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compound_dashi
2025-08-16 23:21:51
1912文字
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Q
実装9周年おめでとうな典ソハ話 百鬼夜行レポート提出(期限間際未添削) 百鬼夜行2025読んだ人向け
ソハヤノツルキウツスナリ、と名乗ったはずだった。
「────
……
」
喉から出てきた音は随分短かったような気がする。違和感を覚える暇もなく体から力が抜けた──ような気がした、だけ。足は地面を踏み締めている。
裾の長さはこれで合っていたか?
一つ気になり出すと止まらない。防具の形がこうだったか思い出せない。紐の数はこんなものだったか。何より馴染み深いと思っていた灰色すら疑ってしまう。
咄嗟に思い出そうとした昔の景色がどこにも見えない。ここがどこかすらも、そういえば最初から分かっていなかった。
「
……
あ」
自分は誰だと問う意思すらも最早自分のものではないように思えてきた。どれが俺だ? ずっとずっと護ってきた、違う? 僕は確かたくさん斬ったんだった。今はどれが私かは分からないけれど。
「違う
……
!」
違う。本当に? 最早比べるものもありはしないのに。
刀身を見られない。
俺は、
「兄弟!」
目が覚めた。珍しく切迫した兄弟の大声で。兄弟の見開いた目が揺れている。
「
……
う、ん」
いつもの三池部屋で、いつもの布団。朝。多分。
布団は汗でびっしょり濡れていて、眠れた実感は全くない。頭が重い。手足を動かすのも億劫だ。兄弟がタオルで俺の汗を拭う。任せるのは悪い気がするがどうしようもない。
「
……
随分、うなされていた」
「あー
……
そう」
あれは間違いなく悪夢だ。そうなるのも無理はない。
「俺が、俺じゃなくなる夢。見てた」
「
…………
」
兄弟が目を伏せる。どうせ他人事なんだからそっちが落ち込まなくたっていいのに。
「
……
昨日のあれを、気にしているのか」
「まあ
……
気にならない、なんて言えねえよなぁ」
物語を得た鬼を見た。それを殺したものも見た。仮初の平安京の中で。
徳川家康の命により三百年護ってきた江戸。大典太光世もソハヤの剣も騒速も、あの三百年を奪うことはできない。三池典太光世の作でなくても、『ホンモノ』のソハヤの剣でなくても、それだけは俺のものとして残る。
……
そう思っていたのに。
「俺は、ちゃんと俺でいられる、
……
はずなのに」
鬼を狩る主力部隊に俺も組み入れられていたから、当然間近で見ていた。
物語を失った刀剣男士を。継ぎ合わされたような刀剣男士を。
好きに作って好きに消す。物語なんてそういうものだ。分かっている。でも、拠り所がそれくらいしかない時はどうすればいい? ずっと抱えてきた物語すらも誰かの都合でどうにでもできるのであれば。
「全部取り上げられたら、どうすればいい」
胸の内で震えているのは、怒りと恐怖どちらなのか。口をついて溢れそうになった途端。
「
……
!」
抱き上げられた。背に回った腕の力が強い。体温と鼓動が直に伝わる。体が一つになったみたいに。
「俺たちで作ればいい。たとえ奪われたとしても、また」
「
……
」
「
……
いつか奪い返すまで。悲しんで、喜んで、生きるんだ」
見つめられ、微笑まれる。随分穏やかに笑うようになった。
「お前が教えてくれたことだろう?」
「
……
ああ。そうだったな」
生きた証が物語だと。
最初は自分でも信じきれていなかった言葉だ。兄弟と、主と、本丸の皆と過ごしてようやくそう思えるようになった。いつの間にか新しい物語が生まれている。それでいい。誰かと作る物語は何であれ大切なものになる。
ああでも、と兄弟が囁く。
「
……
俺が愛しているのは」
「大事で、力を抑えずともよくて、並び立つことができて、
……
兄弟だと思えるのは、お前だけだ」
「奪わせるものか。誰にも」
俺にしか聞かせない声だ。甘くて、熱くて、しっとりと重い。こんな独占欲が強い奴から俺を奪うのは至難の業だろう。
「自衛するから程々にしておけよ」
「
……
どうかな。俺だって江戸の護りを奪っている。他の奴に渡さない保証があると?」
「
……
あ〜」
そういえばいつだったか話したような気がする。側に兄弟がいた覚えはないが、とその時は流していた。
「兄弟なら
……
いいぜ。ちょっとなら。全部は駄目だ。半分も」
「
……
甘いんだな」
「嫌がらせじゃねえから許す。ったく、何でも持ってるくせしてずるいよなぁ」
「すまんな」
そうやって互いに笑っているうちに布団に倒されていた。首筋にじゃれてくる。この時間にどこまでやるつもりだろうか。まあいい。気分も軽くなったし、今日は何でも許してやろう。抗うことなく兄弟の愛情を受け止めることにした。
その隙間で、気付けないほどの小さな呟きが、ほんの僅かに鼓膜を揺らした。
「
……
ふたりでいさせてくれて、ありがとう」
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