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山本
2025-08-12 22:49:01
8732文字
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Saudade
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Saudade1
物語完結後ifの🐯🕒。
【新たな時代に生きる】
ルフィが新たな海賊王として世界に名を馳せ世界地図も大きく描き変わり、世界を統べる組織が世界政府ではなくなって早数年。海賊麦わらの一味は解散していた。
ルフィの海上の冒険を支え続けたクルーたちは世界のあり方が変わろうと誰一人船を下りるとは言わなかった。が、大きく変化した世界を冒険して回り、一通り一周して次はどこへ行くとの問いに解散しようと言ったのはルフィだった。
ゾロが決めたんだなと一言問い、ウソップが解散して何をするんだと聞き、ナミが聞いても無駄よと呆れたように一言。
旅の最後はラブーンに会いに行ったその場所だった。
ブルックが船を下り、シロップ村に向かってウソップが船を下り、ジンベエが下り。一人また一人と船を下りていき、サンジはルフィ、ゾロ、ナミ、フランキーに見送られオールブルー近くの港で船を下りた。手土産に受け取ったのはフランキー製でサンジデザインのバラティエに似たラブーンモデルの会場レストラン船。
ゾロはルフィの右腕として最後に下りると言い、ナミは全員を最後まで送り届けてからココヤシ村へ帰ると言っていて、フランキーはルフィも下りた船を連れて行くのは自分しかいないからなと笑っていた。
サンジはナミからほんの気持ちとしてレストランの開店祝いを少々早めに受け取った。それだってそれなりの金や宝石などだったが、ナミが別れを惜しむ気持ちを隠すように笑顔で差し出したので断れなかった。
決して大きくはないラブーンをモデルに作ってもらった海上レストラン船でオールブルー近くの海上にぷかぷか浮かぶ。海上レストランが自分の原点だからとして。オールブルーを害する輩から守っていかなきゃならないからと笑って。
ゼフにはレストランをオープンしてから手紙を出した。場所を添えて、自分の店を開いた、オールブルーの近くだと記して。
手紙を出してから約一ヶ月の時を経てゼフはサンジの店へ来てくれた。小ぢんまりとした店内のその外観を、いい船だと言って。まあ、それに加えて懇切丁寧にあんな馬鹿みたいに詳しく案内しなくても海の渡り方くらい知ってる、それよりもっとてめェのことを書けと文句を言われたが。
文句に文句で返すのも懐かしく胸にくるものがある。うるせェとかバラティエを出てからのこと全てが手紙に収まるわけあるかと言い返しながら、懐かしさに踊る胸の内はきっとバレている。
それでも良かった。
ゼフを連れまずはオールブルーへ案内。サンジは自身をそう大層なものだと思ってはいないが、近くの町ではオールブルーには海賊王のクルーが守り人としているという話が広まっていた。それが資源としてのオールブルーをどこにも手出させない抑止力になっているとはゼフはわかっていたが、自覚をしていないらしいサンジに笑みが零れたのは秘密だ。
オールブルーへ向かう途中にサンジが、オールブルーを荒らす輩が現れるかもとほど近いあの場所に海上レストランを構えたが今のところ平和だと言っていたので賢さと鈍さは相変わらずとつい笑ってしまったのはゼフだけが得られる特権である。
船で着いたオールブルーに溺れても自分がいるから潜ってみろとサンジに言われたが、片足がなくともその程度で溺れるかと怒鳴り返すゼフも相変わらず。錨を下ろして潜ったオールブルーは幻想的な景色で、ゼフは言葉が頭に浮かんでこなかった。
サンジのレストランに帰りただ一言、ゼフがありがとうと感謝の言葉を告げた時にサンジが背を向けるしかできなかったのは言葉にできない涙を見せられなかったからだ。
サンジのレストランの居住区域に泊まったゼフは二泊してバラティエに帰っていった。帰り際、バラティエを追い出されたらいつでも拾ってやると言ったサンジの不器用さは確かにゼフの息子のそれと言える仕草だった。
