ナスカ
2025-08-17 18:00:08
7633文字
Public
 

カラミティアンドアストロジャー 16

前回の続きです。

王より送られた兵士たちの態度は、正直『良いもの』とは言えなかったが、アストルもゼルダも、ガノンもわかりきっていたので特に口にしなかった。どうせ彼らはこちらの状況を把握するための密偵のはず。行動を誤魔化そうとしても無駄なので、馬鹿正直になる外無い。作戦も何もかも、偽ることなく伝えることにした。
ハイラル城の直下へ再度向かう面々は前回とほとんど変わらないが、調査隊はポールのみの入れ替えとなった。ガノンが憑依していたとは言え、彼の剣術の腕前は疑う余地なし。戦力として十二分だと判断され、外されたのだろう。同行させてやれないことをアストルは謝ったが、ポールは「そんなそんな」と両手をひらひらと振って笑った。
「国王陛下が直々に送られてきたのですから、曹長の自分よりアストルさんのお力になれますよ」
「私を二度も助けてくれたのは、貴方でしょう。救われたこともない者たちを信用するというのは、些か難しい」
「はは、それは言えてますね。……ですが」
ポールが声を小さくする。一歩近づいて、アストルに耳打ちした。
「『後からついて来るな』とは言われておりませんので」
「ッ!」
「では、自分はこれにて」
ポールは何でも無いようにサッと敬礼すると、「お腹すいた〜」などと言って緩い調子で炊事場の方へ向かっていった。兵士にしては緩急が激しい彼の背中を見つめながら、アストルは「……どうするつもりなんだ、アイツ」と呟いた。

✽✽

『記者ミツバ、城の直下に再度向かうこの道中の出来事を記す』

『瘴気の元凶があるという、ハイラル城の真下に再度挑む日が来た。メンツはアストルさん、ゼルダ王女殿下、プルア女史、ウチらシロツメ新聞社の取材班三名、地底調査隊の精鋭三名、国王陛下が寄越した兵士六名。以上十五名や。一度目に歩いた道をプルア女史が記録してくれていたお陰で、薄暗い地底の中でも城の方面へ難なく向かうことができた。それに加え、アストルさんが天球儀で頭上に立体的な星図を投影してくれるものだから、今自分たちがどの方角を歩いているのかわかって有り難い』

『途中、アカンやつに遭遇した。ライネルや。強靭な身体と高い戦闘能力を誇る、ハイラル随一の強さを誇る魔物。前回はポールっちゅう曹長が一人でボコボコにしとったけど、今度ばかりは兵士九人がかりでも結構しんどい感じやったわ。まあ、ウチら非戦闘員は隠れておったんやけどな。なんとかライネルを倒して、ウチらは更に深くへと進んだ。途中、脆くなった石作りの足場が崩れたりするから、もうおっかなくて仕方ないわ。誰も怪我せんくて、ホンマによかったわ』

