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A4
2025-08-03 12:11:22
4239文字
Public
助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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Take a Step Forward/ 助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
お題箱でいただいたネタから。勝手に、自分が書いたFirst Takeという小話の前日譚にしてしまいました。お題くださってありがとうございました〜!
「求む、店番。販促に自信のあるエージェント、優遇します」
そんなメッセージがプロキシから送られてきたのは、「精算の日」から数日経ってのことだった。
新手のスパムかと疑いながらチートピアに入ると、ルーシーとシーザーが朝から口げんかをしながらバゲットサンドを頬張っていた。二人はこちらに気づくと争いを止め、手招きしてきた。
「ライト、あなたのところにも届きまして? プロキシさんからの招待状」
「招待状? いいや」
「全員にじゃねえのか? 俺様のところには来たし、バーニスも受け取ったって言ってたぜ」
「パイパーのところにも届いていたのは確認しましたわ。あなたのスマホをお見せなさい
……
あら、届いてるじゃありませんの」
「これはノックノックのスパムだろ」
「プロキシさんの名を騙る不届き者は確かに多いでしょうね。でもIPアドレスを偽装するのは至難の業だと思いますわ。よって、これは本物」
「招待状っつったら封書で届くもんじゃないのか」
「ハァ
……
減らず口をたたくのはここですの?」
半眼になったルーシーがまた手つかずのバゲットサンドを掴んで口に押しつけてきた。ライトはニヤリとしながら大口を開けてそれをいとも容易く平らげる。
「で、これは一体なんなんだ」
「バイトの募集だろ」
「バイト? プロキシが?」
「ビデオ屋を経営されてますもの。人手が足りないのかもしれませんわね」
「仕事に余裕があれば手伝いにいってやろうかって言ったらよ、ルーシーのやつがそんなことはできないって言い出して」
「アホシーザー! 猪突猛進はここから事業拡大していかないといけませんのよ。恩人からの要請とはいえ、曲がりなりにもトップの貴女が行ってどうしますの!?」
「だって、困ってるなら助けてやりたいだろ」
怒り狂うルーシーに、眉を下げてシーザーは反論する。彼女の素直な願いにはルーシーも矛を収めて、ため息をついた。
「そりゃ、わたくしだって本心は手伝ってあげたいと思ってますわ。でも、いろいろと引っかかるところがありませんこと? ビデオ屋はプロキシさんたちの隠れ蓑でしょう? 人手不足になるほど繁盛しているとは思えないんですの」
「そんなの、行って聞いたら済む話だ」
シーザーは食べかけのバゲットサンドを口に放り込んで咀嚼した。飲み込んでからテーブルをばんっと叩く。
「いちいちまどろっこしいことしてねえで、行って話す。そんで、困ってるなら助ける。それでいいだろ」
気っぷのいいシーザーの明快な答えに、ルーシーは渋々頷いた。
それを脇で眺めながら、ライトは穏やかな日常の訪れを感じる。話がまとまったのだから、注文をしてもいいだろう。手を上げてカーサを呼ぼうとすると、その手をルーシーにはたかれた。
「痛いぞ」
「何をぼさっとしてますの。ライト、準備なさい」
「なんの」
「そりゃ、プロキシのところに行ってやらなきゃ」
「俺が?」
「シーザーは動けませんしわたくしもここでやることがありますわ。パイパーは長距離運送が入っていてバーニスは単発の仕事がいくつか。この中で今、一番暇で穀潰しなのは貴方ですのよ、ライト」
「ひでえ言い草だ」
「ははっ。そう言うなって。俺たちの代わりに行ってくれるだろ、ライト」
「大将が言うなら」
「じゃあ、決まりですわね。くれぐれもプロキシさんたちの邪魔をしないように」
「楽しんでこいよ」
そんなこんなで、ライトは朝食にありつけないまま、ブレイズウッドを追い出された。
郊外から都市部に向かってバイクを走らせながら、二人の気遣いに思い至り、やれやれと肩をすくめる。ツール・ド・インフェルノが終わり、「精算の日」を迎え、一段落ついた彼への休暇のつもりなのだろう。
六分街でどんなことが待ち受けているか想像もできないが、息抜きのつもりで、ライトはビデオ屋・Random Playを目指した。
検問所で通行証を確認された後、ライトは六分街から少し離れたところにある駐車場にバイクを停車した。一応ここはルーシーの差配で借りている場所だ。走り屋の二輪も四輪も郊外での走行に適したつくりになっている。つまり、襲われても問題なく対処ができ、悪路でも走れる。そうなると外装はとことんごつくなり、繁華街に近いところに停車するとトラブルの元となるのだった。
ビデオ屋に入ると、店内はしんと静まりかえっていた。カウンターの中にプロキシの兄がいる。いや、彼自身もプロキシで、妹と二人で「パエトーン」を名乗っている。だから、彼のことを「兄」と称するのは、彼自身を認めていないようでやや気が引けた。かといって、名を呼ぶほどの親しさはない。
彼は頭を下げて入ってきたライトに気づくと顔を上げた。
「
……
いらっしゃい」
