棚樫オーハ/木枯ノーハ
2025-08-11 13:23:53
2472文字
Public キャラ主(女)
 

未境界水平線

女夢主を生やしたいという流れで生まれたジク主。純愛。夢主名『ハナカ』。

どっぷりと深まった夜の空気の上に、無数の煌めきを散りばめた。ミステ島の夜は、地上の暗さに空の星々がよく映える。
ナンボクウッドの下に立つ彼女、ハナカは、秘密の逢瀬の相手をひっそりと待っていた。鼓動が止まない、でもきっとそれは、彼が現れても収まることはないだろう。彼女は彼が好きだった。無論この島にいる者、自身を取り巻くもの、ともすればモンスターに至るまで、彼女は愛する気持ちを抱いてはいる。自身を受け入れて生をともにするこの環境全てが愛おしい。
目に入った農園の新芽を見て、じわりと温かい気持ちが広がる。昼間モロコシハンターの彼女と一緒に水を撒いた。彼女は(モロコシへの思いが強すぎるものの)ハッキリしていて面白い。ハナカ自身はやや控えめで、あまりハッキリ物申す方ではないため、この島の強き女性たちに憧れのようなものを抱いていた。羨ましくもあり、でも自分の目指すものではないような気持ちもあり……自身がそうなるべきでは無い事も含めて、夢見ているのかも知れない。

ぼうっとした思考を巡らせていると、足音が遠く響いてきた。地面を踏んでいるのにも関わらず、雑音の混じらない音。あぁ彼だ、とハナカにはすぐ分かった。
その音がもう少し近づいた所で、身体ごとそちらへ向ける。

「ジーク様」
「ハナカどの、すまない遅くなって」

彼女の鼓動は一層強くなった。
日中ジークには、瓦礫除去の手伝いを頼んでいた。随分大きな石の瓦礫だったため、遅くまで掛かってしまっていたのも知っている。シャワーを浴びて、食事を取って、それから来たのだろう。湯上り後のラフなルームウェアも、彼が着ると洗練された印象となり、彼女はその姿にも胸の輝きを感じた。
「遅くまでご苦労様でした。お疲れでしょうから、今日はお休みになっても良かったのに……
「私が会いたかったのだ。それに、あなただって素材の採取に行っていたのだろう」
「ええ、沢山持って参りました」
「さすが、心強い考古学者どのだ」
互いにふふ、と小さく笑う。

何気ない会話を密やかに楽しむこの時間は、いつの間にか、どちらとも無く始まった。最初は待ち合わせたわけでもなく、夜の散歩中に偶然出会った、ただそれだけだった。
彼女にとって、ジークが夜の島を徘徊しているのは意外だった。勿論正確には徘徊などでは無いし、ハナカ自身もそれは理解している。たまたま夜寝られずに、島の見回りも兼ねて歩いていただけであり、彼女もまた同じであった。互いに『こんな時間に会うなんて』と言い合ってその日を終えたが、その翌日も彼に会えるのではと、夜の散歩が習慣化してしまったのだ。

ナンボクウッドの下から出て、夜の砂浜を歩く。彼も彼女も口数が多い方ではないものの、一日の報告を聞くだけでも満たされていた。
「瓦礫は重かったでしょう。今日のは石で出来ていましたもの」
「問題ない。あの位であればいつでも言って欲しい。あなたの力になれるなら、私は喜んで力を貸すよ」
「ありがとうございます。でも、私はジーク様にあまり無理をして欲しくないのです」
口をぎゅっと結ぶと、彼は微笑んだ。
「そんな顔をしないで欲しい。あなたには笑顔が似合うのだから」

ジークが彼女の方を向く。手が伸びて、頬に近付いた。触れて欲しいと願うものの、彼の手はすっと引いていく。
「ジーク様」
思わずやんわりとその手を掴んだ。
……すまない、ついあなたに……
「触れて欲しいのです」
「それは出来兼ねる」
彼の瞳はいつものように真っ直ぐだ。それでも彼女も、掴んだ彼の手を離そうとはしない。
互いに動くこともなく、互いに見つめ合ったまま数秒。彼がふと、海を望んだ。
「水平線が見えないな」
「え……
彼女は掴んだ手を思わず離した。
「ほら、夜空が海に反射して、ずっと星空が続くようだ」
彼は随分ロマンチックな事を呟いたが、彼女は海を見て、それがありのままの情報だったのだと認識した。
広がる夜の海に、夜空一杯の星が映る。無数の星が更に広がりを見せて、波にあわせて揺れる。
……美しいです」
「こういう景色が日常的に見られるのは、あなたが島を大切にしてるからだな」
「皆のおかげです」
彼女が謙遜して微笑むと、彼は少し視線を下げて彼女の瞳の中、紫をじっと見つめた。
「それと、あなたが私を見つけてくれたからだ」

風が吹いた。
波が立つほどの強い風が。

「冷えてきたな。もう遅い、戻ろう」
彼が視線を戻して静かに告げる。彼女もそれに頷いて、海へ背を向けた。
「家まで送ろう」
「近いですから」
「送りたいんだ」
「では……お願いします」
彼の一歩手前を、歩幅小さく動き出す。寂しい、もっと一緒にいたい、そんな言葉が彼女に降り注いでは消えて行く。また風が吹いて空を見上げると、一筋の流星が瞬いた。
ジーク様、流れ星……そう言おうと思った瞬間、彼女は背を抱きかかえられていた。

弱く、緩く、でもしっかりと。
背に暖かさが触れて、男らしくもある腕が回る肩から首がじわりと熱い。
長い髪をかき分けた耳に、微かに息遣いが聞こえる。それが緊張と心地よさを同時に齎して、多幸感で倒れそうなほど頭をくらくらさせた。振り返って唇を求めたくて仕方ないものの、恐らく振り返ったらこの時間が終わってしまうとも過る。時が止まってしまえばいい、なんて思うのは酷だ。自分たちで取り戻したのだから。

すっと身体が軽くなる。彼が静かに離れて行った。
「帰ろうか」
振り返ると、彼は恥ずかしげにそう言った。
「はい……
彼女は何も、言及しなかった。



自宅前にて二人は分かれた。寝る支度をする間も、彼女の鼓動は収まらない。ベッドに入って布団を被って、それでもどうにも落ち着かない。
「ジーク様が……あのような………はわ……
思わず呟いてから、また布団を深く被った。

彼女は知らない。
彼もまた、同じようにベッドの中で、『私は何をしてしまったのか』と悶えていた事を。



ーENDー