たかさき
2025-08-11 03:32:01
8435文字
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夏の夢は醒めない

FF7/ヴィンクラ/R-18/
クラウド誕生日おめでとう

※2025/9/21変更中

 誕生日とは好きな人におめでとうと祝われることで初めて特別なものになる。
 そうでなければ何の意味もないどころか、ただただ空しさと苦痛があるのみだ。
 クラウド・ストライフの頭の中には朝からそういうどんよりとした重いものが沈んでいて、そろそろ日も暮れようという時間になっても家に帰ろうという気にはなれなかった。
 家に帰れば、母がクラウドの好物であるシチューと美味しいケーキを用意して迎えてくれるということは勿論、知っている。しかし、少年と思春期の境目にいるクラウドにとって、母に誕生日を祝われるということは決して嬉しくも喜ばしいことでもなく、却って心は刺々しくささくれ立つばかりだった。
 足に合わない靴を引きずりながら歩く。靴裏にひっついた小石が地面を擦ってざりざりと耳障りな音を立てる。
 無理やり祝われたいわけじゃない。できれば放っておいてほしい。
 そう言うと母が困った顔をするのだって知っているから、言えるわけもない。
 西日に照らされた道が徐々に翳っていくのを見ながら家々の間を歩いていると、温かな夕飯の匂いがふわりと漂ってきた。そして、微かに聞こえる楽しそうな笑い声。
 家に向かってのろのろと動いていた足が更に重くなり、やがてぴたりと止まる。
 クラウドは別の方向に顔を向けると、腕を大きく振って地面を蹴り付け、勢いよく走り出した。


 ニブルヘイムのはずれに、神羅屋敷と呼ばれる古いお屋敷がある。
 誰も近づこうとしないその場所はいかにも薄気味が悪く、蔦や雑草は伸び放題で、風が吹けばざわざわと不吉な音があたりかしこから響き渡った。
 誰も近づかないのは何も気味が悪いからというだけじゃない。こういう場所によくある噂話としておばけが出るやら、人さらいが住み着いたらしいやら、田舎の茶の間を賑やかすゴシップよりももっと現実的で恐ろしい、神羅カンパニーという超巨大企業による関係者以外は近づいてはならないという通達警告そして何かあった際は村全体でも到底支払いきれない額の損害賠償請求という契約が存在していたためだ。
 だからクラウドだって、別に来たいと思って来たわけじゃなかった。
 興味があったわけでもない。来ちゃいけないことだって勿論知っている。ただ、家のあるほうじゃなく、人がいる場所でもなく、と思っていたら何だか追い立てられるようにしてここに来てしまっていた。
 暫く肩で息をしていたが、クラウドは屋敷を囲む塀を見上げると、近くの木によじのぼった。その身のこなしは軽かった。難なく塀より高い木の枝まで上ると、猫のようにひょいと塀に乗り移って、すとんとその向こうへ降りる。
 その目の前に、ゆらりと揺らめくようにして不気味な屋敷が立っていた。
 辺りはもう暗くなりかけている。
 怖いという気持ちがないわけじゃなかった。ただ、このときのクラウドにとって、恐怖心は寧ろ足を進ませる動機にしかならなかった。怖いから逃げたんだろうなんて、誰に言われるわけじゃなくても、そんなことは自分にとって一番許せないことだったから。
 他に行く場所がなかった。その気持ちには気付かないふりをする。怖くなんかないと言い聞かせながら、古くて大きい扉に体重を乗せてぐっと押すと、ぎいいい、とひきつるような音を立てて扉が開いた。
 埃の匂いがむっと立ち込める中、クラウドはふっと息を吐いて、屋敷の中へと足を踏み入れた。


