Mae❍
2025-08-13 12:28:43
2713文字
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記憶の懺悔、新しい世界

【THE BKTD HOTEL 2】の展示。ネップリの書き下ろし。
『永遠と幸せ』の続き。(べったーから移行)

海辺に浮かぶ大きな船。波に乗って揺れるその船は、爆豪が知り合いから譲り受けたものだ。
いつか、世界を見たいと言った轟の為に。いつか、世界を旅したいと言ったかつての自分への贈り物。
2人が前世の記憶を取り戻し旅に出たのは、つい1週間前だ。
乗組員も前世同様、爆豪の幼馴染であった緑谷、そして着いていくと言って聞かなかった上鳴、瀬呂、切島の4人だ。部屋は各々振り分けられているが、轟と爆豪はもちろん同室だ。目的のない成り行きの旅。それはただ、前世からの約束を叶える旅。

そんなある日の夜のこと。爆豪は船先に腰掛けて座っている、轟の隣に腰掛けた。そして、海に浮かぶ月を眺める。

「月はあの頃と変わってないな

轟は海の月から視線を動かさないまま、ポツリと呟いた。
爆豪はそんな彼をそっと見る。悲しそうな、顔をしていた。
轟は、今でも前世のことを忘れられないでいる。あの日、爆豪をおいて逝ってしまった日のこと。そして、自分を愛してくれたたった一人を殺してしまったことを。今でも後悔している。
爆豪は気にしていないと言った。それでも轟は忘れられなかったのだ。ただ、彼だけが、三〇〇年生きた中で唯一愛した人だったから。今の爆豪も愛している。でも、それでも轟の不安は消えなかった。爆豪は轟と出会っていなければ、死ぬことはなかった。大切な家族をおいて逝ってしまうこともなかったのだと。
轟は無意識に自身の胸元を握り込んだ。
溜めていた嗚咽が、音となって爆豪の耳に届く。それは記憶の欠片だ。時を超えてなお、彼を苦しめ続ける後悔の。
あの日の後悔が涙となって、頬を伝う。悲嘆の涙は枯れることを知らない。
抑えていた言葉が、溢れる。

「っばくごっ

悲しみで震えだした身体を、爆豪はそっと抱き寄せる。ゆっくりと背中を撫でる。その悲しみが、少しでも和らぐように。

「ゆめ、みたんだ
……ん」
「ばくごうが、前世、どうやって死んだのか
「っ

前世、先に死んだのは轟の方だ。轟は、爆豪がどうやって死んでしまったのか、分からなかった。今日、その夢を見るまでは──。

「爆豪は俺のせいで死んっ、」

その言葉が、最後まで音になることは無かった。何故なら、爆豪が轟の口を抑えたからだった。

「俺があの日死んだのは、轟テメェのせいなんかじゃねぇ。俺が、決めたんだよ。だから、そんなこと言うな。」

口を抑えたまま、言葉を紡いだ。その言葉が、どれだけ響いたのか、彼に伝わったのか分からない。けれど、言わなければ想いは伝わらないから。心が目に見えないように、想いも目に見えない。
形にしなければ何も伝わらない。

「でも

涙が止まらない。爆豪は、そっと抱き寄せた轟の背中を撫でながら思う。
自分の死に、此処まで泣いてくれる轟を、愛おしく思う。例えそれが前世であって、今生きているとしても。彼は泣き続けてしまうだろう。それほどに優しい人間だから。

「俺は、あの時の選択を後悔してない。だから、テメェが背負うことねぇよ」
……ぅん

過去に囚われたままではなく、前を向けるように。それは難しいことかもしれない。しかし、爆豪にとってはこの腕の中にある温もりが、変わらずに在ればいい。それだけ。たったそれだけが、爆豪の心からの願いなのだから──。
その日、爆豪は夜が明けるまで、轟の背中を撫で続けた。

─✦✦─

この世界の、北の果て。人はほぼ立ち入らない其処は、白い粉で覆われていた。
エターニティーから約三〇〇〇キロの場所にあるその大陸は、気温が低く、人が住めるような場所ではない為、誰も寄り付くことはない。しかし近年では、ある噂が人々を駆け巡った。
『雪で覆われた其処には、千年前に隠された宝物が眠っている』
さっそくこの噂を聞きつけた爆豪は、ついにその大陸に辿り着いた。

「寒い

ここに来る途中で購入した防寒着とマフラーに顔を埋めながら、轟は爆豪にくっついた。そんな彼の手を、爆豪は優しく握る。自分より少し冷たい手は、しかし前世の時よりも暖かかった。

ここが北の果て、か
すごい全部真っ白

見渡す限り白しか見えない風景に、誰かが息を呑む。

「ここに宝物があるのかな?」

轟はチラリと爆豪を見るが、彼は頭を撫でてくるだけで何も言わなかった。
少し古びた船着き場に船を固定し、船を降りる。

「僕らはここで待機してるから、2人で行ってきて」
ん、轟、行くぞ」
「ぇ、ぁ、うん」

爆豪に手を引かれて歩き出した轟が少し振り返れば、緑谷がひらりと手を振っていた。そして視線を前に戻したとき、緑谷が言った言葉には気が付かなかった。
『がんばれ』

──サク、サクと踏みしめる度に音が鳴る。まるで片栗粉を踏んでいるような感覚に、轟は心が踊った。

「あの、何処行くんだ?」
「もう着く。ん」

先に崖を登った爆豪が轟に手を差し出した。それをぎゅっと握り締めると軽々と身体が浮き上がり、同じ高さに下ろされた。

「ありがとう」
「ん」

横に並んで、足を止めた。
爆豪につられて、空を見上げる。
するとそこには、一面にオーロラが広がっていた。風が吹くと、揺れるカーテンのように七色の光がキラキラとなびいた。色が、時を刻むにつれて変化していく。風に乗って、何処までも続くそれは、とても儚いもののように思えた。

「きれい
「これが、昔の人が遺した宝だ」
「ぇ?」

爆豪はオーロラから目を離さないまま、言葉を奏でた。

「この気候でなければ、見れなかった。周りに明かりがないから、こんなにも綺麗に見える」
「そっか。昔の人はこれを残したくて、此処には住まないことにしたんだ

きっと、これを見た誰もが同じことを思うだろう。残したい。これは自然が作り出したもので、人が作り出せるものではないから。その奇跡が失われないように、この世界も。守っていかなければならないのだと。
爆豪はそっと轟を見つめる。
まだ、見たこともない世界の景色を。彼の隣で見られるなら、それはきっと幸福で、忘れられない記憶になるだろう。
だから、これから何があっても手を離さないと誓う。約束なんて、口実でしかない。君と隣を歩けるように。それはきっと、自分への言い訳で、建前なのかもしれない。
それでもなお、約束を口にする彼は──

「爆豪、今度こそ、俺と世界を見に行ってくれる?」
「ったりめーだよなぁ、焦凍」

この世界の何よりも、美しい。

二人の旅は、まだ始まったばかりだ。