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鮎
2025-08-14 22:45:12
2312文字
Public
WJ封神演義二次創作作品
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【仙人万来 GD2025 サンプル】∞ ハッピーエンド・ショートカット ↗
いかれポンチなタイトルですが、まごうことなきシリアスです。サンプルではその気配は全くありませんが、屍鬼×封神演義、ただし封神成分9割といったところ。今回、言い訳の後書きが長め。
第維祉話 東洋の信徒への手紙
その桜は見事に咲き誇っていた。
幾重にも花びらを纏って頭を垂れた花々は白から桃へ、そして紅へとその色を染め上げている。だが、朽ち果てた牢獄には近寄るものはない。
「幽霊が出る、ってさんざん噂になっちゃったからね」
空から、一人の青年が舞い降りて来て言った。
「拷問を受けてなおも信仰を捨てなかった邪教の信者が、世を恨んで化けて出てくるんだって」
『化ケルナド
……
有リ得ヌ』
桜の下から声が響く。
『暫シノ眠リ
……
復活ノ日ガ来ル、ソノ時マデ我々ハ』
「でも、あなたたちはそれを疑っている。神様の存在、復活の日を疑っているんじゃないよ? あなたたちが、ここに囚われていることを神様に気付いてもらえないんじゃないかって、それを疑っている」
憎しみににも似た感情は桜の養分となり、幾重にも重なっても抑えきれずに色を染め、重さを増す。桜が掬い上げきれなかった負の感情は陰の気を寄せ、野辺送りの山々に近いこの地を更に鬼の地へと近づけた。咲いた桜はいつまでも散ることができず、他の桜が散った後もずっと、花を増やし、血染めの桜、地獄の血桜とまで呼ばれていた。
「残念ながら、あなたたちの神様はここには来られない。あなたたちの体は打ち棄てられてもう既にないし、あなたたちの疑っているとおり、そもそもここはあなたの神様から見れば『異界』だから」
若い女のすすり泣く声がかすかに聞こえる。それにかぶせるような怒号も聞こえたが、それらは僅かな振動を太極符印が拾うことでようやく認識できるような、それほどまでに弱い響きだった。彼らの祈りは、遠い海の向こうの彼らの神に届くことはない。
人はただ一度きりの命を生きるのだと、彼の地では教えられているらしい。その生を精一杯に生き抜き、その人生において積み上げた善行の称賛と罪の懺悔を経て天国か、あるいは地獄に連れて行かれるという。
彼の地におわす神は、きっと全知全能の神なのだろう。何をもって善き行いとし、何をもって罪とするのか。そこに一元的な判断を下すのは不可能に近く、もしそれが可能であるならば、その神はすべてを納得させることができる能力の持ち主なのだろうと青年は思う。青年にはまだまだたどり着けない
――
いや、永久にたどり着けそうにない境地ではあるが、そういう神が必要とされているなら、道を提示するのが青年の役目であった。
「でもね、『異界』にも神はいるんだ。ここは、僕らの領域。
……
僕らには、復活という概念はないけれど」
最初の導師は輪廻から解脱することを説いた。けれど、全ての人がそこに至れるとは限らない。いや、至れるとしても、そう簡単にたどり着けるゴールではなかった。
人々は謙虚だった。仏になれなくてもいい、仏の治める浄土へ行けるだけで十分。輪廻を繰り返すなら、せめて次の世での幸せを。そう願って死の恐怖を乗り換えていくものを、青年は幾人も見届けてきた。
「僕らには、輪廻転生という概念がある。何度でも生まれ変わって、何度でも納得の行く生き方を探す旅路」
旅路の果てに、浄土に辿り着くものもいれば、悟りを得る者もいるだろう。青年はそんなさまよえる魂の案内人だった。西方に赴き、仏の称号を与えられても固辞して、神として何度も人の世へ降りた。
「あなたたちがあなたたちの信じる神様の国に辿り着くまで。途方のない旅になるかもしれない。それでもあなたたちが願うのなら」
それはある意味地獄めぐりでもある。人の世には、神が存在しない世界もあった。神を騙るものが支配する世界もあった。それに、生まれ変わった先が人間とは限らない。獣であったり、植物であったり。生まれて数時間で寿命に到達する儚い命、あるいは数千年を生きることになる大樹に生まれ変わることさえある
……
それでも。
『願ウ!』
願わずにおれようか、と一人の声が慟哭した。頭を垂れたいくつかの花々がいっそう紅く染まり、血の涙を流す。他方で別の枝が風もないのに激しく揺れた。
『悔イ改メレバ救ワレル、ダガ、コレハ貴方ニ対スル罪ニハナルノカ』
「罪だと思うなら懺悔すればいい。僕らもまた、罪を告白する者を許す神だから」
『コノ身、朽チ果テタガ、ソレデモ神ノ国ニ辿リツケルノカ』
「君たちの魂は一つも朽ちてはいないよ。この桜の花が散っていかないのがその証拠」
全ての嘆きを幾重に重なった花びらに込めて、それでも散らない様は美しくも残酷であった。いずれは樹ごと鬼と化し、周囲を本当の意味での幽り世へと変じさせる。その前に青年は来たのだ。
「春が終わる、その前に君たちは旅立たなくちゃいけない。僕が先導するから、みんな、ついてきて」
太極符印が方程式のない道を開く。大空のようで、大海原のような、不可思議な空間からふわりと優しい風が届いて、青年の髪や服を揺らした。
『マサカ、ソコニ御座スハ、天ノ御使イ
……
!』
『後光ノ輪ニ白キ翼
……
』
『天使サマ
……
我々ヲ、救イニ来てクダスッタ
……
嗚呼!』
「こっちの服で行けって言われた理由が、ちょっとだけわかったかも」
クスリと青年が苦笑する。どうやら、慣れ親しんだ道服は異教の神のしもべによく似た恰好らしい。だが、そのおかげで桜に宿る無念の魂は皆、青年の導きに希望の色を宿していた。
「さぁ、行こう。次の世へ。あなたたちの神がいる世界を目指して」
みんなの旅路が幸多きものになりますように。青年の祈りは風と共に道を開き、揺れた桜の花が房ごと落ちていく。ぽたり、ぽたり。ひとかけらも遺していかぬよう、艶やかな蓮華のように開いた花が道を埋めていく。
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