(何だ、別に……普通の古い家じゃないか)
 きょろきょろと周りを見回しながら、広い広間を歩いて回る。最初は恐々と確かめるようだった足取りも、途中からいつもの平静を装った感じになってきた。
 暗くて、ぎしぎしと音がして、たまに足音じゃない音が混じっているような気もするが、目が暗さに慣れてくるとそれらもあまり気にならなくなってきた。段々と好奇心さえ湧いてきた気がする。いや、好奇心というより、大人さえ怖がって近寄らない屋敷に自分がたった一人で入って歩き回っているということが、何だかとても愉快なことに思えてきたのだ。中を一目見たらすぐに帰ろうと思っていたはずが、何となく惜しいような気もして、そこら辺の調度品を分かりもしないのにあちらこちらと見て回る。色褪せた壁紙にかけられた、誰とも分からない絵画。アンティークと思われる家具には黄ばんだ布が被せられていて、それは長い間、この屋敷の中の時間が止まっていることを感じさせた。これを使っていたのは一体いつの頃だったんだろう。母さんもよく知らないと言っていたっけ。自分が生まれる前からこうして隠され、いつかまた使われるときをひっそりと待っているのか。ここには一体、誰がいたんだろう。誰がどんなことを思いながら、ここで暮らしていたんだろう。その人は、この場所を好きだったんだろうか。そして一体、どこへと姿を消してしまったんだろう。
 不意に、みしり、と音が響いた。
 つられるように、クラウドは顔を上げた。
 どこからだろう。上かな。
 少し躊躇った後、クラウドは広間の奥にある階段を上がっていった。ゆったりと螺旋を描く重厚な階段を、軽く足早に駆け上がっていく。渡り廊下を抜けると、他とは雰囲気の違う部屋があった。扉を開けてみると、天井の窓に広がる紫の空が見えた。
 そこは、小さな温室だった。天窓があり、光が採れるようになっている。他と違って、空気の密度が高い気がする。埃臭さがあまりしない。狭いながらも敷き詰めるように鉢が置かれ、背の高い緑が枯れずに瑞々しく茂っている。何故だろう。不思議だった。この場所だけ、時間が動いているようだ。
 きし、と小さい音を立てながら、クラウドは足を進める。所々に、名前の知らない小さな花が咲いている。きれいだと思った。上を見上げると、まだ完全に夜にはなっていない空に星が瞬き始めている。
 母さんは一人で、俺を心配して待ってくれているんだろうな。
 ふと、思い出して胸をしめつけられる。
 さっきまで少しだけ愉快だった気分が、急に萎んでいくのを感じる。
 早く帰らないと。そんな思いがよぎるが、足は動こうとしなかった。この不気味な屋敷に、何故とどまろうとするのか自分でも分からない。快適なわけでもなく、恐怖心が完全に消え去ったわけでもない。でも、ここには村にいるときにはいつも感じる、息の詰まるような閉塞感はなかった。
 もう少し……もう少しだけ。確か、廊下の反対側にも部屋があった。そこを見てから。そうしたら。
 うん、と一人頷いて、クラウドは振り返った。
 そこに大きなかぼちゃの頭があった。
 底のない目がこちらを向いて、裂けたようなぎざぎざの口が、ぱかりと大きく割れた。
 ひっ、と悲鳴を上げかけた瞬間、ばぁん、と爆発したような轟音が耳をつんざいて――目の前が真っ暗になった。


