望月 鏡翠
2025-08-04 00:17:00
850文字
Public 日課
 

#1802 「雪男」「語学」「当て木」

#毎日最低800文字のSSを書く


 地球温暖化の影響は思わぬところに現れた。氷河期の時代から、万年雪の残る高い山の中で暮らしていた雪男が、平地に降りてきたのだ。伝説の存在が現れて、街は大騒ぎになった。
 警察と猟友会が出動して、危うく雪男は射殺されかけた。
 雪男は山で遭難した人間から言葉を学び、人間の言葉を覚えていた。人の常識は知らなかったが、一応言葉を交わすことができたので、人間は彼を受け入れることができた。
 彼らは切実な事情で人里に降りてきていた。
 氷河が崩れて雪が溶けて、今まで通り山の中で暮らしていられなくなったのだ。
 雪男は、伝承のままの姿をしていた。寒冷地に対応した体は、恒温動物の進化の常で体が太く大きくなっている。そして毛皮を生やしている。
 雪がない場所では暑くて、みんな病気になって死んでしまう。このままでは雪男は絶滅してしまう。
 だから語学に堪能で賢い雪男の代表が、人間の技術や知識を学びにきたのだ。今は山の上よりも、エアコンの効いた室内や冷凍庫の中の方が安定して寒かった。
 そうした建築や機械の知識を、学びたがった。
 しかし一朝一夕に身につけられるものではない。まずは生活をしなければいけない。
 彼らは冷凍室のような倉庫で働く仕事に、重宝された。普通の人間は、寒過ぎて体を壊してしまう。冬場などは特に、山岳救助として活躍していた。
 元々、山の中で暮らしていた民なのだから、山のことは知り尽くしている。あとは、人を助ける方法があれば良かった。体を温めてやるだとか、骨を折った人間に対するちょっとしたあて木の方法などである。
 そうして、彼らはエアコンの作り方を学び、山の上で発電をする方法を学ぶと山奥に引き返していった。きっと自分たちの家の環境を快適に整えて、優雅に暮らしているのだろう。
 雪男が人の社会にいたのは五年ほどだが、その間の雪男と人間の交流は、伝説となって人々の間に語り継がれた。
 今でも街には十年に一度ほど、最新家電をチェックしに雪男が人里に降りてくるのだという。