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虫甬
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対峙するガファホンの小話。
衝動と感情が耐えきれなかった、自己解釈有り。
あの日を忘れず生きてきたN社のジア・ファンと、あの日の記憶は埋めて枯らした君主ホンルとの対峙。君主なので偉そうなホンルがいます。
実装前の幻覚と併せてどうぞ。
酷い夢だと嘲笑われた。指摘をされても心に波は打たず、静かに言葉を飲み込んだ。かの者に理解される必要はあるだろうか。ここで他親族同様に首を落とせばいい。低く唸る声に覇気は残っている。憎らしいよ。兄長。肩の力も抜いてホンルは長く息を流した。肺の中を空っぽにする。すう、と鼻孔に入り込む空気は嗅ぎ慣れた血生臭さ。全身に行き渡るように吸い込んで、待機する黒獣を制した。
「もういい。殺したところで意味は無い」
どこまでも神経を逆撫でる。両者の心境は共鳴しながらも拮抗し、返り血が乾いても睨み合っていた。
少なくともジア・ファンの覚えているバオユではない。擦り減ってしまい掠れた残滓だけが片目に残っているのは確かだ。諦めではなく、蔑みが澱んでいる。奥歯を軋ませながら彼は背を伸ばす。例え腕の骨を折られようが、足を抉られようが、姿勢は崩すものか。噴き出る赤色は彼の血でもあり、幻想体より抽出した防具由来でもあった。だから気にしない。
これぐらいなんだ。
あの子が負った痛みは、あの小さな身に受けた悲劇は、こんなものじゃない。
同時にジア・ファンの脳に黄金色の音が響いた。
目の前にいる弟弟の痛みは? 考えたことは無いの?
「
……
お前は」
「お前?」
間髪入れずにホンルは憎らし気に口角を歪めた。不快感を露にするが目元の色は変わらず、枯れた井戸の底と酷似していた。
「もしかして、僕の立場を忘れたの?」
真冬の冷水より凍てついて、鋭い声色だった。待機する黒獣ですら闇に紛れて動揺を示す。現にホンルの片手には血管が浮かび、思いのまま武器を振るうだろう。そうしないのは彼なりの自制心があり理性があるからだ。
「はっ! それがなんだっていうんだ。俺はもう、この家門の為に生きていない。
……
それぐらい察せるだろう?」
あくまでN社の存在だと告げる。
憎しみを、軽蔑で返した意図はすぐに溶け込む。そうだね、とホンルは吐き捨てた。都合の悪い部分を突かれても揺るがないよう視線は外さない。
じんわりと彼の包帯に赤が増してゆく。
「続けろ」
ジア・ファンのこめかみに青筋が浮かぶ。随分偉くなったものだ。いや。実際に弟は相応の立場に昇った。しかし癪に障るもので仕方がない。胸ぐらをつかんで説法をしてやるか、はたまた心臓を掴んでやろうか、赤黒く汚い包帯ごと顔面を焼いてやろうか。暴力的な憤怒が彼を燃やす。炙られながら「宝玉でないお前は無様だ」と返す。
「へぇ。名前を捨てて感情的になってる兄長に言われるなんて」
ホンルは一切動じていないが、ざわめく黒獣を抑えるのに精いっぱいだろう。彼を君主として崇め従い命を尽くす者たちは、今この瞬間、どうしてこの不届き者を処さないのかと牙を光らせている。
怯まずにジア・ファンは両目を見開く。
「少しだけ認めようと思った。あのお前が、自分の意志で選んだことは
……
だが」
金色にねじれた剣先が、心が、君主として君臨するホンルを捉える。全身に震えも無ければ脳は透き通っていた。はらはらと何かが剥がれ落ちる気がした。
身に纏う武具が翼のようにゆっくり開く。
「あの日を
……
忘れたことなど一度もない。忘れるものか」
この手から滑り、逃げるように去って掴めないまま空っぽの掌に温もりなど残っておらず、ただ虚無を掬う。きっとこの手はひび割れているとあの子の色で繋ぎあげた。
目の前のあの子の傷を、考えただろうか。
答えずにジア・ファンは構える。ホンルもまた音を立てず微笑みもせず息を殺した。
「そうやって、変わったように振る舞うな」
所詮、変わるものなど無いのだ。
そう。自分自身を含めて。
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