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chuahaaan
2025-08-13 00:10:37
1645文字
Public
AC6
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X番目の出口
8番出口を求めて彷徨うスッラの目の前に使命を諦めたあの男がいたらどうなるか。そんな投稿に刺激された勢いで書いた。
白いペンキが塗られた天井に白く輝く蛍光灯が規則正しく並ぶ。
長い年月を経て薄汚れた白くて四角いタイルが貼られた壁が曲がり角の先へと続く。灰色がかった白いタイル張りの通路の中央には黄色い点字タイルがその先に道があることを示している。
見慣れた光景だ。
歩き慣れた道を進み、角を曲がる。
左側には近隣の店のポスターが壁に飾られている。反対の壁には鈍色の扉が二つ。メンテナンススペースの出入り口だろう。
どこでも見られる設備の一つだ。いつもすれ違うスーツ姿の老人なんて目をやる事すらしない。
スッラは歩き続けた。
8番出口に向かって今日“初めて”使う見慣れた地下通路を歩き続けた。
この場所のことを予め調べていたわけでも、強化手術で欠けた記憶のけらで知っているわけでもない。ただ、この地下通路を見慣れるほどに何度も何度も同じ場所を歩いているのだ。
道に迷っているわけではない。
迷うはずがない一本道なのだ。
ならば、何が起きているのか?
スッラはこの異常をコーラルの幻覚かと思ったが、それにしては様子が違った。
脳深部コーラルデバイスに全身をスキャンさせたが、骨董品のようなこの体の異常は一切ない。いつも通りの不調があるだけだった。
であれば何か?
ナビゲーションに出ていない情報について知る由もない。
ただルビコン星系を中心に単独で傭兵業を営むスッラへの嫌がらせにしては手が混んでいるし、こんなことをするメリットもない。殺すか捕まえて解体すればすぐにネタとして捌ける。
何度も振り返りながら歩き、突き当たりを道なりに曲がると先ほどと全く同じ光景がそこにはあった。
黄色い看板の案内表示の黒い文字はここが8番出口に続く地下通路であることを示していた。
「やっとここまで来たか」
分からないなりに何時間も歩きながらスッラは一つの可能性を見出していた。異常がない通路を通れば案内表示の数字が一つだけ増えるのだ。馬鹿馬鹿しい話だが、間違い探しで正解を出し続け、この表示が8番になれば出られるかもしれないと予期させたのだ。
そして、何らかの異常が生じた通路を通れば最初からやり直しをさせられる。
まだ行ったことがないこの先に何があるのか。他愛もない異変から命の危機を感じる異変まで様々なものを体験してきた。あと少しで出られる自分自身を待ち受けているものは何か。
角を曲がった。
一見すると異常がない通路だ。
踏み出すといつもすれ違うスーツ姿の老人が足を引き摺りながら歩いてきた。
研ぎ澄まされた鉄のような鋭い目で前を見据えて歩く様も見慣れたものだ。
小さな異変も見逃すまいとポスターの一言一句を読み直しながら歩みを進めていると異変が発生した。
「スッラ、行かないでくれ」
あの日、メッセージに残された男の声が後ろから聞こえた。
「何のつもりだ」
これを仕掛けたモノが何であれ、プライベートなものに立ち入り、ルールが分からないゲームに放り込まれた苛立ちも相まって容赦する気はなかった。
憂さ晴らしを兼ねて戦闘モードを起動し、拳を握って振り返った。
そこには背を丸め、杖に縋りながらやっとのことで立つハンドラー・ウォルターがいた。
「済まない
……
ずっとスッラに迷惑をかけてばかりなのに、何人無駄死にさせたのに
……
もう
……
駄目なんだ」
仕事で敵対した時も、友人や猟犬を殺した時ですら見せなくなった小さくて弱々しい姿だった。
「
……
」
「アイビスの、アイビスの火が近い」
「ハンドラー・ウォルター」
「このままでは間に合わない
……
どうしたらいいんだ」
近寄るスッラから離れるように壁にもたれかかり、しばらく呟きながら考えているとずるずると床に座り込んでしまった。
「ウォルター
……
」
「スッラ、こんなところで済まない、少し休ませてくれ」
スッラを見上げる疲れ果てた老人の相貌は深い皺が刻まれていた。その中で輝きを失いつつある眼差しは、50年前のあの日、生きる道に迷っていた少年のままだった。
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