ハイパー夢おじさん
2025-08-08 21:19:26
2070文字
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あばたもえくぼ

髙羂※下ネタ

「なぁ、どこ舐めてほしい?」

 愛撫の最中に髙羽が発したその問い。それを聞いて羂索は思わず眉をひそめた。普段と違って腹だの太ももだのにキスを落としていたと思ったら、それはこのセンスのない質問をするための布石だったのか。そう思った羂索は小さく溜め息を吐く。

 羂索は行為の最中にベラベラとお喋りするのはあまり好きではなかった。羂索は元来お喋りな性格をしているが、それとこれとは別にして、ムードを大事にする人間でもあった。会話は平時にすれば良いのであって、今は肉体言語を大切にするの時間である。そう羂索は考えていた。視線や体の動きを見れば私が何を求めているかくらい手に取るように分かるはず。だからわざわざ聞くのは野暮である。と、羂索はそう思っていた。だから髙羽の「どこ舐めてほしい?」という質問を不快に感じたし、そしてなにより、自分に淫語を言わせようとする髙羽のセクハラジジイのような魂胆が羂索の気に障った。

 ――散々エロネタはNGとか言ってたくせに、髙羽ってばこういうことは私に言わせようとするんだ? 本当オッサン臭くて嫌になるね。千年を生きる私よりガキンチョの三十五歳児のくせにどうしてそんなにオッサン臭いんだか。価値観のアップデートが足りてないんじゃない? そんなんだから払ったれ本舗とかいう若造に出番を食われるんだよ。何度私たちの出番をカットされてアイツらがクローズアップされたことか。だいたい髙羽はいつもいつも――……

 羂索の興奮が冷め、脳内で髙羽をののしるまでにかかった時間は約一秒。しかし、髙羽はまだ羂索が冷めたことに気付いてはいなかった。髙羽は羞恥プレイのつもりか、重ねて「ほら、恥ずかしがらずにどこがいいのか言ってみ?」なんてノリノリで言葉を発している。己が恥じらっていると髙羽に勘違いされていることもまた腹立たしく、羂索は髙羽のその興奮をへし折ってやりたくなった。

……そうだな、床を舐めてほしいかな」
「床ァ!?」
「そう、床。正確に言うなら髙羽の安アパートの畳だね。ロクに掃除されてない埃の溜まった床。私、この部屋のことずっと汚いと思ってたんだよね。だから舐めて綺麗にしてくれる?」
「いっ、いやいやいや!? 掃除機じゃねんだから! オマエまさか俺のことル○バかなんかだと思ってない!?」
「まさか。ダイ○ンだろ」
「そうそう、吸引力の変わらないただ一つのバキューム……ってオイ!」
「へぇ、もしかして掃除機とバキュームフ○ラを掛けてる? やるね相棒。あ、おっと。違うね、肉ぼ――
「一線を越えるな! お茶の間に流せない単語はやめろ!!」

 髙羽がそう大声で叫んだ瞬間、隣人がアパートの壁をドンと叩いた。髙羽の住む安アパートの壁は薄い。隣人からしたら髙羽のツッコミは騒音以外の何物でもないだろう。壁を叩いて威嚇してくるのも頷ける。
 そんな隣人からの壁ドンを受けて髙羽はすっかり意気消沈してしまったのか、しおしおと萎びれたように眉を下げた。

「うぅ……お隣さんに申し訳ないことしちまった……
「まぁまぁ。喘ぎ声を聞かれなかっただけマシと思いなよ」
「元を辿ればオマエが変なこと言わなきゃこんなことにならなかったんだけどなぁ!?」
「心外だな、君が私にセクハラしてきたのが悪いんだろ。童貞のくせに慣れない言葉責めなんてしようとしちゃってさぁ。そういうの良くないよ」
「どどど童貞ちゃうわ!!」

 髙羽のそんな返答の直後、また隣からドンと壁を叩く音が聞こえた。お決まりの「その否定の仕方は童貞しかせんやろ」のツッコミではなく、ただ単純に騒音だと思われていることが、羂索にとってなんだか面白かった。

 それに、すでに自分と何度も体を重ねているため髙羽は童貞ではない。にもかかわらず、「その反応は童貞やんけ」のツッコミ待ちをするような反応を示した髙羽がまた良かった。今はカメラも回っていないし舞台上なわけでもない、完全なプライベート空間である。それでも笑いを忘れない髙羽のことが、羂索はとても好きだった。

「あー面白い。じゃあ髙羽、続きしよっか」
「なんでだよ嫌だよ。お隣さんに怒られたし俺もうそんな気分じゃなくなっちゃったよ」
「はぁ? 私が誘ってるのに? ていうかこっちは準備万端になっちゃったんだけど」
「なんで? 俺オマエのスイッチ入るタイミング分かんなくて怖いよ」

 溜め息を吐いて脱ぎ散らかした下着に手を伸ばす髙羽を引き寄せ、羂索はその唇を奪う。驚きから目を丸くする髙羽のその顔は、もともと四白眼気味だった小さい瞳がさらに小さくなっていた。その顔が面白くて、羂索は唇の端を持ち上げて笑う。

「髙羽さっき私に聞いたよね。『どこ舐めてほしい?』って。今度こそ答えてあげるよ。それはね――……

 吐息混じりに髙羽の耳元で囁けば、髙羽はカッと顔を赤くした。――こんなので喜んじゃうんだ。やっぱり髙羽はオッサンだね。そう思いながらも、羂索は自身の口角が上がるのを抑えられなかった。