haruka037
2025-08-03 10:18:13
1935文字
Public
 

疑念

 リクエストの、婿スバルを監視するイカルガでスバイカ。
書きかけです。

 ツバメさんの店の手伝いをしていると、ふと視線を感じて顔を上げた。
 そこに立っていたのはイカルガさんだ。
 腕組みをしてこちらを睨むように見つめている。
「何か御用ですか?ツバメさんなら今、席を外してて……
「私は、あなたを信用している訳ではありません」
 冷たい声でイカルガさんが言い放った。
「あなたのした事は、とても許されることではない。舞手があなたを庇っているから表立っては何も起きていませんが、皆が胸の内であなたをどう思っているのかご存知ないでしょう?
 あなたは本来、ここにいてはならない人間なのですよ」
 その言葉に胸が抉られる。
「分かって、います……。そんな事は……、でもオレはカグヤの為にも罪を償ってみせます!」
 その言葉に、イカルガさんは鼻を鳴らした。
「どうだか。口ではなんとでも言えますよ。兎に角、あなたのような不穏分子をそのままにして置く訳にはいきません。あなたを監視させて頂きます」
「どうぞ。好きにしてください」
 嫌だと言っても状況は変わらないのだろう。
 疑われるのも当然だ。
 オレはそれだけの罪を犯した罪人なのだから……
 品出しをしているオレを、イカルガさんが鋭い眼差しで見つめて来る。
 簡単に受け入れられるとは思ってはいない。
 けれどもここまで敵意を剥き出しにされるとも思っていなかった。
 チクリと胸が痛む。
 だが、オレに出来る事は一つだ。
 皆の為に働いて罪を償う。
 今までのオレではなく、これからのオレを見て貰おう。
 そう思いながら仕事に励む。
 背中に突き刺さる冷たい視線を感じながら手を動かした。


 それからも毎日イカルガさんはやって来た。
 何も言わず無言で睨むように見つめられて、正直に言ってあまり良い気持ちはしない。
「あの人、また来てるのかい?ご苦労な事だねぇ」
 ツバメさんが呆れたように言ってイカルガさんを見た。
「それだけオレが信用出来ないんですよ」
「でも、あれはあんただけの責任じゃないだろう。何もそこまで疑わなくたっていいと思うんだけどねぇ」
「良いんです。オレを庇ってくれる人もいますし、気にしてませんよ。オレはオレの出来る事をやるだけです」
 そう言って笑って見せるものの、ぎこちない表情になってしまったのは否めない。
 ツバメさんはそんなオレを、心配そうに見つめた。
「私があの人に言ってやろうか。監視なんてやめろって」
「いえ、きっとツバメさんがそう言ったら、今度は式神を使って監視されると思いますし、何も変わらないので今のままで良いですよ」
「そうかい?でもねぇ。あんまり良い気はしないねぇ」
「そうですね。でも仕方ないですよ。これがオレの罪です」
 そう返すとツバメさんはなんとも言えない顔をした。
「あんまり思い詰めるんじゃないよ」
「大丈夫ですよ。寧ろああしてあからさまに疑われた方が助かります」
「助かる?何がだい?」
「自分の犯した罪の重さを、忘れずにいられますから」
「あんたってやつは……
 ツバメさんは絶句した。
 それから「ここは良いから休んでおいで」と言われる。
「大丈夫ですよ。オレはまだ全然疲れてないですから」
「良いから、少し頭を冷やして来な」
 そう言って水筒を渡される。
 渡された水筒は何故か二個だった。
「ツバメさん、これ……
「イカルガさんの分だよ。こんなに暑い中突っ立ってるんだ。喉も乾くだろうさ。渡してやりな」
「受け取って貰えるでしょうか?」
「そんなもん、やって見なきゃ分からないだろ」
 渡された水筒を見下ろして、ひとつ頷く。
「オレ、行ってきます」
「ああ、行って来な」
 ツバメさんは笑顔で送り出してくれた。
 イカルガさんの所まで駆けて行って、水筒を差し出す。
「イカルガさん、監視お疲れ様です。お茶持って来たので一緒に飲みませんか?」
 イカルガさんはそんなオレを一瞥してふっと視線を外した。
「結構です。監視対象と馴れ合うつもりはありません」
「じゃあ、お茶だけでも受け取ってください」
「いりません。どうぞ、私の事はお構いなく」
 取り付く島もないとはこの事だ。
 肩を落としてその場を去った。
 木陰に移動して水筒の中のお茶を飲む。
 喉が渇いていたからあっという間に飲み干してしまった。
「イカルガさん、喉乾いてないのかな……?」
 この炎天下の中、立っているだけでも辛い筈なのに、イカルガさんが休んでいる所を見た事がない。
 体調を崩さないと良いけど……
 自分を監視している人を心配するのは可笑しいのかも知れない。
でも、何故だかイカルガさんの事が気になって仕方なかった。


続く