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かずきち
2025-08-09 09:32:16
3555文字
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一対に咲く
わんぱくのド捏造です
どうしてこんな事になっているのだろう。
恋の部屋のリビングに立たされて、その周りをぐるぐると部屋の主に歩かれている郁は思った。
今日は丸一日かけて事務所総出での撮影が行われていた。もはや毎年恒例となっているこの撮影は、今年はテーマパークとのコラボが決まったので、そこを一日貸し切ってのロケだった。
撮影はコンビ毎での自由行動だった為あいにくと郁と涙は黒年少と鉢合わせる機会は朝の全体でのミーティング以外では殆どなかった訳なのだが、その最初に会った時からどうも恋の機嫌がずっと良さそうだったらしいと、郁は帰りのロケバスで隣になった駆から聞いた。原因は大体わかっていたが、それからずっと浮かれていたのかと思うとおかしくて、駆には申し訳なかったがちょっとだけ笑ってしまった。
無事に寮に着いて、この場にまだ残っているメンバーへ軽く挨拶をしてから自室へ帰ろうとしたら、横から手をむんずと掴まれて、問答無用で恋の部屋へと連れ込まれてしまった。
そして、今この状況に至る。
まさに上機嫌です、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべた恋は何用かと尋ねる郁への返事もおざなりに、郁の周りをまわりながらじろじろと不躾な視線を送ってくる。だいたい三周くらいしたくらいでソファに座って、今度は真正面から捕捉された。
「な、なんだろ
……
?」
「いーからいーから、そのままにしてて!」
普段から人に見られる仕事をしてはいるけれど、こんな見られ方をしては、なんだか裸でも見られてるような気持ちになって居心地が悪くなってしまう。棒立ちのまま恋に視線を返すが、いまいち目が合わない。どうやら恋は郁の顔よりもう少し下を見ているようだ。
「服
……
俺汚してた?白だから
……
」
ユニットカラーなだけあって着慣れてはいるが上下とも白い服はやはり気を使う。気を付けていたつもりだが、と目線を追いかけるように下を向いて、シャツの裾を引っ張ってみる。しかし恋はそうではないと首を横に振った。そうでないならば
……
と動いた布に合わせてサラ、と首元から音がした。
(
……
そうだった)
撮影後、着替えないまま戻ってきたので、恋はそれを
……
いや、それを身に着けている郁を、文字通り眺めていたようだ。やっと気が付いて首元のリングに触れてみせると、満足げに頷いた。
スタッフから事前にアクセサリーの持ち込みは自由で良いと言われて、迷った結果持ち込んだ、恋とペアのリング。
フィッティングの時に首元が寂しいかもと思ってそれをチェーンに通して持って行ったから、きっと恋もすぐ分かったのだろう、自由行動開始後すぐに突撃されて、急に中指を立てられた。見せ方が最悪すぎて威嚇でもされたのかと身構えたが、よくよく見てみればそこに同じ指輪が嵌められていたのだった。
打ち合わせてもいないのにペアリングがちゃんとペアとして意味を成した事にお互い驚いたのだがろくに会話も出来ずにすぐ移動しなければならず、その後もほぼ会えずじまいだったから今じっくり堪能しているとか、そんな辺りだろう。
「へへへー」
たいそうご満悦な顔をして口角を上げている恋がそれはそれは楽しそうで、だが、だから。
なんだか無遠慮な視線に晒された事への仕返しがしたくなってしまった。
「今考えてる事当ててみよっか?」
「
……
へ?」
恋の気の抜けた返事にどきどきと心が躍る。こういう分かりやすい所が好きだなあ、と、リングに触れたまま一歩、恋へと近寄った。
「"俺の"
……
だなあって、思ってただろ」
「な、なんで!?」
「あはは」
大当たりだったようだ。飛び上がってソファの背にめり込んだ恋は、わたわたと手を振ってから「いや、でもね!」と弁解を始めた。
「お仕事中はファンの皆さんのいっくん、だからさ、公私混同は良くない訳ですよ!
……
でもやっぱ、それ着けられてたら、嬉しいなーってなっちゃってさ。なっちゃった!