静かになったレストランで訪れる客に料理を提供して過ごす。オールブルーを見に来た観光客や離れた港から漁に来て食糧が尽きてしまった漁師たち。中には噂のオールブルーで一攫千金を狙って漂流していた少年とその妹など。全ての客に食事を提供し、迷った者には近くの港を教えたり連れて行ってやったり。
オールブルーは潮の流れが少々難しい場所だったため、目指しても易々と辿り着けず漂うことになる者が多かった。サンジのレストランは、そんな者たちが流されると必ず通りかかる辺りに狙って構えられていた。
荒事などあまりない日常。そりゃあ、海賊をしていたが時代の移り変わりに一般市民に戻り損ねてヤケを起こしたような荒れくれ者どもも確かにいる。そんな者どもはサンジは全員蹴り倒して食事を与え、雑用をすることを対価に陸での暮らしに誘導してやった。
サンジの蹴りを喰らい、命を救われ、一般市民として生きる術を与えられた者たちは概ね真面目に暮らした。真面目に暮らそうとしなかった者もたまにはいたが、そういった者たちが現れる頃にはサンジに助けられた者たちが自主的に捕まえ軍隊に引き渡されたので平和の一助となっていた。
ある時、ギンがやってきた。クリーク海賊団もどうやら解散に至ったらしい。
ギンはメニューにないサンジのピラフを求めた。どうやらあれ以来ずっとギンの好物としてずっと彼の中にあったらしく、出してやると美味い美味いと泣きながら食べていた。何度も何度も、ありがとうと繰り返して。
ギンはクリークとは別の道に進むことにしたと言った。クリークは遠く離れた土地で荒くれ者をまとめ自治組織のようなものを築いているらしい。ギンはそれを見届けクリークの隣を離れてきたと言った。
移り変わった時代にかつての海賊たちも海賊から生き方を変えていく。ギンは今後自分がどうするか決めかね、ふとサンジのピラフを食べたいと思ったらしい。
サンジはそんなギンに、一番近くにある港で警備の仕事をしてくれないかと告げた。どうにも警備の仕事を専業としてやってくれる実力者を欲しているらしい。
給料は町から支払われる。小さな自警団だが休みもあり、主に港や周辺の治安維持の仕事をするらしい。どうにも国の軍隊だけでは首都から離れた小さな町の治安維持までは対応しきれないらしい。
軍隊じゃないから戦争はしなくていい、ちょいちょい訪れる海賊崩れや荒くれ者どもから町を守る仕事だ。サンジの頼みにギンはボロボロ泣きながら、自分に任せてもらえるならどんな仕事でもする、何でもやる、あんたが信じてくれるだなんてと目を覆った。
サンジはそれにそんな大袈裟なと笑ったが、ギンの強さは知っていると言い、その真面目さだって知ってるからと信頼の言葉を向けた。
その言葉が更にギンの涙を煽ったが、歓喜の涙だとわかったのでサンジにはくすぐったい気持ちになった。
ギンを町の自警団に推薦して町の治安を頼むと送り出すと、ギンは信念を持った瞳で必ずと答えその背中を見送った。
そうして再びレストランには平和な時間が流れた。毎朝の新聞と食糧の買い付け。その中でギンや町の顔見知りと会話をしてちょいちょい渡される贈り物。ギンがとても強いと活躍を聞かされたり、サンジが来てから町がどんどん良くなっていると聞かされる話と共に渡される贈り物は断りきれないほど。時折、オールブルーで一攫千金を狙い妹と漂流していた兄妹の兄の方に会うが、成長を目にして妹の話を聞くのも楽しい。
孤児だと聞いていたので彼らが町の住人と逞しく健やかに生きてくれているのが素直に嬉しい。
夢も叶え店も持ち、何の不満も心残りもない暮らしの中で時折訪れる凪いだ時間。営業時間も終わり自室から夜空を見上げ紅茶を飲みながら過ごす一時。思い出すのは仲間たちがほとんどで、今どこで何をしてるかななど考えると少し笑みが零れるし、懐かしい。
ウソップはカヤちゃんというあの綺麗な恋人とそろそろ結婚したろうかとか、ブルックはラブーンと語り合っているかなとか、チョッパーは名医として多忙だろうな、などなど。
ロビンは歴史学者として忙しいらしいと聞くし、ジンベエは太陽の下に暮らす新たな魚人の国に帰った。それだってきっと忙しいんだろうと推測できるし、ナミの海図は航海に欠かせないアイテムとして売られている。今はまだ高い海図と各海域について書かれた本だが、彼女の才覚が世間に認められた故と思うと尊敬の念が沸き起こる。
