2025-08-07 21:02:49
2206文字
Public 小説(番外編他)
 

しょっぱくてあまくてすっぱくて甘い

期間限定ピスタチオとカシスの塩キャラメルパフェ。事件はありません。
某カフェの概念パフェを食べながら、なんとなく書いたスケッチみたいな掌編です。

ケーキバースなつきあってるユキモモ(シャチョコン)です。
社長(折笠千斗27歳)=フォーク、コンビニくん(春原百瀬20歳)=ケーキ。

以前書いた長編と同じ世界線ですが、話は独立していますので、単体でも読めると思います。
⇒『マーブリング・マーブル』 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22878179
※告白から恋人になるまで。こちらはシリアス、微量の流血・受傷描写有り。ご注意下さい。

 グリーンのアイスには、まるいピスタチオのトッピング。
 ピンクのアイスは、ふんわりしたカシスのムース仕立て。
 純白のソフトクリームにかかった塩キャラメルのソースは、窓から射す夕陽を浴びて、金色のリボンのように光る。

 ★     ★     ★

 夕暮れ時のカフェは、穏やかなざわめきに満たされていた。
 一日を振り返り低く話し合う人たち。夜の街に繰り出す前のひと息をつく人たち。
 そして、オフピークタイムに期間限定の新メニューを試しに来た人たち。

 千斗の向かい側、期間限定ピスタチオとカシスの塩キャラメルパフェを前にした百瀬は、確かめるようにひと色ずつアイスクリームを削りとっては味わっていた。
 グリーンのひとくち、ピンクのひとくち、金色のひとくち。
 小さなスプーンで口に運ぶたび、瞳の色をあまくして、頬を緩める。
「美味しい?」
「甘いです! あっ、美味しいです!」
 不思議な答えかたをして、自分でも可笑しかったのだろう、へへっと笑い、ソフトクリームに刺さっていたアーモンドチュイルを手で摘んでパリパリと囓った。
「いい音だね」
 微笑んでそう言うと、百瀬は少しだけ、申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんなさい、オレだけ、味わって……ええと、ご馳走になっちゃって」
「ううん。百瀬が嬉しそうだと、僕も嬉しいから。それが何よりのご馳走だよ」
 視界の端で、隣の席の二人連れのうちマスカットスムージーを飲んでいた女性が、つんのめってむせた。気管にでも入ったのだろうか。
「でも、これからまた会社に戻って残業なんでしょ? せっかくの休憩時間なんだから、ペリエだけじゃなく、なにかカロリーも入れたほうが」
 言い募る口に、人さし指をそっと押しあてて、閉じさせる。
「わかった。じゃあ、僕はこれで」
 百瀬に触れた指を自分の口に持っていき、そっと唇にあてがった。ふわり、甘い香りが鼻をくすぐる。千斗にとって、これがなによりの滋味だ。
「千斗さんってば、もう~……
 困ったように、照れくさそうに。笑いながら、百瀬がへにゃりと姿勢を崩す。
「オレって、そんなに、美味しく召し上がられちゃう?」
 隣から息を呑むような音が聞こえて、マスカットスムージーの連れの女性が、こちらはピーチスムージーのストローをくわえたまま固まっていた。この店のフルーツスムージーは、よほど飲みにくいのだろうか。少しばかり心配になってしまう。
 鼻に残る彼の香りをフレーバーに、味のないペリエのグラスに口をつけて、パフェを食べ進める百瀬をじっと見守る。
 丸くくり抜かれたアイスクリーム、とろり渦を巻いたソフトクリームをたいらげて、ざくざくとしたグラノーラ部分に取りかかっていた。たっぷりとかけられた金色の塩キャラメルソースは、グラノーラの隙間を辿って、パフェグラスの底まで滴り落ちている。
「これ、いちばん下に林檎ソースが入ってる! 塩キャラメルソースと混ざって、しょっぱくてあまくてすっぱい。すっごい贅沢な味!」
 百瀬が、掬ったスプーンを目の前に掲げた。とろりとしたソースと、刻んだ果肉が載っている。
 嬉しそうな声が、無邪気に喜ぶ表情が、かわいくて。
 千斗もまた、つられたように屈託のない笑顔になってしまう。
 零れちゃうよ、食べて、と促すと、百瀬は頷き、スプーンを口に運んでぱくんと閉じた。ソースを舐めとる舌の動きが、あどけないのに、何処となく艶めかしい。

 嬉しそうな声が、無邪気に喜ぶ表情が、かわいくて。
 ――美味しそうで。

……やっぱり、僕も貰おうかな。百瀬。ひとくち、くれる?」
 彼の好む、しっとりとした抑揚の声を心がける。
 ひとくちだけ、ね? と。たっぷりの意味を含ませて、言った。
 スプーンをくわえたまま、百瀬の頬が、ほんのりと赤く染まる。
「んあっ……あ、の……あ、あい」
 舌の回っていない返事だった。口のなかのスプーンをねぶり、たっぷりと唾液をまぶしつけてくれているのだろう。
 そうして、そろりと差し出された銀のスプーンには、てらてらと光る蜜がたゆたっていた。千斗のための、ももとりんごのソース。
 ――つるり、呑み込んだ。
「うん。甘い。しょっぱくてあまくてすっぱい。甘い」
「な……なにそれ、千斗さん、めちゃくちゃ適当なこと言ってない?」
 まだ頬に照れた色を残しながら、百瀬が笑う。
 あるいは、暮れかけた夕陽の色であったかもしれなかった。

 目の端ではなく、身体ごと顔を向けて、隣の席を見る。
 ふたり連れの女性は、ふたりとも顔を真っ赤にして、こちらを見ていた。知られちゃったな、とのんびり考える。フォークとケーキのむつみあいを、こんな間近で見せてしまった。
 声には出さずに口を動かして、内緒、と言う。
 向かいの百瀬も、口だけを動かして、なにか伝えているようだった。照れて困った下がり眉で、けれど横顔はにこにこと笑っている。
 ふたりとも、こくこく、と一生懸命に頷いてくれた。

 ★     ★     ★

 しょっぱくてあまくて、すっぱくて甘い。
 フォークが味わう、塩キャラメルの味。
『内緒』
 ケーキが味わわれる、ももとりんごの味。
『デート中なの!』
 夏の日の夕暮れ。やわらかな残照のように、いつまでもいつまでも、口に残る。



〈Fin〉