望月 鏡翠
2025-08-13 00:42:15
927文字
Public 日課
 

#1810 「鉱石」「朝間」「知見」

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 羊飼いはある夜、流れ星が落ちてくるのを見た。
 その晩は羊が産気づきそうだったで、牧羊犬と共に夜通し様子を見守る日だった。真夜中、犬がふと空を見上げてうぉんと鳴いた。
 向いている方向が空だったし、肉食の獣がきたときの声とは少し違っていた。
 顔を上げると、空の真上から地上に向けて星が降ってくるのが見えた。
 一筋、すうと地面をかけて山の斜面に吸い込まれていった。
 上を見ていれば、流れ星は時々見える。
 しかしあんなに長く尾を引いて、はっきりと見えるのは初めてのことだった。
 気になったが、ちょうどよく羊の陣痛が始まってそれどころではなくなった。お産は戦場のような忙しさだ。苦しむ羊を宥め、出産に苦しんでいるようであれば赤子を引っ張ったり、押し戻して向きを直したりする。生まれた子供の羊膜を剥がし、乾いた藁で拭いてやる。体が冷えてしまいそうであれば、布で包んで母の乳房に持っていってやる。
 犬は、心配そうに周りをうろうろとしていた。
 夜明けが近づき、東の空が白んできた頃にようやく片がつき、起きてきた息子や妻たちに羊の世話を引き継いだ。一息つき家に帰って休もうと思ったところで、明け方の空に残っている星を見た。
 ふと、あの星はどうなっただろうと思い出した。
 気になることがあるのなら、朝間に済ませてしまった方がいい。
 羊飼いは犬を連れて、星が落ちた山の斜面に向かった。
 星の落ちた場所を探すなど、虹の根本を探すようなものだったが、赤く燃える日を向こうの山の斜面に見た気がしたのだ。それに微かな振動も。
 羊たちは妙なときに産気づいたし、犬は落ち着きがなかった。
 何かがいつもと違う予感がした。
 果たして、流れ星はそこに落ちていた。
 周囲の草が焦げ、地面が抉れていたので、羊飼いは慎重に近づき、それを拾い上げた。まだ温かいそれは不思議な模様をしているが、ただの黒ずんだ鉱石に見えた。
 羊飼いはそれを、遠くからきたという旅人に見せに行くことにした。 
 外のことに詳しいという旅人に聞いてみよう。もしかしたら、何か新しい知見が得られるかもしれない。
 そうして場合によっては、珍しい流れ星を買い取ってくれるかもしれない。