そんな、仲間たちの表情の中に思い浮かぶひとつの顔。
あいつは今頃どこで何をしているだろう。そんなことを考えては顔を覗かせる心残りを誤魔化すように煙草に火をつける。
肺いっぱいに煙を吸い込み、ふうっと長く吐き出して見上げる星空。
心残りなんてない充実した暮らしだ。ゼフにオールブルーも見せられ、その近くにバラティエの匂いを残した自分の店も開けた。仲間たちもそれぞれ夢を叶え自分の人生を生きている。
何の後悔もない、悔いのない人生だ。だが、心残りがひとつ。
ローはどうしているだろう。
世界をひっくり返すあの大きな争いの中で何度かその存在は確認した。だが、その後どうしたかはわからないし追わなかった。
かつての大物海賊たちも、世界政府の体制が崩れ海軍もあり方が変化するとその有様は一変した。海賊として動き続けた者、海賊稼業は足を洗った者などなど。ルフィは海賊としてのスタンスも何も変えずに解散まで至ったが、中にはその後の消息が用として知れない者たちもいた。
ハートの海賊団は消息が知れない方の海賊だった。
海賊をするだなんてあの頃の世界の仕組みによる者が多いのだろうとは思う。世界政府の統治する中で頂点に立つ存在として天竜人がいて、その下に加盟国の王族、貴族がいて、その下に加盟国の国民がいた。非加盟国の者たちはその下。奴隷とされた人々と同様に人権を与えられなかった存在だ。海賊には非加盟国出身も相当数いる。
サンジはハートの誰がどこ出身だとかそんなことは知らないが、故郷が無事ならそこに帰ったのかなとぼんやり考えていた。
サンジはローの生まれや育ちを知らない。
それでも、出自も来歴も知らないとしても、サンジはローが好きだった。
正確にはこうして平和な時間を過ごす中で、あー好きなんだなと気付いた方だが。
けれど、確かにサンジはローに恋慕の情を抱いていた。
こうして夜空を見上げ星や月を見ているとどうしても思い出す。サンジからすると月とか星のように静かなイメージではないのだが、どうしても思い出してしまうのだ。あの男も今こうして同じ空を見ているだろうかと。
そんなのどこにいるかでだって変わってくると知っている。まず今の時点で夜じゃない場所にいれば同じ夜空も見てはいない。この海の向こうのどこにはいるだろうが、それだって可能性だけなら途方もないほどに選択肢はある。そもそもが世界地図は大きく描き変わったのだ。
要は恋心からくるセンチメンタリズムから考えてしまうというだけのことだ。感傷に浸っているだけとサンジも自覚している。それでもどうしても考えてしまう。
もし今会えたとして、好きなんだと告げることはできるだろうか。告げたとして、応えてはもらえなくても受け入れてもらえるだろうか。好きだという気持ちを受け入れ、認めてもらえるか。
別に告白してオッケーして欲しいだなんて思ってなどいないが、受け入れて欲しいと感じた。拒絶や否定ではなく、ただ一言、そうかと。
できるならば愛して欲しいとは思うけれど。
自身の感傷に短く笑みを零して自嘲し紅茶を飲み干す。空は晴れ渡り星も月もよく見える。明日もきっと晴れるだろうと思いながら椅子から立ち上がろうとすると、チカッと何かが光った気がした。
港のある方角から、小さな光がひとつ。
目を凝らすと確かにひとつ明かりが見え、よく見てみると小さな影が見えた。
船だ。夜の暗がりにそれだけ確信して一階の明かりをつけ影が見えた方向を見る。港で何かあったのだろうか。それだって何かあったのならギンなり誰かが電伝虫で連絡くらい寄越すはずだ。なら、誰だ。
乗降口に当たるドアから細い通路のような甲板部分に出て影が見えた方向をじっと見る。見聞色の覇気でもじっと伺っていると、波を掻き分ける音が徐々に近付いてそのシルエットが明瞭になってきた。
金属製のボディーにモーターで進んでいるらしいその音。帆は張っておらず、徐々に近付く影が速度を落としゆっくりとサンジの船のすぐ側で止まる。
見たことのない艦だった。色は黄色でハートのポーラータングを思わせるが形が違う。
誰だとじっと見ているとドアが開き中から人がカツカツと足音を立て姿を現す。
ローだった。
白のタンクトップにファーのついた黒っぽいマントにデザインデニムのパンツとブーツに大きな刀を持った姿。
「まだ店はやっているか?悪いが腹が減っていて何か作って欲しい。頼めるか、黒足屋」
