サケブンダト
2025-08-09 22:01:33
30568文字
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真夜中のひまわり 下

長こへ、ちょっと不思議なタイムスリップブロマンス。
えのきさん(キングマツタケ様)の誕生日をお祝いして贈らせて頂いたお話です。
表紙・関係図イラストの方は御杯高津さん(https://x.com/taka2Oppai)です。

真夜中のひまわり下



1
 げんなりした顔で校門をくぐった留三郎と小平太。それから、青ざめている守一郎。
「まさか、ガチで徹夜したのに学校に行かされるとは思いもしなかった……
「だから、寝ればよかったのに」
 頬を膨らませて言うのは、集合した時に既に留三郎の部屋へ上がり込んでたいさ子だった。迎えに行くまでもなく、先に待ち構えており、いくら留三郎の幼馴染とは言え。と思わなくもないが、彼女ならなんで もありだろうとも思った。
 なんでも借りたものを返してもらいに来てたところだったとか。用事で来られなかった文次郎の代わりに、夜まで一緒にゲームをしたのだが、1位を取る直前で寝落ちてしまい。
 そのまま、朝まで留三郎のベッドを占領して寝ていた。それもコントローラーを握りしめたまま。
 握りこんでいるから変な動きをしていて、面白がって朝まで夢中になったことは、3人だけの内緒だ。
「あ、お母さんからLINE来てる」
「俺の方にも、いさ子のオカンから来てる。えっと、3秒敬語で……おっと、Jiffcy(テキスト通話アプリ)来た」
「なんで留三郎の方に着信あるんだ? 」
「さぁ、僕よりも留三郎の方に来るんだよね」
 と言った彼女の背後で留三郎はスマホの画面を指さして口パクをする守一郎は気がついてないが、小平太は何となく察した。
「信頼関係とか? 」
「【ここから先は有料コンテンツです】知りたくば、僕を倒して聞け」
「倒したら聞けんだろ」
 小平太はすぐに転びスマホをよく割っているいさ子へ、ツッコミを入れた。その直後、鼓膜が裂けるかと思うほどの笑い声が聞こえ出す。
「だぁはっはっはっはっ」
「「笑い過ぎだ、守一郎!」」
 と3人で言った直後に、いさ子はスマホを落とした。確かに手に握っていたはずなのに。
「あー、“また”画面割れたよ」
「もう、カバンから出すな」
「今日一限、“センセン”だからサボれねーしな」
「なんの授業だよ」
 小平太がそう言うと3人は顔を見合わせる。このパターンどこかで見た記憶がある。それもつい最近。
「立花 仙子センセー。歴史の先生じゃん」
 もうすっかり、ナカセンがどの曜日何限にどこのクラスの授業へ行っているかまで覚えている。このクラスは授業終わりが遅いかとか。
 なぜなら、社会科準備室の常連となっていたからだ。
 なのに、いつものように開けようとした部屋には鍵がかかっていて開かない。
「何をやっている? 」
 声をかけられて振り向くと、見知らぬ黒髪の長い女性の先生が立っていた。おそらく彼女が、“センセン”なのだろう。
 留三郎の話だと隣町の名門塾の優秀な先生で、学校がわざわざスカウトしたんだとか。
「あ、えっと、提出したノート間違えてて」
「ほう、なるほど」
 下から上まで見回した“センセン”は、顎に手を当てながら少し考えたあと、鍵を取りだして俺に投げた。
「鍵を開けてくれ」
 言われた通り鍵を開けると、“センセン”は「ここの鍵は癖があって開きにくい」とか愚痴をこぼす。しかし、小平太はそれどころではなかった。
 部屋に入るなり、壁に貼ってあった時間割へ飛びついて見た。この部屋にあるのは、いわゆる教室のと違って社会科の先生だけの、何曜日何時間目にどの先生がどこのクラスかと書かれた表だ。
 だが、そこのどこにも“ナカセン”という文字が見当たらない。
 同時に小平太の頭には、彼に関する記憶がありありと蘇る。
「下の名前がジョージらしい」
「へぇ……日本人? 」
「さぁ? でけえし、喋んねーし、ハーフとかじゃね? 」
 などと話していたのがもう既に懐かしい。そんな話をしていた留三郎も今朝あって色々聞いた文次郎も何も覚えてないなんて。文次郎に至っては完全に上の空だったのが少し気にかかるが。
 俺自身がおかしくなったのか、世界の方が変なのか。分かるはずもない。祖母がよく言ってた『細かいことは気にするな』は適応されなさそうだ。まさか、自分の中で彼がこんなに大きくなってたなんて知らなかった。
 廊下の窓が開かれて風が吹き込む。通り過ぎる生徒に飛びついて尋ねたいけど、それで覚えているやつが1人もいなかったら自分はどうしたら良いのか。
 足で踏むリノリウムの床が不安定に感じる。ゴムのようにぐにゃぐにゃになっているんじゃないかってさっかくするぐらい。
 知っている人が1人消えたのだから、当たり前か。
「用は済んだのか? 」
……はい」
「聞いたところによると、バレー部でそれなりに成績を収めていたそうじゃないか」
 “ナカセン”と同じような言葉を投げかけられてハッと思い至った俺は、制服のズボンのポケットに手を突っ込む。勢い良すぎでそのまま突き指するかと思ったけど、そんな指を受け止めた布の中に飴ちゃんは残ってた。
 取り出して見ても、ちゃんと“ナカセン”にもらった、あの時の飴ちゃんだ。
「お邪魔しました、体調悪いんで帰ります」
「それは担任の先生に言え」
 “センセン”は、学校の先生らしくそう言った。きっとあの“ナカセン”なら言わないようなセリフを。
 下駄箱へ真っ直ぐ走り出した俺はそんなことを考えながら、どうやって寝るか考え始めた。なんせ家に帰ってもまだ学校へ行ってない幼い弟たちが家にいるから。
……保健室の方が早いか」
 寝かせてくれるかどうかは別だけど、飴があるうちならまだ間に合う気がして。

