【スタゼノ】フラッシュライト

スタゼノワンドロワンライ 第214回お題「ヘアゴム」「ブロンド」
ゼノの大学の級友が催したパーティーにスタンリーと2人で行く話。

 ラップトップを抱えて大学の教室を出ようとした時、珍しく教授以外から声がかかった。いや、珍しいとは言ったけれど、僕にはあまり友達がいなかったので(それこそ研究室に入り浸りのギーク以外には知り合いすらいなかった)、それはかなり特殊な状況だった。でも声をかけてきた年上の同級生は、今夜パーティーがあるんだけどと、僕に小さな罪を打ち明けるように言った。みんなはお前に言ってないけどさ、ハブるのも悪いしさって。
 僕はどうして自分に声をかけられたのか、それが咄嗟に分からなかった。哀れみみたいなものをかけられた気がするけど、正直パーティーなんてものには興味がなかったし、興味の向く研究だけ出来ていれば他にしたいことはなかったからだ。だから断ろうと思ったのだけれど、僕にそれを伝えて来た同級生は、僕が口を開く前に去っていってしまった。そそくさと、気を揉んでた罪の告白を終えたみたいにして。
 彼によれば、明日夜十時、学生向けアパートの一室に集まって、結構有名なDJも呼んでる結構大きなパーティーがあるんだという。僕はその頃、多分スタンリーと一緒にいる。彼と恋人になってからというもの、週末になると二人きりでともに過ごすことがほとんどで、だから多分、約束もしていないけれど、僕たちは明日一緒にいるのだ。夜十時も、その後も一緒にいる。二人きりで僕の偽造IDでレンタルしてるアパートの一室で研究をして、そしてキスをして、寄り添って一緒に寝るのだ。
 だから、僕はパーティーに行く気なんてなかった。だってそれよりも素晴らしい時を過ごすつもりだったから。でも、なんとはなしに今夜スタンリーに大学の同級生がやるパーティーがあるんだと打ち明けると、車を飛ばしてアパートまでやって来た彼はこう言ったのだった。
 いいじゃん、たまにはデートしようぜって、僕が思ってもみなかった言葉を、彼は言ったのだった。
 
 
 パーティー会場は、大学のキャンパス近くのアパートだった。そこは僕達がたむろってる場所とそんなに離れていなかったので、開始時刻からは時間が経っていたものの、迷わずにたどり着くことが出来た。
 スタンリーは会場まで歩いている最中、ほとんど何も喋らなかった。デートって言ったくせに、彼は全然エスコートはしてくれなかった。でも、アパートの部屋に着いた時、スタンリーは強引に僕の腕を掴むと、LEDライト、ストリングライト、ディスコボールなんかがきらめく、DJのプレイに合わせて皆が踊る中へと連れ込んだ。
「スタン?」
 彼と手を繋いでたら、明日からゲイ扱いされるかなって僕は少し怯んで、でもスタンリーはそんなのは気にしないで音楽に合わせて踊り出した。
 ――クラブの中はパーティーの雰囲気、お前の彼女を探してんの? でももうあの子は俺に夢中だぜ。
 昔流行った、パーティーの定番曲をDJがプレイして、教室では優等生の顔をしている同級生達が派手に踊る。僕もそれに合わせて適当に身体を揺らしたけれど、すぐに誰かの視線に気付いた。いや違う、この視線はスタンリーに向けられているんだ。流れるようなブロンドを巻き、ラメがまぶされたヘアゴムでまとめた女の子がちらちらと彼を見ている。いつかの大統領夫人みたいな、ブルネットのショートヘアにウィッグをつけた子も彼に熱い視線を送っている。完璧な長さの手足をドレスから出してる子達が、スタンリーに気付いてもらおうと、音楽に合わせてウィンクをする。
 けれど、スタンリーはそれに気付いているだろうに、全然相手をしなかった。それどころか、長いまつ毛に縁取られた目で、その美しい目で、たった一人の僕だけを見ていた。僕はその事実に胸が締め付けられそうになった。彼が僕のたった一人だって言われた気がして、言葉もなしに言われた気がして、頭がおかしなりそうになった。
 その時、ジャングルジュースを持った子が、勇敢にもスタンリーに近づいて来た。教室の一軍の、ソロリティにも入ってる綺麗な、いや、それよりも強者って感じの女の子だ。彼女は僕に挨拶をする体で、ゼノ、あなたの友達を紹介してよって囁く。なのに彼は女の子に目もくれないで、髪をぐしゃぐしゃにして汗で濡らして踊る。飾り立てた同級生の子達と引けを取らない美しさで、Tシャツにデニム、汚れたスニーカーってラフな格好で、大学でのそれとほとんど変わらない格好をした僕と一緒に踊る。僕が彼女に幼馴染なんだってスタンリーを紹介しても、よろしくって短く答えただけで。
 相変わらず、スタンリーの視線は僕だけに注がれている。その事実に胸が締め付けられるのに、どこかで信じられない自分がいる。こんなきらびやかな場所で、誰もが欲しがる彼が自分を選んだって事実に僕は怖気づいている。
 その時、スタンリーは僕の腕を掴むと、まるで誰にも渡したくないとでも言うように指先に少しだけ力を込めた。その視線は他の誰にも向けられず、僕だけを捉えている。ディスコボールの光が彼のブロンドを照らす中、一瞬だけ、キスするみたいに彼の唇が小さく震えた気がした。
 女の子達はそんな僕達を見つめて、ひそひそとスタンリーの噂をしている。でも、スタンリーはそんなことは気にしないで僕の腕を掴んだまま、DJのプレイに合わせて踊りを続ける。僕はスタンリーのきらきら輝くブロンドを見ながら、このまま朝が来なければいいのにって思う。彼がずっと、僕を見ていたらいいのにって思う。
 