「ロー!!お前こんなとこで何してるんだ!?店は閉めたが飯くらいなら作ってやる!何が食いたい?兎に角入れよ!お前の仲間は?みんな呼んでこいよ!」
サンジが声を弾ませ返した答えにローは船内に向けて何かを言って一人降りてくる。能力を使って波飛沫と場所を入れ替え降り立ったローを残し、チラリと顔を覗かせたシャチが手を振ってドアを閉め艦が潜水していく。
ポカンとするサンジにローは特に気にした様子もなく潜っていく姿を見送る。
「艦に残ってるのはベポとペンギンとシャチだけだ。麦わらの一味解散のニュースを新聞で見て随分経った気がするが、おれのところも解散した。平和な時代に海賊はいらねェだろう。平和に生きられるならクルーを無駄に危険に晒す必要はねェからな」
「
……
お前のとこも?」
「ああ。故郷に帰れない連中がほとんどだからな、どこに落ち着くかってとこで送り届けるのに時間はかかったが残りはおれたちだけだ。大体の奴らはワノ国やその近くに下りたミンクの土地に下りた。クルーを引き受けてもらう代わりに治療を一定期間引き受けたが、それに時間がかかってここまで来るのに時間がかかった」
「
……
え?」
「オールブルーを見せてくれ。おれは能力者だが幸いおれの艦は潜水艦だ。ポーラータングは沈められたが今度も潜水艦でやってるからな、オールブルーでも航行は可能だ。いいか?」
突然の訪問と頼みにサンジは胸がざわめく思いがした。嬉しいざわめきだ。
「もちろんだ!あー、日中がいいよな?暫くこっちにいるのか?店を開ける前なら明日でも明後日でも案内するけど
……
」
チラリと伺うように見るサンジに、ローはフッと小さく笑った。そしてジャケットを脱いだ肩に手を置き離す。
「特に行く場所も目的もないからおれもあいつらも当分は自由時間だ。あいつらには自由に過ごせと休暇を与えたが当面の生活費を渡しすぎてな。実を言うとおれの分が少々心許ない。手伝いはするから暫く置いてくれないか?」
ローの言葉にサンジがローを留め置く理由を得たとばかりに嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。
「仕方ねェな〜!こき使ってやるから覚悟しろよ。さて、何を食いたい?何でも作ってやる!!」
「おにぎりと焼き魚。おにぎりは梅干しが入ってねェやつだ」
「ヘヘッ。おう、任せとけ!」
ニッと口角を吊り上げ言ったローに口角を緩ませたサンジ。サンジはローを居住区に当たる二階のダイニングに通すと米を炊きおにぎりと焼き魚に味噌汁を作って出した。
程よい塩味に米の甘み。具材は昆布の佃煮やら青唐辛子味噌やら、ご飯に合うものばかりだ。ローはおにぎりや珍しい魚に塩を振って焼いた焼き魚を箸で口に運びながら頬袋を作ってもぐもぐと食べると、この魚はオールブルーで釣ってきた魚だということを教わった。元は南の海の珍しい魚らしいが、オールブルーでは普通に群れで泳いでいるらしい。海中ではメタリックにも思える色合いの綺麗な体らしく、形は鯖と鯵のハーフのようだが頭の大きさに対し目がとても大きいと感じた。あと、とても脂が乗って身がふわっと柔らかい。
「どうだ?美味いだろ!この魚は煮魚にしても美味いんだ!!釣ってすぐなら刺身もいけるが加熱調理向けだな。煮魚にしたらトロットロでご飯が進むぜ!?それも今度作ってやるよ!あ、味噌汁は刻みめかぶとトロロ昆布に豆腐とネギだ。とろみがあって温まると思うぜ」
「ふまい」
「ふは!そんなに美味いか!おかわりもあるからゆっくり食え」
とろっとした味噌汁を一口啜り、口をパンパンにして感想を伝えるローにサンジがとても嬉しそうに笑みを浮かべる。結局ローはおにぎり三個と焼き魚二尾に味噌汁三杯を飲み干して食事を終えた。
満足そうに食べ終えたローにサンジが食器を片付けて洗ってしまう。片付けを終え手を拭くサンジがご機嫌な様子でコーヒーと紅茶とお茶とワインどれがいいか問い、サンジのお勧めでと選択を委ねられた。なので、こんな時間だからと考えサンジは黒豆茶を用意した。
黒豆特有の甘みと焙煎した時の香ばしさが特徴の黒豆茶はノンカフェインで体も温まり眠りにもつきやすい。サンジは黒豆茶を二人分用意してサーブすると、ローの正面に座り黒豆茶だと告げた。
