いつも少しばかり前からする足音が背後から聞こえる事実は未だに慣れないものがある。体幹がしっかりした緩やかに見えて隙のない音ではなく、幼子が立てるぱたぱたと軽い足音であればなおさらに。
「重岳」
通路で足を止め、振り返ればずっと小さくなってしまったひとが変わらずにいる美しい瞳でこちらを見つめる。視線を合わせるために膝をつけば、早足で距離を詰められた。
「どくたー?」
舌足らずにこちらを呼んで、小首をかしげる様が愛らしい。船外での作戦の最中、同行していたオペレーターに向かって放たれたアーツを身を挺して庇ってからというもの、重岳は幼子の姿になってしまったのだという。
医療部の見立てによれば一週間もすればアーツの効果が自然に失われて治るとのことだが報告を受け、実際にその姿を見ても未だに不思議な心地がする。いつも見上げていた瞳が下にあること、ドクターを守るように半歩先にいる事が多い足音が後ろからすることも。心のどこかがすうすうとするようで。
見つめてくる瞳に惹かれるがままに小さなひとの頭を一つ撫でれば、いくぶんか短くなった尾に体を包まれた。お返しと言うようにやわらかな両手が頬に触れる。
「―――そばにいる」
だから大丈夫だとでも言いたげに頬を撫でる手が優しい。いつもより小さな肩口に重くならないようにそっと顔を伏せれば、頬から回った小さな手がゆるゆると背中を撫でる感触がする。
「情けない姿を見せてしまってすまない」
君の方が慣れない事態に戸惑っているだろうにという言葉は穏やかな体温とともに溶けていく。―――ああ、不安で寂しかったのか。泰然と傍にいてくれる人が幼くなってしまって。いつもは守ってくれているひとを私でも守れるかと、傍にいてくれるひとに万が一がないかとそればかりで。
「じきにもどる。どんなすがたでもわたしはわたしだが、きこうをだきしめるにはおおきいほうがいいな」
それにこのからだはなかなかにはなしづらい、と笑う重岳にドクターも笑みを返した。今だけは小さなあなたと一緒にいよう。抱き上げる事は残念な事に出来そうにないけど、小さな手を繋いで隣を歩いて。眠るときにいつもは抱きしめてくれる人を腕の中に抱き込んだらどんな顔をしてくれるのだろうか、なんて。
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