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那須野
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寿月
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此れはようこそ御客人
【寿月】数年後同棲プロ時空*越知さんの実家に来たふたり。今宵さんにご挨拶。
※捏造今宵さん注意
壁に造りつけられた足場のひとつ、とくに気に入りの、一番高い場所にゆったり寝そべって、ゆらゆらと尻尾を揺らす。見下ろしたリビングの窓辺にはたっぷりと日差しがそそいでおり、昼食まで身を丸めてくつろぐにはうってつけの様子だったけれども
――
今日はすこしばかり事情が違うということを、むろんわたしはじゅうぶんに承知している。
このごろではすっかり四人分(と、それからわたし)の食事が並ぶばかりのテーブルが、今日はいくらか賑やかだ。キッチンとリビングを行き来するかぞくたちの足音はなにやらいつもよりも忙しげで、それが落ち着くのを待つために、わたしはしばらく前からここにいるのだった。食卓に料理を並べる段においてわたしにできることはないのだから、せめてかぞくたちの足元からは立ち退いておこうという気遣いである。
大きなあくびをひとつ。この時間はもう少し続くらしい。ついでに伸びでもしておくか、と背中を伸ばしかけたところで、動きを止めた。
「
…………
、」
鼻先を上げてしずかに耳をそばだてる。ちいさな、しかし聞き馴染みのある
――
これは、庭の向こうにある門が開いた音だ。
一考。眼下ではかぞくたちが相変わらずあれこれと話をしながら立ち回っている。
……
ふむ。
どーやらいま、わたしのするべきことがひとつ生まれたらしかった。
ならば致し方あるまい。すいと体を起こす。勝手知ったる足場のつらなりを、自慢の身のこなしと肉球でとらえながら今日も優雅にくだっていく。とっとっとっ。
ひょいと床に降り立ち、壁伝いにリビングのドアへ向かう。そこには他の部屋の扉と同じようにわたし専用の通路があって、都度都度まわりに声をかけて主張せずともわたしは自由に家のなかを行き来できるのだ。
すり抜けるように通路をくぐり、廊下をまっすぐに進んでいく。ちょうど、玄関のドア越しにおおきな人影が映り込んだところだった。
ひとつはよく知ったもの、もうひとつはそれよりもすこしちいさい。玄関の扉が開く前に廊下のふちまでたどり着き、ひとまず腰を落ち着ける。かすかなヒトの話し声。閉まっていた錠ががちゃりと上がる音がして、開いた隙間からまず見知った顔がひょいと覗いた。
「今宵」
「なあん」
「そこにいたのか」
「にあ」
いちばんに出迎えに来たというのに、その口ぶりはいかがなものか。短く訂正を求めると、あちらもわかっているらしく「ただいま」といつもの調子の声が返ってきた。
月光。かぞくでいちばん背の高い、わたしのきょうだい。月光はすこし前にこの家を出ていって、会うのは久しぶりだ。ふつうにしていると思いきり顔を上げても目を合わせることさえ難しいものだから、大きな手がわたしのからだをうやうやしく抱き上げてゆくのをそのまま待つ。
抱き上げられてぐんと高くなった景色の端に、見慣れないふわふわとしたなにかが見えた。
「毛利」
「は、はいっ」
「大丈夫だ。入って構わない」
「はい
……
」
おそるおそるといった様子で、月光の後ろにいたもうひとつの影がドアをくぐってそばにやってくる。聞こえたやりとりに、まばたきをひとつした。
なるほど、これが「モウリくん」か。
月光が「モウリくん」なる客人を連れて帰ってくるのだと、わたしもかぞくたちから聞いている。「おじゃまします」と客人の決まり文句を言いながら月光の隣に並んだ「モウリくん」は、きょうだいの腕に収まっているわたしを見つけた途端、なにやら目をまるくしてぱっと勢い込んだ。
「あっ、こ、今宵さんですか?!」
「そうだ。出迎えに来てくれたらしい」
「わあ、あんがとございます! うわあ、ホンモノや~
……
!」
「
……
なあん?」
「
…………
気にするな」
(けっして自慢ではなく、事実として)「かわいい」等は言われ慣れているものの、「ホンモノだ」は初めてだ。
本物に決まっているだろう、ふしぎなことを言う。どういうことだ、と月光を見上げてみたが、あいまいにふいと顔を逸らされた。どういうことだ。
月光に抱かれたまま、客人に目を向ける。まっすぐにわたしを見ているまるいひとみはなにやら期待に満ちていて、けれども何事か言い出そうとしてはそわそわとした様子で口をつぐむ。言わんとするところを察し取り(なにせよくあることなので)、月光の腕からのそりと身を乗り出した。そろそろ物音に気づいた誰かが玄関までやって来るだろうが、先んじて歓迎の意を示しておくのもわたしの仕事のひとつだ。
「にいあ」
「
……
ええと、
月光
つき
さん?」
「ああ」
「!」
月光ほどではないが、「モウリくん」もなかなか背が高い。かるく頭を下げて目をやると、大きな手がそろとこちらへ差し出された。
ついと鼻を寄せて、指先のにおいを確かめる。じゃれつくように額を押しつけ身を寄せると、あたたかい手のひらがゆっくりと体を撫でていった。わあ、かわええ、と子どものような歓声をあげる客人の手の感触はすこし月光と似ていて、
――
だからだろうか。
「なあん」
「
…………
、毛利」
「へ?」
さきほど感じた疑問を確かめるべく、きょうだいの広々とした腕から抜け出す。わたしの向かおうとする先に気づいた月光が、客人を呼んで身を屈める。見よう見まねで伸ばされた腕にひょいと渡り、収まりのよいところで体を落ち着けた。
「初対面の客人に抱かれにまで行くのは珍しいな」
「そうなんです?」
「ああ」
「へへ、そらなんや嬉しいですわ」
お世話んなります、今宵さん。
そう言って機嫌よく笑う客人からは、やはり月光の匂いがする。同じように月光からもこの客人の匂いがするので、ずいぶんと仲がよいようだ。
知った匂いをすんすんと確かめてからきょうだいを見つめると、「問題ない」というように目を伏せた。
この「モウリくん」があたらしいかぞくのようなもので、近々月光と同じ家に暮らすつもりだとふたりから話があるのは、賑やかな食事が済んだあとのことである。