……けどな、助けが来そうにもない場所で、兵士六人が牙を剥いたんや。やっぱし、これは国王陛下の罠だったんや』

✽✽

「アストル殿、ここで死んでもらう!」
国王より派遣された王国随一の剣士だという連中は、調査隊内の精鋭たちを斬り倒すと、アストル以下六名を取り囲んだ。
ハイラル国王には、六人の剣士が直接仕えることが義務付けられている。それは建国の時代、初代国王に六人の賢者が仕えたことが所以となっている。彼らは世のため人のため立派に戦ったと伝え聞くが、今目の前にいる六人の剣士たちはまるで違った。
彼らはただ、王の命令に従うだけの虚な存在に過ぎない。
「ちょっとアンタら! アストルがこれまでどんなに貢献してくれたのか、微塵も知らないワケ!?」
プルアが激しく異議を唱えるが、彼らは鉄面皮を貫くばかり。そもそも訴えられて改める程度なら、こんな馬鹿げた行動はしないはずだ。
「この調子じゃ、ウチらの新聞もマトモに読まれてないなぁ。あーあ、ガッカリや」
おどけたようにミツバが言うが、それにも無反応。
「民を守るハイラル兵が、民に剣を向けるなど、無礼です! 今すぐやめなさい!」
正当な王家の後継者であるはずのゼルダの言葉すら、彼らは聞き入れなかった。ここまで頑なだと、いっそ哀れに見えてくる。
アストルは、ふわりと天球儀を浮かせ、空中に星を並べた。そして自分の命が狙われているというのに、アストルは冷静に六人の素顔を覗き込もうとする。顔つきから年齢や性格をある程度把握し、彼らの星を見つけ出そうとしたのだ。
だが、一律無表情の彼らからは個性が削がれ、吸い込まれるような暗闇が渦巻くばかり。アストルは思わず後退りした。
「ここは我に任せておけ」
「ガノン!」
アストルの肩をポンと叩くと、ガノンは怨念から三叉の矛を作り出す。たかだか六人程度ならさしたる問題は無い。そう思った。
だが更に地の底から、音に近い速さで駆け上がってくる不快な気配がある。やはり、あの王は『彼女』を配置していた。
「不肖の子孫め!」
「ッ!」
二振りの刀と矛が鍔迫り合う。彼女の狙いは間違いなくアストルだ。ここでガノンが人間の兵などにかまけていては、間違いなくアストルが殺される。自分はここで踏みとどまるしか無い。
「あの時、お前に負わされた傷がまだ痛いのよ。お前を殺したくて、仕方が無い!」
「貴様が先に或れを襲った故だ! 自業自得よ!」
アストルはガノンのことが気がかりだったが、目の前の危機も回避しなければならない。自分のことはひとまず、ゼルダやプルア、ミツバらシロツメ新聞の取材班を逃さなければ。
「私を殺せば済む話なら、彼女たちは逃がしてはもらえぬか」
「そこのシーカー族と記者どもは口封じせよとのお達しだ。要求には応えられない」
多少は期待した自分が馬鹿だったと、アストルはため息をついた。彼らに真っ当な倫理観など通用しない。主人が既にそうなのだから。
「叔父様」
「ゼルダ? ……おい、何をする!?」
ゼルダの手のひらから、眩い光が生まれる。この食らい空間において、太陽を凌ぐほどの輝きだ。周りの面々が次々に目を眩ませていく。自分と相反する輝きに、ガノンは消し去られるような恐怖が過ぎる。だがそれは向こうのガノンドロフも同じはずだ。やがて光が止むと、ゼルダの手には、黄金色に輝く弓矢が握られていた。
