机の上に突っ伏して、ウーと呻くは浮世絵師。はてさてこれは、どうしたものかと頭をひねるは雅楽師に、むぅと唇尖らせて、抱きつきくっつく能楽師。
「やる気出ねぇ」。荷物と書類の山をさておいて、そんなぼやきをこぼしては、かれこれ結構サボり中。今日中に片付けるつもりだと聞いていたが、これには楽師も呆れるばかり。
「充電してぇ」。まあ、言い分は分からんでもない。ここのところ忙しかったし、あとはまあ、彼の好きな梅雨も足早に去ってしまったし。友人の戯画は大層喜んだが、絵師は水不足に萎れていて。
まさか、ここまで早く梅雨が明けるとは思っていなかった。別に彼は雨が降らなかったからと言って元気がなくなる怪異の類ではないものの、それでも好きな天気に毎年はしゃぐのが恒例であった。ひとたびふたたびの荒天があった程度で、彼のいう充電が終わってなかったのもまた事実。
雅楽師は仕方がないとばかりに机につき、絵師の仕事を代理で片付け始める。帳簿の整理、支出の計画、イベント会場の貸し出しスケジュールに、グッズ販売の許可申請願。絵師宛の仕事の依頼は避けて、ファンレターは目を通して、プレゼントはスキャンして、開いて、匂いを嗅ぎ、とあるひとつに顔を顰めては、処分するものと残すものを分ける。人形師がふと顔を出し、ひとつの箱を指差せば、「盗聴器」と。探知機はギィギィ耳障りな音を立て、ため息をついて中身を開き、ぬいぐるみに鋏を入れて、機械を取り出し、電源コードを切断する。
「……俺もやる」。絵師がとうとう顔を上げ、緩慢に仕事に向き合い始める。食事の献立作り、メンバーの健康状態の確認、遠征の計画、予約取り、あとは……。
全ての荷物を片付ければ、大半はまともな贈り物であった。能楽師たちがそれをひとつひとつ吟味して欲しいものを持っていく傍ら、まともじゃない贈り物を人形師がまとめて処分に出す。大きな仕事はこれで片付いた。
「働きすぎじゃないかのう」。雅楽師は浮世絵師へと尋ねた。「……そうでもねぇよ」。覇気のない声で、ダラダラと仕事を続ける絵師。それからは、能楽師たちの選別を楽しむ声が支配していたが、徐に雅楽師が隣で両腕をひらけば、浮世絵師はノロノロと飛び込んでは、楽師もまた受け入れ、背を撫でる。
「雨、残念じゃったのう」。「……ん」。「今年の夏も海に行こうなぁ」。「……ん」。「これからは祭りの季節じゃ。忙しくなる」。「…おう」。「その前に、したいことはあるか?」。
そんな問いかけに、絵師はまたしばらく唸る。唸って唸って、楽師の肩に顔を埋めた。
「……………………」
長い長い沈黙。贈り物の取り分もあらかた決まって、しゃっきり顔が片付けに勤しむ間に、ぼんやり顔がまた絵師にくっつく。太い腕が腕の中に能楽師を収めれば、粗雑に撫でまわし、けれど能楽師もそれを受け入れて。
「……………………夜…美味い飯、食い行きてぇかな。みんなでさ」
ようやくまともな言葉を発した浮世絵師。雅楽師はふっと微笑んでは、腕の中のふたりをあやした。「ええ、ええ。和食か? 中華か? それとも洋か?」。「………寿司」。「んじゃあ、こないだ言っとった寿司屋にでも行ってみるかのう、なあ」。
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