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バラ肉
2025-08-17 13:35:34
5239文字
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愛の羽
ペンブラの実話風ホラーです。
昨晩、家人にほん怖を見せられた反動で書いた。
⭐️の生き霊&盗撮描写あり。
ヤンデレ⭐️さんと、怖がる⭕️と、巻き込まれ⛰️さんを楽しめれば…
※小説版の要素があります。
※閲覧数が少ないのを良いことにホラー描写を増やしてます。
毎年冬になると、ペンタゴンから布団が届く。
添えられたメッセージには、
『大事に使ってくれよ。君のための物なんだから』
と、合言葉のように、例年同じ文面が並んでいた。
正直、四季も朝夕もない魔界において、寝具はあまり必要ではない。ましてや、宇宙や異次元空間にいることもある自分には不要の長物。
それは限りなく【近い存在】である従兄弟も分かっているはずだ。けれど、わざわざ送ってくるそれを無碍にすることもできず。
使ったら使ったで、ふわふわと柔らかい感触が体を包み込んでくれるのは正直心地よかった。実際、眠りの質は有る無しでは雲泥の差だ。
おかげで、戸惑ったのは最初の年だけ。以降は、定期的に贈られるそれを素直に受け取り続けていた。
そうして、今年も例年通り布団を使っていた
……
ある夜のことだ。
***
同僚である魔雲天がフラリと家に遊びに来た。
理由は簡単。他の悪魔超人達に対する愚痴だ。
基本的に”良い奴”な魔雲天は、何かと他の悪魔超人達の後始末をすることが多い。特にカーメンやステカセキングといったマイペースな連中にはいつも振り回されている。
「全く、この前の祭りは大変だった
……
」
今回も、ボヤく内容は先日の夏祭りで起こったカーメンの花火騒動の件だった。ちょうど地球を留守にしていたので知らないが、どうも散々な目に遭ったらしい。
「バッファローマンと会えたのは良かったが、全くあの野郎は
……
!」
ドンッ!とグラスをテーブルに叩きつけて愚痴をこぼす姿は、噴火寸前の火山のようだ。さりげなくツマミの入った皿を寄せれば、大きな手で一気に掴み、口に放り投げていく。むしゃむしゃ。大袈裟に咀嚼されるスルメイカを肴に、俺は酒の入ったコップを傾けた。
それからどれくらい経ったか。
急な尿意からトイレへ向かい、帰ってみれば、魔雲天は大きなイビキをかいて眠っていた。しかも、厚かましくも人の万年床に潜り込んでいる。殆どはみ出しているものの、しっかり暖をとって眠る姿は律儀な彼らしい。
とはいえ、この男はそもそも岩石の塊だ。不要だろうと、掛け布団だけでも奪い返すべく引っ張る。しかし、数百キロある腕が上に乗っているせいでそれも上手くいかない。かといって、わざわざ顔の穴で吸引して取り返すのも違う。
「チッ。仕方ねえな」
俺は仕方なしに押し入れからタオルケットを取り出すと、それを体にグルグルと巻きつけた。
暦上は冬であるが、魔界に地上の気候は関係ない。夜だからか、心なし寒い気もするが、アルコールのおかげで寝れないほどではない。
「
……
文句は明日に取っておくか」
ガァガァと大口を開けて眠る魔雲天を一瞥して、俺はその隣でゆっくりと眠りの中へ向かった。
——
魔界の夜は静かなものだ。
鳥も獣もいない。あるのは生活用の電子機器らしき、ジーッと無機質な駆動音くらいのもの。
「
……
め、ろッ
……
!」
「ん?」
だからか、俺は隣から聞こえる魔雲天の苦しそうなうなり声に、目が覚めた。
「うっ
……
やめッ! グゥゥッ、どけぇッ
…
!」
苦しげな声は、訓練の時でさえ聞かない悲痛さが滲んでいた。屈強さがウリの男らしくない呻きに、俺は慌てて飛び起き、隣を見た。
その瞬間、体が凍りついた。
魔雲天の巨体の上に、ぼんやりとした白い人影があったのだ。
「ッ!?」
正座で座っているのか、真っ黒な部屋の中に薄ぼんやりと浮かぶ白い者は、背を丸めて魔雲天に向かって何かボソボソと繰り返し呟いている。
それは酷くか細く、そして怪しく。
貴様は何だ!