 夢の方へ行くと見覚えのある場所だけど、知らない庵の縁側に腰かけていた。
 ここはどこかとキョロキョロしていると、白髪の老人がふすまを開いて出てきた。
(誰?! 浪人しすぎた生徒?!)
「生徒ではないぞ、わしはこの学園の学園長だ」
 何も言わないで見ていると、学園長は隣に腰を下ろす。
「言いたいことは分かる。じゃが、若者にはこの時代を生きる為の知恵と力、そしてガッツが必要なんじゃ」
……あの、俺は」
「時に、時の旅人さんよ」
「?! 」
「長いこと生きていると、なんでも分かるようになってしまうんじゃよ」
「そうですか」
 その返事を残念そうに見る老人にいたたまれなさを感じつつ、長次がどこにいるのかと辺りを見渡した。ほとんど、いつも長次のそばにスポーン(現れること)していたから、そばにいないと落ち着かない。
「時の旅人さんよ、もしも、この学園に危機が訪れたら、主のちからをかしてくれんかのぅ」
……考えておきます」
「カステラあげるから」
「えー、カステラって……
「なんじゃ、カステラ嫌いか。じゃあ、なんもあげんが、頑張ってくれ。あ、そうじゃ、中在家 長次の見舞いに行くなら、これでも持っていきなさい」
 半分ほど食べたカステラの箱を渡された。
「見舞い……なのか? 」
 前にも行ったことのある部屋を探して廊下を歩いていたら声をかけられる。中庭から察するに、まだ辿り着けてなかったけど。
「やっと来たな」
 聞き覚えのある長次の声だ。
 思ってたよりはっきりした声で度肝を抜かれる。見舞いがいるほどの怪我ならもっと弱々しい声をしていると思ってたのに。声がした扉を開くと、以前と違う内装をしていた。
「模様替えした? 」
「医務室だ」
 見下ろすと、布団の上に包帯だらけで寝転がる長次がいた。包帯から見えているところも腫れ上がっている。
「強敵だったな、誰にやられたんだ」
「お前だ」
 聞けば膝枕で喧嘩したらしい。
 思い返せば、出会った頃はすぐに縄を取りだしてた長次は、喧嘩早い性格だったと思う。
「しょうがないな、長次くん」
 座り込んだ膝をぽんぽんと指し示した。ギロッと睨んだ長次は、見るからにムッとした顔をする。余程気に食わないのだろう。
「別に膝枕されたかったわけじゃない」
 そんなことを言う長次の頭を膝に乗せて喧嘩の要因を詳しく聞くと「私だけの膝枕」発言に対し、小平太が来るかもしれないことを示唆したとか。それに寄って怒られて喧嘩に。
「膝枕してもらうんじゃなくて、したんだー? 」
……で、『小平太が来る可能性がある』と示唆しただけだ」
「その流れでHしないってことあるんだ? 」
……えっち? 」
「こっちの話だ、忘れてくれ」
 誤魔化すように長次の頭を撫でた。思いの外、髪質が良くて驚く。サラサラしてんなと思ったけどコシのあるしっかりした髪だ。
「つーか、俺の話を出すなんて、俺のこと好きかよ。長次」
「嫌っていると言った覚えは無いな」
……そう言う意味じゃねーけど」
「あぁ、衆道的(男性同士の肉体関係)の意味では無い」
「しゅー……どー? 」
「こちらの話だ」
 と言った長次は頬にガーゼのようなもんを貼られているのにニヤッと笑った。どことなく、怒って笑っているのと違って、いわゆるしたり顔だろう。全くこいつは。
「あ、その、平子さんは無事? 」
「こちらから一切触れてもないが」
「ま、痛むところは微塵もないな」
 小平太も平子の身体を見渡すが、自分目線なので確かなのは痛みだけ。ふと、自分がこの身体で怪我をした時に痛みがあるのはどちらで、その際に涙が出たらどちらが要因になるのだろうか。そんな疑問が頭を掠めた。
「次こそは遠慮はしない」
 包帯を巻かれた拳をヨロヨロと持ち上げるので、その手を両手で包んで下ろさせる。
「女に攻撃すんの格好悪いって、長次」
「野菜の皮剥きで勝負してくれるなら負ける気はしない」
……せめて、おにぎり握る競争とかにしとけよ」
「それにしても、随分と間隔が開いたな」
 怪訝な顔をして見下ろせば、不思議そうに見返す。夜更けに話しているのは自分たちぐらいだろう。なのに、齟齬が生じている。
「なんのだよ」
「お前が来る頻度」
「は? 毎日来てるだろ? ……昨日は来られなかったけど」
「やはり、そちらではそうだったか」
「1日ぐらい来なかっ
「いや、もう2週間は来てない。その前も週1程度。最初の頃ですら3日に1度だ。徐々に頻度が減っている」
「マジか」
「何の因果か来てくれているだけでもありがたいからな、こちらは」
 痛そうに顔を歪めた。無理に起き上がるからだ。そんな長次の背を支えてた俺は、そのまま抱え込んで彼の頭を自分の膝に乗せる。
……可哀想だから添い寝をしてあげよう」
「いらん」
「ゆっくり休むんだぞー」
 思わず弟や妹を寝かしつけるように言ってしまった。が、彼は気にしてないようなので、そのままスッポリ彼の腕の中に収まることにした。
 寝息は聞こえないが長次は目を合わそうともしない。顎を見せつける彼の頬へ手を伸ばして伸び始めの髭を撫でる。そういえば、この時代の人って電動髭剃りもコンビニの髭剃りもないのにどうしてんだろ。ドラッグストア的なのはあるんだろうか。
「くすぐったい」
「悪い」
 2人はなんだかんだ、話を続けた。眠たくて半分まどろみながらあんまり深く考えずに。ひたすら思いついたものを思いついたままに。
「先日、ごぼうとこんにゃくを煮たら、奇妙な青になってな」
「あお? あぁ、緑っぽい感じの意味のか。青信号とか言うもんな。そりゃ灰汁(あく)がこんにゃくのアルカリに反応しただけだろ」
「あふかる? 」
「アルカリ。あくの酵素と反応してさ。里芋ならピン……桃色になるし、玉ねぎなら黄色くなるぞ」
 長すぎる指をもてあましているように、布団の上で指を組む。長次は背も高いくせにパーツも長く、がっしりしてる割に筋肉が膨張しぎてはない。忍者だとバレないためだろうか
「色とりどりで美味そうだな」
「どうだろう? そういえば長次は、料理もするんだな」
「夕飯とかだけ。普段は食堂のおばちゃんが作る絶品のご飯を食している」
「昼のうちに来られればなー」
 布団の中でもぞりと動けば、顔にかかった髪を長次が避けてくれた。もしも、俺が女だった少しときめいたかもしれない。
「来ればいい」
「無理だ、俺も昼は学校があるからなぁ。俺も学校では背が高い方で、たぶん長次よりも背丈があるぞ。……あ、そうそう、背が高いと言えば、うちの庭にひまわりが咲いててさ」
「ひまわり? 」
「黄色くて大きい花で背が高いんだよ」
「ほう」
 彼はこんな顔で花の話には逐一食いつく。たぶん時代が違えば花屋さんとかパティシエになりたがるかもしれない。
「長次よりも大きいかもな」
「そんな花があるのか」
「見たことないか? 昼間は太陽の方を向いてて、夜は大きく風に揺れてて」
「ないな」
「妹が亡くなったハムスターを庭のプランターに埋めたらそこから生えてきたんだ」
「ハム……スター……? 」
 話をしているうちに俺らは自然と落ち着いて眠りについてしまった。どちらが先とも分からずに。

2
 採点してたらまずいかなと、一応ノックしてから入る。中は静かなのにペンの動く音だけしていた。
「入っても良いー?」
 書類の森からもさっとした頭が少し動く。意図は分からないけど頷いたことにして中へ進んで伸ばしてた手でドアを閉めた。
 そういえば先日、先生が足で閉めてたドアだっけ? 似たような動きをどこかで見たような気がするけど思い出せず。細かいことは気にしないでおこうと頭を切りかえた。
「センセー、丸つけしてる? 」
「いや」
 転がっているガタガタのパイプ椅子へ逆向きに座り、背もたれを抱えた。
 室町の長次に膝枕をした翌日、ナカセンは戻ってきてたし、誰もいなくなったことには気がついてなかった。
 この人間を世界で俺だけが知っている。そんなのは、なんか嫌でナカセンが居る喜びを噛み締めるように、時間があればここに足を運ぶようにした。
「邪魔じゃないよな? 」
「たった今、入室を許可しただろ」
 メガネがズレてたのかナカセンは折り曲げた人差し指で直す。手には何本のもペンをむちゃくちゃに持って書類の束に書き込んでいた。これがてテストだったら確実に発狂する自信はある。
「年は離れているが、お前を友達だと思っている」
「え、誰が」
「私が」
 最近、メガネの反射に邪魔されずに目元が見えるコツを掴んだのだが、それがまたイケメンなのが、もったいないというか。流し目が特にヤバいぐらい似合う。そういえば、あっちの“センセン”も顔立ちは綺麗だった。あっちの方は切れ長で目元も少し涼しげで。
 こっちの先生は、俯き加減の顔から見上げてくると、ちょっと不気味。世間的には上目遣いって言うんだろうけど、これが魅力的に見えなくても俺のせいではないと思う。
 ナカセンは、不貞腐れるように視線を逸らし、顔を背けるけど、そっちには何もない。
「そーかも」
 俺もとぼけたフリをして、顔を天井に向けて答えた。まぁ、先生と生徒って感じではない。それだけの関係ならこんなに心配もしないし、遠慮なく話をすることもないだろう。だからって、この関係に名前がつくなんて思ってみなかったから、気恥ずかしさがあった。
 けど、まぁ、友達って言うんならそれも悪くないか。居心地は悪いけど、そのうち慣れていくだろう。『細かいことは、気にするな』って、どこかでばぁちゃん言っている気がした。
 しかし、小平太には、ナカセンに対して気にかかっていることが別にある。
 俺とはこんなに話すのに、校内ではそうでもない。
 どうもナカセンは、歴史の先生で大学で授業してたところ、親戚の介護で急遽帰省し中学で教鞭を執ってくれているらしい。
そのため、いずれ大学のポストに戻るので、部活顧問もやらず、先生同士の付き合いとか蔑ろにしている。との噂が生徒には広まっていた。
 実際、本人の話でも生徒指導をしろと言われるようだ。だが、こうやって引きこもっている様子を見るに、それすら無視しているっぽい。
 俺から見てもその点はマジで感じが悪い。
「みんなと上手くやれば良いのに」
 彼は眉をひそめて手を止めた。採点してたら不味いと思ってしっかり見てなかったけど、やっぱり訳の分からない難しそう漢字が並んだ書類だ。中学生だから分からないって言うより、大学で使うものかも。
「社会に出れば、そんなのは詮無きこと。どんなに礼儀正しくしてたって、嫌だと思う相手は何がなんでも至らないところを探して重箱の隅をつつく。けれど、清潔にすごし相手に礼を欠くようなことをしなければ、まともな相手にはそもそも嫌だと思われにくい」
 珍しく偉く長いセリフだ。喋るようになったと言ってもここまではなかったように思う。それはそうと肝心な内容が上手く頭に入ってこなかった。
「要するに? 」
「無理してよく思われようとか、みんなの為にと我慢する必要はない。自分として残すところは残しておけばいい」
「スカート短くて見えそうでも? 」
 なぜ、スカートの話をしたのか自分でもよく分かってなかったが、思い返せば小平太はなんだかんだ妹がいるせいか、留三郎たちとするその手の話題が得意ではなかった。と、スカートと口に出してから自覚した。それを察したのか、推測したのかナカセンは、指の間に差してた複数のペンを反対の手で取り払う。手を開いただけでは取れないようだ。
 ナカセンが手を机の上で組む。
「見えて困らないのなら。けど、誰にでも下着が見えるヤツを彼女にしたくはないだろ? 」
「そっかなぁー」
「自分だけに見せてくれる女の子」
 聞こえるか聞こえないかほどの音量でポツリと零された言葉に、小平太はガタッと椅子から立ち上がった。
「めっちゃ良い、それ好きかも」
「夏目漱石の『こころ』に出てくるお嬢さん」
……それはわかんねーけど。あ、映画とかは? TAKEYAで借りてくる」
 しばらく考えて、口元がニヤッとしたナカセンは言った。
……『鑑定士と顔のない依頼人』」
「おk、顔なしカンテイニンな。借りてくるわ。そだ、一緒に観るか? 」
 ナカセンは軽く首を横に振る。長すぎる前髪からちょっとだけ顔が見えた気がした。どうせメガネのレンズに、部屋のものが反射しただけなのだろうけど。
 小平太は駆け出し、図書室へ向かった。レンタル屋さんは学校が終わってからじゃないと行けないから。

