匣舟
2025-08-17 12:50:35
3882文字
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午後の微笑

ワードパレットリクエストで頂きました利乱です。だいたい仕事が立て込んでメンタル不安定期になると、わざわざ学園に寄って乱を攫って誰にも見つからないように木の上で乱セラピーをする利の話です。
リクエストくださってありがとうございました🫶


 さわさわと生ぬるい風が顔を撫でて、木の葉が音を立てているのが聞こえて乱太郎は閉じていた目をパチリと開けた。確か放課後に委員会も学園長のおつかいもなにもないからと、いつも一緒にいるきり丸としんベヱで夏特有の強い日差しを躱すために大きな木の日陰にある絶好のお昼寝スポットで寝ていたはずなのに、乱太郎の起きたての瞳に映る視界はさっきまでの場所と違っていた。
 起きたてほやほやの頭でぼやける視界の中、背後から微かな温もりを感じながら辺りを見渡すと、木々が周りを埋めつくしていて乱太郎が今いる場所は地面より青空の方が近いということが分かった。
 よって今、乱太郎が居るのは木の上でここは忍術学園の裏にある裏山か裏裏山かまたまた裏裏裏山であることが分かる。
 この場所に居るということはこの後ろから感じる微かな温もりも、誰が自分をここに連れてきたのかも乱太郎は検討が付いてしまってふふ、と笑みを零しながら自分の事を抱き締めながら寝ているであろう彼の名前を呼び、自分のお腹辺りに添えられている手を触った。
利吉さん、お疲れ様です。」
「んっ……らん、たろ……?」
「はい、ここにいますよ。」
 利吉を安心させるように、お腹に添えられた手をゆっくり指の腹でなぞりながら呼んでみると利吉は乱太郎の声に反応してゆっくりと瞼を上げた。まだ完全に起ききってない利吉のとろんとした目が乱太郎を捉えると、へにゃりと力無く無邪気に笑って次は向かい合う形にして乱太郎を抱き寄せた。乱太郎もそんな利吉に応えるように仕方ないなあ。という顔をして腕を首元に回して抱きつき返した。
 どうして乱太郎が利吉に攫われているのにも限らずこんなに落ち着いているのか。それは今回が初めてではないからである。
 最初はいつだったかもう忘れたけど、最初はひとりで自室の廊下で日向ぼっこをしていた時だったと思う。その時はきり丸もしんベヱも居なくてひとりで日向ぼっこをしていて、いい天気だなあ。このままだと寝ちゃいそうだな。とうつら、うつらと船をこぎ始めていたとき、突然の浮遊感が乱太郎を襲ったのだ。
「うぇっ……!?」
 どうやら、自分のことを担いでいるらしくそのことに乱太郎は驚きつつも、ちょっとやそっとのトラブルじゃ動じないようになっているので何事だろう、もしかして人攫いなのかな?とりあえず様子見だよね。なんて考えながら、振り落とされないように気を失った振りをしようとすると、自分を攫っている相手から感じたことのある香りを感じた。
 どこかで嗅いだことのある香りだな。この香りは誰だったっけ……?と考える乱太郎に、相手はポツリと言葉を落とした。
「ごめんね、ちょっとだけ我慢してくれるかい。」
り、利吉さん?」
 耳に入った声とこの香りを纏っているのは乱太郎が知っている中ではひとりしか当てはまらない。どうやら自分のことを攫ったのは乱太郎が在籍する一年は組の実技担当である山田伝蔵の息子で、フリーの売れっ子忍者である山田利吉だった。
 なぜ、利吉が自分のことを攫うのか分からない乱太郎だが、利吉は自分のことを悪いようにしないだろう。という信頼から来る安心感があったため、素直にそのまま運ばれる。
 暫く揺られると目的地に着いたのかぴたりと止まって腰を下ろした。どうやらここは木の上らしい。
 乱太郎が次に感じたのは木が風に揺られて擦れる音と先程までなかった少しひんやりした空気。たぶん、川の近くなんだろうと思う。近くで川のせせらぎが聞こえる。どうして憶測で話しているのかと言うと、乱太郎の視界には利吉の胸板しか見えないからである。
 自分を攫った当の本人である利吉は眠そうでまだ少しだけ覚醒しきっていないような顔をしている。
「り、利吉さん……?」
 乱太郎が何度か名前を呼びかけても反応がないので、本当にあの利吉さんなのかと疑ってしまうほどに隙がありまくりだ。乱太郎から見た利吉は真面目かつ冷静沈着であり、与えられた仕事をそつなくこなす大人気売れっ子忍者というイメージである。
 乱太郎からそんなイメージを持たれていることなど露知らず利吉は乱太郎を抱えたまま、木に凭れ掛かると両手を乱太郎の腰あたりに置いて抱き締めた。まるで何かに縋るように
 そして利吉の呼吸音が乱太郎の耳に聞こえてきて数秒後に、すぅすぅと小さな寝息を立てながら夢の中に旅立ってしまった。
「寝ちゃった……?」