……
から、郁が外しちゃう前にもうちょっと目に焼き付けとこっかな、って」
最後には素直に白状する恋にうんうんと頷く。
郁も恋が指輪をしてパーク内をまわっている事を時折思い出しては、顔に出ないように頬を揉んでやり過ごしているのを涙に笑われていた。
とはいえ出来る限り気を付けあっていた部分だ、きっと自分がこれを恋と同じように指輪として持って行っていたら。コンビ毎でなく、年少まとまっての行動だったら。郁は外していたと思う。逆を言えば、そうでなかったから、ついそのままにしてしまった
……
という事になる。それくらいにすっかり境界の内側に恋が存在しているのだな、と実感していた。たぶん、ソファの上の恋人は、無意識なのだろうが。
「なんで恋の考えてる事分かったと思う?」
「はへ」
もう二歩、三歩進んで、ぎくりと固まった恋の目の前に立つ。座っているから低い位置にいる恋を真上から見下ろせば、何が起きてるか把握しきれずぐるぐると目を回しながら郁を見上げていた。その顔に微笑みかけながら首の後ろに手をやって、チェーンを外す。名残惜しそうな声が上がったのは一旦気にせずにリングをチェーンから抜き取り、ネックレスから指輪に戻ったそれを恋の手の平に乗せた。
「な、なんで
……
?」
こちらは当ててみせたのだから、そっちも考えてよ、と悪戯心が働いて聞いてみたが指輪と郁を交互に見比べて戦々恐々と聞き返されては仕方がない。
恋の手を左手で触って意識を手元へ移させ、中指でつついた後、手の甲を差し出す。ずい、と寄る手に恋はごくりと唾を飲み込んだ。
「
…………
」
おずおずともう片方の手で郁の手首を掴んで、郁の指輪を、郁の中指に通す。当たり前にぴったりと指の付け根におさまった指輪を見て、意図を汲み取ってもらえて良かったとホッとしていると、恋は真っ赤に茹だった顔でまた、なんで、と消え入りそうな声で言った。
「恋がそうなら、俺もそうだった。
……
とは、思わなかった?」
「
……………………
まじ?」
「マジ」
同じ感情があったから簡単に予想が出来たのだ、と種明かしをして、惚けている恋の手を指を絡めて捕まえる。指に嵌めた指輪同士がぶつかってカツンと音が鳴った。
「恋はなんでこれ選んだの?」
「
……
それが、マジでなんとなく、なんだよね。郁着けてくるかな、とかも全然考えてなくってさ、あはは」
郁はともかく、持っているアクセサリーの数も種類も豊富な恋がなんとなしに選んだタイミングが、郁と被るなんてどんな偶然なんだろう。郁は恋の無意識の内側の奥の方にも自分がいるのを見つけてしまって息を呑む。
「そうなんだ」
「わ
……
ちょ、郁!?」
まだふやけた顔をしている恋の足の間に膝を入れて、膝立ちの状態でソファに乗り上がり、繋いだ手はそのまま、未だ背もたれにめり込んだままでいる肩へ空いていた手をかけて動けなくさせる。
背中を丸めて更に顔を近付ければ、恋の視界の全てが郁で埋まった。
キスをされると思った恋はぎゅ、と目を閉じていたが郁の唇の行き先はそこではなかった。広めの襟ぐりのシャツを少しずらして、首元へと口付ける。予想と違う場所への刺激に身体をびくりとさせた恋を押さえつけ舌を這わせて強めに吸い付く。こんな感じだっけ、久々にするものだから加減がわからず力が入ってしまう。
「ん、
……
ふ、い
……
いく、」
「は、
…………
」
もう食らい付いているという表現が正しいようなくらいにじゅ、と水気の混ざった音を立てて口を離せば、恋の肌に色の強い花がちゃんと咲いていた。目を細めて肌色のコントラストを眺めていると呆気に取られていた恋がハッと我に返りそろそろとそこに触れる。
「
…………
つけた?」
「
……
うん」
ここにあるよと形をなぞってみせると途端に真っ赤にさせていた顔が郁を連れ込んだ時のように、にやにやと緩みだす。アイドルらしからぬ、だが恋らしい気の抜けた表情に、もう少しくらいこういう事をしても良いのかもしれないと、つい思ってしまう。
「
……
"俺の?"」
「そう、だよ」
「見たい!鏡見てきていい?」
「
……
そっちかあ。でもまだだーめ!」
「えー!」
「だってさ、」
これでもかと言うほど幸せを噛み締めて意気揚々と離脱しようとする恋を引きとめる。恋は満足だろうが、郁としてはまだ終わりじゃない。繋いだ手を郁の首元へ導いて襟へ引っ掛けた。
「恋は?」
「う
…………
ぐ。する
……
」
そうこなくては。出来るだけ同じ所がいいなと思いながら恋の上へと倒れ込んだ。
ペアリングと同じお揃いは二人して加減を忘れていたせいでしっかり一週間はのこっていた。
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