いしえ
2025-08-05 18:41:56
5513文字
Public テニ腐
 

お城の桃木は王子の掌中/リョ桃(画像版+本文のみ版)

タイプの話。無意識下で既にリョに惚れてる桃と、わかってる口説きリョ。くっつく。桃からのかわいい後輩扱いあり。











お城の桃木は王子の掌中/リョ桃




 その日も桃城武は、"時々かわいげのないところもある"可愛い後輩越前リョーマと、ファストフード店に立ち寄っていた。気分と時間の都合で、日によりテイクアウトだったりイートインだったりするけれど、今日は後者だ。横並びの壁沿いの席しか空いていなかったので、そこに並んで腰を下ろし、めいめいの気に入りを食す。桃城との他愛ないダベりにすっかりくつろいだ微笑をほのらせる越前を見て、桃城は、かねてよりといったふうで、こんな話題を振ったのだった。
「あー、お前ってさ、やっぱ、結構可愛いところあるよなぁ」
 そのにこにこ破顔にゆるむ頬の血色のよさ、ほのかな桃色は、越前から見れば、まるで飼い猫を目にした愛猫家のごときでれでれ顔。――ねえアンタ、そのだらしないカオ、自覚あんの? 越前は、ニヤりと、桃城のほうに斜めに向けたままの笑みを深めずにおれなかった。
そっスか」
「んだよ~、ニヤニヤしちまって~。普段はクールに決めてる王子様でも、褒められると嬉しいってかぁ? ま、でもお前、オレと居るときあんまクールってカンジしねぇけど」
 桃花とうかがいっそうほころぶは、八重のそれさえ凌駕するものに越前には思えた。いっそうの晴れ心地。特に意味は自覚していなそうなくせ、すこしうれしげに空気を花香のごとくけぶらせるから、ああ、その芳香にアテられそうだ! 越前は、愉快な心地で、先輩を揶揄する。
「ふぅん、そこは自覚あるんだ」
 頬杖のままに言えば、一転不服そうにしたセンパイが、それからすこし不安げになるものだから越前はちいさく噴き出してしまう。まったくもって、カオもしぐさも、お天道様よりはるかに表情豊かなこと!
「そこ"は"、って何だそこはって! なに、オレ、なんか無自覚にやらかしてんの?」
「やらかしてはいないっス。前半については、"今は"、ノーコメントで」
ふーん。ま、やらかしてるわけじゃないならいーけどよ、なぁんか引っかかるよなぁ~」
「ま、機会があればいつか、説明しますよ」
ま、いーけど。なんか、そーゆーちょっとイジワルぶった気の強いところとかも、やっぱ、かわいげあるよなぁお前」
 にこにこ顔に戻った桃花とうかが、ふわりとそよかぜ香らせる。こうした、切り替えの早いさっぱりした気質がやはりこの先輩の魅力だと、越前はちいさくくちもとをゆるませながら思う。やけにかわいいの語をプッシュしてくる先輩のほうこそ、そのほおのゆるみがさながらプッシーキャット。お外をしらない飼い猫が、食虫植物でもそうと知らずあそびあいてに愛でるようだ。だが、越前は、警戒を六割五分混ぜながら、すこしたわむれ程度に、問うのだった。
……なに、なんかの罰ゲーム中? ほかの先輩がたとかそこら辺に潜んでんスか?」
 警戒でじとり、わずかに背後に横目をやるも、さほど真剣に探すでもなし、きょろつくでもなし。それでも桃城は、越前の警戒に噴き出したのだった。
「ぶっ、ははっ!! ちが、ちげぇって! っははは! いや、オレ、昨日の夜はたと思ったんだけどよ、もしもお前が女の子だったら、めちゃくちゃ好みのタイプだったのになぁ~!って。それが言いたかっただけ!」
 好みのタイプ。昨日の夜? そのワードに、越前の隠した爪が牙が、ぎらりと陰で研ぎ澄まされる。クラスでもテレビでも、自発的には聴かずとも勝手に耳に入ってくるような、よくある、他愛のない話題だ。だが、越前にしてみればそれは、かっこうのチャンスボール。――ま、どんな球でも、べつに打ち返すけどね。そう思いつつも、これが好機であることに変わりはない。
……ふぅん? なに、桃先輩、家でも、わざわざオレのこと思い浮かべてたの?」
 "夜に"、という部分については言外に留め、この先輩が自分のするような意図で自分をおもいうかべたのではないと明確わかっていながら。それでも、すこし、うれしかった。同時に、ことばでじゃれつきたくなる。やれやれ、これじゃあどっちが子猫なんだか。
「そりゃ浮かぶだろ。オレ、お前と過ごす時間結構長いほうだし。"今日越前と寄った店ウマかったなー"とか、"今日越前が言ってた話マジで面白かったよなぁ"とか。お前は、そーゆーのないのか?」
