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むかいえ
2025-08-07 18:59:47
6597文字
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シャアム
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知らなければよかった
シャアム♀。いわゆる生理ネタ。改めて女だと認識してこの女欲しいなって思う大尉の話。Z軸。
以前書いた見た目ロリアム設定ですが特に繋がってないし体格差程度のエッセンス。
クワトロ・バジーナ
――
もとい、シャア・アズナブルにとってアムロ・レイという女は宿敵と言える。
暗い宇宙に浮かび上がる、流星のように白いガンダム。最初は機体そのものにしか興味がなかった。しかしいつしか、その奥にいるパイロットの成長を感じるようになり、やがて無視できない存在となってゆく。後にジオン兵に白い悪魔とまで畏怖された存在。
シャアはアムロの顔を、実はしっかり見たことはない。かつてサイド六で偶然出会ったのもほんの十数分の出来事だ。ア・バオア・クーで生身で斬り合った時はお互いパイロットスーツにヘルメットをしている。戦後、メディアに引っ張り回されていた彼女を映像越しに見ることはあっても、直接見たわけではない。もちろん顔の造形は知っている。しかしやはり、実際に見て、声を聞いて、その眼差しの輝きを感じなければ、どうしても知ったものとは思えなかった。
やがてアムロは雲隠れしてしまい、その後の進退もわからない状態になってしまった。あれから七年が経つ。あの時の小柄で幼なげな少女は、今どのような女性になっているのか。自身も暗躍しながら時折思いを馳せていた。
――
そしてその答えは、鋼の巨人の手のひらに舞い降りる。
七年前から時が止まっているかのように、アムロの風貌はシャアの記憶の中の彼女とほとんど相違がない。髪が伸びただろうか。目付きは少し暗くなったかもしれない。ああ、うっすらと化粧をしているようだ。共にアウドムラへ回収された彼女を眺めながら栓なきことを考える。
いつかの記憶よりもアムロの小柄さが目につくのは、シャア自身の体格が良くなったためだろう。同じく歳を重ねているはずなのに、少女の姿のままのアムロを見ていると、まるで自分自身の時も巻き戻ったように感じてしまう。
しかし本当に小さい。背丈などシャアの胸元に届く程度で、衣服に隠れていない首筋や手首はほっそりとしている。小柄な分、歩幅も小さい。アウドムラ内を揃って案内されていたのだが、男ばかりが歩いている中では彼女の歩幅では遅れ気味になり、時々小走りになっていた。ちまちまとした動きを見ていると、これで成人しているのか
……
と何やら言語化しにくい、そわそわとした気持ちを抱く。なんだこの気持ちは。
ふと視線を感じて横を見れば、共に地球に降り立ったカミーユ・ビダンが胡乱な眼差しでシャアを見ていた。アムロへの視線があまりに露骨過ぎたようだった。咳払いをして誤魔化すも、やはり視線は自然とアムロへと向いてしまう。
アムロもカラバの一員、ひいてはエゥーゴの仲間として参戦するようだった。つまり、現状シャアとも仲間である。相対する運命だと思っていた宿敵と肩を並べる状況は、残念なようでもあり、心が浮き立つようでもあった。
このままアムロも共に宇宙に上がってくれたら戦力的にも有り難いのだが、彼女は宇宙を恐れていると言う。ララァの名を呼ぶ声は震えていた。懐かしく、そして今もなお大切な女の名前だった。
ララァを殺したアムロ。白兵戦で斬り結んだことが今では嘘のようだ。こんなにも弱々しい女だっただろうか。ヘルメット越しに見た眼差しは燃えるような闘志で煌めいていたはずだったのに。
――
そのようにいろいろとシャアの感情を掻き乱す彼女が、廊下の隅で蹲っていたものだから、シャアは当然近寄って声をかけた。
「アムロくん、どうしたんだ」
「
……
、
…
シャア」