――わぁああ食べないで! ……えっ? な、なに、あれ?」
……何を言っている」
 とさ、と音を立てて、靴裏が床につく感触。
 誰かに抱きかかえられていたのを、床におろされて、足は力が抜けきっていて、クラウドはそのまま床にぺたんと座りこんでしまった。
 ――誰か、って、誰。
 今何かが起きて、誰かの声がして、誰かに抱えられたのをおろされて。
 低い声が降って来たほうを恐る恐る見上げようとして、見上げることもなく、その誰かは目の前で膝をついてクラウドの顔を覗き込んできた。
 それは、恐ろしくきれいな顔をした男だった。
 瞳は赤く、片方はうっすらと光っているように見える。
 長い黒髪が肩から胸へとかかっている。
 首から下は全身を覆い尽くすような赤いマント。
 鎧甲冑のような金属の左手がぬっと差し出されたかと思うと、鋭い爪がクラウドの頬をするりと撫でたので、そのひんやりとした冷たさにクラウドは思わず身体をびくりと跳ねさせた。
「大丈夫か」
「え……、あ、だ、誰」
 目の前の男は、僅かに首を傾げた。答えになっていない、と怪訝そうな顔だった。が、何かを言おうとして、自らの金属の左手に暫し目を止めた後、何故かマントをばさりと持ち上げて、言った。
「私は、ここの警備員だ」
「変な格好」
 つい口をついて出た言葉に、警備員だと名乗った男は何も反応を示さなかった。大丈夫そうだな、と一人頷いて立ち上がる。
 ついでに腋の下に手をすっと入れられて、クラウドを立ち上がらせた。
 反射的にその腕を掴んでしまって、自分の腕と全然違う、と全く関係ないことを考えた。
「ここへ来てはいけないと教わらなかったか。……まあいい。送ってやるから、早く家へ帰れ」
「や――
 掴んだ腕に、思わず、しがみつく。
「やだ、帰りたくない、いやだ、」
「何だいきなり。どうし」
「いやなんだって! 帰りたくない!」
 泣き出しそうだった。けど、絶対に泣くものかと喉の奥に力を込めてぐっとこらえて、絶対に離さないと腕にしがみついた。
 突然、クラウドの中で何かが溢れ出してしまったのだ。どこかに行こうにもどこにも行く場所もなく、行ってはいけないと言われていた屋敷に勝手に入ってしまって、本当はとても怖かった。暗闇の中でぎしぎしと音が響いて物凄く気味が悪くて、その怖さを誤魔化して、家に帰らなきゃいけないのを分かっているのに帰りたくなくて、それは言っちゃいけないことだと分かっているけれども、そうしたらいきなり目の前に現れた男が真っ直ぐにクラウドを見て、怒ってもおらず、不機嫌でもなく、馬鹿にするでもなく、何だか……優しいと感じて。
 ぽん、と頭の上に手が置かれた。
 その手は金属じゃなくて、しかし分厚い革に覆われているのか、奇妙にごつごつとしていたが、それでもやっぱり優しいと感じた。
 そのまま肩を柔らかく押されたので、クラウドは恥じ入った顔で俯きながら、しがみついていた腕を離した。
 本当に恥ずかしかった。まるで小さい子どもみたいに喚き散らして、しかも知らない相手に。大体、本当に優しい人なのかどうかなんて分かりもしないのに。馬鹿みたいだ。みたいじゃなく、馬鹿だ。今すぐこの場を飛び出して行きたかったけど、足は全く力が入らず、動こうとしなかった。
「怪我をしているな。見せてみろ」
「え……
 一体何を訳の分からないことを言っている。いいから早く帰れ。
 てっきりそういうことを言われると思っていたから、全く違うことを言われて、クラウドは最初訳が分からなかった。
 手をくい、と引かれるままに歩くと、水場があった。
「安心しろ、ここの水はきれいだ」
 蛇口をひねると、言われたとおり、きれいな水が流れ出た。そこに腕をつけられて、沁みるような痛みに初めて気付く。肘に割と大きな擦り傷ができて、血が滲んでいた。
 男が赤いマントの端をびり、と破いて、流れ出る水へと浸し、それで丁寧に傷口を拭ってくれた。傷口には植物用の鉢の細かい破片のようなものがぱらぱらと突き刺さっていて、クラウドは僅かに顔を顰める。
「このマントも不潔なものではない。心配するな」
「別に、心配なんか、してない」
「そうか。……痛いか?」
「痛、くない」
 小声だったし、嘘をついたとバレたかもしれない。そう思ったけど、痛いと素直に言うことはできなかった。
 しかし、男はそんなことどうでもいいという風で、赤いマントの切れ端を傷口にあて、ぎゅっと縛った。
……さて。では、行くか」
……
 立ち上がった男が差し出す右手を、クラウドは迷いながら、じっと見ているだけだった。
 色んな思いが渦巻いていた。やっぱり帰りたくない。ここにいちゃいけない。この人ともう少し――一緒にいたい。
 そう思って顔を上げるのと、男がクラウドの手を掴むのは同時だった。
「あ、……や、」
「行くぞ、家に帰る『途中』まで」
……え?」
「まだ、帰りたくないんだろう?」
 ぐい、と手を引かれる。それはかなり有無を言わさぬ力で抵抗も何もあったもんじゃなく、しかもそのまま小脇に抱えられてしまう。
 あれ?と思っていると、男は固く閉じた窓を何事もないように開け放ち、窓から身を乗り出すや否や、空中へとその身を放り出した。勿論、抱えられたクラウドも一緒に。
 いやここ二階、と思った瞬間に背筋が凍りついて、その次の瞬間には目の前に夜空一面が広がっていた。


