夏の集中授業も終わり、いよいよ本格的な夏休みが始まると高杉は高校生男子必須の雑誌と妹たちが読み終えた少女雑誌を交互に読み、とある一面を開いて唸っていた。
『彼女の着崩れをさりげなく直してポイントゲット』、『TOKUBETUを体験したいなら浴衣、コーディネート情報』と描かれているページには浴衣姿のモデルが並んでいるが高杉の目当ては彼女ではない。
着崩れしても高杉も森も自分で直せるし、第一最初の着付けさえしっかりとしていれば、そこまで崩れることもない。
男性誌には申し訳程度に浴衣の男性が並んでいるが、濃紺、鼠色よくて白の生地しかなく、女性の浴衣に比べると柄も乏しい。
「読み終わったか」
もう少し奇抜さが欲しいと高杉がぽんと雑誌を閉じれば森が声をかけてきた。
「えっ……森君いつからいたの、君、デカいのに気づかなかったぞ」
帰り支度を終えた森は空いている椅子に腰をかけ、高杉が読み終わるのを待っていたが、
いきなりの台詞に眉を顰めた。
「あ……そっちが気づいてなかっただけだろ、いつからというかテメェがさっきのページで固まっていたくらいからか」
「ほぼ最初からだね……」
「何悩んでる?」
「あ~なんで男の浴衣って地味なヤツばかり何だろうってな」
ココで秘密と云っても森はほーんと返事をするだろうが、情報を小出しでも話した方が嘘が隠しやすいことを高杉は経験している。
「大殿とか普通に髑髏柄、殿下なんかは赤と金色の浴衣持っていたぞ」
「そこは別枠だろ……」
「去年の夏に着ていた浴衣、似合っていたけど」
「まぁ僕だし、柄のない浴衣でもうまく着こなせるわけだが……」
それじゃ森君を脅かせられないとうっかり口が滑りそうになった高杉はキュッと唇を結んだ。
「うちに大殿の母御が大殿のためにあつらえた浴衣があるから見てみるか、」
「信長公の、」
「柄とかテメェが気に入るのがあるかは分からねぇが、」
信長と高杉の趣味は合いそうで合わないが、それでも天下の織田が用意した浴衣が見られるのならばと高杉は森の家に行くことにした。
「そっちは肌が浮くからダメだ、帯をそれにするなら深紅、いやいっそ黒地もいいか」
信長のためにあつらえられた浴衣は大和撫子に似合う柄ばかりだった。
中身は兎も角、黙っていれば艶めく黒髪と大きな瞳は雛人形のように美しい信長に似合いそうではあるが、彼女の纏う覇王の風格までは隠せそうにない。
儂の好みじゃないからと子だくさんで女子もいる森家に下賜された浴衣は、浴衣ではあるが桁も違えば職人達の熱量も違う。
そんな浴衣を所狭しに広げられた高杉は最初は感心していたが、あれよあれよという間に森の着せ替え人形になっていた。
最初は高杉さんは男なんだからと止めてくれた森の母だが、一枚浴衣を纏えば感心し、自分の小物を森に渡すと「冷たいお菓子作ってくるわね」と部屋を後にした。
「森君、何枚着せる気だ、そもそもこれは女性の、」
男は女性と違いおはしょりを作らないので、身長差がある信長の浴衣も着られるが、それでも抵抗はある。
「最近じゃあえて女の浴衣を着るのが洒落ているって、おっ準備が良いなほら」
森の母が小物と一緒に置いていった雑誌には、男性俳優があえて女性の浴衣を着こなしポーズを取っていた。
「う、まぁ確かに着物も女性が男仕立てを着るなんてのもあるし、性別は関係ないのか」「だろ、よっしゃ良いヤツ見つけたぜ、これにしとけ」
「七五三でもこんな赤を着る女子はいないぞ……」
森から渡されたのはこれぞ紅という色合いの浴衣は、袖には蝶や花が描かれているが、胴の部分はあえて足下にいくほど色を薄くする仕上がりになっており、地味ながら目を引く仕上がりになっている。
「服っていうのは羽織らなきゃ分かんねぇだろ、」
「……分かったよ、」
サッと浴衣と帯を合わせた高杉が立てば、森は感心したのか息だけを漏らす。
「……高杉、」
高杉の艶やかさに当てられた森が高杉の頬に触れようとした瞬間、コトッと音がし二人は扉の方を見た。
『儂の浴衣でいちゃつくとかおぬしらやるの、暑いから熱中症には気をつけてね☆』といつのまにか森家に遊びに来ていた信長が書いた紙と冷たいお菓子が扉の側に置いてあった。
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