匣舟
2025-08-10 21:06:22
4652文字
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秘すべき生態

ワードパレットリクエストの鉢乱です。陽の光を浴びないと生きていけない乱と、それを知ってしまった鉢が秘密を共有する話です。
リクエストありがとうございました🫶


 乱太郎の秘密を知ったのは、本当に偶然だった。春から夏にかけての季節の変わり目に到来する梅雨の時期に、じめじめとした湿気といつまで経っても姿を見せてくれない太陽に心が沈んでいたとき。三郎が気にかけている乱太郎が日に日に元気をなくしている姿を見たのがはじまりだった。
 三郎がいつも見ている乱太郎はいつも元気でよくきり丸としんベヱと一緒にいて、それでいて土井先生によく怒られていて。まるで太陽を体現したかのような子だったのに、そんな乱太郎がじめじめとした雨が続く季節に入ってからは笑顔を見せることが少なくなっていた。
 乱太郎はいつも通りに元気な姿を見せているつもりらしいが、人に変装するにあたってその人の癖や特徴などを観察している三郎には、その笑顔に陰りがあることがすぐに分かった。
(あれは絶対何かを隠している顔だ。)
 乱太郎のことを気にかけていた三郎はどうして彼が落ち込んでいるのかを知りたくて、授業が終わるとすぐに乱太郎を探し始めた。
 まず手始めに一年は組の教室から、彼が所属している保健委員会の活動場所である医務室、そして三郎の片割れである雷蔵と乱太郎の親友であるきり丸がいる図書室。それか、もしかしたらしんベヱがいるかもしれない食堂。色んな場所をくまなく探したけれど、いなくて。
 また、乱太郎を見かけたら声を掛けようとしょぼくれていた三郎だったが、空き教室がある人気のない場所を歩いていたところで、廊下に座って雨が降っている外をぼーっと一人で見つめている乱太郎を発見したのだ。
「らんたろ〜っ!」
ひゃあ!」
 彼を発見した三郎は、後ろから気配を消して近づいて乱太郎の名前を呼んで背中に抱きついたのである。
 三郎の突然の登場に驚いた乱太郎は思わず飛び上がってしまって、少し赤くなっている瞳を大きく見開きながら後ろを振り返る。そして自分を襲撃してきた犯人が誰なのかを確認すると、鉢屋先輩かぁ……。とぽつり呟いた。
「やぁ。随分とかわいい反応をしてくれたね。」
「もう!びっくりさせないで下さいよ……!」
「ごめんごめん。本当に俺に気づかないくらい考え事してたんだなって思ってさ。」
「え?」
 クスクスと笑っている三郎の言葉に首を傾げる乱太郎。そんな乱太郎を見つめる三郎の視線は優しくて、乱太郎の隣に腰を掛けるとその肩をそっと抱き寄せた。
 そしてそのまま彼の頭を撫でてみれば、いつもなら抵抗をするはずなのに今日は大人しく受け入れてくれて。
(おや?いつもならやめてください!ぐらい言うのに大人しいじゃないか。)
 そんなことを思いながらも三郎はそんな乱太郎が可愛くて可愛くて仕方がなくて、その頬を撫でていく。
「なぁ、何を考えてたんだ?」
……それは。」
 三郎の問いに口籠る乱太郎だったが、三郎はじっと待っている。自分のことを見てくるその視線から逃れるように顔を背けてみても三郎は許してくれなくて。仕方なしに三郎の方へ顔を向ければそこには真剣な眼差しがあって。
「まあ、別に乱太郎が言いたくないのなら良いけど。でも私では力になれないかな?」
 そんな三郎のずるい言葉に乱太郎はうつむいてしまった。彼が自分の葛藤と戦っている間、三郎は焦らずにただ待つことにして、乱太郎の髪を指で弄りながら待っているとようやく覚悟を決めたようで俯いていた顔を上げて三郎のことを見てくれた。
 その瞳には涙が溜まっていて今にも溢れ出してしまいそうで、そんな乱太郎の姿を見て三郎は何度目になるかわからないほど彼のことを愛おしいと感じてしまったのだ。
