Your birthday is...
慣れたソファに座るセツマは、にっこり微笑み言った。
「ミレイや、お誕生日おめでとう」
「おお、そうじゃそうじゃ。おめでとう」
「ビガ~!」
ローガンとピカチュウも、続いて祝いの言葉を向けた。3人からは拍手が巻き起こる。
「ありがとう! おじいちゃん、おばあちゃん! ピカチュウも!」
ミレイは顔をほころばせ、声を弾ませる。よほど嬉しいのか、その場でくるりと回ってみせる。軽快な足取りはさながらダンスのようだ。
「ぶらら!」
「えふぃー!」
ぶらいととえふぃーも、浮かれるミレイに声をかける。
「2人もお祝いしてくれるの? ありがとう!」
ミレイは屈んで、しきりに2人の頭を撫でる。ぎゅうと抱き寄せ頬擦りをする。その勢いでえふぃーの鼻の奥がむぎゅっと鳴り、一同は笑い声を上げる。ごめんごめんとミレイは謝りながら、えふぃーの鼻を撫でる。
レオは輪から外れるように一歩引いた位置で壁に寄りかかり、その様子を見ながら押し黙っていた。
「2人でプレゼントをいろいろ考えたんだけど、ミレイももうすぐ大人の女性ですからね」
「わしはぬいぐるみがいいじゃろうと言ったんじゃが、おばあさんがどうしてもって聞かなくてのう」
とローガンは、綺麗に包装された小さな箱を差し出した。包装紙はどうやらデパートのもののようだが、色が濃く、中身が分からない。
「何かしら? 開けてみてもいい?」
期待に目を輝かせる孫の姿に、目を細めて頷く2人。はやる気持ちを抑えるように、ミレイは丁寧に包装を取る。テープを剥がすごとに、ミレイからふふっと声が漏れ出る。箱が見えるや否や、ミレイは歓喜の声を上げた。
「わ……! 今流行りのインカローズ・チャームだわ! あたし、香水ってはじめて!」
箱から丁寧に取り出された香水瓶は、ピンクとブルーに色づいていて可愛らしい。一通り回転させて確認した後、瓶の装飾と、それに入った液体を光に透かして食い入るように眺める。
「そろそろミレイも、こういうのがいいんじゃないかと思いましてね」
「素敵……とっても嬉しいわ! つけてみてもいいかしら?」
はしゃぐミレイとセツマ。それを笑いながら、ローガンはふとレオを向く。
「こう見えてもおばあさんは、若い子の流行も結構知っておるんじゃよ」
ローガンはばちんとウィンクしてみせたつもりだったが、傍から見れば立派な眉毛がモソッと動いただけだった。ローガンは答えを求めるでも聞くでもなく、すぐさま輪の中に戻る。レオはただ、その場に突っ立っているだけだった。
「すっごくいい香り! おじいちゃん、おばあちゃん、どうもありがとう!」
ミレイは満面の笑みで、ぺこりとお辞儀をした。
「今日は最高の誕生日だわ」
* * * * *
この時期はもう日の入りが早く、2人がフェナスシティに着く頃には星も月も輝いていた。
ポケモンセンターにチェックインし、2人はそれぞれの部屋に向かって並んで廊下を歩く。トレーナーやポケモンが行き交い、まだにぎやかな時間だ。
「ミレイ、誕生日だったんだな」
「うん」
「……どうして言わなかったんだ」
「えーっ、だってえ」
ミレイはてへへ、と照れ笑いする。自分についた香水の香りを楽しみながら、スキップのような軽い足取りで弾むミレイ。
レオは無造作に手を差し出す。
「……これ」
「え……?」
ぴたり、足を止めるミレイ。その手のひらの上には、それに収まるくらいの小さな紙袋。口が折られていて、セロハンテープで留めてある。
「その……誕生日プレゼント」
ぶっきらぼうに出された腕と、ぎこちなく俯くレオ。その様子に、ミレイは目を丸くする。
「いつの間に……。くれるの……?」
