望月 鏡翠
2025-08-08 01:04:37
1032文字
Public 日課
 

#1805 「ぐんと」「遜色」「前先」

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 祖父は里で一番の鳥使いだった。
 俺が生まれた頃にはもう引退していたが、現役のときは皇帝に招かれたことがあるらしい。それは長らく里の名誉だった。俺たちは生まれが生まれだから、都に住まわせてもらえることはなかったが、構わないのだとみんな言っていた。
 ここには鳥がいる。それもほかのどの土地にも見られないくらい大きくて立派な鳥がいる。他には何も望まないのだ。
 里で生まれたものは、一生の相棒を選ぶ。
 体の大きな鳥は長生きをする。習性の友として寄り添ってくれる。祖父の相棒もそれはそれは美しい鳥だった。
 長く生きた鳥は、祖父の名誉の証だった。
 引退したあとも、その技術を下の世代に繋ぐべく、教育係をかって出ていた。
 孫だからと言って、容赦はなかった。
 その教えは厳しかったが、いつも正しかった。祖父を見ていれば、自分が至らないというのは良くわかる。その背中を見るたびに、もっと励まねばという思いを強くして、寄り添う鳥を見るたびに、いつかああなりたいと思うのだ。
 褒めてもらえたのは、一度だけ。
 試練が不安で、一人盆地に残って遅くまで訓練をしていた日のことだ。
「ああ、いいね。前に比べてぐっと良くなった。お前はもう大人と遜色ないくらいに狩ることができるだろう」
 そのときは、試練なんてもう合格したに等しいくらい嬉しかった。
「あとはもう少し前先が見えるようになったら、完璧だろうね。鳥は周りをよく見て動いてくれる。だけどな、鳥に任せるばっかじゃなくて、お前も周りをよくよく見て、先のことを考えて動きやすいように鳥を動かしてやらねばならんのだぞ」
 祖父の言葉には重みがあった。
 そしてやはり正しかった。
「訓練された鳥は、望む通りに動いてくれる。だけどどうやって動かすのかを決めるのは俺たちだ。だから前先を見通して動く必要がある」
 鳥の鉤爪が兵士の首を掻き切った。矢を交わしながら空から飛来する襲撃者に、兵士たちは混乱し恐怖していた。
 そろそろ皇帝が変わる。祖父の言葉だ。
 それに伴って、前皇帝に忠誠を誓っていた里のものたちが邪魔になったのだろう。
 鳥使いは強すぎるから。
 とくにこのあたりの鳥は体が大きく、強い。馬の首の骨だって叩き折ってしまう。
 代替わりする前に始末してしまおうというのが、襲撃者の思惑だ。だがこちらはそれよりももっと先を見ていたというだけの話。
 俺は祖父の言葉の通り、里を守る一人前の狩人になったのだ。