 しゅんとしょげそうなその声のトーンに、耳やしっぽの垂れ下がりが見えるようだ。
「そりゃオレも、そーゆーのくらいありますよ」
「! だよなぁ! そーだよな!」
 ああ、にこりとどっとしたその安堵の意味を、この先輩はわかっているのだろうか? 越前がそのさきに、それよりもっとずっとどう猛にぎらつくまなざしでみつめたものをおもいうかべていることを、知りもせずに安堵していられるのは、いったいいつまでのことやら。それが今日のあとすこしあとまでなのだろうと、わかっている越前は、砂時計の残りの砂粒をカウントダウンし始める。
「はは。けど、好みのタイプ、かたとえば、どんなとこが?」
 雑談めかして引き出すは、ききたい本音。ああ、その獲物ののどぶえは、無防備にもその身をさらすのだ!
「ん? そりゃあ、オレの前だと結構素直なとことか、素直じゃなさすぎて逆にわかりやすい時もあるとことか、たまぁにかわいげあるとことか、勝ち気なとことか、なぁんかウマがあうとことかあとは、とーぜんっ、断然打ち合い甲斐があるとことか? ほかはーー……やっぱ、大した用がなくても、今みたいにこうしてなぁんとなく一緒にいるだけで、なんかうれくなるとことかかなー。これがもしカノジョだったら、毎日楽しそーじゃん。いいよなぁ、お前みたいなカノジョがいたら、毎日バラ色ってやつだろうなぁ」
 にかぁっ、と、破顔満開。その大木に今しがた数多咲かされた花々を、ああ、その幹ごと揺さぶれば花弁のひとつやふたつくらい手に入るろうか?
……あっそ」
んだよ、不満?」
 大いに語ってもらっておいて、たったひとことで素っ気なく返す後輩に、けれど桃城は、気を悪くするでもなく、むしろにかっと、からかうようにそう言ったのだった。それが少し挑発的に思えたは気のせいだろうか? 越前も、にやり、挑発的に笑んで、からかい返す。ああ、じゃれあいはこねこと毛糸玉のよう。ほどけた毛糸すら、子猫にはたわむれ道具なのだ。
「いんや、じゅーぶんっス。けど、先輩、どーせテニスにのめり込んだらカノジョとかほったらかしにしちゃってフラれるタイプだと思いますけどね」
「うっっ……そりゃあ、まあ、一理あるがほら、テニスと同じくらい、魅力的なカノジョが居たら分かんねぇじゃん」
「へぇ、そしたらテニスをおろそかにするわけ?」
「なわけねーだろ! うーーん……あっ、そうそう、だからよ、よーするに、お前みたいに強くて特訓相手になるようなコなら万事解決じゃんか!」
 名案を、見つけたとばかり得意げな桃花とうか。そのほころびが、つまびらかにした花しべの生み得る受粉を結実を、果たしてどれだけ、理解しているのやら。越前は、焦れたほどではないけれど、今が頃合いと見なし、その木をゆさゆさ揺さぶることで、強制的に結実へと向かわせるのだった。砂時計の上側うわがわも、揺すってからっぽにしてしまった。たぷり、足下に砂山が見える。
――はい、これでゲームセット。惚れた弱みはおあいこなんだから、ま、引き分けってコトにしといてあげますよ。
 越前は胸中でそう思いながら、ことばでの確認を、念押しを、するのだった。
「それ、もうさ、女かどうかとか関係なく、オレでじゅうぶんでしょ。もしもアンタが相手は女じゃなきゃヤダっつっても、まあ、とりあえずお試しでいかがっスか、って、提案くらいはしてやるけどね。オレは、アンタがどんな性別だろうが、アンタが、どんな性格だろうが、あんたが、どんな言動をしようが……好みは、ただひとり、決まってますんで」
 にたり悪辣じみさえする口端は、ああ、そのくちに手招きする猛獣のはらだ! 身長差の下剋上じみた挑発的なまなざしは上から見据えているがごとくだ。だが、その"小動物"はきょとんとするだけで逃げも隠れも必要性を解さないのだった。
「へっ? えっ、なに、お前、好きなヤツとか居んの?」
 拾った部分の半端さに、その鈍感さに、ずこっ、と、越前の頬杖が崩れる。日頃から思ってはいたが、やはり、鈍感な傾向があるようだ。思わず、越前はジト眼になる。はぁ、とひとつ、大きなため息。その吐息の間さえ惜しく思うことで、ああ、自分は既に相当焦れていたのだと、遅れて理解した。越前は、真傍に座るセンパイのえりぐりをぐいと引き寄せて、そのまなこ、直視して。もうひと引きして寄せたその耳に、ぐいとくちびる近づけ、ささやきこむ。