「久しぶりだな、会えるのを楽しみにしていた」
 彼は本棚に抱えていた本を戻しながらそう言った。俺はすっかり机に突っ伏して寝ており、その背中に緑の服をかけられている。
「とか言って、結局、俺の身体目当てなんでしょ」
……そりゃそうだろ」
 目を点にした長次が答える。よく見れば彼は普段着ている緑の着物じゃなくて黒いノースリーブ。というか、俺に普段着をかけてくれていたらしい。
「やだ、すけべ」
 ニヤッと笑う小平太の頭を長次は軽く叩いた。目を閉じて、小さくため息を吐きながら。でも、「全く、こいつは」みたいな優しさすら感じる顔だ。実際、寝ていた俺に服をかけてくれてたんだから、優しいやつなんだろう。
 なんだか、友達って感じでいえば、“ナカセン”よりこっちの方が落ち着く。歳が近いってモノあるのかも。
「身体は身体でも、お前が入っている方に。実習のペアとして」
「そんなに怒らなくてもいーだろ」
 小平太は口を尖らせる。にやぁと口角を上げて不気味な顔をしていた長次は、すんっと元の顔に戻った。
 笑ってないと凛々しいが、笑うとあんなに不気味になるのが奇妙でならない。顔のパーツ一つ一つは良いのに。
 俺たちも友達らしく軽口を叩き合えるようになっていた。
 それは、長次と俺の身体の人、平子さんとも同じらしく。先日聞いた話だとこんな会話をしたらしい。
 忍務とはいえ、長子さんになる時に、えらくおっぱいとかお尻に詰め物を詰ていた。それも真剣な様子で古い手拭い割き入れていたとか。それが彼女の目にはあまりにも熱心に映ったんだとか。
 するとその様子を胡座をかいて見ていた平子が口を出す。彼女はとっくに男装済みだ。
「長次、胸の大きな女子が好きなのか? 」
 長子となった彼は裏声を発しながら、答えた。まるで美輪明宏のような声で。
「いや、小平太の大きさと寸分違わずにしてある」
 平子は瞬時に自分の胸を押さえて、目の前の女装男を睨みつける。
「“小平太”やらと共謀して触ったのか! 」
「そんなわけないだろう」
 残念なものでも見るような視線を送りながら、長次は馴れた手つきで腰紐を結んだ。しかし、この会話を聞いて“小平太”は腹を抱えて涙を流すほど笑った。なんせ、彼は真相を知っている。2人して一晩中、サイズや形を研究したのだから。彼らは時代が違えど、15歳の男の子なのだ。
 そんな仲良しの長次と向かうのは、とある合戦場。いや、もう既にあっちこっちで戦争してるのかよ。とか思ったけど、マジで危ないらしいのでだいぶ離れた森の木々から覗くだけ。
 とは言っても、結構、なんだかんだ逃げ込んでくる武士とかもいるから身動き1つできない。
僅かでも音を立てようものなら矢を番えて撃たれるらしい。
 最近、ナカセンのところに通っているからその辺も何となくニュアンスで理解している。落ち武者的なやつで武器持っててプライドもあるから面倒だと。
 長次は心配してたけど、役割があるらしく決まったポジションに分かれて戦を眺めてた。
 可能なら旗色を見てくれとも。何色が勝っても忍術学園には関係ないらしいが、どっちが勝ちそうなのか今日の動きを報告するのが、今回の実習らしい。
 見ている感じ、そこまで力の差や足軽の数も変わりなく拮抗しているようにしか見えない。それでも眺めていると、弁当を持った小さな子どもがいるように見えた。そんなはずは無いのに、メガホン片手に首から提げた弁当を売っている。まるで昭和の駅のホームに居そうな姿。
 確かめようと身を乗り出して見てた時だ。足元に何かが飛んできたっぽい。視線を戻して下ろせば、足袋のスレスレにほっそい木が刺さっている。不自然な細さの枝に首を傾げた直後、腕に何かが掠めた。
 これが矢だ。足元のも全部。目を凝らしても放たれた場所を見つけられない。逃げるべきか、いや、知らせないとと、振り返った時には長次が戻って来てて俺の肩を引き寄せた。
 もう一方の手から縄が放たれて、地面へ向かっていく。まるで自分の意思があるみたいにまっすぐと。
 草むらへ消えた先が一瞬光ったと思うと、長次は俺を反対の木陰に投げて言った。
「隠れてろ」
 余りにも険のある声に投げられた怒りも忘れて冷や汗が滴る。彼は今度こそ誰かを殺めてしまうのだろうか。
 それがどうしたと、この時代の人なら思うのかもしれない。拭いされない現代の倫理観を消えて草の中で息を潜めた。
 けれど、カサカサと動く草むらが彼らのいる場所だと分かる。ここに隠れていて大丈夫なのか。もしも、長次の身に何かあった時、自分は後悔する。ナカセンも恐らく彼の命と関係しているはず。じゃあ、やることは1つ。緊張する中、クナイって言うのを取り出しその手に握った。
 汗ばむ顔を草に沈めてゆっくりと近づく。放り投げられた場所が遠過ぎず近すぎなかったのも幸いして、彼らの姿はすぐに見つけられた。
 自分が加勢しても、きっと邪魔にしかならない。けれど、長次が言うように俺の登場が数日置きになったと言う話を信じるなら、必要な時にだけ来ているはずだ。必要な時、それは長次の命が危ない時だろう。
 目を背けないように腰を低くして見守ってたその時、彼の背後からもう1人の侍が現れて、刀を振りかぶった。今だと思った俺は飛び出し、背中で長次にアタックを決める。と、同時に胸の前でクナイを2本、両手で握って構えた。
 視界が地面に転がり落ちて、首を跳ねられたと思った。けれど、ズキンズキンと脈打つ胸の痛みは脳に届き、腕がまだ痺れている。
 長次は目を見開いて驚いていた。けれど慣れているのかすぐに俺を抱えて走り出す。撤退をするのかと思ったけど、俺の手からもぎりとったクナイで刀をさばいていた。これでは2人とも逃げられない。
 けれど直ぐにその脇に長い棒が突き出す。棒の先で何かが反射した。槍ってことは敵かと身を強ばらせると、長次と同じ服装の男が俺を受け取り、もう1人のヌンチャクを持った人物に渡す。物のように受け取ったヌンチャクの人も走って俺を連れていく。残された槍の人と長次の背中を見ながら目を閉じた。
 ドサッと地面の感触し、目を指で開かれ覗き込まれる。「相方に知らせてあるから、動くなよ」と言い切ってすぐにヌンチャクの人も俺を置いて走り去った。きっと長次の所へ行ったのだろう。
 手を持ち上げると血で染って真っ赤だった。肩は切られたからか、動かしにくくなっている。いや、なんか布で巻かれているのか。
それでもそれすら分からないほど、服もどこも赤く染って、地面にもじわじわと血の水たまりが広がっていた。
 あ、これは本当に死んでしまう。そう思った瞬間、ポツリと雫が頬を伝う。なんだ、雨まで降ってきて、もうダメじゃん。力がうまく入らない手で拭って、それが暖かいことに驚いた。手で覆っても止められずに次々にそれが顔を濡らしていく。鼻も熱を持って顔が全体的に熱っぽくなって、吐く息すら白く漂った。
 そうか、俺のだ。
 俺の涙が流れてんのかよ。身体の女性の涙じゃなくて、俺が泣いている。この場に誰もいないのをいいことに、情けなくも涙がとめどなく流れた。もう家族に会えなくなること。学校の友達にふざけられないこと、それにペットの顔もちらつく。何匹かは、あのひまわりの下に埋まってんだけどさ。
 真夜中に風に揺れてちょっと不気味な黄色く大きな花が脳裏に浮かんで、笑みが溢れた。どうせなら、自分もあの庭に埋められて、妹や弟に黄色くて大きな手で、手を振ってもよかったな。でも、ここで死ぬなら、現実世界じゃ原因不明で寝たきりで、もしかしたら父親が病院で延命させるかもしれないけど、目覚めることも出来ずに。……死ぬんだろうな。
 友達だとか言ってたけど、お葬式に“ナカセン”は来るのだろうか。来るとして何て名乗ってくるんだろうか。そんなことを考えてたら、死ぬほど痛いのに笑いが止まらなくなった。
「忍ぶ気はないのか」
「あんたが言えたたちではないだろ」
「おかげで、旗色が変わった」
「ほれみろ」
「あほ」
 ストレートな罵倒で、顔を上げれば長次が小さく息を吐いた。久しぶりにその顔を見たな。俺の口元を指で拭った。それから、俺の額から竹に入ってた水をかけて、懐から出したガサガサの布で拭いてくる。えっと、これは手拭いだっけ。さてはこいつ、現世だったらハンカチとティッシュ持ち歩くタイプだな。
……まだ、居てくれてよかった」
「どういたしまして……
 彼は俺の腕を掴むと、それを肩に回してヒョイっと軽々と抱えて歩き出した。いつものように木の上をぴょんぴょんしないでゆっくりクマみたいな動きで歩いていく。急いで運んでくれればいいのに、このまま死なないことを祈るしかない。脱水でぼーっとする頭でそう考えているうちに、景色は回って暗くなっていく。
 目を覚ますといつものように、見慣れた自分の布団の上で目を覚ました。胸に手を当ててみれば、落ち着いた心臓がトクントクンと動いていた。
「お兄ー、朝や。って、うわっ目真っ赤やん! 」
「どした? にいちゃん、失恋?! 」
「えっ、何? マジやん。おい、バリカン、バリカンもってこい」
「にいちゃ、いたいの? 」
「にいに、だいじょうぶ? 」
 人の部屋を覗きに来た兄弟が順繰りに騒ぎ出して、小平太は額に青筋を浮かべながら息を大きく吐いた。随分と賑やかな我が家に感謝すると同時に、込み上げるイラつきに苛まれて。
「うっさぁい!! お兄ちゃんの部屋入るなよ! 」
 ここぞとばかりに、入って漫画を持ってくやつや、布団の上に飛び乗るやつまで出てきて、騒然となった。さりげなく末の妹がベッドの下に入って出てこなくなって、仕方なしに妹と弟に目隠しをしてベッドを持ち上げる羽目になったし、踏んだり蹴ったり。秘蔵の本の山も崩れたり。
 そんな話をしたら、自称友達の“ナカセン”は涙をこぼして笑ってた。
 今回も俺は結構頑張ったと思うんだけどな。1人、そうは思ってない奴がいる。なんだってお前が労ってくれないもんか、俺には信じられん。

