ユズリハ
2025-08-11 22:48:13
996文字
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夜のしじま

仮面舞踏会企画参加(してない)作品

どこかの本丸で、仮面舞踏会が開かれるらしい。
その話を聞いたのも、伝えたのも、月が天に上り切った頃だった。それを聞いた山鳥毛さんはひとつ頷く。
「立ちなさい、小鳥」
「え?はい」
今の服装はいくつかある寝巻きのひとつ。コスパが良いことで知られるメーカーの黒いワンピースだ。速乾生地で作られているところと、それに見合わない優雅な型紙が気に入っている。気に入ってはいるが、とても本丸の外に出るような格好でもない。髪型もあれだ、シルクのシュシュで横にひとつ結びに——ええと、アニメで死ぬ母親がよくやっているやつ。そして裸足。
それでも彼は私の格好を上から下まで眺めた後、またひとつ頷く。
「ガーデンへ行こうか」

夜のガーデンには誰もいない。ほんの少しだけ右側の欠けた月だけが、一人と一振を見下ろしている。
片方は寝巻きの黒いワンピースにハイヒールをつっかけただけ、片方は戦装束。
互いに太刀を構えれば切先が触れ合うだろう距離の先で、山鳥毛さんが右手を胸に当てて軽く一礼した。
「踊り方知ってます?」
「見様見真似さ」
「おそろい」
顔だけを持ち上げ笑う彼につられて吹き出した後、神妙な面持ちを作って適当に右足を引き、カーテシーらしい仕草をひとつ。静かに歩み寄って手を取り合う。山鳥毛さんの手が私の腰に回る。私がその腕に手を添える。うん、それっぽい。そして、問いがひとつ。
……ねえ、これどうやって歩くんですか?」
「さて、どうだろう。君に合わせるが……
1、一拍遅れて2、3。1、2——明らかに床じゃない感触。
「うわわ」
「なに、後で磨けばいい」
1、2、それっぽく回って、また1、2、3。
めちゃくちゃな動きの伴奏に、ばらばらの足音と呼吸の音と、男女の笑い声。目眩も頭痛も忘れて、彼に支えられて月の下で笑った。赤い目が細められる。ああ、なんて不恰好で楽しい夜!

「君があんな風に笑うのは久しぶりだ」
噴水の縁に腰掛けて、山鳥毛さんが膝に肘を付くように背を屈めた。彼は普段姿勢が良い。視線を合わせるためだろう、と思った。
「そうですかね?」
「ああ」
籠は安全だが気が滅入る。そう続けた彼が立ち上がり、目の前に片膝をついて手を差し伸べた。
「もう一曲、いかがかな」
「もちろん。BGM要ります?」
「月光の下に液晶の灯りは無粋だろう」
「それもそう!」
大きな手に女の手が重なった。