……あのさぁ。ふつう、わかるでしょ。オレは、アンタがどんなだろうが、アンタのことが好きだって言ってんの。だからさ、オレと、付き合いなよ」
「ああ、そういう!」
 耳元にささやきこまれたせいだろう、返しが思わず内緒話じみた小声になるところが、ちょっとおもしろかった。そしてそのまま桃城は、遅れて動揺し始める。
……ん??? ………えっっ??? ……え?????? ちょ、え???? おまえ、それ、マジで言って
「アンタの知るオレがこーゆーコトを冗談で言うヤツなら、マジじゃないことになるだろーけどね」
 食い気味に返せば、その皮肉は、正しく伝わった。
……言わねぇなぁ、言わねえよな………そ、そっかそのなんだ……えぇっと……なんだ、なんか、悪い気しないのがちょっと、なんつぅか……なに、こーゆーのが、うれしいとかそーゆーヤツ?」
 そわっ、そわりとそわつくその身に、けぶる桃花とうかのフェロモンを越前は感じ取り、それを凌駕するそわつきを身に抱くのを、隠し込むをもうやめにしてしまおうかと、あたまの片隅にて思う。ああ、この研いだ爪を牙を、すぐさまこのうさぎに突きつけてくれたいのを、自分は今ひとときこらえているのだ! 段取りを踏む必要性を、からだありきと思われぬためにも理解していたから。ただそれだけのことで、実際辛抱はとうに切れている。それなのに、ああ、間近にいてもこらえている律儀さを、この先輩は気付くまい。いつか、そのときが来たらそれも種明かししてあげよう。そんなことを、越前は、思う。
……うれしいなら、ま、いーですけど」
 言って、越前は、ドリンクのストローを吸い、フライドポテトをひとつ、つまんだ。そのしぐさに、色香かおることを無自覚のままに。桃城ではなく真正面を見据えて、頬杖つき、ちいさくひとつ、息をつく。
「あっ、うん……
 ……そのよ、こーゆーコト言ったら、軽蔑されるかもしんねぇけど……なんか、口説かれてから見ると、お前って、そういう何気ないしぐさでも、色気すげぇのな」
 ああ、種明かしの日は、どうも近いようだ。それが今日になるのか否かは、まだ、わからないけれど。越前は機嫌がうわつき、そわり、ふわりと、少しだけ落ち着きをなくしそうになって押さえ込む。平然ぶって問うけれど、それでもにやつきは隠せなかったし、隠す気もなかった。
そっスか。それ、"手応えアリ"ってヤツ?」
「わかんねぇ!」
「でしょーね。あ、いちお言っておきますけど、桃先輩も、何してても色気が隠せてないんで」
「へ? ……いや、そんなん言われたことねぇけどなぁ
「言ってはないけどずっと思ってました」
……お前、もしかしてムッツリ?」
「オープンにしてもいいなら、すぐにでもそうしますけど」
「すぐはっ……ちょっ、っと、心の準備がつぅか、ああそうだ、そもそも、オレ、返事したっけ?」
「はっきりはされてないけど、うれしいイコールOKじゃないの?」
「んん~~~~………まあ、そだな、そーゆーコトになるか
 よしっ、決めたぜ、今日から、オレとお前は、付き合ってる、ってコトで!」
 そのはらのくくりかたがやはり、青竹を割ったようですがしく、好ましい。越前は、自身の肚がうれしさとうずまく欲望とのるつぼになっているのを噛みしめながら、それでも、そうだろうとは思っていたそれが実際掌中に叶ったことがまばゆくて、わずかに目を細め、念押しを、重ねるのだった。
ホントに、いいんスよね?」
「お前の知るオレが、冗談でこーゆーコト言うタイプだったら、よかぁないだろーけどな?」
 にかり、さきほどの越前のことばを真似てみせる桃城に今ひとときの余裕を感じて、その余裕を摘み取る算段を、越前は愉快に模索する。まねられたことも、波長が合うようで純粋にうれしかったりしてしまうから困ったものだ。
 かくして、堀も土塁も石垣もない無防備なお城は、その桃の木を、あっさりと王子様の欲しいままにされることとなるのでした、めでたしめでたし。それはさながら、まどろんだ睡蓮の目を覚ますよう。王子により強固な防壁が築かれてゆくそこでは、数多の花ほころび、数多の実が結ばれ、しあわせのふくよかにけぶるなか、数多の白い鳩と青い鳥たちが、そのきらめいた星粉ほしごなを撒きに、空に地に、はたまたどこへとでも、飛び立ち、帰巣してはまた飛び立つことでしょう――








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