蹲った体勢からシャアを見上げるアムロの顔色は酷いものだった。真っ白である。唇からも赤みが失せている。今にも気絶してしまいそうな弱々しい声をしていた。というより、半ば意識が飛びかけていそうだった。廊下の壁に寄りかかり、四肢には見るからに力が入っていない。視線はシャアに向けていても虚に揺れている。
異常事態に、シャアは慌てて視線を合わせるように屈み込む。グローブを外してアムロの頬に触れると、驚くほど冷たくて息を呑んだ。
「アムロくん、体温が下がっている。顔色も悪い。医務室に行こう。抱えるぞ」
「ん
…
」
シャアはぐったりと脱力しているアムロをゆっくり抱え上げる。力の抜けた人体は重いものだが、軍人として鍛えてきたシャアにとっては大した負荷にはならない。しかし抱き上げた彼女は平均よりも余程軽かった。小柄な体躯も相まって子供でも抱えているようで動揺してしまう。
なるべく振動を与えないように気を付けつつ、急ぎ足で医務室を目指した。
「恐らく貧血ですね」
あまりに酷い顔色だったものだから、何か重篤な病でもあるのではないかと心配したものだったが、医務室では貧血と診断された。
「簡易的な検査キットしかないので、あとは症状も踏まえての診断ですが
……
女性はなりやすいですから。月経時は特に」
「
…
月経」
「あー
……
と、プライバシーもあるのでね。詳しくは言えませんが
…
」
そこまで言ってしまっては今更なのでは
…
とシャアは思う。医師もわかっているらしくばつの悪そうな顔をしていた。なかなかセンシティブな内容だが、慣れているのかつい口をついて出たようだった。
医務室のベッドに横たわるアムロはぼんやりとそばで話す二人を見ている。発見時よりは話ができるようになったようで、医師が鉄剤などの内服薬を処方する旨を本人に伝えていた。
シャアは、月経、ともう一度その言葉を頭の中で反芻する。盲点ではあった。シャアもそれなりに女性と関係を持つ事はあり、過去に人体について学んだ機会もある。女性に備わるその機能は知識として持っていた。人によっては月経痛で動けなくなる者もいるらしい。
だが、どうしてだかアムロには当てはめられなかった。女であると確かに認識しているのに、アムロとは重ならない。シャアにとって、アムロは女である前に『アムロ』だった。あのガンダムの乗り手で、一年戦争の英雄で、シャアの額に傷を付けた唯一の存在。
「アムロくん」
「
…
なに」
「君は、その、月経が重いのか
…
?」
「
……
あなたね。そういうこと、軽々しく聞くなよ
…
」
医師が諸々の準備のために席を外した際、思わずアムロにそう聞けば、じとりとした眼差しを向けられた。横になって休んだことで多少体調は戻ったようだ。紙のようだった顔色は少しマシになってきていた。
「
……
昔、ニュータイプのことで
…
いろいろ実験があったんだ」
「
…
は? 実験だと?」
「詳しくは聞くなよ。私も専門的なことは知らないし。
……
そこで、まあ、
…
薬
…
とかも結構使ってたから。その影響で酷くなったんだろうって。その
…
毎回じゃないんだ。けど、今回は酷かった。それだけだよ
…
」
言い終わって、アムロはぐっと目を閉じた。思い出したくないことなのかもしれない。
「しゃ、
……
クワトロ大尉。運んでくれてありがとう。ちょっと休んだら部屋に戻るから」
彼女は言外に、放っておいてほしいと伝えている。しかしシャアは頷くことなく、医務室の片隅から椅子を引っ張り出してベッドのそばに設置して腰掛けた。
「今は急務もない。それに君一人では今度こそ倒れるかもしれないだろう。薬をもらったら私が送ろう」
「え
…
い、いや、大丈夫だって」
「そんな顔色で言われても説得力がないな」
正論である。ぐっと言葉に詰まるアムロはうろうろと視線を彷徨わせた後、諦めたように布団を被って顔を隠した。そんなせめてもの抵抗は、見た目が少女なものだから可愛らしさすら感じる。「
…
お願いします」と小さな声が聞こえ、シャアはくすりと笑った。
やがて医師が戻り、鉄剤や鎮痛剤などを渡される。アムロは嫌そうな顔をしながらそれを飲んでいた。
「
……
絶対背負った方がいいだろこれ」
「あまり腹部を圧迫すべきではないだろう。