「仕方がありません。民を守るのは、王族の役目。城の兵が民を襲うならば、私が迎え撃ちましょう」
優雅な所作で、ゼルダは弓を構えて祖父御付きの兵たちに向ける。ギリリと絞られていく弦にアストルは血相を変え、「よせ!」とゼルダの手を押さえつけた。
「離してください! このままでは、皆殺されてしまいます!」
「ダメだゼルダ! 姫巫女ともあろうお前が、その手で民を殺めてはならぬ!」
鬼気迫る顔の姪に、それ以上の形相でアストルは答えた。だがゼルダは更に上回る凄みで、返答する。
「民を守れぬ姫巫女など、私は嫌です!」
アストルは、視認できる悲鳴に言葉を失った。思わず手に込めた力が緩み、ゼルダはその隙に叔父の手を振り払った。白い指先が今に矢羽を放とうとした瞬間、「姫様!」とプルアが覆いかぶさるように最良のタイミングでゼルダを抑え込んだ。
だが弦に注がれた力を糧に、光の矢は空中を走り出す。私のせいでこの子が罪を、とアストルが愕然としていると、光の矢は兵たちを無視し、来た道を戻っていってしまった。それを見送りながら、一番端の兵士が嗤った。
「所詮、無才の姫の付け焼き刃か」
「ッ、貴様らっ……!」
またも平然と行われる中傷に、アストルが拳を握り締めた。殴りかかりたかったが、突っ込んでいけば殺される。何とか踏みとどまり、睨みつけるだけに押さえた。だが悔しい気持ちがブスブスと燻って焦げ臭い。
「諦めるんだな。こんなところで、助けなど来るものか」
「チッ……なんちゅー連中や、アンタら!」
ミツバの糾弾などどこ吹く風。アストルはゼルダたちを背中に匿いながら、しかしジリジリと追い詰められていく。ガノンはガノンドロフとの戦いに集中していて、助けを求められそうにない。
どうすれば良いだろう。アストルのこめかみを汗が伝う。
すると、光の矢が消えていった方角から……それとは異なる色合いの輝きがこちらへ向かってきた。深い暗闇の中で、真っ白な光は頼りがいありそうに煌めいている。
「殿下に仇なす不届き者め!」
滑り込んで来たのは、近衛の服に身を包んだポールだった。輝く刀身に照らされた顔は、一介の曹長のようには見えない。彼を何と呼ぶべきか。相応しい単語をアストルは思い出した。
「勇者……
「リンク!」
アストルの肩越しにゼルダが叫んだ。リンク? 聞き覚えのない名前だ。彼は『自分はポール』と名乗っていたではないか。
「殿下、皆様、ご無事で何よりです。ここは私にお任せを!」
近衛兵は上等な剣と盾を構え、この場からの退避を促した。いくら彼が一人でライネルを倒せる強者と言えど、流石に兵士六人を相手取るなど無茶がすぎる。
「だがッ……
「叔父様、ここはリンクに任せてあげてください!」
ゼルダの目には近衛への信頼が映っていた。そこまで信じているならば、自分もこの『勇者』を信じてやらねばならないだろう。
「わかった。頼んだぞ」
ポール曹長こと近衛騎士リンクは、軽く振り向くと頷いて六人に立ち向かっていった。

