柩木
2025-08-11 23:00:17
1547文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|何度でも

穹が丹恒を尋ねるまでの1000年間であったかもしれない捏造100%の小話。叙事詩PVと3.5予告PVしか情報がない今しか書けない話もあると思って……。後で書き直すかもしれないです。

「ねぇ。そのスマホ穹のじゃない?」

パーティ車両の一角にてチェスに興じるさなかのこと。対面に座るなのかが訝しげな視線を向けてきた。次の一手を熟考するなのかを待っていた丹恒は、顔をあげず端的に理由を説明した。

「ゲームの周回を頼まれた。新しいゲームのテスターが忙しいんだろう」
「ふーん。そんなことまでやってあげてるんだ。ほんとあの子に対して甘いんだから」

当たり前の顔をして使っているから気が付かなかったとなのかは言い、また盤面を難しい顔で見つめ始めた。
穹も今同じパーティ車両にいるのだが、シュミレーションゲームのテスターを依頼されてからずっとゲームに張り付いている。彼がゲームに注ぐ情熱と集中力は尋常じゃない。その熱中度合いは普段遊んているアプリゲームの日課を丹恒に頼むことである程度察せられるだろう。
穹が楽しそうにゲームの進捗を話して聞かせてくるので、楽しいのならいいかと思ってはいる。

……もしかしてほっとかれてちょっと不満だったり?」

ちら、と横目で見たなのかは、いたずらを企てる子供のような笑みを浮かべていた。精神的な揺さぶりをかけて丹恒のミスを誘う心積もりなのかもしれないが、その手に乗ってやるつもりはない。

「そんなことはない。それより次の手はいいのか」
「アタシだって付き合い長いんだし、アンタの微妙な顔色の違いくらい分かるんだからね!」

へへん、と胸を張ったなのかが駒を一つ移動させる。どこに打ったかを見た瞬間、いくつか考えていたパターンから最適解を選んで駒を進めた。
丹恒の中で、なのかとのチェスは戦略の難易度を三段階程設けている。これは調子の良さにムラがあるなのかのプレイスタイルやスキルに合わせたものであり、この日丹恒は中難易度程度を意識して駒を進めていた。だが、今丹恒が打った手はなのかにとって最高難易度と言ってもいいだろう。
自分が駒を動かしてから一秒と絶たず次の一手を打ってきた丹恒を、なのかは信じられないものを見るような目で見つめた。

……ちなみに、次で的確な手を打たないと詰むぞ」

なのかの絶叫が響き渡った。





懐かしい夢を見ては目覚めた瞬間に落胆する。そんな時もあったが、今は事象のひとつとして冷静に捉えられるようになっていた。
滅びゆくオンパロスに穹を残し、スクリューガムの手引きによってひと足先に離脱した丹恒だったが、結果として今は荒野を歩いている。壊れた人工物が時折顔を覗かせる不毛の大地。そんな大地を撫でていく風は砂を巻き上げ、丹恒の歩みを鈍らせる。オクヘイマの豊かな水も、緑もない。人がかつて暮らしていた痕跡さえも砂は飲み込んでしまった。
オクヘイマで穹と共に過ごした日々も、丹恒に取っては気が遠くなる程に遠い過去の事だ。だが、丹恒を丹恒たらしめるとても大切な記憶である。それを何度も繰り返し見るのはきっと、忘れないようにする為だ。
科学的な見解として、睡眠時に夢を見るのは脳が記憶の整理をしているからだと言われている。もちろん星神や憶質などその他の影響を受けて見る夢もあると知っているが、荒野を歩くようになってから丹恒が見る夢にはいつも穹の姿があった。
人が人を忘れていく時。まず声を忘れ、次に顔を忘れ、そして最後に思い出を忘れると言われている。そうならないよう、記憶を夢として反芻することで忘れないようにしていた。

――丹恒!

まぶたを閉じ、そこに穹の姿を思い浮かべる。声も、顔も、思い出も思い出せる。そうでなくては、困る。

……行くか」

砂嵐を避けられそうな場所で一休みしていただけの丹恒は、誰に向けた訳でもない言葉を一つ零して丹恒は立ち上がった。
今日も荒野を歩く。いつかの再会を夢見て。