…
足も開かない方がいいのでは?」
「くっ
…
! 人のいないとこを通れよ、素早く!」
「走れば揺れて気分が悪くなるのは君だよ」
「あー、もう
…
!」
さて、現在アムロはシャアの腕の中にいた。横抱きである。俗に言えばお姫様抱っこだ。
アムロは自分で歩くから支える程度でいい、と言い張っていたものの、ベッドから立ち上がった途端にスッと血の気が引いていく様子を見てしまえば、シャアには抱える以外の選択肢はなかった。明言こそしていないが月経による不調だと察しているので、背負うと足を開かせる体勢になるため却下。結局、医務室へ運ばれてきた時と同じ横抱きに落ち着いたのである。
一度目は絶不調で気絶寸前だったので何かを考える余裕もなかった。しかし休んだおかげで今は意識もはっきりしているため、アムロは余計に恥ずかしく感じているようだ。耳や目元がほんのりと赤く染まっている。
シャアはアムロを抱えた状態で、なるべく彼女を揺らさないように気を付けながら歩いていく。平均よりも小柄で軽い体躯は、すっぽりとシャアの腕の中に収まっている。剥き出しの腕に触れるその身体の温度は、シャアの体温より低い。
「
……
ふ、
…
」
「痛むのか?」
「
…
だからあなた、デリカシー
……
はぁ、もういいや。そうさ、痛いよ。どうして女に生まれたんだって思うくらいにね」
男の腕の中でアムロは嘆息する。
交際もしていない男性と、ただでさえデリケートな話題である月経関連の話などしたくもない。それも宿敵として殺し合ったシャアである。けれども情けないところを見られてしまったわけで、現在進行形で世話になっているわけで、自分も体がしんどいわけで
……
と、アムロは開き直っていた。
強張っていた身体から力が抜ける。こつん、と厚い胸板に頭を寄せて寄り掛かった。一歩、シャアの歩調が乱れたが彼女は気付かない。
「あなた、体温、高いな」
「
……
そう、か?」
「うん。筋肉が多いからかな。昔よりなんか、大きくなってるし
……
」
ふう、とアムロが細く息を吐く。医務室で鎮痛剤も飲んでいたが、痛みは続いているようだった。手のひらで下腹部を摩っている。
「アムロくん、もう部屋に着く。ロックは外せるか」
「ん
…
」
アムロに宛てがわれている部屋の電子扉が開く。部屋の中、くしゃくしゃのままのシーツが敷かれた寝台へ近付いた。意外と物臭なのだな、と考えつつ、ゆっくりと体を下ろしていく。
「う、
…
ま、待って
…
」
「どうした?」
互いの体が完全に離れきる前に、アムロがシャアの腕を掴んだ。顔からはまた血の気が引いている。痛みの波が来たらしい。
「アムロくん?」
「うう
……
くそっ、あなたが温かいから
…
!」
「
…
寒いのか?」
腕は掴んでいる。しかしそこから、シャアの体を引き寄せたり、抱きついたりすることはない。アムロは一人で耐えていた。血の巡りの関係で、月経痛は体を温めると和らぐと聞く。すっぽりとシャアの腕の中にいた時、彼女はその温もりに安堵していたのだ。
温もりを手放しがたいと思いながら、縋る術を知らない。
――
きっとこれまでも、そうやって一人で耐えてきたのだろう。
いじらしいことだ。シャアは下ろそうとしていた女の体をもう一度抱えなおした。代わりに寝台に腰掛け、彼女を膝の上に座らせる。放られている掛け布団を引き寄せて、腕の中に戻ってきたアムロに被せた。
「シャア
…
?」
「温めるとマシなのだろう」
シャア自身が座ったことで、アムロの体を支える手は片方だけで良くなった。もう片方は彼女の下腹部に乗せる。そこにはアムロの手がある。少しでも温もりを与えようと自分で摩り続け、けれども冷たいままの女の手のひら。触れると、びくりと指先が戦慄いていた。
「使っていい」
「
……
」
自身の手を、冷えた指先に絡ませる。戸惑う気配が強い。当然だ。二人は互いに、身体的にも精神的にも、ここまでの距離を許したことはない。宿命とも言える敵だったのだ。
掛け布団の中、そろりと指先が動く。温かい男の手のひらを、小さな手がゆっくりと導いている。やがて男の手が、衣服を捲ったのか肌着のような薄い布越しに、冷えた下腹部に触れた。