3
「流石に、これどういう状況なんだ」
 怒気の孕んだ声に、長次は馬でも落ち着かせるかのように両手を胸の前へ上げて押し留めようとする。されるほど怒ってもないが、正直、体勢からしても気まずさが優って、固まって動けもしない。
 なんせ俺は、長次に肩を抱かれ、その逞しすぎる胸にしなだれかかっている。ロマンチックにも池? みたいなのが目の前に広がり、月が浮かぶ水面を見ながらロッジのような場所で座り込んでいたのだ。2人っきりで。
「言い逃れのしようもないだろ」
「そう言うなら、自分の右手を見てみろ」
 言われた通り小平太が長次の背中に回していた手を見ると、中指にリングの金具を通してしっかりと槍の先っちょみたいなものを握りしめていた。そういやクナイって言って山登りやざんごー? 堀に使えるって、長次が教えてくれたっけ。今度、ナカセンにざんごーっての何か聞いてみよう。
「つーか、なんでこんなものを」
「暗殺でも企んでいたんだろ」
 平然と言うけど、そんな女の肩を抱いて池を眺めにくるもんなのか? 忍びって趣味が悪いんだなと小平太は腕を組んで頷いた。そういえば、傷や痛みが無い。アレからも日が経っているのか。
「そう言うわけだから、安心しろ」
「できるか」
「細かいことは気にしないんじゃなかったのか」
「おばあちゃんの口癖なんだよ」
「あぁ、あの“ようがし”のおばあさまか」
「そんなタマじゃないって」
「つーか、ここどこ? 」
 長次は辺りを見渡し、俺の耳に手を添えて小声で言う。
「月見亭」
「名前からしても良い感じのデートスポットだな」
 ジト目で見るが、彼は不服そうに目を細めた。気のせいか、どうも前に見た学園内と違ってあちらこちらに御座が目立つ。
「“でぇと”と言うのが何となく察するに……逢い引きだとしたら、もっと良い場所がある」
「へぇ」
 随分と勿体ぶった話し方をする。よほど自信があるとみた。注目していると長次は含み笑いをしながら答える。
「温泉だ」
「あーね、混浴で裸が見放題と」
 やっぱりそういう下ネタか。こいつも大概そういうの好きだよな。なんて思ってたら意外そうな顔をされた。長次は俺と話しているって分かっているはずなのに。
「それは知らんが、疲れも癒せて宿もあって、料理にも力を入れているらしい」
「そっかー、温泉ってこの時代にもあるんだな」
「シュワシュワと自然に泡が出る温泉が人気だな。他の湯よりも疲れが癒されると」
「炭酸ガスのバブかよ……天然温泉で……加熱されたお湯の中に炭酸重曹? 」
「どうした? 」
 考え込む俺の顔を心配そうに覗き込む。そんな顔もできたのかと思ったが、俺の予想が正しければやばい気はした。
「お酢ってあるのか? 」
「保存に使うやつか、あるぞ」
「その温泉に行く時、絶対入れるなよ低温だけど危ないからな……特に玉」
「たま……
「えっと、子孫繁栄を諦めることになるから」
「種が死ぬのか」
 意味深な顔をして小平太は頷いた。この方が伝わりやすいだろうと。ショックのあまり無表情に長次は懐から竹の筒を取り出して、ことりと置いた。持ち歩いてたのか、お酢を。

 戻ってきたって言うか目を覚ましたというか。忙しさすら感じる現代で俺は困惑した。夜は向こうで昼はこっちで。俺の脳はちゃんと休めているんだろうか。
 しかし、それよりももっと気がかりなことがある。
「なんか俺、役に立ててないって言うか……足を引っ張ている的な? 」
 驚いた表情をしたかと思うと、ナカセンは首を傾げてクククッ小さく笑った。
 放課後、部活もない俺は入り浸るようになっていた。
「なんだよー」
「お前はお前の出来ることを武器にすれば良い」
「そんなもんないしー」
 ここに来るようになるまで、放課後の部活の音に追い立てられて家に帰ってた気がする。吹奏楽の練習の音、ダンス部の音楽。運動部の掛け声、校舎の中のざわめき。
 遠くて懐かしくて、ちょっと寂しい。
……誰にでも出来ることだって、それを知らなければ誰にも出来ないだろ」
 過去に行っていることは内緒にしている。けれど、あれほど時代考察に協力してくれたのだから、なんとなく察しているような気がする。けど、信じてないんじゃないけど、無理に口を出さないって感じ。
 大人として子どもの戯言を言う自分を見守ってくれているのかもしれない。
「それもそうだな」
「そうそう、『細かいことは気にするな』」
「ばあちゃんと同じこと言ってる」
「そうか……
 お、不服そう。顔が明らかに変わるナカセンに笑いつつ。ふと、ナカセン越しに窓の外を見ると、夕焼けが赤よりも紫で、うっすらと月が見えた。
 前にも室町の方の長次が言っていたかも。
「紫雲の向こうに月が見えて綺麗だった」って。
 俺の目にも紫の雲の向こうで金色に光る月が見えた。神代の月と言うぐらいだら、ずっと変わってないんだろうな。
「紫雲の向こうに月があるって綺麗だ」
……あぁ」
 穏やかな声で答えて頷くナカセンに、なんでかホッとしながら帰宅した。その日も夢を見た。この頃、大変なことは無い。夕焼けを見てたナカセンの声のように穏やかな時間だけが流れているように思っていた。

「日本史の教科書貸してくれる? 」
 翌日、いつも通り昼食をとっていたらいさ子が来た。
「おう? 放課後で良いか? 」
「いや、5時間目の授業だから、昼休み中だと助かるかな」
「助かるってか、今渡すしかねーじゃん。はぁ、取ってくるからここで待ってろ」
 ため息をつきながら立ち上がった彼にいさ子は両手を合わせて「すまない、留三郎」と拝んだ。
「ん? いさ子のクラス、日本史って午後だっけ? 」
「え? 小平太もそう思う? 僕も変だなーって思って。でも、クラスのみんなも次の日本史が5時間目だって言うし、貰ってた時間割にもあってさ」
 いさ子が取りだしたファイルには可愛らしくシールでデコられた時間割が挟まっていた。見れば確かにちょんまげの猫ちゃんのシールと共に今日の曜日の5時間目に日本史と書いてあった。
「パソコンの字だけど、なんか違う気がしたんだよね」
 小平太はそれを見て青ざめた。ポケットにはあの日の飴を入れっぱなしにしている。取り出して見ていると、立ち上がってた留三郎もいさ子も覗き込んできた。
 その3人の目の前で、飴がうっすらと透き通って消え始めた。個包装で中身の見えない飴なのに、琥珀糖のように不透明になっていく。
「な、なんだ?! 」
「蒸発って訳じゃないよね……
 消える飴に腰を抜かした留三郎と、触ろうとして小平太の手に触れたいさ子が驚きの声を上げる。小平太も声は出ないけど驚いた。昨晩もタイムスリップしたけど、そんな危機も変化もなかったのに。
「いさ子、日本史の担当は誰センセ? 」
「えっと。あれ、誰だっけ? 今日の3時間目にあったはずなのに、マスクとメガネの……あれ? 」
 ナカセンがやばい。けれど、これはもしかしたらまだ間に合う。小平太は何も無くなったこぶしを握りしめた。それだけ分かれば、やれることがあるから。
 一人、いさ子の時間割を見ていた文次郎が首を傾げる。
「諸泉? 山本? 雑渡? 立花先生は塾の先生だし、なんで思い出せないんだ」
「どっちにしても3時間目で受けてんなら、教科書あるだろ」
「それが、何故か僕の机に無いんだよ! 日本史の教科書」
 いさ子がそう言って、文次郎から時間割を採り上げた。直後、文次郎も顔を上げて小平太の方へ向ける。
「小平太とこの先生は……小平太? 」
 小平太は走り出していた。
 念の為にいさ子睡眠薬を用意してくれと頼んでから。
……っても、睡眠薬なんてそんなすぐに作れるかよ。なー? 」
 いさ子もただ事じゃないと真剣な顔をして、留三郎言う。
「土井先生探して理科室に連れてきて。僕、先に行って待ってるから」
 言い終わらないうちに彼女も理科室へ走り出す。留三郎と文次郎もお弁当も片付けずに、彼らが走り出した廊下に顔を出した。留三郎と反対側を見てたいた文次郎が指を指す。
「あ、土井先生いた! 」
「職員室に入っちまう、テスト近いから生徒はいれなかったよな」
 顔を見合せた2人も慌てて教室を出て走り出した。

 どうしてか分からない。けど、またあんな喪失感感じるのは二度とごめんだった。
 小平太は社会科準備室を開くなり、息が上手く吸えないまま声を出す。
「センセー!! 」
 思いっきり走ったのはいつ以来だろうか。下を向いている顔から汗が落ちる。夏も近い今の時期、滝のように溢れて止みそうにない。
「七松くん……
 聞きなれた声に、小平太は一瞬、身構えた。顎の汗を拭いながら顔を上げると、不思議そうに見つめ返すナカセンが居る。
 しかし、彼もずっと見てたであろう、持ち上げられた手は、飴のように透き通っていた。
……センセー消えちゃうのか」
「かもしれない。こんなこと初めてだが」
 ナカセンがそう言っている中、小平太のポケットでスマホが震えた。小平太が取り出すと、留三郎から『屋上に』とだけメッセージが。
 小平太はナカセンと顔を見合せると、頷き「屋上に来てくれ」と消えそうな手を握った。
 屋上に来ると、呆れた顔をした土井先生と留三郎がいさ子を見下ろしていた。流石に土井先生と目が合うと、ナカセンも軽く頭だけで会釈をする。
 小平太はいさ子の方へ駆け出した。
「なんで屋上? 」
「ガスが籠るの良くないんだと」
 いさ子の代わりに留三郎がそう言った。顔はいさ子の手元に向いているから表情が分からないけど、声がいつもと違う。
「それ、飲んでも大丈夫なのか? 」
「即席だから、命の保証はできないけどね」
「こら、そんなもん作るな」
 と叱るものの、土井先生は腰に手を当てて首を鳴らした。本気にしてないようで、見守っているだけと言った感じだ。留三郎の方を見ると先程よりも青ざめていた。目が合うとすぐに話だす。
「文次郎が目の前で姿を消した」
「え、文次郎が?! どうして? 」
「でも、それが……
「あぁ、私も見てたが、何故か文次郎は廊下に戻ってて、私たちに背を向けてそのまま向こう側はに走ってたんだ」
「消えた訳じゃないのか……ならいっか」
 安心して詰まってた息を吐くと、気まずそうにしてたナカセンが尋ねる。
「何が起きてるんだ? 」
 その手は、いや、もう既にワイシャツの袖まで腕も透けて来ていた。土井先生もそれに気が付き、顔をしかめる。
「俺にもよく分かってないけど……
「出来た!!! おわっ」
 説明しようとした時、勢いよく立ち上がったいさ子の頭が肩に当たって小平太はバランスを崩した。
 その直後にぶつかりかけた土井先生が小平太の手を掴んだ為、そのまま遠心力が働き、より屋上の端の方へ身体が吹っ飛ぶ。土井先生の手足が長すぎるのも要因だ。
 叫んだ彼女は、痛みから手にしてたフラスコを手放し、それを落とすまいと飛び出した留三郎がフェンスに激突した小平太にぶつかる。
 ナカセンが「あっ」と言葉を発した時には、フェンスがちぎれて小平太の身体は屋上の“外”に。
 咄嗟に屋上のフェンスを掴んだ土井先生が長い腕を伸ばしたが、指先は小平太のシャツの裾を掠めるだけ。空中に身を投げ出された小平太の上からひっくり返ったフラスコの中身が降り注ぐ。
 眠ろうとしてたけど、この眠り方は想定外だった。さすが不運大魔王、善法寺 いさ子。
 永眠を覚悟して、目を閉じたその時、ガックンと身体揺れる。
 目を開くと苦悶の表情をうかべたナカセンが小平太の胸ぐらを噛んでいた。もう彼には手がない。その分、足で折れたフェンスをひっかけ、その腰を留三郎といさ子が掴んでいた。みんな、しゃがみ気味で踏ん張っている。まるで絵本の中でカブを抜くおじいさんのようだ。
 汗が滴る顔には普段かけているメガネはなく、当然、マスクを引き下ろされている。どうやって引き降ろしたのか分からないけど。
 全貌を顕にしたナカセンのご尊顔に合点が行く。蓋を開けてみればなんてことは無い。そういう事かと小平太は納得した。
 助かった。まだ引き上げられてないが、ナカセンと反対側から手を伸ばす土井先生が見える。すっかり安心すると眠気が襲ってきた。微睡みよりも強制的なやつ。
 腕にかかった出来たての睡眠薬を舌で舐めて口に入れ飲み込んだ。
「じゃ、行ってくる。中在家先生! 」

4
「で、来たぞ、長次! 」
……………………何が“ で ”なんだ? 」
「ピンチだろ? 助けに来た」
 長く深いため息を吐いた長次は、クマの酷い顔で言う。服もいつもと違って少し土がついてくたびれていた。辺りを満たすと、現代の時間と違って、夕陽が沈みきっている。僅かに美味しそうな香りが鼻腔に届いた。
「なんでこんな時に……
「なははは」
「まだ昼のうちだ」
「細かいことは気にするな」
……わかった」
 分かるんだ? と驚いたが、小平太は平子の顔におくびも出さなかった。彼も疲れているのだろう、普段よりも言葉少なく頷き門の外へ出ていく。
 つられて出てみれば、門のところには確かに『忍術学園』と表札が出ていた。
「名乗って良いのか? 」
 親指で後ろの表札を指さすと、苦虫を噛み潰したよう顔で口をへの字に曲げる、明らかに嫌そうな顔である。
「外しておこう」
 そう言って門から取った長次は、片手で投げて門の内側に入れた。砲丸投げみたいに放物線を描いてとんでいく。
 中から「いてっ」と女性の聞いたことのあるような声がしたが長次は気にとめず歩き出していた。その後を追うと、唐突に足を止めた彼が小平太を小脇に抱え、林の方へ跳んだ。木の上をいくつか経由しながら移動しながら彼は説明し始める。
「学園が襲われている」
「いつ?」
「現在」
……現在?! 」
 そう聞き直したところで小平太は舌を噛み、口の中に僅かに鉄の味が広かった。すまん、平子。もしも、ファーストキスをするなら別日を奨める。なんて思ったところで伝える手段はないけれど。
「あぁ、近所の城が数日前から戦の準備をしていた。まさかと警戒していたが、完全に標的はうちで、徹底抗戦となる」
「仲悪かったのか? 」
 長次は首を横に振った。それに合わせて動いた視界の端にも見なれ顔に似た姿を見た。にこやかに笑う栗毛の青年は片手を振る。恐らく、姿が似ているから、門の内側で悲鳴めを上げたのも彼女だろう。
 その隣にこの時代でも、これまた見覚えしかない男が一緒に走っていた。というか、忍びとはいえ、よく木の上を跳んで移動出来るもんだと感心する。
「毎年6年生が学園長の認めた手紙を殿の元へ忍び込んで送り込み、手紙と試験で持って警告している。いつでもその寝首をかける学生を毎年排出しているから、不要な戦を近辺でするんじゃないと意味を込めて。だが、今代の殿はそれを周囲にいえず、家臣や近隣の城に臆病者と罵られたらしい」
 学園側が脅してんのかい。とも思ったが首を捻った。脅されているならなぜ攻撃をしてくるんだ?
「ところが周囲の圧力や近辺の勢力図に、乱心した殿は根源である忍術学園を潰すことで威厳を保とうしたらしい」
 声がして、視線を向けたところで6人は足を止めた。先程、声がした方を見れば、文次郎にそっくりな男が目の下に幾重のクマをこさえて立っていた。その少し上の枝にしゃがみこんで姿を見せない忍びが1人いる。
 留三郎に似てるヤツや、いさ子そっくりな女子生徒。長次を含めると6人。
 立ち止まって見つめる先には、視界が開けた草地が広がっていた。だが、今は黒く染っている。夜ってだけではなく、武装した男たちが待機しているせいだろう。
「敵はざっと40人ぐらいか」
「数えるのが早いな」
「いや、計算」
 小平太が説明しようと指で指し示そうとして、不思議な言葉を聞いた。
「それが未来の算術か、習いたいものだな」
 振り返ると、視線がかち合った長次はコクッと頷く。未来と言ったのは文次郎にそっくりな彼の同級生。他のメンバーも何も言わずに頷いた。
 長次が伝えてあるのだろう。小平太が未来の人間で精神だけ入れ替わることを。
 木の上から見下ろすと、足軽の中には銃を担いでいるものもいる。
「弾丸は5匁ぐらいか。風が吹いてるから、えっと」
「18.75gか。向かい風で距離はせいぜい200~300(m)程度だな」
「やはり計算早いな、小平太」
「兄弟が多いからな、ケーキとか均等にわけないとうるさいんだ」
「けーき? 」
 いさ子は不思議そうに首を傾げた。どことなく誰かに似ているなと小平太は思ったが黙る。
「未来の“ぼうろ”らしい」
「そうなのか、食ってみたいな」
 長次に説明されて、たった今、木の枝に降りてきた留三郎が同意をする。決してそんな日が来ないとわかっていても、そう自然と口にしてしまう。それが人間らしさだと長次も思った。
 決して叶わぬ願いでも、求めてしまう。それは“ケーキ”だけではない。小平太が暮らすような“平和な日々”も“豊富な書物”“世界中を学べる環境”に“豊かな食”。どれも羨ましく輝かしい、憧れる未来だ。
 そして、何より“誰かを愛する自由”。
 口当てを戻して、長次は頷く。それは今が繋がった先にあるものだと。
「行くぞ」
 仙子の合図で全員各方面に散った。

