つぐころね
3130文字
Public √Eden 🤝
 

宵の帳と藍色甘露

🤝妖精くんと

 
 青々と茂る葉に隠れ、藍色の実が色づき出し始めたブルーベリーの鉢植え二つ。これならば小鳥さんにもお裾分けが出来そう...と、ほくそ笑んだのは、水無月も終わる頃の夕暮れに染まる空の下、水やりをしていた時。
 今年は何にしようかと考えた時に、頭を過ぎったのは彼特有の笑い声。(嗚呼...そういえば、そんな話もしたなぁ...)とそんなことを思いながら、熟していそうな実を、ひと粒摘み取り。打ち水用に水を汲んでおいた手桶で濯いでなら数粒口に放り込む。

 「ん、おいし。良い出来

 鳥さんよりも妖精さんよりも一足先に瑞々しい甘酸っぱさを味わいながら(もう少ししたら収穫、できそうだねぇ)と、空を見上げてにこりと笑った。



 ――それから少し経った頃の夜更け。
 誰もいない店の中、一人カウンターで帳簿仕事をしている途中。うっすらと感じた空気の流れに顔をあげれば。

 「よう、藍花。ブランデーがそろそろ漬かっている気がしてきたんだが、どんな塩梅だ?」

 するりと闇から抜け出るように現れた妖精さんが、思ったよりも近い距離でカウンターに頬杖を付きながらそう声を掛けてきて。ちょっとだけ驚いて身を引けば、――kec.kec.kec.と啄木鳥が木を鳴らす音のような彼特有の声で笑う。そんな彼の様子に(揶揄われた?)と、少し唇は尖らせながら。

 (楽しみで、てんしょん高め⋯? まさか、ね⋯?)

 そんな事を思う傍ら、帳簿を閉じてカウンターの引き出しに片付けた代わりに取り出したのは、いつもは『本日のおやつ』を記している卓上黒板とチョークの箱。そんなボクの手元を見つめる視線は感じたけれど、敢えてそれには顔は上げず書き込んでから。此方をみている彼の前へと卓上黒板を立てかける。其処に書いてあるのは。

【本日のオススメ
 妖精さん専用・ブルーベリーのフルーツブランデー
 採れたて・冷凍のブルーベリー有ります】

 ――そんな文字で。
 それをみた妖精さんは、少しだけ驚いたような顔をした後に自分の太腿を叩きながら一頻り笑ってから。ちょっと呆れた眼差しでボクをみて。

 「相変わらずだな」

 苦虫を噛んだみたいな表情を携え、溜め息まじりにそう呟いた。
 ん?言われたボク? 勿論どやどやって顔で、本日のオススメを取りに向かうよ。一矢報いて、とても満足

 それに――彼が表情を崩すのを見るのは、ちょっと楽しくて。つい、準備も仕込みもしちゃうんだよねまぁ、嫌な顔されるから内緒だし。楽しみのための努力は、きっとヒトらしい欲望なんじゃないかな?とこっそり自分に言い訳済なのも、内緒なんだけれども。



 コトン、コトン、と。カウンターに器を置く毎に硬い音がする。この音が、なんとなく好き。もてなす相手いるなら余計に好ましく感じる。

 本日の目玉は、透かし薔薇の模様が綺麗なアンティーククリスタルのブランデーグラス。初めて見つけた時に彼が来たら使おうと思って取っておいたもので、こういう口が窄んでいる形は風味が際立つらしい。ボクにとってブランデーは"飲むもの"というより"使うもの"だったから、こういう新しい縁が繋がるのもなんか良いなぁ、と思う。
 それとは別に置いたチェイサー用のぐい呑みも、今年の夏用に買った紫色、青色、そして白色の散りばめられた、びぃどろ製のお気に入り。そして最後に置いたのは蜂蜜漬けの輪切り檸檬と生ミントウォーターが入ったデキャンタ。

 全体的に硝子食器で纏めたから、なかなかの涼やかさじゃない?
 自分の好きが並んだ様子を見ながら満足いっぱいでニマニマしていたら、カウンターの向こう側から視線を感じて。つられるように顔をあげると、そこにあったのは不思議なものをみるような深い青。それに「なぁに?」と首を傾げれば。

