とはり
2025-08-02 23:50:40
3304文字
Public いろいろ
 

【ニキこは】うたたねカプリッチオ



ニキこはがうたたねしてるだけ

これをニキこはと言い切る勇気


こはがニキの腹枕で寝てるとこ見たかったし、爆音腹の虫で叩き起こされるのも見たかった

元々台詞だけ立てていて、台詞と展開が決まってる状態で書いたことなかったけど、楽しかった。
状況描写をはめていくだけだから、完成しかけのジグソーパズルみたいにとんとん拍子で進められたのもあるかも。

8月8日にあげるのもいいかな~と思ったけど、8月2日がおやつの日らしいので今日でいっか~になった


狂想曲、カプリッチョって言う方が多そうなんだけど(カプリチオもある?)、カプリッチオの方が響きが好きなのでこっちを採用した。よしなに。






 メガスフィア内、Crazy:Bにあてがわれた部屋のドアが開く。
「ただいまあ」
 シンと静かな部屋に声が響く。電気が点いているのに人影が見当たらない。最後に出た人が消し忘れたのだろうか。帰宅した桜河こはくは首を傾げながら部屋に足を踏み入れた。真っ先にベッドが目に入って今すぐ倒れ込みたい衝動に駆られる。今日は配信に仕事にメガスフィア内の探索などあちこち動き回り、まだ昼過ぎだというのにへとへとだった。
 メガスフィアが空に浮かんでいることも影響しているのだろう。空が近くて光を強く感じる。温度こそ高等技術で快適に保たれてはいるが、目から取り込む眩い光はまだ外の世界に慣れきれないこはくの体を確実に消耗させていった。
 少し横になろうとふらふらと気だるい足取りでベッドに向かっていくと、何かに蹴躓いて飛び上がりそうになった。ぎゃっ、と声を上げて足元を見ると見知ったグレーのしっぽ髪が見えてほっと息を吐く。
「び、びっくりしたぁ。ニキはんやん。部屋のど真ん中で寝転んでどないしたん。また空腹で動かれへんの?」
 ニキは床に四肢を投げ出して目を瞑っていた。寝ているようにも気絶しているようにも見えて少し焦る。もし空腹で気絶しているのなら早急に食べ物を与えなくてはいけない。非常食はどこにあっただろうか。今日は単独行動のつもりだったからポケットには入れていない。それならキッチンから引っ張ってくるしかないか。
 一瞬の間に取るべき行動を思案したこはくだったが、ニキは寝ているわけでも気絶しているわけでもなかったようでぱちりと目を開けて、ひらひらと手を振った。
「大丈夫大丈夫。次の予定まで少し時間があるんで横になって省エネしてるんす」
「なんやそれ。紛らわしいなぁ」
 返ってきた呑気な声音にニキの息災を理解し、こはくは拍子抜けしてため息をついた。杞憂が空振り、倍の疲労が体にのしかかる。心配して損した。
「なはは。ごめんね。あ、こはくちゃん。おかえりなさいっす」
「ん。ただいま」
 ニキの朗らかな出迎えに応えながら、こはくは荷物を置くついでに腰を下ろした。呼吸に合わせて上下するニキの無防備な腹に頭を乗せてそのまま寝そべる。
「んぃ? 僕のお腹に頭乗せてどうしたんすか?」
「わしもちと休もうと思って」
「うん? それならそこにベッドあるよね?」
 ニキが喋る度に、頭の下が不規則に揺れる。決して心地いいとは言えないが、数歩の距離にあるベッドまで移動する方が億劫だと思えるほどには疲れきっていた。
「驚いて疲れたし、もう動かれへん。ニキはんのお腹を枕にさせてもらうわ」
「え~。別に寝心地よくないでしょ?」
「せやね、硬いわ。薄いっちいうんか、骨張っとるっちいうんか……。まぁ、柔らかくてもだらしがなくて嫌やけど」
「散々な言いようっす~。そういうとこ、ちょっと燐音くんに似てきたんじゃないっすか?」
「あ? 誰が誰に似とるってぇ?」
「ああっ、頭でお腹ぐりぐりするのやめてぇっ」
 喋る度に骨の硬い感触が後頭部をつついて不快なのに、更に聞き捨てならない言葉をかけられて、抗議ついでにニキの鳩尾を狙って頭を擦り付けた。ニキの悲鳴に合わせて枕が上下に跳ねて鬱陶しくなり動きを止めた。
 ニキの上半身に向かうように寝返りをうつと、枕も使わず天井を見上げている顎先が視界に入った。
 ニキの腹に耳を当てる形で横になると、ぐるぐる、ごろごろ、きゅるきゅる、こぽこぽ、と高低様々な音が響いて聞こえてくる。深海を泳ぐあぶくのような音、地面がその身を揺らすような音、空を駆ける鳥のさえずりのような音。それぞれの音がそれぞれのリズムでしっちゃかめっちゃかなハーモニーを奏でている。
 人の内臓はこんなにも豊かなメロディーを奏でるものなのだろうか。
「ニキはんのお腹ずっとごろごろ音鳴っとる。お腹の調子悪いん?」
「ああ、多分消化してる音なんで気にしないで。栄養補給したところだし。こんな体勢だけど至って元気っすよ」
 ニキがこちらと視線を合わせようとと顎を引くが、どうやら無理だったようでまた天井を向いた。
 ニキの燃費の悪さはこの早すぎる消化がひとつの要因でもあるのだろう。常に消化管が動いて、それだけでもいくらかカロリーを消費していそうだ。これが通常運転だというのなら、心配する必要もないのだろう。どこまでも紛らわしい体だななんて思う。それともこちらが気にしすