台紙ってあるじゃん。シールとかそういうのを貼るやつ。あー、シールってのはそうそう。裏面が粘着質になっててくっつけることができるんだよ。
よく俺も家の壁や机にに貼って怒られたっけな。
なんで怒られるかってうーん……。
劣化するんだよ。
日に当たって色が褪せて乾燥してひび割れてボロボロになっていくんだわ。
そうすると剥がれていくんだよな。
ちょこっとずつ、ちょこっとずつ。元の柄がわかんなくなって白くはげた何かが残るんだ。爪でとってやろうとしてもなかなか取れなくて、下の壁紙の柄が朧げに見えるようになる。
まぁ、その時ってもう何があったのか何を貼ってたのか、思い出すことって無理なんだけど!
夢を見た。
夢を見てる。
夢だったのかすら、わからないけど。
ただ記憶にない出来事が脳裏をよぎるのならばそれは夢であるというのではないだろうか。
硬くて冷たい石畳に転がされている男を助けに行って。
『――友人助けようとするってのは、そんなにおかしなことですかね?』
これは誰が言った言葉だ。
腹を抱えて泣き笑うこの人を見たのは誰だ。
ばりばり、ばりばりと心がざわめく。
『お前は俺の友達だよ』
『オットー』
「っーー!?」
目が覚めた瞬間感じたのは酷い違和感と不快感だった。それは冷や汗でびっしょりと濡れた体とシーツのせいだけではない。
「いったいなんなんだ……」
グシャリと乱雑に前髪をかき上げてオットーは嘆息する。彼の問いに応えてくれるものは誰一人としていなかった。
夢をみる。
夢をみさせられている。
夢なんかじゃ、ないのだろうけど。
ある時は霧の中で男を突き飛ばした。ある時は森の中で突き飛ばした。
ある時は……愛竜を失ったり。
目を閉じていても、起きていても突然脳裏に映像が流れ込んでくる。瞬間自分の体の支配権がどこにあるのかがわからなくなってまた突然戻される。残るのは動機と苛立ちと不快感だけだ。
もちろん似たような経験をするような可能性はあったかもしれない事ばかりだが、実際にオットーが経験したことはない。まるで真実のような虚実がじわりじわりと彼に対し負荷を与え続けていた。
「なぁ顔色悪くね?」
「やっぱりそうみえます?」
何かの魔術の類を疑う頃には目の前にいる友人を心配させてしまうまでになっていたらしい。スバルは短い眉をひそめてオットーの顔を覗き込む。
「寝れてねえの?」
「うーん、寝れてないといいますか……」
話すべきか、話さないべきか。オットーの頭の中で二つの選択肢がぐるぐると回る。もしかしたら彼も同じ症状が出ていて自分だけの問題ではないかもしれない。いいや、この友人に自分ごとの問題を背負わせるわけにはいかない。今は自分だけかもしれないがこの現象が感染するものだったら?もっと早めに手を打てるようにするべきなんじゃないか?そうだとしても一番初めに話すのが優しいこの人じゃあ酷だろう。
ぐるぐる、ぐるぐると回る。
「……オットー?」
スバルがオットーの肩にそっと手を置いた瞬間。
べり、と。何かが剥がれる音が聞こえた気がした。
「ぇあ……?」
目の前の少年の肩がもっと細く華奢で頼りなくなる。
何かが崩れる音がする。土煙のにおいと血の香り。自分は刃物をもって、それを真っ直ぐ少年の薄い脇腹にーー
ぐにゃりと虚実が現実にかえる時、オットーは床に吐瀉物をぶちまけていた。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.