 乱太郎はそんな利吉に少しばかり驚きはしたものの、上に目線を向けると利吉の目の下には隈が刻まれており、疲れているのだということがひしひしと伝わってきてしまい、乱太郎は何も言わずにただ抱き締められるがままとなった。
いい夢を、利吉さん。」
 疲れて眠ってしまった利吉の頭を撫で、昔乱太郎の両親がしてくれたように額にキスを送ったのだった。それからどれくらい時間が経ったか分からないが、利吉が自然と目を覚ますまで乱太郎はただ黙って抱き締められていた。
「すまない!攫ってしまって……っ!」
「いやいや、顔あげてくださいっ!なにもされてませんからっ!」
 その後は普通にお礼と共に謝罪を受け、乱太郎もまあ何もされてないしいっか!と納得していたら、その納得が良しとされたのかその後も度々利吉によって乱太郎は攫われるようになったのだ。
 最初のうちはなんで攫われるんだろう……?と戸惑っている時もあったが、何度もこんな風にされているうちにいつしか慣れて、こうやって利吉さんが落ち着くまで好きなだけハグさせてあげるのが恒例になっていったのだ。
 なんでこんなことをするのか理由を聞いたことがあるけれど、その時の利吉さんは内緒かな?と口角だけ上げて教えてくれなかった。
 だから、乱太郎も深追いすることはせずにただ利吉さんの気が済むまでハグさせるという関係になった。別に乱太郎は利吉に抱きつかれて嫌じゃないし、それにこうして攫われても毎回無傷で帰されるから危険だって無いし。
 まあ、そう思う乱太郎が実は利吉にとって心の拠り所になっていることなど本人は知らない が。
 利吉の寝顔を眺めたり一緒に眠ったりはたまたお互い抱き締めあったり、手を触ったりしてしばらくゆるやかな時間が流れていく。
今日は天気が良いから普段よりも暖かい気がする。
 やっぱり太陽の光を浴びると気持ちがいいなあ。と乱太郎が思いながらぽかぽか陽気にあてられて欠伸が出る。それを横目にいつの間にか起きた利吉がもう一度乱太郎を抱え直すと再び二人の間に沈黙が訪れる。
 その沈黙を破るように最初に口を開いたのは強い日差しから逃れるために手を翳している乱太郎の方だった。
「最近忙しいんですか?」
「まぁ……そこそこかな。」
 なんて言いながら利吉は苦笑しているのを乱太郎は心配そうに見つめる。あまり詳しく話せないことは重々承知の上で乱太郎は質問していく。これもまたいつもの恒例行事となっていた。
怪我とか病気してませんか? ちゃんとご飯食べてます?」
「きみは私の母上か。」
 乱太郎の母親のような問いかけに少し呆れつつも怪我もしてないし病にもかかってない。まあ、ご飯は食べてるとは言えないけど。利吉は優しい表情で素直に答えてくれる。それが嬉しくて乱太郎はつい笑みが溢れてしまうのだ。
「そりゃあ心配しますよ!利吉さんに何かあって悲しむ人はたくさん居るので。私だってそうですからねっ!」
「そうか。」
 そう言うと利吉は少し照れ臭そうに微笑んだ後再び乱太郎の肩に顔を埋めるようにして抱きついてきた。その行動に対して特に突っ込むこともせず受け入れながら乱太郎は利吉の頭を撫でていく。
 すると今度はぐりぐりと押し付けてくるので思わずくすぐったくなり身を捩らせてしまった。その際に乱太郎から漏れた吐息混じりの声にハッとして慌てて利吉から離れようと腕の中で抵抗すれば更に強く抱きしめられて逃げられないように固定されてしまう始末。
「あぁもう!好きにしてください〜っ!」
 降参だと言わんばかりに観念して両手を上にあげる。そんな乱太郎を見ていよいよ離してくれなくなった利吉を見て困ったなぁ。と思いつつもどこか満足げな顔をしている自分が居ることに気づく。
 それも仕方ないと思うのだ。だってこんなにも自分に気を許して甘えてくれるんだもの。こんな利吉さんの姿、誰にも見せられないなぁ。と考えると同時に自分だけが知っていればいいんだとも思った。
 本当は知っている。利吉がいつも疲れている理由を、目の下に隈を作っている理由も。保健委員をしていていつもトラブルに巻き込まれる乱太郎だから利吉があの特有の匂いを微かに漂わせていることぐらい分かっている。
 でも、それを敢えて聞くこともしなかった。乱太郎とてこの関係を壊したくないから。だから今日もこうやって何も聞かないまま利吉の気が済むまで付き合ってあげるだけなのだ。それでもやっぱり心配してしまうのは許してほしいところではあるけれど。
「もう大丈夫ですか?」
「んー、あと少しだけ……。」
「はあーい。」
 そう言ってまたしても頭を撫でれば猫のように擦り寄ってくるものだかららつい頬が緩んでしまう。こういうところは可愛いと思うのに本人は絶対認めようとはしないんだろうなぁと思いながら乱太郎は優しく微笑みながらまた利吉の頭を撫でるのだった。

ワード:手を翳して・無邪気・強い日差し