一口飲めばホッと心が落ち着きリラックスできる。ローも目の前で一口飲むとほうっと息を吐き出し、目に見えて肩から力が抜けるのがわかった。
こうして本人を目の前にすると、会えただけで満足だと思ってしまう。それだけで何かが欠けたような日常が色付き鮮やかに感じられる。サンジの世界はそれだけで光に溢れ満ち足りて感じられるのに、きっとそれも一緒にいる時だけなんだなと思うとひどく自分が我儘に思えた。
愛されたいだなんて我儘な願い。この気持ちを受け入れて欲しいだの愛されたいだの。どうして自分はこうも我儘になってしまったのだろうと思える。
この広い海の上でただこうして知り合えただけで嬉しいと満足できていたらいいのに。
自分への落胆と悲しさ。同時に込み上げるやっぱり好きだなぁという思いに笑みを浮かべ短く息を零すと目の前で小さく音がした。
「どうかしたか?」
湯飲み茶碗を置いてじっとサンジを見つめる瞳に何気ない風を装って問う。ローはサンジの様子に言及するでもなく、ひとつ頼み事をしてきた。
「作って欲しい料理があるんだが、頼めるか?料理名もわからないんだが子供の頃よく作ってもらった料理なんだ」
「どんな料理だ?」
「見た目はクリームシチューに近いが別物だ。鶏肉が入っていて見た目は白。味や食べた感じはそこまで重くはなくて、香草?
……
多分、そんな感じの匂いがしたんだ」
「お母さんが作ってくれた料理か?」
「ああ。特に父と妹が大好きで母に時間がある時はよく作ってくれた」
「すると家庭料理か。見た目はクリームシチューに近いんだよな?何か特別な時に食べたりとか、そういうのはあるか?特徴的な匂いとか、具材とか味の記憶とか」
「見た目はクリームシチューに近くてうちは鶏肉を使ってた。別に特別な時に食べる料理じゃなくて、もっと普段から食べてた記憶がある。うちじゃバターライスと一緒に食べるのが普通だったが、他所の家じゃパンだって言ってたり
……
兎の肉を使うって言ってた奴がいたな
……
多分、確か
……
そうだ。クラスの一部じゃ兎の肉で作るとか。あと、クリームっぽい見た目だったが爽やかでよくおかわりもしてたのを思い出した」
「あー
……
多分わかったかも。ローはノースだよな?ノースの家庭料理でシチューっぽいって言うと結構絞れるからわかったと思う。材料はあるから明日作って
……
え?」
リクエストの料理がわかったと言い煙草を取り出したサンジがチラリとローを見ると思わず動きを止めた。ローが目を見開き固まっていたからだ。
ひょっとして自分の後ろに何かいるかと振り向いてみるが何もいない。何もない光景に虫じゃなかったと安堵したのも束の間、それなら何故こんな反応をしているんだと思わず考えてしまう。
「どうし」
「本当にわかったのか?あれだけで?」
「ああ、そりゃあ」
「何故?」
目を丸く見開き驚きが抜けきらない様子に微笑み煙草に火をつけた。煙を肺に深く吸い込み、ゆっくり吐き出した。
「まずクリームシチューみたいな料理って時点で限られるんだ。クリームシチューってのは見た目が真っ白だろ?それに似た煮込み料理ってのはそう多くはない。その上、ノースでよく食べられるとなるとメジャーなところで言うとシュクメルリにブランケットドヴォーとかだな。それに加えて特別な日とか関係なく食べてたってのと鶏肉、家によっちゃ兎を使ってたって話だ。ブランケットドヴォーは仔牛肉に限定されるしシュクメルリは兎肉を使うって話はまず聞かない。兎肉を使うこともある白い煮込み料理となるとノースじゃフリカッセしか条件に合わないんだ」
サンジが自身の知識からそう説明すると、ローは両手で口を覆って深呼吸をし、背を丸めた。表情までははっきりと見えないが動揺にも似た気配が見て取れる。
「頼んでいいか?」
「もちろん!明日で良けりゃいくらでも作ってやる」
「我儘を言ってるとは思うがバターライスと一緒に作ってもらえるだろうか。バターライスと一緒に食べてたんだ」
「子供の頃に食べたバターライスだな?了解。任せろ」
両手で口を覆い、背を丸めたまま今にも声が震えそうな様子で頼むローにどうということもなさそうにサンジが返す。
ローはより一層背を丸め、僅かに声を震わせて何度も繰り返しすまない、ありがとうと繰り返した。
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