ぐるさん
2025-08-03 22:32:37
2354文字
Public
 

8.2 ふみりかワンドロ【浴衣】【甘やかす】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2025.8.2 お題をお借りしました。

「皆さんとはぐれちゃいましたね……
「そだね」

 ハウスに住み始めてから何度目かの夏、何度目かの夏祭り。今年も例に漏れず、人混みに揉まれて皆とはぐれ、気づけばふみやさんと二人きりになっていた。

「適当に食べながらうろついてれば、その内皆と会えるんじゃない?」

 ふみやさんは至って呑気な口調で、皆を探しに行く様子は見られない。

 個人的には、皆で祭りを楽しみに来たという観点から、ちゃんと探して合流すべきだとは思う。

 しかし、見つけた所で目を離すとすぐ居なくなる事も、はぐれた先で何だかんだ各々楽しんでいる事も、今までの経験が物語っている。

 それに、ふみやさんと二人きりで夏祭りを散策するのはこれが初めてだったりする。

 これをデ、デートと呼んで良いかは分からない。しかしながら、浮ついた心があるのもまた事実。

 あとちょっとだけ、花火が上がるまでに皆と合流出来れば大丈夫の筈——

「理解?」
「うわぁっ!?」

 あれこれ考えていると、ふみやさんが私の様子を確認する様に顔を覗き込んできた。

「何か考え事?」

 いつもの調子で尋ねるふみやさんは、いつの間にか綿あめとかき氷を手にしている。

「いつの間に買ったんですか?」
「ついさっき。一応声掛けたんだけど、やっぱり気づいてなかったな」
「やっぱり、とは?」
「俺が立ち止まって買ってる間も、理解がどんどん先に歩いていくから、多分話聞いてないなって」
「ええっ!?」
「まぁ、そんなに遠くまでは行ってなかったからすぐ追いついたけど、何か気になる事でもあった?」
「え、ええっと……

 私が少し浮ついてしまったせいで、ふみやさんに迷惑をかけてしまった……

 しっかりしろ草薙理解!!ここはやっぱり気を引き締めて、他の皆を探しに行くべきだ!大体、デートというふしだらな行為を、なんの約束も準備もなく執り行う事は秩序に反する!

 そうと決まれば早い。早速ふみやさんに声をかけて——

「理解、本当に大丈夫?」
「えっ!?」

 口を開こうとした瞬間、ふみやさんに話しかけられて、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

「もしかして、気分悪い?一旦何処かで座って休む?」
「あ、いや、別にそういう訳では……
「でも、人も多いし、自分でも気が付かない内に疲れてるのかも。ちょっとこっち来て」

 ふみやさんは器用に片手で綿あめとかき氷を持つと、空いた方の手で私の腕を引く。

 そのまま流されるままふみやさんに着いて行くと、屋台の裏手側の空きスペースに案内される。

「ここ、入っていいんですか……?」
「んー……他にも休んでる人いるし、多分大丈夫」

 確かに、周囲を見渡すと、同じように人混みを避けて休憩している人達が何人かいるし、屋台を運営している方々が、このスペースを何かに使っている様子も見られない。

「理解。ここでちょっと待ってて」
「えっ?」

 ふみやさんは言い終わるや否や、どこかに向かって駆け出してしまった。

 カラコロと響く下駄の音が遠ざかるのを聞きながら、じわじわと不安が込み上げる。

 自分が不甲斐ないせいでふみやさんに迷惑をかけてしまった。今日はいつもと違う日だからと言い訳して浮ついてしまった。そんな後悔が胸中に渦巻く。

 賑やかな喧騒の中、一人立ち尽くしていると、ふみやさんが戻って来た。

「ふみやさん!」
「ただいま理解……って、もしかしてずっと立ってた?疲れてるのに大丈夫?」

 私を心配するふみやさんの言葉に、思わず涙が零れる。

「えっ?理解、泣いてる?俺が居ない間何かあった?」
「ち、違くて……ふみやさん、急に居なくなるから……

 いい大人が、こんな事で泣くなんて情けない。何とか表情を取り繕おうと涙を拭っても、グレーの浴衣に濃い染みが出来るだけ。

「うぅっ、ぐすっ……
「悪い、理解……。その、顔、赤かったから、何か冷たい飲み物、って思って……

 ふみやさんはしどろもどろになりながら、手に持っていた瓶を私に差し出す。

「これは……
「ラムネ。さっき通り過ぎた屋台で売ってたやつ。本当は自販機でスポドリとか買った方が良いだろうけど、ここからじゃ遠いから、一旦これで」

 ふみやさんから瓶を受け取ると、ひんやりとした温度が手に伝わる。

「ひとまず座ってさ、それ飲んで休憩しようよ」

 ふみやさんは私の頭をくしゃりと撫でながら、座るように促す。

 それに従うように地面に座ると、するりと肩を抱き寄せ、優しくこちらを見つめる。

 本当は、私がしっかりしないといけないのに、私の方がお兄さんなのに、どうにも甘やかされている気がする。

 でも今は、今だけは、その優しさに、身を委ねてしまおう。

 全部夏祭りのせいにして、今だけは。
 
◇◇
 
「そう言えば、この容器は一体どうやって開けるのでしょうか?」
「理解、ラムネ初めて?」
「え、ええ……
「うーん、それなら……

 ふみやさんは私にかき氷を渡して、ラムネ上部のビニールを剥がしていく。すると、見慣れない突起が現れ、ふみやさんはそれを指で摘んで取った。

「そのまま一緒に瓶支えて」

 ふみやさんはいつの間にか食べ終わっていた綿あめの割り箸を咥えながら、私が持つラムネの瓶をぎゅっと握る。

 それに合わせて私も瓶を握る力を強めると、ふみやさんは先程取った突起を瓶の上部にはめ込んだ。

「よし。これで……
「これで……じゃないですよ!めちゃくちゃ中身吹き出してるんですけど!」
「ハハハ。やっぱちゃんと固い所に置いてやんなきゃ駄目だったな」
「もう!ふみやさん!」