聞こえないくらい小さな声で、レオが返事をしたような気がする。と、ミレイはとびきりの笑顔で、その袋を受け取った。
「ありがとう、レオ! 嬉しい! 開けてもいい?」
言い終わらない内に袋を開ける。中をサラリと手のひらに出すと、それは金のチェーンに赤い玉のついたブレスレット。ミレイからは感嘆のため息が漏れた。
「わあ、可愛い! なんだかちょっと、ブラッキーとエーフィみたいなデザイン!」
ミレイはいそいそと左手首に着け、キラリと光るブレスレットを、目を細めて眺める。
「ね、似合う?」
返事も聞かずに、目線をなるべくブレスレットに向けながら、また跳ねるように歩きだした。
夕食は、ポケモンセンター内のレストラン。もちろんポケモンも一緒に食事が出来る。
ぶらいととえふぃーはソファから身を乗り出し、目の前のお皿に顔をうずめている。ミレイは左腕をチラチラと見ては笑みを零しながら、そしてレオはいつものように無表情で、向かい合って食事をしていた。ローガン邸でそれはもう豪勢な昼食とデザートを食べたため、夕食のメニューは小さなサンドイッチとスープ。
「こんなに素敵なプレゼントもらっちゃったんだもん。お返ししなきゃね!」
ミレイはトン、とテーブルに両肘をついて、手に顎を乗せる。少し可愛らしくしてみたつもり。
「ねえ、レオ。レオの誕生日はいつなの?」
「オレの……?」
レオが視線だけを上げると、ミレイは少し覗き込んだ。目が合い、ミレイはにっこりと元気な相槌を打つ。
「ない」
瞬間、ミレイの顔から笑顔が消える。その様子を気にするでもなく、レオはまた視線を戻し、目の前のものを口に運ぶ。ぶらいとはレオとミレイの顔を交互に見た後、静かに水に口をつける。
しばらく沈黙が続いた。
ミレイは可愛らしいポーズのまま硬直していたが、やっと腕を膝に戻し、口を切った。
「……ど、どういうこと……?」
「そのままの意味だ。そんなものオレにはない」
レオはただ淡々と話す。しながら、平然と食事をする。予想だにしなかった答えに、ミレイは戸惑いを隠せない。
「どうして……?」
「どうしてって聞かれても、ないものはない」
当たり前のように紡がれる言葉。その様子にミレイは動揺し、そして激しい違和感を覚える。今度はえふぃーが顔を上げ、チラリとレオを見やってから、鼻で小さなため息をついた。
「……淋しくないの……?」
ミレイの力無い言葉に、レオは初めて手を止めた。
「別に……」
瞼を伏せ、スープを見つめるレオ。ミレイは見たこともないレオの表情に下唇を噛み、同じように首をうなだれた。と、キラリと光るものが視界に飛び込む。
「ね、じゃあ」
留まっているレオの右手に、ミレイはその左手を重ねる。優しい香りが、ふわりと鼻を撫でていく。金と赤が眩しく光るブレスレットの、僅かな重みがレオの手に伝わっていく。
「今日がレオの誕生日! ね! いいでしょ?」
ミレイの弾むような声に、レオは顔を上げ、目を見開く。
「あっ……それともあたしと同じは嫌かしら?」
眉を下げ焦るミレイに、レオは懸命に作った慣れない笑顔で返した。
「……ありがとう」
そして、ミレイの笑顔に安らぎが蘇る。
「レオ、お誕生日おめでとう! 今日が最高のお誕生日になりますように」
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原文は3周年の時のものですって。ヒッ。
ポケモンセンターのある町にはホテルがなく、ホテルがある町にはポケモンセンターがないことから、(アニメ版のように)ポケモンセンターに宿泊施設が併設されている可能性が高いのでは? と考えています。
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