✽✽

狭い急階段を駆け下り、再びこの場所へやって来た。海老反りになったまま立っている男のミイラ。ここから全ての瘴気は生まれ、それがハイラル中に害を成している。これを壊さなければ、完全に安心できるとは言えない。
「全く、気色の悪いものを残してくれたものだ」
「ッ……!」
「あぁ、久方ぶりだな、アストル」
ミイラの前に立っているのは、恨んでも恨みきれない、同じ血が流れていると認めるには深い嫌悪感が伴う、親とも思えない父親……ハイラル国王だった。
しばらく顔を合わせていないし、別れた時と今の自分は違う。それなのに、手と脚が震えてならない。
「全く、飽きもせずによくこんなところへ二度も来たものだ」
「お前には関係ない! そこを退かぬか!」
恐れを打ち消そうと、アストルは声を張り上げた。いつもと違う気迫にミツバは戸惑いつつも、事実を伝えるべく必死にメモを走らせる。
「いや、此れを討伐せしめるのは儂の役目だ」
「何だと?」
「まず、お前はここで魔王ガノンドロフの霊に殺される。民はこう思うだろう。お前は二度挑んだにも関わらず、ついぞ瘴気の問題を解決するに至らなかった。しかし、調査隊の発見を元に、偉大なる国王は自ら地底へ赴いて、元凶を打ち倒した。無礼な記事を書き残した記者は不敬罪にて投獄され、姫は厄災の消滅に伴い巫女としての役目は負わずに済む。……これが儂の筋書きだ」
なんと身勝手で、周囲を軽んじた、傲慢にも程がある考え方だろう。アストルはかける言葉も無い。この場の全員を馬鹿にしている。
「何や、そのアホみたいな話! B級やB級!」
「黙れ記者風情が! 貴様にはお灸を据えてやらねばなるまい。覚悟しておけ! ……だがその前に、アストル、貴様に死んでもらう」
こんな男の犠牲になった母が哀れだった。孫娘のゼルダや、娘婿のロームがどれほどの苦労を強いられていたのか、考えるだけでも気が重い。彼が瘴気問題を放っておいた故に、幾人の兵士たちが苦しんだことか。そしてその家族たちが、どれほど悲しんだか。
「我儘だな……お前は自分のことしか考えておらぬのか」
「それは貴様とて同じだろう。貴様は『誰かのため』と言いながら、結局は自分を認めてほしいだけではないか。偽善者め!」
ゼルダやミツバが抗議する声が聞こえる。
けれど、そうかもしれない。自分が人生で見つけた『尊いもの』を、他の誰かに押し付けていただけに過ぎない。
「それでも、何もしなかったお前よりは遥かにマシだ。私の自己満足が『誰か』を救えるなら、私はそれを貫いてやる!」
「ッ……貴様が厄災の贄となっておれば、こんなことにはならなかったものを!」
「生憎だがな」
岩壁の中から、ゆらりとガノンが姿を現す。かなりの痛手を負っているらしく、装束は擦り切れ甲冑には罅が入っている。だがガノンドロフがいない。随分と激戦を繰り広げていたようだ。すぐに顔を出せなくても仕方が無い。傷を負って更に、ガノンは強大に見えた。
「此奴はとっくに我の贄だ。敗けの言い訳にはできぬぞ」
ガノンはアストルの肩を抱き寄せ、満足げに笑ってみせた。そうだ。あの日自分は一度死んだようなものだった。だから、もうあの男が言う事を気にすることはない。自分は、変わったのだから。
彼が側にいるだけで、希望が湧いてくる。
「私をここで殺しても、意味は無かろう。私と同じ道を、誰かが歩くはずだ。私が、母と同じ道を歩いたように」
アストルは両手を広げた。見下ろすような顔に、王はジリと後退りする。
「殺りたければ、殺れ」
攻撃を警戒してか、ゼルダが弓を構えていた。また彼女が射つのかと思いヒヤリとする。その瞬間、アストル以外の三人が突然倒れた。ガノンドロフが戻ってきたのだ。視えた彼女の姿は片腕を切り落とされ、片目を潰され、そこからは血の代わりに瘴気が吹き出していた。
「その子は、私のモノよ!」
「させるか!」
ガノンは三叉の矛で短刀を受け止める。しかしガノンドロフがこんな地味な武器でアストルを殺そうとするはずがない。何か、何か企みがあるはずだ。
すると彼女の髪が意思を持って動き出す。この手があったか、とガノンはアストルを庇うべく、一歩踏み出した。
「仕留めたぞ!」
ガノンドロフの刀が、ガノンの胸を貫いた。それを目撃したアストルは、まるで足下に底なしの穴が空いたような気持ちになる。ガノンは脂汗をかき、歯を食いしばった。が、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「それは、こっちの台詞だ」
怨念で出来たガノンの腕がズルリと粘土のように伸び、ガノンドロフの背後に回る。気付いた瞬間にはもう遅く、トライデントが後ろからザクリとガノンドロフを貫いていた。ガノンドロフは血を吐きたくなったが、もう吐ける血など無い。
