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2025-08-16 22:51:49
4601文字
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第24回五歌ワンライ お題「共犯」

五歌+息子のお話。(プラス1時間)
ワンドロワンライ開催、本当にありがとうございました!!これからもタグを使わせていただけるの、とても嬉しいです🙏



「パパのばか!」

気づいたら、僕は電話口で大きな声で叫んでた。



【約束】



学校の後、みんなでサッカーしてから帰ったら、珍しくママが先に家にいた。
いつもはお仕事で夜に帰ってきたり、夕方から"にんむ"に出てたりすることが多いのに。

「帰ったら手、洗うのよー」
「はーい!」

ランドセルを置いて階段を降りると、ちょうどソファに置いてあったママのスマホが鳴った。

――もしもし。やだ硝子、またぁ?全然大丈夫だって」

パパからじゃなかった。
僕は机の上のパパのお菓子箱から勝手にチョコポッキーを取り出して口に入れた。

昨日は出張先のパパから電話がかかってきて、3日で帰る予定だったのに、お仕事が入って今日も帰れなくなったって言ってた。


――今日はママの誕生日なのに。

一緒にケーキ買ってお祝いしようって言ったのに。
約束を破られたのがくやしくて、思わず電話口でパパに怒っちゃった。すぐ電話を切ったから、パパがなんて言ってたかは知らない。

ママは困ったような顔をしてたけど、約束を破ったパパが悪いんだ。パパはいつも、「ママが一番大好き」って言ってたのに嘘だったんだ。
僕の方がママのこといっぱい好きだもん。


「今日は晩ご飯なにがいい?仕事早く終わったから、今からなら何でも作れるわよ」

いつの間にか電話が終わったママが聞いてくれる。

ママの誕生日なんだから、ママが食べたいものでいい」
「ふふ、ありがと。じゃあハンバーグ一緒に食べよっか」

それ僕の好きなものじゃんと思ったけど、ママの手作りハンバーグ美味しいから嬉しい。
ママが台所で準備をしてる間、TVをつけてみたけど、どのチャンネルもたいして面白くない。

体のおっきいパパがいないと、なんだか家がいつもより広くなったみたいだ。

「ママはさ、パパが誕生日に帰ってこなくてもさみしくないの?」
「うーん、結婚前はむしろ当日一緒にいれたことの方が少ないからなあ。今日は二人でお祝いしましょ」

ママは平気なふりをしてるけど、ぜったい悲しんでる。パパは"ふせいじつ"だ。
パパのお菓子箱なんて、全部僕が食べてカラにしてやる。棚の奥にパパがこっそり隠してるお菓子だって食べるし、パパが作ってるママのアルバムだって僕の本棚に持っていく。

そんなことをソファに座ってぐるぐる考えてたら、ママが料理の準備を止めてテーブルの椅子に座りこんでた。

「どーしたの?」
ごめん、ちょっと立ち眩みしちゃったみたい」
「こっちのソファねる?」
「ありがと。少し横になったら治ると思うから、ごはんもう少し待っててね」

ママの顔色がいつもより白い気がする。ソファに寝ころんだら、ぐったりとして目をつぶってる。
しばらくそばで様子を見てたけど、ママの寝息が聞こえてきたので少し安心した。
こんな時、パパがいてくれたらいいのにとちょっと思ったけど、ぶるぶると頭を振った。


「そうだ」

―――いいこと思いついた。

こないだ、クラスの遠足で行った裏山の神社の奥に、いっぱいお花が咲いてた。あれを取ってきて、誕生日の花束を作ったらママ、喜んでくれるんじゃないかな。
それを見せてびっくりさせるんだ。
道だって覚えてるし、急げばご飯までに帰ってこれる。


僕は、ママを起こさないようにそっとダウンを着て、運動靴を履いてドアを開けた。


***


裏山につづく道は広いから迷ったりはしなかったけど、日が暮れてあたりが真っ暗になってきた。
山の中って、町と違って明かりがないからこんなに暗いんだ。それに気のせいかすごく寒い。昼に来た時とは全然雰囲気が違って、なんかこわい。

……でももう小学生なんだから。ママのためなんだから、全然大丈夫。

みんなと来た時の道を思い出しながら石段を上ると、見覚えのある鳥居があった。あそこをぬけて、神社の裏にお花が咲いてたはず。

――だけど、神社の境内に足を踏み入れたとたん、変な感じがした。体がぞわぞわするような、空気がひやっとするような感じ。


"いいものが来たぞ"
"うまそう"


「だれっ!?」

まわりを見渡したけど、誰もいない。声が聞こえた気がしたのに。


"上玉、ジュリョク、おおきい"
"こいつ、食べればツヨクなれる"
"おれが先だ"

あたりは誰もいない。
だけど何もないはずの空間に、なにか"いる"。
目を凝らすと、神社の建物の前にぼんやり黒い塊が地面を這ってるのが見えた。

どろどろして、いろんな生き物がぐちゃぐちゃに合体してるみたいな。
 
こわい。なにこれ。


―――逃げなきゃ。


振り向いて全力で走る。登ってきた石段が遠い。
でも足がもつれて、地面にずざぁっ!と顔から突っ込んでしまった。目に砂が入って痛い。

「っつぅ……

後ろから、冷たい黒いのが足に絡まってくる。ひっぱられる。
振り向くと、僕より大きな黒い塊にたくさんの目がはえてて、ぎょろぎょろとあちこちを見てる。


"イタダキ、マス"