俺は咄嗟に叫び掛けた
——
そのタイミングで、謎の白い影がゆっくりとこちらを振り向いた。
「ーーッ!!!」
その顔に、罵声が喉元で堰き止められた。
「おまえ
……
どうして
……
!」
なぜなら、その顔には嫌というほど見覚えがあり。
「ペンタゴン
……
」
間違えるわけもない、真っ白な面に浮かぶ五芒星に、全身が震えた。
どうしてお前が。
言いかけた所で、クスッと笑う声が聞こえた気がした。そして、彼の美しい声が鼓膜を揺らす。
「ねえ、ブラック。【これ】は君だけのものだよ。アレだけ忠告したのに
…
酷いじゃないか」
爽やかな声音とは裏腹に、その奥に潜む憎々しげな嘲りを含んだ口調が空気を震わせる。
途端、目の前の彼の顔の中の五芒星が、狂ったようにぐるぐると回転し始めた。まるで壊れた歯車のように。
「いけないなぁ」
囁く声と共に手が伸びる。白く整った指が俺の喉に触れる。
「悪い虫は、私ガ許さナいヨ?」
そう、ややぶれた声をすぐそばで感じた瞬間。目の前の大きな星と一緒に、傾けた顔がぐるりと回る。まるで自分の全てを舐め回すように見るように。全てを見通すように。
「ねェ、大好キなブらック」
キ ミ ハ、
ワ タ シ ノ モ ノ ダ ヨ?
その声が、普段の彼からは想像できない不協和音として聞こえた。顔の向こうに真っ白な羽が舞い散るのが見えた。
「ーーッ!」
純白の、大ぶりな、美しい羽。
見慣れた筈の景色。
なのに得体の知れぬ恐怖が頭から足の先までを襲う。
一気に血の気が引く。
寒い。寒い。
今まで感じたことのない、かじかむような冷えに支配されたまま、俺は知らずに意識を失った。
***
気がつくと、朝だった。
おもむろに起き上がれば、家の中は昨晩寝た時のままだ。
あれは何だったのか。
確かめるように頭を押さえて、夜中の出来事を整理しようとすると、遠くの方から弱々しい声が聞こえてくる。
「BH
…
」
声の方へ振り返ると、魔雲天が部屋の隅で小刻みに震えていた。
あの豪胆な悪魔超人が、まるで怯えた子供のように小さくなって。
どうしたんだ?、と聞くより先に、切羽詰まったように相手の口が開いた。
「昨晩
…
変な夢を見たんだ」
その言葉を皮切りに、掠れた声が自らの怯えの原因を語り始める。
「真っ白なやつが夢の中に現れて、『許さない許さない許さない』って俺の上で延々と呟くんだ。逃げようとしても周りに真っ白な羽が舞い散って、どこにも逃げ場がなくて
…
。しまいには『お前じゃない!』って喉を締められて
……
』
うゥっと目を瞑る様は、思い出すのも嫌なのか。悪魔超人の中でも一、二を争う巨漢の持ち主が、まるで小動物のように縮こまる様子は見ていられない。
そして同時に、俺の背筋にも冷たいものが走った。
真っ白な羽。
それはつまり、昨晩見た幻影は自分だけではないということで。
(あの年下の従兄弟の執着がこんな物を見せたのか?)
かつて、タッグパートナーを解散しようと告げた際の奇行を思い出しつつ、俺は己のあり得ない妄想に頭を振った。
***
結局、俺は怯えて仕方ない魔雲天を、自分自身、平静を装いつつ家に送り返した。
最後まで気にする相手に、「悪魔超人のくせに何をビビってるんだ」と笑って見せたものの、内心では得体の知れない恐怖が渦巻いていた。
そうして自宅に戻り、一人になった途端。けたたましく携帯が鳴った。
液晶画面を見れば、着信はペンタゴンから。このタイミングでかかってくるなんて、なんと間の良いことだろう。
何やら寒気を覚える。
無意識に出るのを躊躇する。
だが、一向に鳴り止む気配のないそれは、何だかこちらが出られる状況なのを知っているようで。震える手で通話ボタンを押す。
『やあ、ブラック。いま良いかい?』
静かな声が受話器から漏れる。それがかえって不気味だった。
「何のようだ。ペンタゴン」
『何って、つれないなぁ。地上は寒いからね。特に昨晩はひどいものだった。
……
だから、私のあげた布団が役立っているか気になって電話したんだ』
探るような言葉に、ドキッとした。
昨晩のあれは、やはり本人ではない。だが、自分が使っていないことはバレているようなニュアンスで。
「いや、その
……
」
思わず返答に躓く。悪魔としてサラリと嘘を返せば良いのに、咄嗟の言葉が思い浮かばなかった。こめかみに嫌な汗が滲む。どう答えるべきか。考えあぐねていると、電話口からクスクス笑う声が聞こえた。
『ひどいなぁ。大切に扱ってよ。だってあれは
……
ブラック。君のために私が”一年かけて集めた羽”なのに』
一年かけて集めた羽?