 
 それから、僕たちはほとんど二人きりで踊り続けた。パーティーの喧騒はあったし、DJがかけるポップ曲のEDMリミックスはうるさかったけれど、深夜三時にもなればみんなが酒に潰れていた。僕達はたまにナチョスやピザを食べ、ブルーのラベルのバドライトを飲んだ。二人とも飲酒可能年齢じゃなかったけど、誰もドラッグをやらない優等生ばかりのパーティーだったから、警察が来ても僕達は逮捕されないだろう。
「なぁ、そろそろ外行かね?」
 深夜三時頃だったろうか、DJが帰り支度を始めたくらいにスタンリーが僕の腕をまた引っ張った。断る理由もなかったから、僕は頷いた。正直後ろ髪を引かれたけれど(だって、僕達はパーティーの中でも二人きりだった)、日常に戻るのも悪くないと思えた。あの狭苦しいアパートの一室で、ここじゃあ出来ないことをするのもいいと思えた。
 さっきスタンリーに声をかけてきた女の子達は、もうみんな誰かと一緒にいなくなっている。完璧な格好をしていた子達は、もう誰かと消えてしまっている。残っているのは音楽好きか、心底パーティーが好きか、酒に潰れて寝転んでいる連中くらいだった。
 僕達はパーティーを抜け、アパートの階段を降り、色とりどりのネオンが輝く道に踊り出た。僕達は道路を走る車に合わせて足早に脇道を行き、手を繋いで最後には走り出した。
 僕達はめまいがするような騒がしいパーティーの後、汗だくで走り回った。スタンリーのブロンドはきらきらとネオンに輝いていて、僕はそれに触れたくなった。だから走り続ける彼を置いて歩き、じっと愛しい幼馴染を、恋人を見つめた。
……ゼノ?」
 自分についてこない僕を、スタンリーは不思議そうに見つめている。僕はのろのろと足を進め、噴水脇で足を完全に止めてしまう。
 そろそろ朝日が昇る時間だ。そうしたらパーティーが終わる。明日が来てしまう。まぶしい彼の髪を、深い金の瞳を、僕はもっと見ていたい。一瞬のフラッシュライトみたいな夜を、手からすり抜けさせたくない。
 スタンリーは静かにこちらに近付いて来る。噴水が水を落とす。朝日が昇りかけて、あたりはまぶしい光に包まれる。
 ねぇ、スタン。今だけは二人きりでいたいよ。もうそうなってるのかもしれないけど、今夜のデートを終わらせたくない。LEDライト、ストリングライト、ディスコボール、DJが回し続けるEDM。そんなパーティーが終わっても、その記憶の中に、ずっとずっといたい。
 スタンリーが一歩近付いてくる。噴水の水音が耳に響き、朝日の光が彼のブロンドを金色に染める。彼の瞳が僕を捉え、息が少しだけ乱れているのが分かる。心臓はうるさいくらいに鳴っている。触れそうなのにまだ触れない指先に熱が走る。そして、ようやく僕達は手を触れ合わせる、そしてキスをする。自然に、まるでそう決まっていたみたいに。二人とも踊って、走り回って汗だくだったから、唇は塩からかった。でも、いつもよりずっと甘かった。
 僕達は街がまだ眠っている間にキスをする。耳の中では音楽が鳴り続けていて、身体もその振動に痺れ続けている。僕達はキスをする。もう言葉なんてどうだって良くて、今日を忘れたくないって、もう明日が来ているっていうのにただただキスをする。



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