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えん
2025-08-07 00:00:09
2078文字
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親友日誌0日目!
花ヶ丘現行未通過×
あったかもしれない捏造過去話
たぶん、きっかけなんてそう大したことじゃなかった。
花ヶ丘高校は、家から一番近い高校だ。学力的にギリギリ手が届く範囲で、私立ではあるがそこまで学費も高くない。数キロ先に公立もあったが、競争率が高くて家からより遠かったから、オレの第一希望が花ヶ丘高校になるのは必然だった。
周りも似たような考えだったのか、牡丹ちゃんも、中学の友達の多くも、花ヶ丘高校に進学した。だから、新生活へのワクワク感は少なくて、なんとなく中学の延長のような、そんな気分でいたのだ。
新しい制服に袖を通して、行き慣れない通学路を進む。途中で牡丹ちゃんと合流して、制服が新鮮だなって話をして、緊張感もなく高校の門をくぐった。牡丹ちゃんと同じクラスで、クラスメイトも見知った顔が多くて、きっとこれからの生活もそう変わらない。そんな風に思って、それぞれの席に向かうために別れた。
隣の席に座る彼は、初めて見る顔だった。同じ真新しい制服を身に着けているのに、周りのガヤガヤとした会話に交らず、静かに席についている。ちらちらと彼を伺う視線はあったが、話しかけようとする者はいない。それは、彼が頬杖をついて、眠そうに目を伏せているからだろうか。教室の中でそこだけ切り取られたように静かで、オレはなんだかそれを寂しく思った。
「なあ、初めまして、だよな?オレ、猪俣萩仁!よろしくな」
にこり、と笑って声をかけた。その言葉に振り向いた彼が、少し驚いたような顔をしていたのを、よく覚えている。
そんな声かけで、すぐに距離が縮まったわけではなかった。オレが知っているのは、彼が神無碧という名前だということ、この春に関西からこちらに引っ越してきたこと、オシャレで手先が器用であること。そのくらいだ。それはきっと他のクラスメイトと変わらないくらいの情報量で、オレもそれを特に不満には思わなかった。
その日、教室に戻ったのはたまたまだった。
明日から連休が続くというタイミングで、体操着を教室に忘れた。家に帰りついてからそれを思い出して、学校に引き返すハメになったのだ。大型連休明けまで放置された体操着がどうなっているかなんて、想像もしたくない。来た道を戻るのは面倒だったが、取りに帰らないという選択肢はなかった。
戻ってきたころ、学校にはあまり人気がなかった。新入部員の募集は始まっていたが、まだ仮入部の時期で、部活動も本格化していないらしい。学期始めは上級生たちのテストなどもないらしく、生徒が学校に残る理由もなかった。
シンと静まり返った廊下は、なんとなく居心地が悪い。よくない幽霊でも出てきそうだ。さっさと忘れ物を回収して帰ろうと、足早に教室に向かって、その扉を開けた。
「神無?まだ残ってたのか」
「
……
ああ。猪俣くん」
そこに人影がいた。すぐに神無だと分かったのは、いつもの彼の席にいたからだ。入学式の日と同じ格好で頬杖をついて、神無は窓の外を見ていた。オレの声かけに、ゆっくりと顔をこちらに向けた彼は、どこかぼんやりとしている様子だった。
春の日が落ちるのは、思ったよりも早い。半端に開いた窓から風が入って、白いカーテンが大きく膨らんだ。教室を照らす夕焼けの形が、カーテンの揺れによって変わる。その中で一人座る神無の姿が、なぜか妙に馴染んでいる。そのまま夕焼けに飲まれてしまいそうだと思った。
「
……
なんか、学校で用事でもあったのか?」
「ん?あ~
……
別に、そういう訳やないけどね」
なんとかいつもの調子で訊くと、神無はふと目を逸らした。誤魔化すように呟いた言葉が、どことなく早口で掠れる。それになんとなく、それ以上は聞いてくれるなと言われているような気がした。
「猪俣くんこそどうしたん?忘れ物?」
「ああ、まあ
……
」
そんなとこ、と頷こうとして、なぜか言葉が喉で詰まった。そう答えるのは本当のことなのに、この場ではふさわしくないと思った。
もしそう答えて、そのままオレが忘れ物を手にしたら。そうしたらオレが帰ったあとも、彼はここに一人でいるのだろうか。
ずかずかと教室の中に入る。考えるより先に身体が動いていた。音を立てて自分の席の椅子を引いたのはきっとわざとだ。そのままドカッと椅子に座って、改めて彼の方に顔を向けた。
隣の席の彼は、目を丸くしている。頬杖をついていた手から少し顔を離して、ぽかんと口を開けてこちらを見る。少し間抜け面にも見えるそれに、ほっと息を漏らしそうになってあえて口角をあげた。
「
……
猪俣くん?」
「いや、オレ、神無と話したい気分かも」
笑顔を浮かべてそう言えば、神無は二度三度まばたきをした。予想外だったのか、しばらく言葉もでない様子だ。それに笑顔を浮かべたままでいると、彼はふとその表情を緩めた。
「なんやそれ、ヘンやな」
「まあ、いいだろ!たまにはさ」
クツクツと小さな笑い声をあげている彼に、オレもつられて笑う。その笑い声が耳に心地よくて、聞いていたいと思った。
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