「あの……わたしっ……
 震える声で話し出す乱太郎に三郎は耳を傾けていく。乱太郎が言うにはどうやら乱太郎は植物に近い生態を持っているらしく、日光を浴びないと生きられない身体なのだという。
 そのため、晴れの日は太陽の光を浴びるために外に出るようにしているのだとか。だから授業中以外はずっと外に出て日向ぼっこをしていた訳なのだが、ここ最近ずっと雨続きだったので出ることができず、段々と悪くなっていく体調をどう誤魔化そうか悩んでいるということだった。
なるほどなぁ。」
 乱太郎から理由を聞いた三郎は納得して何度も首肯する。確かに言われてみるとここ最近ずっと顔色悪かったし、元気がなかったように思う。それなら納得できる。彼が植物に近い生態を持っていることを。
 それにしてもまさかこんな秘密があったとは思わなかった。だけど同時に嬉しいとも思った。聞けばこの秘密は、忍術学園内で三郎にしか明かしていないのだそうだ。
 いつも一緒にいるきり丸やしんベヱ、そして彼が敬愛している同じ委員会に所属する六年は組の善法寺伊作にだって。乱太郎はこの秘密を三郎にしか言っていないのだ。その事実が三郎にとってとても、とてもうれしかったのだ。だって、それは誰よりも三郎を信頼しているということだから。
 そんな三郎の気持ちを知らない乱太郎は、秘密を打ち明けたことに対して不安がっており、その気持ちを表すかのように小さな両手を握ったり閉じたりしていた。
 その乱太郎の様子がいじらしくて堪らない。だから三郎は安心させるためにその手を取って優しく包み込み、真っ直ぐに目を見つめながら口を開く。
「大丈夫だ。」
 その一言だけで十分伝わったようで乱太郎は安堵の表情を見せた。そして、三郎に向かってありがとうございます。と言いながら微笑んだ。その笑顔が今まで見てきた中でいっとうかわいくて、三郎は思わず息を飲む。普段見ることの出来ない珍しい表情に胸が高鳴っていく。
 もっと見たいと思ってしまう自分がいることに気がつきつつも止められない衝動を感じながら、三郎は乱太郎のことを再び強く抱き締めた。
「らんたろ〜う!」
「あ、三郎先輩だ!」
 秘密を知ったあの日から、三郎は以前に増してより一層乱太郎に構うようになった。毎日欠かさず彼に会いに行き、体調はどうか確認し、ふたりの委員会活動や用事がなければ一緒に学園内の人気のないところや、裏山の日当たりの良いところで日向ぼっこをしている。
 日向ぼっこだけでなく、時には手裏剣を投げ合う訓練をしてあげたり、座学で分からないところがあれば教えてあげたり。色んなことをしてあげているそのおかげか最初の内は遠慮がちだった乱太郎もいつの間にか三郎に懐いていて、今では鉢屋先輩から三郎先輩と呼ぶようになって、自ら三郎の元へ駆け寄って来てくれるほどになった。
 目にも止まらぬ速さで仲が深まった乱太郎と三郎に最初は乱太郎と一緒にいるきり丸やしんベヱが、三郎と一緒にいる雷蔵や乱太郎と仲良くなりたいと思っている勘右衛門を筆頭とした同学年たちが、どうして急に仲良くなったんだ、何があったんだ?と三郎に詰め寄っていたこともある。
 乱太郎はなんでもないよ〜。と適当に誤魔化して事なきことを得ているが、三郎は自分に詰め寄ってくる彼らに対して余裕そうな態度で接していて、最終的にこれは俺と乱太郎だけの秘密だから言わないよ〜。と言って彼らを煙に巻くのだ。
 そうすれば乱太郎も乱太郎で照れ臭そうにしながら頷いてくれるものだから更に質問攻めに遭うわけだが。三郎はそれを軽くいなしてその場を後にするのが恒例となっていた。
 勘右衛門たちを煽らなければいいのにいつだって秘密だと言っているのは、自分しか握っていない乱太郎の秘密を知っていることを言いふらしたいのもある。だっていつも一緒にいるふたりに、彼が敬愛している先輩にだって見せない弱さを自分に見せているのだから。