 「何がそんなに楽しいのやらと思ってな」

 長い足を投げ出すように座り、気怠げな様子でコツンコツンと細い指がカウンターを叩いてリズムを刻んでいる。それは彼の目当てのものを出していない事に対しての不満なのかな、とも思えて。笑うのを堪えながら、フルーツブランデーを詰め替えたスイングボトルと、生と冷凍のブルーベリーを入れた脚付ゴブレットを置けば。

 「好きなヒトを持て成すのは楽しき、よ?」

 早々に身を乗り出し、生のブルーベリーを選んで摘む姿をみつめる傍ら、彼の分のぐい飲みに水を注ぎながらボクがいうと。妖精さんは胡乱な眼差しを浮かべたまま、ぽいぽいと口の中へと藍色の実を放り込み、咀嚼してから。

 「酸っぱいな。 だが前のやつもだったが、なかなかに爽やかで瑞々しさもあって良い出来だ。来年も楽しみだ」

 テンション増し増しな雰囲気で、嬉しそうな顔に早変わり。早口で感想をいうとスイングボトルを指差し、灰色の舌でぺろりと指先を舐める。その忙しなさは、ちょっと可愛らしい。

 「そのまま、で良き?」
 「勿論だとも」

 座り直しながらブランデーグラスを手に取り、ボクの方へと差し出す機嫌の良さげな雰囲気の妖精さんの姿に、今度は堪えず小さく笑いながら、前回所望された時と同じようにフルーツブランデーだけをグラスに注ぐ。彼が手元のグラスから漂う香りを楽しむ姿を横目で見つつ、ボクも自分のグラスには氷とレモン水も追加し注いでから軽くグラスをあげようとすれば、すかさずチン――とグラスは音を鳴らされて。少し赤みを帯びたブランデーは妖精さんの口へと消えていき。嬉しそうな唸り声を店に響かせてから「うまい」と、ただそう一言、彼は笑う。

 「なら良かった」

 そんな彼の明かりに透かすようにグラスを眺める姿を横目に、自分のグラスを傾ければ。程よい甘酸っぱさ加わったブランデーの味が口に広がり、甘い香りが鼻を抜けていく。それに(嗚呼やっぱり、香りの強い子を借りて良かったなぁ)としみじみ思っていれば。

 「随分と香りがいいが、これもこの間のやつなのか?」
 「んそだよ。ダゴールくん用の子、だからね...?」

 同じような事を感じたのかダゴールくんはグラスを揺らし、香りを楽しむ傍らに聞いてきて。(分かるものなのだねぇ)などと感心しながら小さく頷けば。彼は少しだけ厭そうな顔をしてから「そりゃあ、また」と呟いてから「上々」とほんの少しだけ機嫌良さそうに付け加え、グラスを傾ける。そんな様子にボクも笑った。きっと彼にも思う所があるのだろうけれど、それを気にせず楽しんでもらえたならば、それこそ上々。次も頑張ろうって思えるわけで。この、くるりくるりと巡る感じが――彼は嫌がるけれど、ボクはとても好きだったりする。


 そんな風に何気なく他愛もない言葉を交わしながら、宵の帳に紛れて現れ去っていく妖精さんと、藍色甘露をお供に二人酒に浸る。その最中(来年は別の子、借りようかなぁ)と、嬉しそうに甘露に浸る彼の横顔を見つめながら思ったわけだけど。いつか甘い果実を一緒に食べれたら良いな――とも願ってしまう夜更けだった。



~終?~
独り言 ブルーベリーが実る季節になったし、と。本当は小噺だけを妖精さんに渡すつもりだった所、妖精さんのくらやみスレに初めて滑り込めて、うっかりお蔵入りになりかけた小噺が勿体ないないなぁと思って。少し弄って救済してみた。たぶん出来てる、はず? そして妖精さん、書くのは楽しいけれど、とても難しい(しょんぼり)

 今回は、ただの日常切り取り風。ただ穏やかな感じ。こーゆーのを増やしていきたい(ぐ)



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√Eden 藍花 / 藍苺堂