Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
小雨
2025-08-15 23:43:34
2980文字
Public
おはなし
Clear cache
放課後デート
走り書きですが
「だからぼくは反対だと言っているのだ、友引高校影の生活指導部としてこういった行為はけっして看過できない!」
まったく、よくも飽きもせずにくどくどと。
さっきからずーっとこの調子だ。だから面堂なんか連れてくるのは嫌だったのだ。そもそも連れてくる気なんかサラサラなかったのだが。
面堂を連れて歩く友引商店街はいつもより騒がしく、うっとうしい。
事の発端はこうである。すべての授業が終わって、つまらない学校のアレソレから解放された放課後、いつものようにコースケと放課後に買い食いに繰り出そうとしたときだった。
「きみたち、放課後の寄り道は校則で禁止されているはずだぞ」
話を聞いていた面堂が、そうやって口を出してきたのであった。
あたるはカバンを肩にかけながら面堂をにらみつける。
「ンなことおまえに言われんでも知っとるわい!」
「だったら、校則を守るべきだろ〜が」
「そんなもん守っとったら腹が減ってしゃ〜ないだろ〜が!」
「そ〜だそ〜だ!」
コースケもあたるに続いて面堂に反論する。
「昼の購買のパンごときで夜までもつわけないだろ、おれたちは育ち盛りの高校生なんだから!」
「だったら、もっとちゃんとした弁当を持ってくればいい話だろ〜に!」
「学校に立派な重箱持ってこれるよ〜なやつ、おまえ以外にいるかっ!!」
あたるはなおも面堂を睨んでいたが、やがてやれやれと大仰にため息をついてコースケの肩に腕をかけてもたれかかった。
「こいつに何言ったって無駄だよな〜。ど〜せ金持ちの坊っちゃんにはおれたち庶民の生活なんかわからないしわかる気もねーんだからさ」
「たしかに、面堂だもんな〜」
あたるがそう言うと、なぜか面堂はたじろいで、懐から櫛を出し前髪を梳き始める。
「べつにぼくは、きみたちの生活を理解する気がないわけではない
……
そ〜でなければこんな庶民の学校になんか、転校しようとも思わなかった」
あたるはわざとらしく大きく鼻を鳴らしてみせる。
「ふんっ、口だけではなんとでも言えるよな! お昼が足りなくて放課後に商店街で買食いしたくなるごく普通の男子高校生の気持ちの一つもわからないで、なにが『理解する気』があるってんだ!!」
「うっ
……
」
面堂はさらに落ち着かない様子になって、ついに髪を梳くこともやめてまたポケットにしまう。だがいまだに目が泳いでいる様子からしてあたるの言葉がけっこう刺さった様子だった。
珍しいことだった。この男はあたるが何を言ったところで貧乏人の僻みだとばかりに受け流して自信満々に笑っているばかりだったからだ。
面堂をとっちめるなら今がそのチャンスかもしれない。
あたるはニヤッと笑って面堂をさらにおいつめる。
「おべんとうを忘れたら妹が届けに来てくれるよ〜な恵まれた人間にはおれたち庶民の気持ちなど生涯わかるまい!! くやしかったら、きさまも買食いの一つもしてみることだなあ、面堂!!」
もちろん、あたるがなんと言おうと面堂が友引商店街に来て買食いをするなんてことあるはずがなかった。まず経済レベルが違いすぎる、友引商店街で食べられるご飯はどれもおいしいが、面堂が普段食べている高級な料理とは似ても似つかないだろうし、口にも合わないだろう。それに真面目で融通の効かない性格のこの男は、あたるに何を言われようと校則を破って買食いに繰り出すなどありえないのである。
少なくとも、あたるの考えではそのはずだった。
「なるほど、きさまの言うことにも一理ある
……
」
「ふふん、そーだろうそーだろう!」
「だったら」
面堂はあたるに詰め寄ってきた。そのままガシッとあたるの肩を掴んでくるのであたるは面食らう。なんだ、何が起きているのか。
「きさまがそこまで言うなら、きさまがぼくを商店街に連れていけ!!」
まさかそう来るとは思わなかった。
「本当は、ぼくもこのような行為に加担するわけにはいかないのだが、今日は社会勉強ということで仕方なくだな
……
」
「あ〜も〜くどくどとうるさいやつだなあ〜!」
商店街の賑やかな喧騒に負けない面堂の言い訳と説教を聞き流しながら、あたるはぶすくれて商店街を歩いていく。コースケは要領がいいから早い段階で逃げ出した。いまごろは家に帰っているか、ひとりで商店街の別の場所で立ち食いそばでもすすっているとでもいったところだろう。正直言って妬ましい。面堂を置いてこの場から逃げられるなら、今日の夕飯のおかずを一つ差し出してもいいかもしれない。
あたるは大きくため息をついた。こうなったら実力行使しかない。
「面堂、ちょっと来い!」
「なんだ」
「いいから!」
あたるは面堂の腕をぐっと摑む。そしてすこし驚いている面堂の腕を引いてスタスタと近くの売店に向かった。
「なんだ、きさま! いったい何を考えている!」
「グダグダいつまでもくだらんことわめいとらんできさまもなんか食え! ほら、これなんかちょうどよかろう!」
「へ
……
」
カウンターに向かうと、あたるは「ピスタチオとストロベリー、ダブルで!」と店員さんに告げた。
「面堂、おまえは何を食うのだ」
「え、え?」
面堂はしどろもどろになって、困ったようにメニューを見つめる。あたるは面堂の脇を肘でついた。
「何しとる、後ろつかえてんだからはよ決めんか」
「え、と
……
」
面堂はあたるに顔を向け、助けを求めるような目であたるを見つめた。
「こういうとき、何を頼めば
…
?」
あたるはきょとんとした。
「べつに、食いたいもん選べばよかろうが!」
「それがわからないから困っている
……
」
面堂は、少し垂れた前髪を所在なげにかきあげて、小さな声で言う。
あたるはそれを見上げ、ムスッとした顔をしながらため息を付き、店員さんに向き直った。
「バニラとコーヒー、ダブルで!」
その後会計を済ませ(もちろん面堂のぶんは面堂に払わせた)、あたると面堂は店のそばの壁に寄りかかった。
あたるはすぐにピスタチオのアイスを舐め始めたが、面堂はなかなか舐め始めない。あたるは指についたアイスをぺろっと舐めながら面堂に話しかけた。
「どーした、食わんのか。はやくせんと溶けるぞ」
「あ、ああ
……
」
面堂は、じっとアイスを見つめてから、おずおずと口元に近づけていく。あたるが見つめる中、面堂は赤い舌をそっと伸ばして、バニラのアイスをなめ始めた。
「
……
」
そのまま固まる面堂を見ながら、あたるは首を傾げる。
「面堂?」
庶民のアイスはそんなに不味いのだろうか。そう思っていると、面堂はアイスを見つめながらふっと小さく微笑んだ。
「
……
おいしい」
その笑顔に、今度はあたるが固まる番だった。しばしじっと面堂を眺めてから、あたるはふいっとそっぽを向く。
「ここのアイスは商店街の中でも特においし〜からな。これで買食いの魅力がわかっただろ!」
そう言うと、面堂はまた笑って、そうかもしれない、と小さく言った。
それからしばらくあたると面堂はならんだまま、何も言わずにアイスを舐め続けた。
美味しそうに、あたるの選んだアイスを舐める面堂を横目で見る。
こういうのも、案外悪くないかもしれないと、あたるはそんなふうに思った。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内