 最終試験として今回の忍務は、後輩達ににバレないように追い返すこと。故にタイムリミットはトレーニーな後輩たちが起きてくる明け方まで。1~4年生はまだ戦闘や実戦経験が浅いからという理由で6年生を中心に、5年生と協力して行うようにとのことだそうで。
 その話を長次に聞かされて、小平太は自身の懐のものを全て地面に並べてみる。どれがどんな武器か未だに把握しきれてない。
 下手に手に取って事故っても怖いしと、毒薬や火薬の類などは長次に預けることにした。
 小平太が残ったクナイを手に取ると、長次はやんわりと手を押させて首を横に振る。
「今回は“不殺”とのことだ」
「ふさつ……そっか、殺しは厳禁だな」
 どこかで仙子が聞いたら卒倒しそうな単語だと、長次は思った。けれど、まだ伝えないとならないことが残っている。
「どうすっかなー」
 小平太は顎をさすって辺りを見渡していた。長次は頷き、溜息を1つ吐く。
「あと、伝言を預かっていた。『お前が予想する動きはやろうと思えば身体が覚えているから、思いっきりやれ』と」
 小平太は神妙な顔をして、自分の胸に手を当てる。それは、鎖骨の上の首のそばだった。もう胸を触ろうとはしていない。
「平ちゃんから? 」
「あぁ。彼女ならしっかり鍛え上げられた立派な忍びだ。やりたいことがあれば言ってくれ。私も協力する」
「? 」
「三人力だと言うことだ」
 長次は力強く頷くと、不器用ながらも笑って見せた。意外なことにウィンクは完璧にマスターしていた。きっと練習したに違いない。小平太は吹き出しそうになりながら、思いついた作戦を口にして説明し始める。
 そんな彼の横顔を見ながら、長次は願ってしまった。
 お前は誰も殺さずに帰ってくれ、未来に。長次は嘘をついた、不殺など言われていない。そんなことが無理なんて百も承知で小平太に嘘をついた。
 自分たちはもう戻れない時代の激動に飲まれて、自らこの道を選んだ。けれど彼は違う。巻き込まれているだけなのは最初から分かっていた。
 出会ってから苦難を乗り越える度に気がついていた。おそらく、彼は自分たちの危機に現れて彼のいる未来に繋ぐために奮闘させられているんだと。
 だから、おそらく、これが彼と居られる最後なんだろう。そんな予感から、長次はなるべく彼といられる作戦を仙子にも申し出た。いずれ来ると思ってた友との最後の時間がこんな形になるとは。
 これが最後ならば、踏ん張れる。そばに居れば、肩代わりぐらいなら出来るはずだから。彼がその心で彼女の手を汚さないように。
 長次は愛用の武器が入った懐を握りしめた。
「川にはカッパが出るから気をつけろ」
「カッパ? あーなるほどな。確かに川底は陸からちょっと離れると、ガクッと凹んでいるし。滑りやすいから一気に沈んじゃうよな。そうか、それがカッパに引きずり込まれたように見えるのかー」
 妖怪って案外そういう話だって誰かが言ってたな。よく水が染み込んだ石を選んで持ち上げる。平たくて板みたいで層があるとなお良い。
「穴空いた? 」
「クナイで掘っておいた。あまり深くには出来ないけれど。広げなくて良いのか? 」
「落ちたら不味いだろ」
「落とし穴じゃないのか」
「落としてどうする……深く掘れない? 」
「ここは温泉地帯の端に当たる。近場で吹き出しているところこそ無いが、掘れば染みでる」
 掘ってもらった穴は、普通のものではなく、左右から空気の通り道として竹を穴の角みたいに斜めに刺してもらっている。丈の先を地面から出しているのに訳があった。
 中で火をおこしてもらうと、当然、煙が竹から出てしまうけど。
「スチールウールなら炎も煙も出ないけど、そうはいかないし」
「石を熱してどうするんだ? 」
 長次は、先程持ってきた河原の石を穴の上に乗せたことに疑問を持っているらしい。普通はそうか。
「勝った時の打ち上げ焼肉用」
……は? 」
「うそうそ! 打ち上げってのは本当だけども」
 ある程度熱した辺りで竹の上にも石を置いて、あたかも普通の石のように置いた平たい石付近も土で埋めて紛れさせる。火は消さずにを焼き続けた。
「本当は消さないと、ガチで危ないんだけど」
「もうすぐ来る」
 長次が小平太の腹へ腕を回し、小平太も彼の肩へ手を回して木の上へ隠れる。
「来るのが忍びならバレるだろうけど」
「ただの兵士なら……ケガしないと良いな」
 2人が呟いた直後、ガシャガシャと鎧の音がした。そこまで重装備ではなくても、走ってくればそれなりに音が鳴る。
 長次は、小平太から手を離して縄鏢を構えた。
 石を埋めた付近を足軽が通りかかったその時、足元で弾け飛ぶ。驚いて腰を抜かした足軽たちに容赦なく縄が絡まり締め上げていく。
「もそぉ」
 長次が力強くその縄を引くと、辺りに目を回した足軽たちが積み上がった。
「一瞬の隙を作ればどうにかなるなら、これだと思ってな。合宿の時に、いさ子に教わったんだ」
……いさ子? 」
 長次が不思議そうに首を傾げる足元で、「あっつ」と手を跳ねさせる足軽がいた。小平太も懐から竹筒を取りだして水をかけて、しゃがみ込む。
「一体何が起きたんだ」
「ごめ……すまんな。石の中の水が爆発して、砕けた石が砕け飛ぶ時限装置だったんだ」
「だから河原の……
 小平太は指を鳴らして頷く。
「そうだ。まだ意識あるみたいだし、この兵士にお願いしておこう」
 他の足軽たちが気絶していることもあってすんなりとお願いごとは聞いて貰えた。
「いつの間に、そんなたくさんの罠を」
「嘘も方便ってあるだろ。この学園近くの森には様々な罠があるから死にたくなければ迂回するようにと」
「それで迂回をすると、こちらから丸見えでい組が対応するわけか」
 長次は腕組んで唸ってたけど、もしかしたら化学が好きになってんのかもしれない。意外とそっち系の本が少なかったからなぁ。化学を知る機会と別れるのが名残惜しいと思われてたりして。
 変に教えても、パラドックスとかあるからダメだろうな。
「いつまでボンヤリしている、次の仕掛けをするんだろ」
「そうだなぁ、どうしようか。あ、お酢あるか? あと、鍋! 」

 足音が聞こえて作業を終えた2人が立ち上がるとその背後に立っていた足軽が高々と槍を持ち上げブンブンと回している。
「我こそは一番槍! 勤続年数20年が推して参る!! 」
「なに?! 誰か殺ったのか?! 」
 驚く小平太の前に長次は手を出し、彼の動きを止める。代わりに自身も縄鏢をブンブンと回して身構えた。
「やるか、若造」
 相手がそう言った直後に歩き出してすぐ、足を滑らして顔面から地面に倒れ込んだ。長次は回転させるのをやめてすぐにしゃがみこんで脈を図る。
 小平太の方を振り返ると首を横へ振った。
……若造って、こんなヨボヨボのじいさんからしたから大抵の人間、若造だろ」
 小平太も腰に手を当てて見下ろす。長次が構えてた理由も良く分からないが、興奮しすぎて足を滑らせて気絶しただけらしい。
「一番槍って言うからてっきり誰か仕留めてきたのかと」
「少なくとも6年生はありえないな」
 長次の言葉に、森で合流した生徒たちの信頼を感じながら、小平太は空を見上げた。この調子なら、俺が無理はに来なくても良かったんじゃないかって。
 午後の体育、出たかったなぁ。今月はバレーなんだ。
 出遅れの爺さんを丁重に他の伸びている兵士じゃなくて、足軽とまとめて森へ転がしておいた。暴れると面倒なので口とか体を縛り上げて。
 それから長次に手頃な穴を掘ってもらって源泉に近い熱々の炭酸温泉を運んでもらい、足軽から拝借した鉄鍋で小平太が熱したお酢を入れる。
 こっちは普通に穴なので冷めていく。
「落とし穴ばっかだな」
「痕跡も消しやすい。彼女が得意にしてた戦略だ」
 熱したお酢が温かいうちにと適当な木の棒で混ぜながら、小平太はからかって言う。
「夜のいけないレッスンか」
「意味は分からんが、お前が思うような邪なものではない」
 否定はするものの、彼の耳が赤い。長次は奥ゆかしいのか大胆なのか分からない時がある。が、ナカセンの先祖には間違いない。
「既に、この平子の身体も妊娠してたりして……
 そう言うと、ますます、彼の耳も頬も赤くなる。手を出してんじゃないか。俺が出てきたらどうすんだよ。幸い、出てこなかったから良かったものの。
 その時、瞬時に小平太の頭で点と点が線で繋がった。やっと、“ナカセン”の正体を彼は理解する。
「そうだったのか、だから消えたり現れたり……なはははははっ」
「どうした、気でも触れたのか?! 」
「そうかもしれない。いや、“細かいことは気にするな! ”」
 小平太は満面の笑みを浮かべ豪快に笑うと身構えた。その目はしっかりと事実を見つめて煌々と輝いている。
 身震いをした長次は、喉を鳴らした。
 その笑い声が引き金になったのか、草むらから二つの影が飛び出す。
 瞬時に長次は俺の前に立って、縄鏢を険しい顔で構えた。
「忍びだ」
 2人も来るとは想定外だ。しかし、長次は巧みに縄の先の鉄のやつで攻撃を弾き、応戦する。
 確実に俺を狙っているようだから、わざと両手を上げて悲鳴をあげるフリをしながらそこいらを縦横無尽に走り出した。
 長次と一瞬だけ視線がかち合ったが、記憶力はある方だ。1人が完全に長次に飛びかかり足止めにかかったところで俺も背中に持ってた棒を構える。
 棒に相手の体重のかかった武器が突き刺さり、そのまま押し切られると踏んだ小平太は、相手の足を払った。
 巻き添えを食わないように手を地面について飛び去る。
 格ゲーのように思ったままに動く身体に満足しながら木の傍まで逃げた。
 なるべく反撃はせず、この一瞬にかけている。相手の姿が地面へ消えて水飛沫が宙へ舞うのを見守った。
 そう、彼が落ちたその場所に落とし穴を仕掛けて置いた。先程の液体を冷やしいた穴がそれで、反撃をしなかったのは、相手を落とすまで衝撃が液体に加わらないようにするため。
 落ちた敵が驚愕する。彼の体に透明な氷のような塊が次々と広がり、半透明になりながらまとわりついたのだから。
「氷なのに熱いだと?! 」
「忍法、化学反応の術! なんてな」
 訳の分からない術に、長次になんか鉄の重りを振り回して襲っていた方の忍びも固まった。未来の知識ってやつだからあまり見られたくはないけど、この際、仕方ないだろう。
「次はアンタだな」
 忍者は悲鳴を上げつつも仲間に拾われて自陣へ逃げていく。一瞬の隙を突かれる形で去られたので伝言も頼めなかったけど、これでこの森が罠だらけというのに信ぴょう性が持たせられたことだろう。
 実際、罠があるのはここぐらいだけども。
「こんな幻術のような術が、幻術使いか? 」
「なははは、忍術や幻術と違って誰にでも出来るさ。こいつは“熱い氷”と言って、化学反応だ。未来の知識ってやつだな」
「忍術だって、知識の吸収と鍛錬を続ければ……それにしても」
 彼は恐ろしいものを見るかのように顔をしかめながら見下ろす。科学の嫌な一面を見せてしまったのかも知れない。
「こんなことになるのか……
「長次、温泉には気をつけるんだな。例えデートではしゃいでても。と言っても、本当は熱したお酢にベーキングソーダ(重曹)を入れるんだけど……
 目の前の草むらが揺れたと思ったら、手裏剣が飛んできて小平太の頬を割いた。咄嗟に顔を抑えてしゃがみ込み、構える長次から目を逸らして目を伏せる。
 長次の舌打ちが聞こえて、狙いを外して逃がしたことを知った。当たらなくてよかったと思う。あのまま反射的に彼が攻撃してたら、一生後悔をするだろうと思った。けれど、小平太は安堵したことを知られないように、その場にわざと音を立てて腰を下ろした。
 この感覚はこの時代には通用しない。だからこそ、彼は強いと小平太も尊敬していた。
 じゃりっとしゃがむ音がして、顔を上げると長次が俺の手を掴んで引き剥がす。
 僅かな土煙の中、長次は小平太の頬を確かめて唇を噛み締めた。怒っているのか泣きそうなのかよく分からない顔をして。
「“夢にしては最悪の部類だ”」
「そりゃどうも」
 小平太もぶっきらぼうに、答えて痛む傷をおさえた。お揃いって流行ってないんだな、室町時代。

5
 その時、長次はガバッと顔を上げる。
「あの、狼煙は……
「なんかヤバいのか? 」
 こくりと頷き、長次は深くため息を吐いた。
「殿様の説得のために、直接は組が本陣の殿の元へ行ったのだが説得(脅迫)が失敗したらしい」
「いま、当て字がおかしかったな」
 そう聞き返す俺の方を見ようともしないで、長次は背を向けて立ち上がる。土のついた手で頬を擦った。目に入ったら失明しちゃうだろうに、そんなにゴシゴシと。
「どうすんの? 」
「森を焼く」
「焼けば終わんのか? 」
 返事は無い。意固地になっているだけだ。嫌なことが続いて、なんもかも嫌になって、1番手放したくないものを手放して取り戻そうとする。虚しい願掛け。
 何となくわかる。ひまわりの種を口いっぱいに頬張るあのハムスターが可愛くて可愛くて仕方がなかった。
 けれど、今は庭で花になって揺れているだけ。頬を撫でてもきっと嬉しそうに目を細めることもない。
 大事なゲームを捨てても、落ち込んでも取り戻したいものは取り戻せないんだ。妹が泣きじゃくる中、抱きしめながら思った。
 長次、俺、そういうの好きじゃない。
「火薬をしかけてぶっ飛ばそう」
「その縄を使うのはやめておこう」
 彼が握りしめていた愛用の武器を見下ろす。 
 薬草を頬に貼って軽く包帯を巻いてもらった。いさ子が居たら幾分かマシだったと言われたけど、カエルの話を思い出して身震いがした。
「やっぱり、油で線を引くってのはダメか? 」
「それ以外の縄があって良かった」
 意見は会わなかったけど、俺は彼に逆らうとかそういうのは違うと思った。長次が現代人の俺なかんかすぐに亡き者に出来るとかそういうのでは無い。少なくとも、長次はこの身体に傷を負わせたくはないだろうし。
 頬の傷に目をやる度、死ぬほど悲しそうな目をするのを見て、こっちも心が痛くなる。きっと自分の頬の傷に思ったはずだ。自分が男でよかったと。
 優しいやつだ。だからこそ、怒りに狂いかねない。
「火をつけるぞ」
 足軽の持っていた縄をいくつも繋いで、最大限の長さの分だけ森から離れた。
 火を持っていた長次が縄を手にそう言った。
 小平太はただ頷き、ズキズキと痛む頬に顔をゆがめないことだけに専念をする。
 待てど暮らせど火がついた縄が森まで火を運ばない。どころか、森の手前で火が消えた。
「先程の足軽が濡れた草履で踏んで行ったからか」
「あちゃー、想定外だな。雨降ってないのにぬかるんでたからなぁー」
 いつもの調子に戻ってきたと安堵する。間違いなく怒りが薄らいで、それどころでは無い事態だ。
 俺たちとしては、火薬でもなんでも大きな音とか何かしら注目を引いて、敵兵たちをビビらせたい。
 正直アリを潰すような個人戦の限界がある。砲弾などを使えば早いが、忍者だから目立ちたくない。まだ火薬の爆破なら誤爆とか単なる火災と言って後輩たちにも言い訳できると踏んだが、完全に最終手段だ。
 くだらない争いをさっさとやめたい長次と、そこは意見があっている。
 黙りこくる小平太の方へ振り向き、長次は真剣な口調をしてくる。普段から冗談が冗談に聞こえない声なのに。
「私なら敵の目をかいくぐって、あの火薬に火をつけられる」
「いや、焼けちゃうだろ。あの火薬の量だし。火が勝手に着けば良いけど、こんな山の中じゃそんな方法……運任せでもいいか? 」
 えらく嫌そうな顔をする。練り物を見た土井先生みたいだ。
「は? 自然に火がつくのを願うのか」
「いやいや、火じゃない方法で沈めて、ついでに火が“着かなかった”ら良いなってやつ」
「他の方法? 確かに音や光を考えると火の案は試験失格だからな」
「だろ?! 」
 指さして笑うと、人の指を握りしめて下へ向ける。指さすのって昔もダメだったのか。人差し指と言うぐらいなのに。
「それはどういう方法だ、私がやってくる」
「ダメだ」
「なっ、“かがくはんのう”なんだろ? なら、誰にでも使える術なのではないのか? 」
 瞬時に俺の脳裏に浮かんだのは紛れもなく、ナカセンが、うっすらと消えていく手。あの飴玉のようになったらと
「こっちは化学じゃなくて、科学って口で言うと同じだよな。字が違うみたいなやつだ。そう、俺と平子みたいに」
…………っ」
「そんな顔するんなよ、また未来で会えるって。つか、会ってんだけど。化学好きかな、あのセンセ」
 分からないフリをしてとぼけた。それでも長い沈黙の後に、長次は顔を上げて言う。
………………小平太」
「おう」
「やるぞ、作戦を教えてくれ」
 待ってた俺も俺だけど、自分で決めてもらわないと先に進めちゃダメだって気がした。
「あぁ、やろうか。みんなが明日も明後日もゆっくり眠れるように」
 小平太は腰に手を当てて、学園のある方へ顔を向けた。風が吹き、彼らの頭巾から出た髪が風に揺れる。
「小平太」
「あ、その『みんな』ってのに長次も入ってるからな」
「そっちは敵陣。学園はあっち」
「お、そうか。細かいことは気にするな、ハゲるぞ」
……うへへへ」