言われた言葉に、反射的に布団へと目をやった。
確かにこの布団は上質で、他では味わえない心地よさがあった。全身を包まれる優しい感触。暖かく、さながら誰かの腕に抱きしめられているような安心感。
そして、この布団以外の全てを遮断してくる睡魔。
まさか
…
『じゃあ、今晩はしっかり使ってね。ブラック』
血の気が引く俺を無視して、電話口のペンタゴンの口調は軽い。反面、まるで真綿で喉を締め付けられるような息苦しさを感じる。
ベタリと、何か湿ったものが張り付く気持ち悪さが全身を襲う。
電話を持つ手が、知らぬ内にブルブル揺れた。
通話先のペンタゴンが何やら自分の知らぬ者になった気味悪さが、肌にジワジワと這い上がる錯覚がする。
ああ、やめてくれ。
空いた腕で、体を抱きしめる。
すると、はぁ
……
と熱っぽい吐息が、電子に乗って聞こえた気がした。
そして、低くも湿った声が耳朶を打つ。
『だってあれは、他の誰でもない、君のための物なんだから』
年下の恋人の囁きは、まるでドロドロに腐ったリンゴのような気持ち悪さがあった。
*****
ペンタゴンは自室で電話を握り締めていた。
自分との通話に何かしら悟った相手へ、ふふっと笑いが込み上げる。
実際、目の前の”モニター”に映る彼は呆然と立ち尽くしており、滅多に見れない無防備さに愉悦が込み上げる。
「だって、君が悪いんだよ」
私からのプレゼントを簡単に他者に貸すなんて。
だから、お灸を据えただけ。
軽いお仕置きだとばかりに、液晶の中のブラックホールを軽く指先で弾く。
だって、怯える姿も、戸惑う姿も、全てが愛おしい。
電話越しに聞こえた男の荒い息遣い。震え声。
思い出すだけで、ペンタゴンの胸の奥を甘く痺れさせる。
「人の気持ちを知っていながら、本当にいけない悪魔だよ」
呟きながら、ペンタゴンは鏡の前に立った。
背中の羽を広げれば、相変わらず見事な一対の翼が映し出される。しかし、よく見れば所々が抜け落ちているのも見えた。中には肉が見える部分もあり、痛々しい。
だが、それは本人にとって醜い傷ではなく栄誉の傷なのだ。
毎朝、鏡の前で自分の翼を見つめ、一番美しい羽根を選ぶ。そして、ゆっくりと、丁寧に、愛情を込めて引き抜く。
ブチッ、という小さな音と共に、鋭い痛みが走る。だが、その痛みさえも心地よかった。
これは愛する人への贈り物なのだから。
今日もまた、選び抜かれた羽根をもぎ、頬に当てる。自分の体温と僅かな血の匂い。それらが混じり合った香りを深く吸い込む。
そして、大切に、大切に小箱へと仕舞い込む。
365日。毎日欠かさず続ける日課。
風邪で熱があった日も、戦いで疲れ果てた日も、必ず羽根を一枚。愛しい恋人のために。
『君のためなら、何でもしてあげる
…
私の羽根で作った布団で、気持ちよく眠れただろう?』
鏡に映る自分に向かって囁く。
ブラックホールが心地よく眠る姿を監視カメラで見るたび、全ての痛みが報われるようだった。
自分の羽根に包まれて眠る恋人。
自分の体の一部に守られている彼。
それはまるで、自分が彼を抱きしめているのと同じことだった。
モニターの中で、ブラックホールが携帯電話を投げ捨て、両手で頭を抱えていた。ジワジワ這い寄る恐怖に怯えているのだろう。
いつも年上ぶってクールな態度を取る男らしくない様子に、ペンタゴンは熱い吐息を漏らした。
「ちゃんと気付いてよ、ブラック
…
」
暗闇の中で浮かび上がるペンタゴンの笑顔。五芒星の刻印が、モニターの青白い光を受けて不気味に光っていた。
そう、もう離れられない。
毎日抜いた自分の羽根が、あの男の肌に触れている。
隠しカメラが、24時間彼を見つめている。
「ああ、そういえば
……
あっちの方のカメラもメンテしないと」
魔界だけではない。彼の宇宙の居住地にも、仕掛けはしてある。
「まったく、手間がかかるなぁ」
鬱陶しがるセリフとは反対に、放たれる声は甘く、ドロドロと蕩けるようで。
これは自分の素直な愛だ。
気紛れな悪魔を束縛するのは、恋人の使命だ。
なんて。
若き正義超人は己の熱き想いからの行動に、疑いもしなかった。
熱き想いが生き霊となって愛しい男を見つめていることを知らなかった。
「キ ミ ハ、
ワ タ シ ノ モ ノ ダ ヨ?」
(麗しき鳥は、真っ直ぐ過ぎた想いが異形になりつつあることを知らない)
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