……裏切られた、と言っておったか。だが、それも悪くないぞ」
「なに?」
「裏切られたということは、其奴を信じたということだ」
ガノンの満足そうな笑い顔に、何故かガノンドロフも満たされた。自分が生前、そして死んでからも成し遂げられなかったことを、この子孫はやり遂げた。それが不思議と嬉しくて、笑みがひとひら溢れた。
「私の最期は、地底の星を信じたゲルド王か……悪くない」
……サヴォーク、御先祖殿」
今にも成仏しそうという様相のガノンと対照的に、アストルは硬直しながらしかし眉間がピクピクと痙攣していた。
ガノンが、消えていく。怨念と瘴気という、似ているようで質の異なるそれ。互いの体に食い込んだことで、彼らに対消滅を促していた。
ガノンが、消える。
「ガノン! 待ってくれ! 逝くな、逝くな!」
ようやく声を出せるようになったアストルが、消えゆくガノンに手を伸ばした。だが元々脆かった怨念の体を掴めるはずもなく、虚を手にするばかり。
そして、ガノンは完全に姿を消した。アストルはガクリと地面に膝をつき、ガノンがいた場所を凝視するばかり。
「ぁ……、あ、ぁ……
「ハハハッ! お前の守護神は死んだぞ、アストル!」
勝利を確信する耳障りな笑い声に、アストルは腹の底から怒りが沸いた。ガノンもきっとこんな感情に呑まれ、厄災になったのだろう。
「お前はッ……お前は絶対に許さぬ……!!」
アストルは足下に転がっている光の弓を拾い上げ、弦を引き絞ると王へその矢尻を向けた。弓はみるみる内におどろおどろしい怨念色に染まり、矢尻の形も不気味な目玉を模したそれに変わる。憎しみ故にガタガタと手が震え、噛み合わせた歯の隙間から荒い呼気が露骨に漏れた。無様な様子で地面に這いつくばる王は腰を抜かし、立ち上がることすらできない。
ガノンは、ガノンドロフに殺された。それは何故か。ガノンがガノンドロフの刃から自分を庇ったからだ。では彼は何故アストルを狙っていたか。それはこの男が、ガノンドロフに命じたからだ。
全て、この男が悪い。
「き、貴様ッ! 肉親の儂を殺すのか! そんなことをすれば、天国にいる母には会えまい! 地獄に落ちるぞ!」
「そうすれば、ガノンに会えるな」
絶望のドン底にいる、静かな声だった。それなのに涙が絶えず溢れてならない。今はただ、自分からガノンを奪ったこの男を殺してやりたい。それだけが頭と心を占拠して、それ以外はどうでもよかった。
「私の絶望で、殺されるがよい!」
アストルの指が、矢羽を解き放つ。王は目を瞑り、襲いかかる死を拒絶した。
だがそれと同時に、全く別方向から矢が一閃の輝きを伴って直線を描いて翔んでくる。アストルの放った深い怨念の矢は、その光り輝く聖なる矢の追尾を受け、あっという間に追いつかれ……王の目の前で対消滅を起こした。
「なッ……!」
アストルは呆気に取られつつ、光の矢が放たれた方向に身体を向ける。そこには、虚ろな目をしたゼルダがぼんやりと立っていた。
「ゼルダ! 何故邪魔を……
「『アストル』」
ゼルダの声の奥に、重々しさと威厳、更にその中に優しさを感じる。姫巫女としての、思わず傅きたくなるものとは違った。それは何かと問われれば、『愛』であった。
「『お前は、その身を落としてはいけぬ』」
ゼルダの背後に、ブワリと広がる禍々しい気配。ハイラルの姫に不相応な、厄災の覇気が、彼女を覆っている。それがアストルの方へと、腕を伸ばすように広がっていった。
「ガノン……?」
『気にするな……我は暫し眠るだけだ……
「待て、待ってくれガノン。私を置いていくな、私を独りにするな」
アストルの手は縋り付くように蠢き、厄災の気配を掴み損ね続ける。空気を握れないのだから当たり前だった。だがその当たり前の事実が、アストルを更に深い絶望へと追いやる。
「嫌だ、何処にも行かないでくれ。私は、これからどうすればッ……!」
……
目の前でオーロラのように揺らめいていた怨念が、風に溶けるようにその色を薄めていく。アストルは必死でガノンの残骸を掴もうとした。その手の内に留めようとした。
だが、願いは叶わなかった。
「アストルさん! 大丈夫ですか!」
駆けつけたリンクに、アストルは反応できなかった。できるはずもなかった。己の内側で広がる空虚に、アストルは声すら出せない。


(殺すなら今なのだ。ガノン、私を殺せ。私は絶望した。殺してくれ。今に姿を現して、私を殺してくれ。お前がいなければ、私は耐えられない。ガノン、あぁ、ガノン……)


「殺すなら、今だぞーッ!!!!」

かつて光の神殿と呼ばれた場所に、聞いた者が涙したくなるほど悲痛な絶叫が響いた。


続く