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望月 鏡翠
2025-08-10 00:32:02
951文字
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日課
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#1808 「松葉」「カカシ」「実り」
#毎日最低800文字のSSを書く
腕で払い除けた松葉が、緑色の染みとしんと冷えた匂いを腕に残した。
朽ちる前の落ち葉が降り積もり、踏み込むたびに踵に跳ねあげられてズボンの裾んまとわりつく。走る速さで流れていく景色を両の目で確認する。どこかにいるはずだ。
遠くではないはずだ。南側の日当たりのいい斜面。スカートの裾が引っかかるような藪のないところ。
ついに見つけた。
秋の森に春のような柔らかな色彩がある。金色の髪。薄桃色のリボン。髪の色と合わせたスカート。
人形のような少女が、木の根元に座り込んで本を読んでいた。
「なぁに、どしたの?」
ふんわりと笑う。
「探しにきたのです」
「ぼろぼろじゃない」
汚れているし、枯れ葉が身体中についている。踏みしめてきた草の匂いが体に染み付いている。きっと今犬を放てば、どの道を歩いてどこにいったのか、すぐに探り当てられてしまうのだろう。
「何をそんなに急ぐことがあるの」
少女はいつも危機感に欠けている。だから誰も連れないまま、気まぐれにふらりと出かけてしまうのだ。
やめてくれと従者一同で何度も頼み込んでいるのだが、聞く耳を持たない。それどころかこうして、慌てて探しに来る者を見て楽しげに微笑むのだ。
楽しんでいるようでもあった。
「どうして追いかけてくるの」
「俺はカカシだからです」
実りを守るために建てられたもの。害獣を遠ざけるためにあるもの。しかしそれは悪いものが近づいてこないように遠ざけることはできても、脅威の渦中に飛び込んでしまったものを守るようにはできていない。
少女は、待ち望まれた実りそのものである。それだけが、我々を生かし凍てつく冬を越すための活力となり、命を紡ぐ存在となるのだ。誰もが求める甘い甘い果実である。
カカシを一本立てたくらいでは守りきれない。柵の内側にいてもらわなくては。犬を放って侵入者を見張らなくては。音を立てて、脅かさなくては。
それでもカカシは彼女を守りぬく自身はなかった。
「かわいそうに。破れてしまったところは直してあげるね」
少女は笑うと本を閉じて立ち上がった。
スカートの裾についた松葉を彼女の代わりに払った。
きっとそのうち犬が来て、彼女を守りながら家に送り届ける役目を引き継いでくれることだろう。
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