「さ、さすって
……
」
「
――
、」
少し掠れた、囁くような声だった。カッと体の中心が火を入れたように熱を持つ。
羞恥と苦痛に潤む眼差しに煽られる。しかし女の青褪めた肌が、無体を許さぬと男に理性を取り戻してくれる。
無防備な
…
と、自分から促しておきながらシャアは天を仰ぎそうになった。この女、まさか誰にでもこんなことを
…
? と苛立ちすら抱く。そもそも交際すらしていない男女の距離ではない。友人の距離であっても越えている気がする。いや、この体勢に落ち着かせたのは自分だが
…
! と悶々としながら、なんとか理性を保ちつつ、ゆるゆると温めるように腹を摩ってやった。
薄っぺらい腹だ。けれど、男のそれとは違う。首も腕も指先も、骨格から異なる、女のものだ。月に一度血を流し、子を宿す腹を持つ
――
アムロ・レイは『女』なのだ。少女のような形をしていても、いつかこの手のひらの下の腹に、誰かの子を孕むことができる、女の体。
「
………
アムロ、私が」
「ん
…
?」
衝動だった。勝手に言葉が溢れてくる。『誰か』の存在を考えて、憎悪に近い激情が湧いた。そんなこと許せない。それならば、それならば
――――
温もりに包まれて、微睡むように深く息をしていたアムロがシャアの言葉に目を開ける。痛みの波は去ったのか、表情に苦痛はない。未だ潤んだままの瞳が、照明の光を反射して星を宿したようにきらきらと光っていた。
「私が止めてやろうか、十ヶ月」
「
…
は」
するりと腹を撫でる。アムロの瞳がさらに大きく開き、驚きを露わにする。どちらも言葉を失ってその場に沈黙が降りた。空調の音と、艦の駆動音が響く。
「あ、は
……
ふ、ふふ、あなたって
…
」
アムロの口元が緩む。瞳が優しく細まり、頬が柔らかく上がる。シャアの腕の中で女が微笑んだ。それはまるで、ゆっくりと花が開く様を見ている心地だった。
これまでの彼女の表情の中で見たことのなかった、無垢な子供のような微笑みに、勝手に心拍数が上がる。
「口説きのセンス、絶望的だな
…
! 最低だよ!」
「
……
言ってくれるな
…
」
くすくすとアムロが笑っている。そのうち堪えきれなくなったのか、声を上げて笑っては、腹に響いたのか「いたた
…
」と泣き笑いのようになっていた。
一方シャアの方は、自分らしからぬ醜態に頭を抱えていた。これまで関係を持った女には、当たり障りのない口説き文句などさらりと言えていたのに。こんなに酷い口説き方があるだろうか。衝動で口をついたにせよ
――
いや衝動で口説いたのか、あのアムロ・レイを?
ぴたりと腹を摩る手が止まる。未だ笑っているアムロを見つめた。
この女を抱けるのか? と自問して、抵抗なく頷けることに動揺した。
あんなにも撃ち落としたかったガンダムの乗り手。自分が認めた戦士。見過ごせないと同志にすら誘って。今度は同じ組織に所属することで戦いで決着を付けることができないことを、残念に思っていたはずだった。今、この女に抱いてる感情は何だ。おちぶれたと思った落胆でもなく、衰えぬ技量への歓喜や憧憬でもない。
紛れもなく、かつて愛した女へ向けたそれと良く似たもの。
――
否、ララァへ抱いたものよりも、もっと激しく荒々しい。どの女にも向けたことのない、強い独占欲と征服欲。『誰か』を考えるだけではらわたが煮えるほど。
欲しい、と思った。アムロ・レイの全てが欲しい。この女はどんな声で啼くのだろう。無垢な微笑み以外に、どんな表情を隠しているのだろう。
それこそ、あの光る宇宙でのアムロとララァのように、一つになってしまえたら。
「
…
アムロ」
「悪い、笑い過ぎたな
……
シャア?」
温もりを手放し難かったのは、シャアの方だったのかもしれない。運命みたいにまた巡り会えた宿敵。腕の中に収まる小さな女。ああ
――
このまま攫ってしまえたなら。自分だけの、輝ける星になってくれるのだろうか。
アムロ・レイが欲しい。シャアは初めて、心の底からそう思って、星のような女を抱き寄せた。
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