2025-08-04 00:13:00
2075文字
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トーチ・リリーは微笑む

7章後イメージのラブコメが始まりそうな🐍☀️。
まんなかバースデーおめでと〜!!

 ――ジャミル・バイパーに恋人ができたらしい。
 そんな噂話を聞いて、彼の胸に湧き起こったのは「だよなぁ!」という納得だった。ジャミルは良い奴じゃない。でも優しくて、すごい奴だ。そのことを誰よりも知っているという自負がある。
 そんなジャミルに恋心を抱く者がいても、おかしくない。そしてその誰かを、ジャミルが好きになるということもじゅうぶんあり得る。
 でも――
 ちり、と胸を焼いたのは、小さな火だった。
 それをちょっとした違和感として、忘れてしまうことはできた。そう出来るよう、生きてきた。
 けれど。ことジャミルに関することで、「鈍感」でいることはもうやめたのだ。決して何も取りこぼさないと、涙も凍りそうな砂漠の果てで誓った。
 簡単に消えてしまいそうな儚い火が、想いの風を受けてぼう、と燃え上がる。
 しかし。
 この想いが、許されないものであったなら?
 迷いは一瞬だった。
「ジャミル!」
 胸にパチパチと燃える炎をその瞳に映しながら、カリム・アルアジームは大地を踏みしめて真っ直ぐに立ち、幼なじみにして従者の青年を真っ向から見据えた。

「オレ、お前のことが好きだ!」

 ジャミル・バイパーは自身を御する方法を心得ている。幼い頃より従者として生きてきたゆえか、たいていの場面で本心を隠し、冷静に振る舞うことができた。といっても、トラブルメーカーな主人のこととなると感情を揺さぶられ、つい感情をあらわにしてしまうこともままあるのだが。
「は」
 そんなジャミルが告白をされ、動揺してしまったのも主人相手が初めてだった。
 幼少期からの付き合いであるカリムからの好意がなみなみならぬものであることは自覚していたが、それはあくまでも「友達」としてのものだと認識していた。ウィンターホリデーの事件で「親友」という嘘で塗り固めた仮面を投げ捨て燃やし尽くしたあとでも、カリムから向けられる好意はあくまでも「友愛」にカテゴライズされるものであり、そこに「恋愛」など毛ほども含まれていないと感じていた。一コマ前の授業を一緒に受けたときまで、それは確かだったはずだ。
 それがどうだろう。今、目の前にいるカリムの眼に宿るものは。紛うことなき恋の炎だ。ガーネットレッドの瞳がいつにもましてキラキラと輝いている。
「ばっ、おま、ここがどこかわかって――
「わかってるぜ! 中庭だ!」
 そう、中庭である。それも昼休みの。昼食を外で摂ろうとやってくる生徒たちが一定数いる、憩いの場所である。彼ら、そして校舎内からの視線が痛いほど刺さっているのがわかる。
 自分の顔がみるみる赤くなるのを感じながら、ジャミルは叫んだ。
「アジーム家の次期当主が――ああもう、場所を考えろ!」
 自分が何に怒っているのか、何が恥ずかしいのか、嬉しいのか、訳が分からなくなったジャミルは衝動的にカリムの口を手のひらで塞ごうとした。その薄い唇に目が吸い寄せられ――また頬が熱くなる。まるで燃えるように。
 中途半端に伸ばされた手を、カリムが両手で握りしめる。
「お前に恋人がいるって聞いて、オレ気づいたんだ。オレ、ジャミルが好きだ!」
「は?」
 ジャミルは眉根を寄せた。沸騰しそうだった頭が急速に冷やされていく。同時に、胸に冷たい炎がめらめらと燃える。それはまるで、今まで芽を出さずにいた種が初めて水を得て、急速に成長し花を咲かせたように。
「恋人なんていないが?」
「え? だってバスケ部の奴が話してたぞ」
「噂話を鵜呑みにするな。そもそも恋人がいる相手に告白してどうするつもりだったんだ、お前は」
 ジャミルにじろりと睨まれ、カリムが頭を搔く。
「あ、そうだな。うーん? ……何も考えてなかったぜ!」
「はあ〜。これだから考えなしだっていうんだ」
 ため息をつくジャミルに、カリムは頬を膨らませる。
「なんだとぉ! 好きな奴に好きって言って何が悪いんだよ!」
「だから! それでどうしたいのか言えって言ってるんだよ!」
「今思いついたけど、言っていいのか?」
「ああ! ぜひ聞かせてほしいね!」
 昼休みの中庭で、二人の応酬が続く。空は快晴で、言い争う二人の声がよく響いた。
 カリムは息を吸うと、両手を広げた。
「オレと結婚してくれ!」
 ジャミルも息を吐き、吸い、噛み付くように言う。
「お断りだ! こんなムードもヘッタクレもないプロポーズ、誰が受けるか!」
「じゃあ次は、最高のプロポーズをしてやるからな! 待ってろよ!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
 ジャミルは手にしたバッグを示し、カリムに座るよう促す。
「まったく。弁当食べるぞ」
「おう! 今日のメニューは何だ?」
 芝生に敷いたシートに腰掛け、普段通りのやり取りを始める。そんな二人の姿に、一連の流れを固唾を飲んで見守っていた周囲の生徒たちは我関せずの態度を貫けず「えっ終わり!?」と一斉に突っ込んだ。
 トラブルに満ちたナイトレイブンカレッジに、やはりトラブルを呼ぶ一つの恋の花が咲いた日である。