払うことも出来た。
だが、子供の体温かと思う程に温かい手が心地良く、ささくれた心が和らいでしまう。振り払えばいいものを、手を引くビーマの表情と姿が、まるで無邪気に遊んでいた頃の幼いビーマの様子だった。
「
……
っ!」
こんなビーマに絆されるなど愚しいにも程がある。だが、甘んじて受け入れてしまっている。きっとこれは霊基異常だ。
そう自分自身に言い聞かせドゥリーヨダナは、されるがままに手を引かれ、ビーマの部屋へと向かった。
部屋に着いたビーマはクローゼットから敷物を取り出すと、ドゥリーヨダナに満面の笑みを向ける。
「今準備するから、ここに座って待っててくれ」
「わし様を誘うなら、準備を済ませてからにしておけ」
「いつ誘ったっていいだろ。生地を寝かせずに作れるからちょっとくらい待っててくれよ」
敷物を準備したビーマはドゥリーヨダナを座らせ、ワッフルの生地を作る。
比較的小さな調理台に、業務用と思う程に大きなワッフルメーカーが置いてある。そんなモノまで買ったのかと思ったが、きっとキッチンの備品を借りてきたのだろう。きっとそうだ。だが、備品を持ち出した罪悪感を煽ろうと質問をした所で、嬉々として「快く貸してくれた」というのは目に見えている。
幾ら良好な関係になったとはいえ、心の底ではビーマの隙を突きたい。その事をビーマ自身も感づいているのだろうが、嫌な顔をするどころか、自身の事を聞かれた事に喜ぶ程だ。
余計な事は諦め、ドゥリーヨダナは調理を始めたビーマに視線を向けた。ビーマの広い背中で手元が全く見えないが、食堂のキッチンで調理している時とは違った楽しげな様子を見せている。ドゥリーヨダナにしか見せない浮かれたビーマの姿に、ほんの少しだけ優越感に浸る。
暫くするとこんがりと焼けた甘い香りが部屋中に満たされ、満足げなビーマの声が聞こえた。
「よし、出来た! 熱々のうちに食おうぜ!」
満面の笑みと共に、皿に載せられ淡い湯気を上らせる二枚のワッフルを差し出した。ビーマの笑みにつられて、頬が緩んでしまう。
「ん」
仏頂面だったドゥリーヨダナの表情が柔らぎ、ビーマは少し胸を撫で下ろした。
「メープルシロップの他に果物も用意したから、好きなように食ってくれ」
この日にあわせて用意したのだろうか、未開封のメープルシロップの瓶を嬉しそうに置いたビーマは、次々とトッピングを並べ始めた。緩く泡立てとろっとしたホイップクリーム。賽の目に刻んだ苺とバナナ。粒の大きなラズベリー。
「どうみてもワッフルよりも添え物の方が多いではないか」
「まだまだ焼くから安心しろ。他に欲しいのがあれば言ってくれ」
得意気な笑みを向けるビーマに少々呆れながら、並べられたトッピングに視線を落とす。ビーマが作る料理の味に関しては信頼出来る。悔しい話だが。
ドゥリーヨダナはワッフルにどのトッピングを載せようかと目移りしてしまう。メープルシロップとバターでシンプルに食べるか、それとも生クリームのまろやかさとフルーツの酸味を楽しむか。だが、もう少し甘みが欲しい。
「それなら
……
バニラアイスとブルーベリージャムを寄越せ」
「お、バニラアイスか、良いな。ブルーベリージャムもあった筈だから待ってな」
その提案に声を弾ませるビーマは、立ち上がると冷蔵庫へ向かう。
冷凍室も一緒になったツードアの冷蔵庫。ビーマと同じ位の大きさだが、料理好きなビーマが胃袋的にもレシピの研究家的にも満足する食材が収まるとは思えない。
「そのサイズの冷蔵庫でお前の腹を満たせるのか? 一食分の食材しか入らなさそうだな」
「あぁ、こう見えても結構入ってるぞ。部位ごとに捌いているが、羊一頭分の肉は入ってる」
真面目に答えるビーマに、大きな溜息を吐いた。保存出来たとしても、精々育ちが悪かったラム程度だろう。
「その大きさで入る訳無いだろ」
「ネモ達に手料理振る舞う条件で作って貰ったんだ」
