mishiadd
2025-08-15 16:42:25
2205文字
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ある盆の話

【本編軸】光/焔EDの宮本伊織のとても不謹慎で胸糞の悪い話です(いつもの)【その他】

幽霊長屋のあの若い浪人さんさ、いるだろう。

しょっちゅう妹さんが様子を見に来ているけど、基本的にはあそこに住んでるのはあの人ひとりだからね。正月だって寂しいものだったし、マア、あんまり盛大には旬の行事はやらないんだよ。独り者がせいぜい近所迷惑にならないよう、申し訳程度にやるようなもんさ。

だから毎年の盆もねえ、そりゃあ質素なもんだったよ。お迎えするのも自分の養父で剣術の師匠だったっていう人ひとりで。妹さんがね、自分のお屋敷からいろいろ細々したモノを持ってきてくれて、それでなんとか形になってるようなもんでね。
妹さんもお屋敷の方でも忙しいだろうから、一通りお兄さんの面倒見た後はてきぱき帰ってしまってねえ。ま、そもそも忙しい合間を縫って抜け出してきてるってのが正しいんだろうが。

だからねえ、盆の間はずっとあの人はひとりで過ごしてんだよ。お師匠さんをお迎えして、あのオンボロ長屋でたったふたり



それがねえ、ある年から、急にお迎えする人がもうひとり増えたんだっていう。



その盆のちょいと前だったかね。今まで町娘ひとり近づけた気配もなかったのに、急に綺麗な娘を何人も連れ込むようになってね。そうかと思ったらひと月もしないうちにそれも全部いなくなっちまった。また元の寂しい独り身だよ。マア、見る限り二股三股かけてたのがバレて修羅場になって別れたってわけでもなさそうで、結局残ったのは最初から居た妹さんだけ、なんのことはない、全部元に戻ったってだけの話だ。

とはいえ、急にその盆から迎える人が増えたんだなんて話になったら、勘繰っちまうだろう。こりゃあ、あの綺麗な娘らのうちの誰かだろうかってね。

急に集まって、急に居なくなった人達だったからね。なんだかきな臭い面倒事にも巻き込まれてるようだった。だから、もしかしたら急にみんな居なくなっちまったのも、そのうちの誰かがおっ死んじまったからなんじゃないかってねえ。

本人に直接尋ねるのもどうにも気が引けてね。お兄さんの世話し終わってお屋敷に戻る途中の妹さん捕まえて、こっそり尋ねてみたんだよ。「もしかして、あのうちの誰かが死んじまったのかい」ってね。

「ああ、そんなのではないですよ」と妹さんがきょとんとして言うんだよ。

「おひとりは、確かに体の具合が良くなくて、今は蘭学のお医者様にかかっているという話でしたが。もうひとりは、あたしともいろいろと仲良くしてくれていたのですが、用事が終わったので帰ったと聞きました。それから、兄ちゃ――兄上が一番懇意にしていた人は、得るものを得たので帰ったと聞きました。兄上ともきちんとお別れの挨拶をしたと」

ああ、そんなら違うんだねえと思ったんだ。だけどそれなら一体誰なんだってことになるだろう、その盆に迎える二人目は。

アタシが腑に落ちない顔してたからだろうね、妹さんが尋ねるんだ、「一体なんの話ですか」って。

「お兄さんが、今年から盆にお迎えする人がひとり増えたと言ってたらしくてね」と答えてやりながら、アタシも「おや?」とは思ったんだよ。お兄さんの盆の支度を全部手伝ってやってる妹さんが、知らないなんてことがあるのかってね。

本当に初耳だったみたいでね、こう、おっきな目をまんまるくした後、そりゃあ悲しげな顔をして、妹さんが言うんだよ。



――あゝ兄ちゃん、兄ちゃんはあの人が死んだと思ってんだね。



それっきり、首を小さくふるふる振って、なあんにも言わなかった。アタシがぽかんとした顔してたからだろうね、しんどそうな顔で「お線香でも供えに行ってあげてください」と言って、その日は帰っていったんだよ。



だからねえ、アタシは訪ねていったのさ。盆の最中にね。蝉が鳴いてうるさい日だったよ。



ガタガタの立て付けの引き戸を叩いたらすぐ出てきてくれてね、線香あげたいと言ったら不思議な顔してたけどすぐに長屋に上げてくれたよ。畳の上に位牌があってね。そこで拝んで線香上げて、でもよくよく見てみても置いてある位牌はひとつだけだった。おやおやおや、と拝むふりしながら片目を薄目に開けて周りを見ていたらね、浪人さんに気付かれちまって。「どうかしたか」と言うから、「ああいえ、今年から浪人さんはふたりお迎えしていると聞いたから」と馬鹿正直に言ったのさ。――そうしたら、そりゃあそりゃあ綺麗で陰鬱で妖艶な顔で、うっそりと微笑んでねえ。

「これだよ」って言って、位牌の隣の板きれを指さしたのさ。そこらへんに落ちてるような薄っぺらい板きれを、位牌の形にくり抜いただけのモンだった。



――戒名も何にも書かれてなかったよ。ただ一言書いてあった。『宮本伊織貞次』ってね。



なんだか空恐ろしくなってね。線香にちゃんと火がつけられたかも覚えちゃいねえ。うっそりと浪人さんが微笑んでる中、とにかく一刻も早く長屋から出たくて必死だった。

外に出た時も蝉が鳴いてたよ。アタシが出て行く時きっと浪人さんに礼を言われたんだと思うんだがろくに覚えてねえ。長屋の横に立って、真夏の真っ白い光の中で別嬪の後家さんみたいな顔して笑ってたのだけ覚えてるよ。

自分自身の後家ってのも意味がわからないだろう。気味が悪いったらありゃしないよ。ありゃ、一体何を悼んでたんだろうね






ある盆の話・了