一呼吸置いて挨拶。距離を感じてライトは口の端を上げた。都市部の連中の反応は大体、得てして同じようなものだ。
「ライトさん、と呼んでも?」
彼はわざわざカウンターから出てきた。
「ああ。好きなように呼んでくれて構わんがな」
「他に知らないなあ。チャンピオンの方がいい?」
「
……
名前で」
「さて、今日はどんな用向きだろう。レンタル? 購入? リンはあいにく不在なんだ。
……
ホロウ調査に出かけていて」
「これを見たから来た」
スマホの画面を彼に見せる。彼は軽く目を見張って、そしてすぐに柔らかく微笑んだ。
「まさか、販促のアルバイトに来てくれるとは。多忙なエージェントには無理だろうって言ったのに、リンの勝ちだな」
「冗談でこんなことを?」
「とんでもない。いたって真剣だ。我がRandom Playは常に家計が火の車でね。もう少しこちらでの収入を増やしたいと考えて、エージェントの力を借りようと妹が言い出した。ダメ元でつながりのあるところに全部送って、それで、あなたが釣れた」
快活な妹と違い、兄はいつも彼女の脇に控えていて、穏やかな表情を崩さない。彼とは郊外でも二言、三言しか話さなかった。
……
いや、「精算の日」に釘を刺された。どんなことがあっても妹を傷つける者は許さないと静かに宣言されたのだ。そのときは無機質で、一切の感情をこちらに向けなかった。そのくせ、視線は鋭かった。興味のないことにはまったく意識に入れない、こんな男の視界に入ることのできる人間は幾人もいないだろうと思った覚えがある。
「それで、雇ってくれるのか?」
「願ったり叶ったりだけれど、何をするのかわかってるのかい?」
「店の前で立っておけばいいんだろう。通りの人間に声をかける。人がいないときはトレーニングをしても構わないよな?」
少しおどけたように言うと、彼は目元を緩ませた。ほころぶような笑みをこぼす。
「ほどほどに、とお願いしておこう。さて、リンのもくろみはうまくいくかな。ライトさんに期待するね」
彼はバックヤードに入るとエプロンを1着持ってきた。そうして、ライトは即席のRandom Playの従業員となった。
ライトの仕事は、彼にとっては簡単だった。
店の前にいて、トレーニングをする。こんなことをすればたいていは人が引いていくものだが、闘技場でちょっとしたテクニックを覚えていた。不思議なもので、人は純正のものに興味を持つ。そして、それが少し触れがたかったりするといい。簡単に手に取れるものに対しては欲望に火をつけない。だから、ライトはトレーニングも真剣にやった。一人が足を止める。すると、別の二人連れが声を掛け合い見入る。段々と人が集まり、その様相を目にしてさらに人が増える。ライトはかつて勝利後にやったパフォーマンスのように観客を楽しませ、Random Playで会員になってくれ、と短く言った。それだけで皆が店内に入っていった。
その日の閉店後、彼ーーアキラはレジの売り上げに目を丸くした。
「いや、今日は忙しいと思ったけれど、ライトさんの効果はすごいな。ねえ、18ちゃんもそう思うだろう」
カウンターの主であるところの18号という名のボンプは重々しく頷いた。
「ンナ!」
「18ちゃんも頑張ったね」
「ンナンナ」
アキラは目を細めて、やさしくボンプの頭を撫でる。すると、18号は耳を倒してアキラにすり寄った。アキラはそれを抱きしめて「いい子、いい子」とささやいた。
その様子を見て、なぜか胸が疼いた。
優男がボンプを褒めているだけなのに、居心地の悪さを感じる。と同時に、その声をずっと聞いていたいとも思う。おかしかった。
「06ちゃんもありがとう。バックヤードの留守番を任せてて悪かったね」
「ンナ〜」
別のボンプも抱っこして、アキラは頬をくっつけて労る。
ライトは突っ立ったまま、動けなかった。
本当に変な心持ちだ。まるで、ここで順番待ちをしているみたいだった。
次に撫でられるのは俺か。そんなバカな考えを、頭を軽く振って消そうとする。
が、アキラがこちらに気づいて、ボンプを床に置くと、目の前に立った。
「ライトさん、失礼するよ」
アキラが手を伸ばす。身を引こうとするが間に合わなかった。少しつま先立った彼に頭を撫でられてしまう。
石になってしまったみたいに、硬直する。
アキラはくすりと笑った。眉を下げて「ごめんね」と謝る。
「ライトさんにはこんなご褒美ではダメだね。何か欲しいものはないかい?」
「
…………
」
「もちろん報酬は払うけれど、販促バイトに来てくれた第一号のあなたに何かしてあげたいと思ったんだけれど、迷惑かな」
アキラが手を下ろし、カウンターの中に戻る。
ライトは天井を仰いだ。
まさかこんなところでノックアウトを食らうとは。
もっと撫でられたかったなんて、そんな欲望には気づきたくなかった。
だが、気づいたからには仕方がない。
悩むより行動した方が早かった。
ライトはアキラを追い、カウンターの中で彼に迫った。
「え、なに、近い」
「お返しだ」
そう言ってアキラの頭をぐしゃぐしゃっとかき回した。
まるで照れ隠しのように、そして、親しみを込めて。
「わあ」
「当分、俺はここで働けと大将たちに言われてる」
「そうなんだ。助かるけど、いいのかな」
「緊急時には戻るさ」
「じゃあ、しばらく、よろしく
……
なのかな」
「ああ。俺をうまく使ってくれ」
サングラスを外して告げると、アキラは目をぱちくりさせていた。
この後彼らがどうなったかは、また別の話である。
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