「ねえ……名前、何て言うの?」
「ヴィンセント」
「ふぅん。思ったより普通の名前なんだね」
「普通の名前……ではいけなかったのか?」
「だって、空飛んでたよ。空飛ぶ人は普通の名前なわけないよ」
「空を飛んだわけではないが、空を飛んだところで名前は普通でもいいだろう」
「どうやって空を飛ぶの? あ、マテリアっていうやつ?」
「マテリアではない。あー……翼が、だな」
「翼?」
「翼が、背中に生えているのだ」
「え、嘘。見たい。見せて」
……
「わあ何これ! 本物? さっきもこれで飛んだの?」
「本物だ。さっきも言ったがさっきはこれで飛んでいない」
「飛んでたのに! じゃあどうやって飛んだの?」
「さっきは単に走っただけだ。屋根の上を、少し高めに」
「それを飛ぶって言うんじゃないの?」
「走っただけだ。それにこれで飛んだらもっと高くまで行ってしまう」
「もっと高く……!?」
 目をきらきらさせて見つめてくるクラウドに、ヴィンセントと名乗った男はすげなく、飛ばないぞ、と言った。
 たちまち不満そうな顔になるクラウドは、それでも楽しそうに男の背中から生えているという翼(マントの下でうぞうぞと広がっている)を指先でちょっと触れたりなどしていた。
 二人は今、ニブルヘイムのどこかの家の屋根の上で何でもない話をしている。
 クラウドが誤って落ちてしまわないように、クラウドの座る後ろにヴィンセントが座り、ちゃんと腕を回してクラウドの体を固定している。
 ヴィンセントは表情を変えないまま、クラウドへと問いかけた。
「怖くないのか?」
「怖いって、何が?」
「全てだ。屋根の上を走るのも、翼が生えている人間も、あの屋敷へ入ったことも」
「うーん……
 クラウドはちょっと首を傾げて見せる。
 怖いか、と聞かれて、怖い、と答えられるような人間では、クラウドはないのだけれども。何だか今は素直になってもいいような気がしたのだ。それがクラウドには不思議だった。今、目の前で起きていること以上に。
「怖かったよ。怖かったけど、でも楽しい。だって空を飛べるなんて、すごいし」
「何故、屋敷になど来た。あそこには化け物がいる。近づいては駄目だと教わっただろう」
「行っちゃダメって言われたけど、それはお金を払わなきゃいけないからだって聞いたよ。え、モンスターがいるの?」
「お金……今はそういうことになっているのか……その通りだ。お金も払わないといけないし、モンスターもいる」
「じゃあ、ヴィンセントはあそこでどうしてるの?」
「私は大丈夫だ。警備員だからな」
「警備員だから……!」
 またも目をきらきらさせて見つめてくるクラウドを見て、ヴィンセントは少しこの少年は大丈夫なのかと心配になる。
 こう、悪い大人にころっと騙されやしないか。そうして将来に大変苦労することになりはしまいか。もうちょっと世の中に対する耐性というものを身に着けたほうがよくはないか。
 ヴィンセントとて決して善良な大人ではないのだけれども、逆にそうだからこそか、クラウドのいとも簡単に憧れを乗せてくる瞳に、いつもの無表情が少々揺らいでくるくらいには珍しく本当に心配になり始めていた。  
「お前の名前は?」
「クラウド。クラウド・ストライフ」
「普通の名だな」
……うん。普通だよ。セフィロスみたいに、凄い名前じゃない」
 ヴィンセントはクラウドが何気なく呟いた名に軽く、瞠目する。クラウドを抱く指先に静かな力が込められる。だが、それ以上の反応は示さなかったので、クラウドは何も気付かなかった。
 それより、クラウドが先ほどまであんなに見せていた純粋さを翳らせて、視線を逸らしたことのほうが気になった。
「ねえ、ヴィンセント……あの屋敷に行っちゃダメなんだったら、ヴィンセントに会うにはどうしたらいいの?」
「私に?」
「うん……また、会いたい」
 俯きながら言う声は、とても小さな声だった。
 この少年は――クラウドは、ひとりなのだろうか。
 ひとりきり、か。
 ヴィンセントは思う。
 昔の自分ならきっと、そんなこと何一つ気にしなかった。でも今は少し違う。あの屋敷で起きた色々なことと、終わったこと。
 この小さなクラウドが抱えているものを、今の私は知っているのではないか。
 ――だとしたら。
 

