三毛田
2025-08-09 23:05:13
1081文字
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79 079. 愛を乞う手

79日目
君へと伸ばす

 愛とはなんぞや。
 簡単には答えられないであろう問い。
「親から子へ、無償の愛。というものがあるらしいが、俺には縁がなかったものだ」
 俺の言葉を拾い、丹恒はそう口にし。
 そんなことを言ったら、俺だってそんなに変りない。
 だって、何も覚えていないのだから。
「無償の愛、か」
 妻子がいる。的なことを言っていたヨウおじちゃんに問いかけてみたらちょっとだけ躊躇いというかどう説明したらいいのだろうかという表情を浮かべて。
「言葉にするのは難しいな」
「そうなんだ」
「愛は、目に見えないものが多い」
「ふうん」
 じゅっとストローで飲み物を吸う。
「あら。無償の愛なら、結構わかりやすいわよ」
「え?」
 俺とヨウおじちゃんの会話に、姫子が入ってきた。
「パムよ」
「パムぅ?」
 訳が分からなくて首を傾げると、小さく「ああ」という声。
「そうだな。パムの行動は無償の愛からくるものだろう」
 どうやら、ヨウおじちゃんにはわかるようだ。
「物を散らかしたら片付けろと叱るのも、綺麗に食べろと告げるのも、ご飯を用意してくれるのも、列車を綺麗に掃除するのも。皆に快適に過ごしてもらおうっていう愛から来ているのよ」
「なるほど」
 親子間の愛ではなく、仲間でも抱くのか。
 多分、パムだからだろう。
「というわけでして」
「どういうわけだ」
 二人から聞いてきたことを、丹恒に報告するとちょっとだけ困ったように眉を下げて。
「俺も、丹恒からの愛が欲しいなって」
 そう。
 無償の愛じゃない、彼から俺への愛。
 物語にあるような、深くて重いものじゃなくていい。
 手を差し出すと、俺の顔とその手を何度も見比べて。
「ん」
「これは、握ればいいのか」
「今はまだ、うん。それでいい。握手」
「それなら」
 丹恒は恐る恐る手を握ってくれた。
 愛にも種類があるっていうし、いつか俺に対して何でもいいから愛を抱いてもらえたら嬉しいなって思う。
「ん。穹」
 愛を乞い伸ばした手は、時間をかけて育んだ愛を乗せて握り返され。
 今は、俺に対して愛しくてたまらないという気持ちを隠そうとしない丹恒の腕に抱かれて眠っていた。
 ふわふわでふかふかな胸に顔を埋め、愛情をいっぱい注がれて。
 夢も見ないくらい、ぐっすりと眠ることが出来た。
「たんこぉ?」
「ああ。俺はここにいるぞ」
「大好き」
「俺もお前が好きだ。愛している」
 愛とは何ぞや。
 みたいな態度だったのに、今では俺への愛を隠そうともしない。
 愛されているって、素晴らしいな。
 注がれる愛を、俺も返そう。