syanpon
2025-08-17 14:56:22
1217文字
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実際口実

オトスバ(ししょすば)
現パロ

 静寂を静寂として意識するようになってしまったのは日向に連れ出されてしまったからで。
 時刻が変わるだろうかという夜ふけ。仕事を終え、帰路に着いた男は家で待っているだろう青年を思い浮かべながらノブを回す。
 こんな時間になってしまったから彼は眠ってしまっているだろう。
 「おかえり」と声をかけられるくすぐったさがないかわり、掛け布団も枕も全部一緒くたに抱き締めて眠る姿を視界に収め、その温もりを腕に寄せて眠るのだって悪くはない。

……た、だいま」

 今までなら絶対に言わなかったおまじないのような言葉。

「ん、おかえり」
「え」

 囁きに近い声に返事が来たのにも驚いたしその声の主がまだ起きていたことにも驚いてオットーはぴたりと動きを止めた。
 目に見えて動揺したのが見て取れたのだろう。
 同居人――スバルはにかりと笑うと男の鞄をさっさと奪い取ってしまう。
 だが、男が靴も脱がずに玄関に突っ立ったままなのを見てその笑顔はじとりとした視線に切り替わる。

「なんだよ」
「い、いえ。あの、眠っているかと思って」
……俺も今帰ってきたとこ」

 ふい、と目を背けられる。
 まあなんてわかりやすくていじらしい嘘だろうか。格好はパジャマで普段上げている前髪も垂れて幼く見える相貌を晒している。

 きっと起こしてしまった。

 恋人、しかも年下で寝起きの恋人をこんな時間に活動させているのに罪悪感が芽生え、気持ちはそのまま緩慢な動作になり、靴をモタモタと脱いで揃える。

「なぁ俺、恋人にそんな顔させたくて起きてきたわけじゃないんだけど」

 そう言うなりスバルは両腕を広げてみせる。

「え、ここは通さないってことですか」
「ちっげーよバカ! ハグだろどうみても!」
「でも僕まだシャワーも浴びてなくて」
「気にしないから!」

 そう言うと思ったよりも強い力で腕を引かれ、そのまま抱きしめられる。現金なもので彼の温もりに包まれると思わずほうと息が漏れた。
 もうこれは仕方がない、彼も望んでいることだしと背中に腕を回して彼の肩口に顔をうずめ、その存在を確かめるように瞳を閉じる。
 近い距離をさらに近づけるようにすり寄れば腕の中でくすくすと笑う声が聞こえる。
 あれだけ察し悪くさらに渋ったのだから思う存分笑ってくれて構わない。

 しばらく互いの温もりを確かめ合ったあと、名残惜しく思いながら体を離す。
 さっきよりか幾分ポヤポヤとした様子のスバルはオットーの顔を見るとふにゃりと笑って首を傾げた。

「どう」
「どう、とは」
「ハグをするとストレスが減るらしいってきいた」
「なるほど……

 つまりオットーを癒してやろうとこうして眠い目を擦ってやってきたというらしい。

……ナツキさん」

 今度はオットーの方から腕を広げる。

 スバルは「仕方ないな」と笑って、その身を目の前の男に傾けた。