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望月 鏡翠
2025-08-03 00:13:49
854文字
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日課
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#1801 「流動」「其乍ら」「医心」
#毎日最低800文字のSSを書く
高いものは低きに流れる。不変のものなどない。
諸行無常の言葉を教養として知ってはいたが、我が身で思い知ることになるとは思っていなかった。
この世の流動性は、定まるものが一つもない世で唯一の真実のように思われる。
随分と低いところに流れてきたものだ。
私はかつて己がいた、高い城を見る。遠くにいても一目でわかる。どこからでも見えることで、その威容を広く知らしめようというのだ。
かつての私は城が見える限り彼らにも見られているような気がして恐ろしかった。追っ手がついてくるのではないかと恐ろしく、思い遠く遠くまで逃れようとしていたものだ。市井での暮らしに慣れた今となっては、些細なことだ。
彼らは執念深いが、足元などそれほど熱心に見てはいない。逃げようとするから見つかるのだ。あるいは、私が遠くに逃れたと思っていて、まだ城の足元で生活しているとは思いもよらないのかも知れない。
ここは、生活する誰か一人を見つけられるほど、見通しが良くない。
其乍ら雨から降り注いだ水が、川に流れ込む過程で濁るように、低い場所に向かうにつれて、周囲は雑多になり人間関係の視界も悪くなる。はて、今隣に座ったものは誰ぞということも珍しくはない。というより、それが普通だった。
隣にいるものが誰か見知っているというのは、極々狭い共同体の中で暮らしているときくらいだ。つまり、箱が大きいだけであの時の私は実際は閉じ込められていたのだろう。
金子を渡して宿を借りる。あるいは手を貸す。親切に縋る。
そういうことを繰り返して、日々をなんとか繋いでいる。
悪くない生活だった。
そうしてまた、不思議と出会うべきものに巡り合わせる。
血まみれの男。刀疵。
手負いの獣のように、近づく私に刀を振り翳して威嚇した。切り捨てる力は残っているのかどうか。少なくとも刺さったら痛むだろう。
「多少の医心はございます。何かのお役に立てるかと」
私は頭巾を取って、顔を見せる。
女であることで、男は一応の警戒を解いた。
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