黒い塊が裂けて、大きな口ががぱっと開いた。

こわい。
のどが詰まったみたいに息ができない。
思わず目をつぶった。





「僕の息子になに手ぇ出してんの?」


じゅっ!と一瞬で黒い塊が飛び散った。蒸発するみたいに。
なにが起こったのか分からないけど、足首にまとわりついてた気持ち悪いのも全部消えた。


声のした方を見ると、パパがお空に浮いてた。いつもの黒い服だけど、目隠ししてない。
パパが見たことない怖い顔してて、なんだか知らない人みたい。

変なのは消えたけど、まだ体がガクガクしてる。転んだままなのが恥ずかしくて起き上がると、降りてきたパパが顔の土を払ってくれた。


「なんで、いるの

そしたらパパがははっ、て笑った。
よかった、いつものパパだ。

「昔の歌姫とおんなじこと言ってんじゃん」
「今日は帰れないって
「"かも"って言っただけだろ!大好きな奥さんの誕生日なんだから、伊地知脅してでも帰ってくるよ」

いじちさん、いつもパパと一緒にいて大変そうだなって思ってたけど、今日も大変だったのかな。

「坊が家から黙っていなくなるから、ママが泣きそうになって探してたよ」
っ、ごめん、なさい
「それはママに直接言いな」
っでも、ママ、具合悪いのに

どうしよう。心配させてママがもっと具合悪くなってたら……

「あー、それは、お前に弟か妹できたんだよ」
「えっ」
「ママのお腹の中に赤ちゃんがいるの」

赤ちゃん!? あんな細いママのお腹に!?
僕はびっくりしすぎて、口がぽっかり開いてしまった。

「だからママはこれからしょっちゅう具合が悪くなったり、お腹が大きくなってもっと色々なことがしんどくなるんだ」
「じゃあ、今日ママが寝てたのもそのせい?」
「そう。お前がママのお腹の中にいる時も同じだったよ。子供をずっとお腹の中で育てるって大変なことなんだ。だから、坊はママのこと助けてあげられるな?」

パパが真剣な顔で僕を見てる。僕には分かる。
これは男と男の約束だ。

……うんっ!」
「じゃあもう黙って一人で出歩いて心配かけないこと」
「あ、でも――

お花のことを話したら、パパは笑って大きな手で頭をぐしゃぐしゃしてくれた。
それからママに電話して、二人でいろんな色のお花を摘んだ。

「じゃあ、空中散歩して帰るか」

パパに抱えられて、一気にお空に浮かぶ。
お星さまがいっぱいで、すごくきれい。


あと、おうちに向かってる間にパパが話してくれた。
今、ママのクラスの生徒たちもパパが見てるから、しばらくちょっと忙しくなること。出張に行くこともあるから、パパの留守の間はママを手伝ってあげてほしいってこと。

――パパにもばかって言ってごめんなさい」

はずかしいから小さい声で言ったら、パパはまた笑ってくれた。



***



家に着くと、歌姫が僕達を抱きしめてくれた。花束を二人で渡したらまた泣き出して、なだめるのが大変だった。
それから皆でハンバーグを作って、こっそり買ってきておいたケーキで歌姫の誕生日をお祝いする。

坊は一人の大冒険と星空散歩で疲れたのか、ご飯を食べたらすぐ船を漕ぎ始めた。ベッドに連れて行くと、スイッチが切れたように爆睡していびきをかいている。

気づくと、歌姫が後ろから部屋のドアを開けて覗き込んでいた。

「お疲れ様。出張帰りに悪かったわね」
「歌姫の泣き顔、久しぶりに見た」
「うっさい!もう、ほんと肝が冷えたんだから

サプライズでお祝いしようとケーキを買ってきたら、半泣きの歌姫が家から裸足で飛び出してきたから何事かと思ってしまった。
坊は呪力が強いから僕の眼ですぐ追えたけど、何事もなくてよかった。

「そろそろ呪力コントロール本格的に教えないとな~。年々強くなってるし、呪力量増えすぎると悪いもんも引き寄せるからね」
あんたもそうだった?」
「僕は寄ってきたやつは全部返り討ちにしたから」

歌姫が小さく笑う。

「あんたほんと、昔から変わってないのね」
「それに付き合ってくれる歌姫も変わんないじゃん」
「もう腹くくったわよ。あんたに振り回されるのも慣れたし」

僕のことを散々振り回してる自覚のない歌姫は、こともなげに言う。

「だいたい、あんたの"出張に行ってると思ってたパパが突然巨大バースデーBOXから出てくるサプライズ"ってなんなのよ!初手から失敗してるじゃない」
「いやだって帰れないかも、って言った途端に坊があんなにキレるなんて思ってなかったんだってば~」

長年の付き合いで歌姫へのサプライズは見抜かれるようになってしまったので、今回は歌姫と口裏を合わせて坊へのサプライズを仕掛けようとしてたのだ。
それが見事に失敗してしまった訳だけど。

「結局使わなかったデカBOX、あれどーすんのよ
「今から使ってもいーよ?中に入って僕をプレゼントするから、歌姫好きにしていいよ」
「ばか」

歌姫がベッドサイドに座る僕の頭をくしゃくしゃと撫でてくれる。その感触が心地いい。

「この子もあんたに約束破られたと思ったみたいだから、明日ちゃんと謝っといてよ」
「はーい」

この子は術師じゃないけど、術師同士の約束は破ったら命懸けだからな。

「歌姫もちゃんと約束守ってくれてるもんね」
――あんたもね」


"一緒に命を懸けてください"
それは呪術師のお願い事と同義だ。

密偵を依頼した時も、新宿に赴いた時も、プロポーズをした時も。
歌姫は全部受け入れてくれた。

そして今、ここに坊がいて、新しい命が宿っている。


「これからもよろしくね、歌姫」

歌姫の手を取ると、しっかりと握り返される。
その美しい笑顔に吸い寄せられるように、愛しい妻に口づけた。