もちゑ
2025-07-31 00:03:27
2033文字
Public 🖊️:文字
 

【再会】いったんはなればなれになっていた者が再び会うこと。

VOID自陣 現未✖ 全生還エンド後HO4清掃員エンド(ほんとです)

 唐川はパーテーションの向こうで作業をしている清掃員の男に目をとめた。昼休みで署員が食堂へ出払う時間帯、空席の目立つオフィス。170cmはあるパーテーションの上辺から肩と頭が覗く長身だ。ゆったりと腕を伸ばして天井近い壁付照明の電球を交換している。
 その体格と佇まい、何より横顔に見覚えがあった。いやまさか。
 にわかには信じられず、隣を行くパートナーロボットに声を掛ける。
「なあ波羅伽羅。あれって……灰原さん、だよな」
「あれ? 本当ですね! しかし何故清掃員の制服を着ているのでしょう?」
 唐川のパートナーロボット・卯野波羅伽羅も両目を瞬かせた。二人は顔を見合わせ、アンドロイド事件捜査係本部へ戻る道から逸れた。
「灰原先輩!」
 卯野が溌剌と呼び掛ける。男は振り向き、見慣れた笑みを浮かべた。
「唐川巡査、卯野。二人ともこんにちは」
「こんにちは!」
「ども……何してるんスか」
 例の事件から1ヶ月後、通常勤務に復帰した唐川と卯野は確かに今まで灰原を見掛けていなかった。灰原の不在に戸惑いはあったものの、彼は事件の最後に損傷を負っていたし、旧型アンドロイドだということもあったし、修理に時間がかかっているものだと思っていたのだ。
 清掃員の制服に身を包んだ灰原は完璧な微笑みで手の中の電球を見せた。
「ライト交換です」
「いやそうじゃなくて」
「配置換えになりましてね」
 見れば彼は清掃カートを携えている。
「清掃員になったんですか!?」
 卯野が素っ頓狂な大声を挙げた。灰原は頷きながらカートから新しい電球を取り出し、空いたソケットにキュルキュルと嵌め込んでいく。カートには様々な掃除用品が積まれていて、中にはゴミで膨らんだ袋も幾つかある。掃除をしながらここまで来たのだろう。
……え、本当に?」
「冗談の為に職務を変えたりなどしませんよ」
「でも灰原先輩は嘘吐きですからね! 直ぐに信じてはいけませんよ、翠!」
 卯野が頬を膨らませて唐川を庇う。灰原は眉を上げ、面白そうに笑った。
「嘘じゃありません。それに、この仕事は私の性に合っていて楽しいんですよ」
「掃除がですか!?」
「ええ。私に大立ち回りは向いていません」
「いや何言ってんスか……
 電球を交換し終えた灰原は唐川を眺めた。灰色の角膜を模したカメラが、頭、肩口、腹、脚と視線を移していく。
 反射的に身を固くした唐川に灰原は目を細めた。
「怪我は良くなったんですね」
 アンドロイドの目は優し気だった。
「あ……はい、大分。ご心配おかけしました」
 なんだか気恥ずかしくなった唐川は不器用に会釈した。卯野は更に頬を膨らませた。
 廊下の角を曲がって大型の清掃ロボットが現れた。丸みを帯びた1m程の立方体で、廊下のカーペットに絡み付いたゴミを底面に備え付けられた掃除機で吸い取りながら一人と二体に向かってくる。随分年季が入っており、パーツが歪んでいるのかその走行はがたついていた。
 清掃ロボットは灰原の横まで来ると何かぶつぶつと音を出した。灰原は清掃ロボットに不思議な瞬きを返す。清掃ロボットはそのままゆっくり通り過ぎて行った。
「先輩に油を売るなと怒られました。職務に戻ります」
 灰原はそう言うとカートに手を掛けた。
「『先輩』!?」
「ええ。彼はルーロ60。この建物のことなら一番詳しい長老ですよ」
「本当に清掃アンドロイドになったんだ……
 一人と一体はカートを押す灰原に道を開ける。灰原は卯野の背をぽんと叩いた。
「では、午後も頑張って」
「はい。灰原さんもお疲れ様です」
 灰原はいつもの笑みを返すとルーロ60の後を追い、廊下の角を曲がって消えた。
「びっくりしたな……灰原さん、見掛けないとは思っていたけど。瀬黒係長が配置換えをしたってことだよな? 警官アンドロイドの職域からも外すなんて……なんでだろう」
 唐川は軽い混乱を覚えながらも卯野に話し掛ける。しかし卯野からの返答はなかった。見れば卯野は灰原に道を譲った体勢で停止している。
「波羅加羅? おい、波羅加羅」
……これ! 灰原先輩!」
 肩を揺さぶるとはっとした卯野は顔を上げた。灰原がいないことに気が付くとあわあわとばたつき、唐川の手を掴んで主張する。
「灰原先輩がデータを送信してきました! これきっと……今、僕たちが追っている事件の関連資料をまとめたものです。しかも新情報ですよ!」
「えっ」
「なんであの人が知ってるんですか! やっぱり変ですよ!」
「と、取り敢えず係長のところに行こう」
 一人と一体は騒がしくドロ係本部へと戻るだろう。仮眠をとっていたアンドロイド事件捜査係係長も飛び起きるかもしれない。新人清掃アンドロイドは先輩ロボットから署内の人間関係や噂話を収集しているのだろう。
 それぞれの思惑は今後も錯綜したり、錯綜しなかったりしていく。
 それが人生というものなのだから。