見てみろ。そう言われてビーマの隣に立つと冷蔵室を覗き込む。内壁に取っ手が付いている。そこを掴み反対側に向かってスライドさせれば、切り分けられたスイカが入っていた。新しく現れた取っ手を先程と同じ方向にスライドしていくと。庫内が切り替わる度に次々と食材が現れた。肉、野菜、果物、穀類。冷蔵庫の空間がおかしくなっている。
「どうなっとるのだこれは?!」
「わからん。俺も仕組みを理解してないが、なかなか便利だろ?」
「便利と言えば便利だが、ネモ達もよく作ったものだな」
お気楽なビーマに小さな溜息を吐くと、ワッフルを食べる為に先程まで座っていた位置に戻る。ビーマは業務用サイズのバニラアイスと未開封のジャム瓶を手にすると、ディッシャーとスプーンを添えてドゥリーヨダナの前へと置いた。
「さて
……
」
希望通りのアイスとジャムに笑みを見せるドゥリーヨダナは、ディッシャーを手にすると、バニラアイスを一掬いする。ディッシャーの中でくるくると渦を巻き、小さなサーヴァントのボイジャー達が食べていたような丸い形に整う。
転げ落ちない様に気を付けながらワッフルの上へと載せた。ワッフルに触れた箇所から少しづつ溶け始め、ワッフルの窪みにアイスの池が出来ていく。ブルーベリージャムをアイスの上からかければ、紫色の帯を描きながらアイスからワッフルへと滑り落ちていった。
ジャムが直ぐに流れてしまうのが残念だが、仕方ないだろう。ドゥリーヨダナはフォークを手にした。
溶けかけたバニラアイスがワッフルに染みこみ、フォークで切り分けようとすれば、じゅわりと溢れる。粒が残るブルーベリージャムを載せ、一口大に切り分けたワッフルを頬張った。
ふわふわのワッフルとアイスが染みこんだワッフルの食感がなかなか良い。バニラのミルク感とワッフルの香りが合わさり、美味さが広がる。載せたブルーベリーも一噛みすれば甘酸っぱい爽やかな酸味が溢れた。
しかし、ブルーベリーの酸味があるとはいえ、少々甘さが強すぎた。これ以上アイスが染みこんだら、正直甘ったるくて完食出来なさそうだ。だからといって、残すのも癪だ。それに、ビーマに「味付けが下手」と思われたら堪ったものではない。もう一枚のワッフルに延ばせばどうにかなるだろうか。
ほんの少し考え込んでいると、ビーマの視線気が付いた。
「その組み合わせ美味そうだな。一口くれよ」
「自分で同じように盛ればよかろう」
「お前のだから欲しいんだ」
穏やかな微笑みを向けられ、断れるはずが無い。もし、「甘すぎる」と言われても、言いくるめれば良いだけだ。果物の丸かじりばかりしてるから現代の甘さがわからんのか? と。
言い訳を考えながら、わざとらしく大きな溜息を吐いた。
「
……
食べかけを欲しがるなんぞ、ヴリコーダラの名に恥じぬ食欲だな」
ほんの少し照れを滲ませるドゥリーヨダナは自身の皿を手にすると、一口だけ味わったワッフルをビーマに突き出した。ビーマは無邪気な笑顔を見せると、ドゥリーヨダナの皿を受け取る。
「ありがとうな! 代わりに俺のをやるよ」
差し出されたビーマのワッフルには、ホイップクリームの上に苺がちりばめられ、側にはバナナが添えられていた。アイスとジャムでは甘すぎた事もあり、口直しには丁度良さそうだ。
「まぁ、悪くなさそうだな」
「だろ? 俺も頂くとするか」
素直に受け取ったドゥリーヨダナに頬を緩めると、ビーマは早速ドゥリーヨダナから受け取ったワッフルを頬張った。
溶けかけたアイスの甘さとジャムの淡い酸味が口いっぱいに溢れる。普段口にしているグラブジャムンのシロップの甘さとは違う、体の中から蕩けるようなまろやかなミルクの甘さに満たされていく。
ドゥリーヨダナが作った料理。というには大袈裟かもしれない。だが、紛れもなくドゥリーヨダナ自身が決めて作った味なのだ。
食べる機会など数える程しか訪れないであろうドゥリーヨダナの手料理に、ビーマは舌に広がる甘さを余すこと無くゆっくりと味わった。
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