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饗李
2025-08-09 02:33:45
2803文字
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人生を、共に。
跡部夢、名前変換有。
自分の誕生日に、跡部景吾と婚約する話。
饗李
饗李
饗李
饗李
饗李
ぱたぱたと廊下を急ぐ。高校一年生になりたてで部活や新しい環境に慣れるのにも忙しくて。少しだけ変わった顔ぶれだとか、久しぶりに会う先輩だとか、目まぐるしく学校生活を送っていた。
だから、自分の誕生日のことなんて忘れていたのだ。気付いたのは日付が変わった夜、鬼のようなスマホの通知。同級生、部活の先輩、生徒会でお世話になった人、テニス部の先輩
……
テニス部の先輩に関しては
景吾先輩
彼氏
経由でしか関わりは無いはずなのに覚えていてくれてるのは驚いてしまった。
一つ一つ丁寧に返す前に、迷いなく開くひとつのトーク。簡素な「誕生日おめでとう」のメッセージの下、もうひとつあった文字列。そこには「明日の放課後、生徒会室で」なんて書いてあった。それを読んで、思わず動揺してスマホを落としかける。
なんで? 私は今生徒会じゃないのに、この生徒会室って高等部の方だよね? なんて思いながら、「わかりました」と震える手で返信をした。
……
それが、夜寝る前。景吾先輩以外には起きてから返そうと思って、朝からスマホをいじっていたり教室に行ったら机の上にお菓子の山ができてたりだとか、通りすがる友人や先輩、先生にお祝いの言葉をもらって返していたら放課後なんてあっという間だった。
少しだけ部活にも顔を出して、お祝いしてもらって。もう幸せすぎるくらいなのだけど、まだこれからと考えると嬉しさで震えるようだった。
生徒会室の前に立つ。少し深呼吸をして、扉をノックした。
「
……
失礼します」
「
饗李
か、入れ」
久し振りに聞いた、電話越しじゃない景吾先輩の声。それが嬉しくて、急かすように扉を開けた。
顔を上げてすぐ目に入るのは、景吾先輩。相変わらずかっこよくて綺麗で、大人びていて。眩しいよな錯覚までしてしまう。
ドキドキとうるさい心臓は、いつも通りだった。
「誕生日おめでとう、
饗李
」
「
……
ありがとうございます」
一番聞きたかった人から聞けた言葉。それを貰えば、思わず頬がだらしく緩んだ気がした。そんな私を見て、景吾先輩も頬をゆるめる。
吸われ、と促され、高等部の生徒会にもあるソファーに腰掛ける。真ん中にふたり、中等部と同じ。
頭を撫でてこちらを見る先輩を見上げた。話したいことが沢山あったはずなのに、幸せが胸を包んで言葉が出てこない。それでも話したいから、と口を開いた。
「景吾先輩と、しばらく同い年ですね」
「そうだな。年齢に見合った落ち着きもあればいいが」
「それは
……
難しいかもしれないですけど
……
」
先輩の冗談に私がどもれば、また笑う。私のことで笑ってくれるのが嬉しくて、たまらなくて。ああ、こんなに幸せでいいのだろうか。
そんなことを考えていると、ふと先輩がソファーから立ち上がる。どうしたのだろうと見ていれば、私の前に片膝を着いた。
「
……
先輩?」
「
饗李
、右手を出せ」
「
……
? はい」
首を傾げながら右手を出せば、いつの間にか先輩は小さな箱を抱えていた。それを開き、とあるものを取りだしてポケットにしまう。
先輩の手に握られていたのは、指輪だった。
私の右手を恭しく持ち上げ、迷いなく薬指に嵌める。それはピッタリ私の指に収まり、まるで最初から持ち主が私のような気までした。
シンプルなそれは、雪の結晶があしらわれたもの。真ん中に埋め込まれた青色の宝石は、先輩の目の色のように煌めいていた。
「
……
ゆび、わ」
「ああ。
……
意味はわかるか?」
その言葉を聞いて、ハッと思い出す。
前に、中学生の時に聞いた話。左手の薬指は結婚だけど、確か、右手は
――――
「こん、やく
……
」
ポツリ、言葉をこぼす。音になればそれは現実を帯びてしまうわけで、カッと顔が赤くなった気がした。
婚約。婚約って、つまるところ、結婚、ということで
……
。
じわりじわりと、渡されたものの重さを自覚する。
「
……
本当は、もっと早く渡そうと思っていた」
「は、い
……
」
「お前は、事を運ぶのが早いと照れて逃げようとするだろ」
「はい
……
」
「俺にしては待った方だぜ?」
そう言って笑う先輩。
つまるところ、お付き合いしてから今まで外堀を埋められていたわけで。約一年とちょっと、景吾先輩はこれのために? 海外に居たりもしたのに、そんな、そんなことあっていいのか?
そんなことをぐるぐると考える。全く考えのまとまらないまま、口を開いた。
「今まで、じゃあ、待ってたって事ですか」
「そうだ」
「私が、逃げないと思うまで」
「ああ」
「っ
……
わたし、で、いいんですか」
声が震える。
ずっと、思っていた。隣に並ぶのがこんな私でいいのかと。
私からしたら完璧で、かっこよくて、私には勿体ないくらいの景吾先輩。好きになってしまったのは私からで、その好きが返ってくるなんて思わなくて。
隣にいたくて努力を重ねた。私のせいで景吾先輩のことがバカにされたくなくて、舐められたくなくて。それでもたまに訪れる不安はどうしようもないものだと思っていた。
でも、もうそう言ってられない。景吾先輩は、私と居たいとこう示してくれている。それでも、こわいものは怖かった。
「
……
饗李
」
「
……
、はい」
「俺が、選んだんだ」
先輩の露草色の目が、私を見る。
「他の誰かじゃない。俺の隣にいるのは、
饗李
。お前だ」
「っ
……
はい」
「お前が変わろうと努力しているところは見ている。傍に居れなくてもな」
「はい」
「そういうところにも、惚れた」
さらりとそう言ってのける。高鳴る心臓とは裏腹に、視界がじわりと滲んでいった。
そっと右手が握られる感覚がある。私より大きい、先輩の手。繋ぐ度に安心して、頭を撫でられる度に嬉しくて。
ふと、滲んだ視界越しにでも先輩が笑うのが見えた。
「
……
受け取って、くれるか」
……
ああ、狡い。「受け取れ」だとか言えるはずなのに、こうやって私に全て委ねてくる、そういう所がずるいのだ。
返事をするように、先輩の手を握り返した。
「はい
……
っ!」
精一杯の笑顔で答える。もう、「私なんて」言わない。
そっと先輩が立って、また私の隣に座る。涙を拭ったと思えば、優しく強く、抱きしめられた。それに答えるように、私も手を伸ばす。
「
……
夢みたいです」
「夢じゃねぇぞ」
「ふふ、分かってます」
嬉しい。そんな感情が今は自分を包んでいる。なんて言葉にしたらいいか分からないくらい。ぎゅうぎゅう抱きしめて、それだけでも幸せなのに。
「
……
今日。帰り一緒に帰りませんか」
「元々そのつもりだ」
「嬉しいです。
……
ちょっと穴場の公園見つけたんですよ」
そんな他愛のない話。いつも通りの、いつもの会話。でも、右手に光る指輪は確かにそこにあった。
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