 だから、その優越感にできればいつまでも浸っていたいのもあるし、あんな元気のない乱太郎をもう見たくないからである。
 そんな三郎と三郎以外の五年生たちの攻防が日常化してしばらく経ち、じめじめとした梅雨が明け、季節が巡って夏になり暑さが本格的になってきたころ。
 相変わらず三郎と乱太郎は二人だけの時間を過ごしていた。場所は裏山の日当たりの良い木の下。今日も今日とて二人で並んで地面に腰を下ろしては他愛もない話に花を咲かせている。
「はあ〜生き返ります〜ぅ。」
「本当にそこら辺に生えてる草と一緒みたいだもんなあ。」
 クスクスと三郎が揶揄うように言えば乱太郎はむぅっと頬っぺたを膨らませて抗議してきた。その仕草があまりにも幼くて可愛らしいものだから思わず吹き出してしまった。
 そんな三郎を見てますます不貞腐れる乱太郎だったがその表情すら愛おしいと思えてしまうあたり重症かもしれない。それでもやはりこの関係性は壊したくないと思い始めている自分が居る。そのことに苦笑しつつも三郎は透けそうな恋心を必死に隠しながら、目の前の愛しい存在を眺め続ける。
「ふふっ。ほんとにかわいい。」
 そんなとき、ぽつり。無意識のうちに三郎の口からかわいいという言葉が漏れてしまう。しまった!と思って慌てて口元を押さえたもののすでに遅く。三郎の言葉を聞いていた乱太郎はキョトンとしていたが次の瞬間には顔を真っ赤にさせて狼狽えてしまっていた。
「えぇっ!!?」
 突然乱太郎が大きな声を出したかと思うと三郎にかわいいと言われた恥ずかしさからか手で顔を覆っている。その乱太郎の反応があまりにも初々しくて三郎は口元を緩ませてしまう。
もしかして照れてる?ふふふ。」
「て照れてなんてないですもん。」
 照れている乱太郎を面白がって意地悪く笑っていれば、拗ねてしまったらしい乱太郎がぷいっと顔を逸らしてしまった。その仕草でさえ可愛く見えてしまうあたり相当参ってるなと思った三郎は小さくため息をつくとそっと腕を伸ばして乱太郎のことを抱き寄せる。
 突然引っ張られたことでバランスを崩してしまい倒れ込んでしまう乱太郎だったが、そんなことはお構いなしといった様子で三郎はぎゅうっと乱太郎のことを抱きしめてきた。
「ちょ……ちょっと……!」
 三郎の突然の行動に戸惑いを隠せない様子だったが大人しくされるがままになっているあたり満更でも無いらしい。その素直さが逆に恨めしくもあるのだが今は触れないでおこうと思い口を噤むことにした。
 代わりに頭を優しく撫でてやりながら耳元で囁いてみる。そうすることで乱太郎の反応を見ることが出来るだろうと思ってのことだが案の定効果抜群でビクリと跳ね上がったあと身を強ばらせた乱太郎は硬直してしまったようだった。
 そんな姿も非常に可愛らしいのでつい調子に乗ってしまいそうになるものの何とか我慢する。これ以上踏み込んで嫌われてしまっては元も子もないのだ。ゆっくりゆっくり距離を縮めていかなければ。
……あの?」
 三郎からの接触がなくなったことで恐る恐るといった感じで三郎せんぱい?と名前を呼んでくる乱太郎に三郎は思わず笑みを浮かべる。
 この子は本当に可愛すぎる。これからどうやって攻略していこうかと考えるとワクワクしてきた。
「ううん。なんでもないよ。」
 そう言って再び強く抱き寄せれば今度は抵抗することなく受け入れてくれたので三郎はこれからもずっと乱太郎の秘密を知っているのは自分だけであればいいと、そしてあわよくば乱太郎の隣にずっと居続けられますように。と願いながら、そのまましばらくの間抱き締め続けたのであった。

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