……あの屋敷に来てはいけない。近づいてはいけない」
 もはや人のものではない手を持つ私が、まだ人であり続けるかのように振舞うなど。
「大丈夫だ。私のことは、あの屋敷のことも、今が過ぎれば全て忘れる」
 この小さな手を取れば、また人に戻れるかもしれないと思うなど。
「だから、もうあの屋敷に来る必要もない――クラウド」
 ――叶わないと知れば、私はいつか、クラウドを骨も残らぬほど喰らいつくしてしまうことだろう。


……忘れる?」
 クラウドの表情からすっと何かが抜け落ちて、けれども何かを言いたげで、ヴィンセントのマントの端をきゅ、と握り込んだ。
「ヴィンセント……あのね」
「ああ」
「今日ね、誕生日だったんだ」
……そうなのか」
 ヴィンセントは言いながらも、不思議な気持ちに囚われている。
 近づくな、来るな、と言いながら、今、クラウドのために何かしてやれることはないかと、切実な思いで探そうとしている。
 何かを言いかけて、目を揺らして、また口を噤んでしまったクラウドに、ヴィンセントは声をかける。
「何か、ほしいものはあるのか」
……友達がほしい」
 聞き慣れない言葉に、ヴィンセントは一瞬、考え込む。
 そして、クラウドの言葉に、耳を澄ませる。
「一人だけでいい。一人だけでいいから、普通で、何も持ってない俺のこと、分かってくれて、こうやって話をしてくれる友達がほしい。今日のこと――忘れたくない……
 ゆっくりと目を閉じたクラウドを、ヴィンセントは両手で確かに抱き留めた。柔らかい金の髪を金属の左手で一度だけ撫でる。
 夜が深まり、月がのぼろうとしている。
 これ以上はいけない。クラウドを家に、日常に戻してやらなければならない。クラウドも、母親をこれ以上心配させたくないだろうから。 
「私は忘れることはない。お前の名前を、たとえ眠りの中であっても、私は覚えているだろう――クラウド。クラウド・ストライフ……
 

 * * *


……ん、ん
……ラウド、クラウド。起きろ。それともこのまま寝たいのか」
「あ……
 ぱち、と目を瞬いたクラウドの目の前に、ヴィンセントがいる。
 少し揶揄うような笑みを浮かべているのを、クラウドは誤魔化すようにしてその首に両腕を回して抱き着き、頬をすり寄せた。
 夜。狭い一つのベッドの中。二人は服を着ていない。今日の仕事はちょっと大変だったから、優しく抱いて。そう言ったクラウドのリクエストを満足させるためにヴィンセントはこれ以上ないほど優しく触れて揺さぶっていたら、クラウドは目を閉じたまま眠りに落ちてしまったというわけだった。
「ごめん……あんたのがきもちよくて……ねちゃった」
 起きたての幼い表情で、言葉まで幼くなって、クラウドは本能的な仕草でヴィンセントに体ごと擦り寄り全身で甘えようとする。
 そういうクラウドは滅多に見られるものではない。だからヴィンセントは柔らかい笑みを浮かべたままだった。寝るほど単調だったのか、というプライドに関わる問題が別にありはしたが。それはまあ、次にきちんと取り返すとして。
「クラウド、眠いのだろう。ではもう寝よう。ゆっくりお休み」
「やだ……ねない……続きして……
 ぐずるように腰に足を絡ませてくるのを、ふふ、と笑う。こんな姿を日毎夜毎三六五日見せてくれたらと思うのに、こうやって素直に甘えてくるのは年に一日、誕生日くらいなものだった。
 またも寝かかっている顔を飽くことなく眺めて、ヴィンセントは幸せそうに笑っている。
 ――お前も幸せでいてくれたらと思うのだが、どうだろうか。


「友達にはなってやれなくて、すまない」
……え? なんて」
「これで許してくれ。誕生日おめでとう、クラウド。……おやすみ」
「あ、今それいうのなし、ん、もう一回……ヴィンス……

end