 地面を何度も叩いたり岩盤の位置を確認して、土の着いた手で頬を擦る。流れてきた汗が不快だけど、室町時代にシャワーはないだろうし、もう時間もない。止めるにはこれしか方法も見つかりそうもなかった。
 長次は小平太の頬を摘んで引き寄せる。まるで悪さでもしたようじゃないかとも思ったが、顔が真剣で言えない。
 そのまま親指で擦って頬についてた土を取ってくれた。
「寂しいなー、優しい長次と離れるの」
「“好き好きちゅっちゅっ、らぶちゅっちゅっ”というやつだ」
 あの歌詞がこの面から吐かれるとは夢にも思わなかった。いや、ここは俺にとって夢の中なんだけども。
 これがたぶん俺たちの最後の別れだって言うのに、よりによってその言葉かよ。小平太はそう言いたいのを押し込めて、何とか言えたのはそれだけ。
 ニヤけるのが止められない俺と、それに怒って口角が上がっていく長次。
 喧嘩をしたって彼とならすぐに仲直りする自信はある。けれど、今日から先はその時間すらない。
 だから、彼は口のそばに手を添えて大きな声で叫んだ。
「俺もー! じゃあな、長次(ながつぐ)! 」
 ハッとした顔をする長次に、ニカッと笑って小平太は手を振る。きっとこの身体の持ち主である平子はこれから先も彼と一緒にいるだろう。けれど、それを間借りしてた俺の役割はきっと、これが最後だから。
 最後ぐらいは、友達の名前ぐらいしっかり呼ばなきゃな。
 見納めとばかり笑ったあと、小平太は目的地へと駆け出した。長次と約束して、彼が他の仲間に森から離れるよう、近づかないように忍び的な方法で知らせる。
 それが届いて避難が終わったら狼煙で合図してもらって俺が仕掛けを発動っと、言う流れだ。上手く見つけられていると良いんだけど。
 その前に目的にたどり着けるか。多少迷ったりしたけど、残してきた目印に木へくくりつけた長次の頭巾が見えた。
 木の枝だけど、長次の頭巾が緑なのをいい事に、葉がしげるあたりに結んでいる。
 それを取ると、中から仕込んでおいたクナイが出てきた。長次から借りた、この場合、返却は難しいから貰ったと言うべきだろうか。
 これから、小平太がやろうとしていることは、決して彼にしかできないことではない。もっと言うなら土木系の忍術を得意とする平子の方が断然向いている。
 けど、それに向けて鍛え上げられた身体で、未来の知識を駆使すればどうなるか。そりゃ、化学反応と言って間違えないだろう。暗い空に白い一筋の煙を見つけて、小平太は息を大きく吸い込んだ。
 彼が立っているのはむき出しになった大きな岩盤の上。先程なんとか探し出して長次と一緒に掘った穴の中。
 なるべく大きくするために、森の外まで堀を作成し、亀裂の流れを確認した。心配することは沢山あるけどなるようにしかならない。
 だから、あと、やるべきなのは……
「土木技術で岩を割るだけ! 」
 小平太は振り上げたクナイを力いっぱい振り下ろした。
 吹き上がる水流は勢いを増して、空高く舞い上がる。霧のように降りてくるミストはほんのり暖かく、独特の匂いを放っていた。
「こりゃ、温泉ですな」
「ったく、6年生のやつらは。下級生に知られてはならんと言うのに」
「いいじゃないですか。多少、戦いの跡が残ってても6年生が学園長の思いつきで温泉掘り当てさせられて喧嘩したとでもいえばバレませんって」
 勢いよく吹き出すお湯は熱いよりも勢いがすごくて、とても受け身なんか取れない。
 土木技術の知識と体力を利用して、小平太は温泉を掘り当てたのだった。
 甲冑や武器を身につけてない小平太ですら上手く逃げられず浮くことぐらいしか出来ないのに、歩兵や騎馬の人には一溜りもなかったことだろう。
 流れ着いた足軽を前に文次郎、留三郎が拳を鳴らし、いさ子と仙子が扇や宝禄火矢を構えた。最も、これだけの水流のあるそばでそれらが実力を発揮することは無いのだが。恐らく農民や城務めの彼らがそれを知るはずない。
 掘り起こした本人は、流れ着く場所を予め計算して長次に伝えていた。
 が、実際、それだけの水流に流されるのは容易で無くて。予め沈んだり意識を失っても死なないように、浮きやすい竹の幹を何本か身体に巻き付けていた。簡易ライフジャケットと言うべきか。
「あ……あとは任せた……
 友達の名も呼べず、彼は力つきて目を瞑る。力なく身体は流されるままに森の端の地面へ打ち上げられて重力に負けそうだ。濡れた服が重いだけでもあるけど。
 上手く浮かなくて、水が容赦なく顔をおおってしまう。手足も痛みにしびれてもがけそうにもない。
 その時、誰かがバシャバシャと駆けつける音がして身体がふわっと浮き上がる。抱きかかえてくれているらしい。
 ゆっくりと目を開くとそこに焦る彼の顔があった。
 小平太は、息を弾ませながらその名を呼ぶ。
……っちょうじ! 」

……ながつぐ! 」
 平子が息を弾ませながら、その名前を呼んだ。彼女の目の前には、室町時代の長次がいる。
 彼は唇をかみ締めて、涙を堪えながら平子を抱きしめた。もう永遠に会えない友への別れを胸に綴りながら、大切な人を守ってくれたことへ感謝を心の中でのべて。
「小平太っ……
 彼女は今にも泣きそうな目尻に指を添えて拭う。
「残念だったな、私は平子だ」
「無事で良かった」
「私の方で良かったのか? 」
「もそ」
 最初の頃は不気味に思っていた平子にも、彼がなんて言ったのかもう分かる。子は鎹(かすがい)と言うけれど、まさか自分たちの子孫がそうなるとは梅雨ほど思っていなかった。

 現代の方でも手のあるナカセンが心配そうにしていた。きっと生きた心地がしなかったことだろう。
 抱きかかえられていた小平太は、手を伸ばしナカセンの顔に張り付く髪を避けた。
「すっげー……汗」
 玉のような雫が小平太に降りかかる。
「ここに居たんだな、長次(ちょうじ)……
「先生を呼び捨てにするな」
 聞きなれない低い声がそう言った。きっと彼は“彼ら”の子孫なのだろう。だから、小平太がタイムスリップする度に消えたり、現れたりを繰り返した。2人が結ばれないと、“ナカセン”こと、中在家 長次先生の先祖が生まれてこないから。
 ナカセンに抱え込まれた彼の顔を覗き込むいさ子も、顔面が蒼白していた。
「ごめんよ、小平太。それ、飲み薬じゃなくて嗅ぐだけのやつだったのに」
 そんなもんを飲ましたのか。とも思ったが、舐めたのが自分だったと思い出した。
 それと同時にいつまでもナカセンに抱えられているのも悪いと起き上がろうとする。すると開けた視界に電話を持った土井先生の姿が見えた。が、すぐにその目を塞がれる。
「起き上がってはいけない」
 ナカセンの手が目を覆ってそのまま膝へ押し戻した。見上げた空はまだ青く、白い月がうっすらと浮いていた。
 あぁ、もう。忍びだった彼らを知るのは自分とあの月ぐらいかと思うと眩んだ視界が歪み、頬を涙が伝う。
 遠くの方から救急車のサイレンが近づいて来るのが聞こえた。いさ子、停学処分だよな。すまん。
 小平太はうっすらと遠のく意識の中でそう思った。きっともう、目を閉じて意識を手放しても、彼の意識は室町時代に行くことは無いのだろう。

「じゃあ、もう会えないのか」
 いつものように小さくため息を吐いた彼は、抱えていたダンボールを床に置いた。ガランっと物が少なくなった社会科準備室の中、2人は向かい合って立っている。
「すぐに会えるだろ」
「だって、センセーは大学に戻んだろ? 」
……だからだ」
「は? 意味わかんねーし」
 彼はダンボールを開けて、中から1冊の冊子を取り出す。白い建物が表紙にドーンと描かれたありふれた冊子を小平太へ差し出した。
「うちの大学」
「マジかよ……偏差値やべーとこじゃん」
「どの道、お前は来年3年生で中学校卒業だろ」
「お、そうか! そう言えばそうだった」
 ダンボールを抱え直したナカセンは、足で部屋のドアを開ける。相変わらず何百年経っても先祖代々足癖が悪い。平子さんが直してないのだろうか。
「分からないことあったら、ここに来い。中在家研究室って言えば案内してもらえるだろ。勉強ぐらいなら教えてやる」
「え、良いの? 戻ったばっかで忙しくない? 」
 彼はにぃっと笑うと、ダンボールを抱えてこう言った。
「『細かいことは、気にするな』私はセンセーだからな」
 小平太はパンフを握りしめて、笑い返す。
「センセー、教えて。英語やべーんだけど」
「歴史だけ」
「えー、高校3年間、歴史だけ習うのもなー」
 文句を言いながらも、準備室を一緒に出た小平太は振り返って扉を手で閉めた。「かけておいてくれ」と、投げられた鍵をキャッチする。
 鍵をかけた直後、廊下からバタバタと忙しない足音が近づいてくる。
「おーい、小平太」
 声をかけらて見れば留三郎が文次郎と取っ組み合いながらこちらへ向かってくる。
「聞いてくれ。こいつ、わざわざ隣町まで塾に通って何してたと思うか? 」
「うるさい、バカ留」
「2人とも、廊下ではしゃぐな」
 珍しく先生らしいことを“ナカセン”が言ったから小平太は吹き出しそうになった。それを何とか堪えて尋ねる。
「勉強じゃないのか? 」
「美人女教師に告白したんだと。しかも、その先生、今度うちの中学に来るらしい」
 もう後任が決まっているのか。小平太はその先生の名前がすぐに頭に浮かんだ。室町にも似たような人がいたから気がかりだったが、彼らもまた無事だったらしい。
 ふと、窓へ目をやると大きく白い入道雲が近づいできていた。もうすぐ夏休みで、庭では弟たちがひまわりの種を収穫し出すだろう。
 もう夜中に揺れる不気味なあの花を見ることがないのだ。
 少し寂しく思ったが、「細かいことは気にするな……か」とつぶやき、ナカセンを見上げた。小平太には小平太の未来がある。彼らにそれがあったように。

END
【真夜中のひまわり 下】




ネタ提供
御杯高津様(@taka2Oppai)
後半2章長子さんの女装のネタ
イメージソング
・『プラネタリウム』大塚 愛

・『人間みたいね』キタニタツヤ
・『七星神威』スパイラル・ラダー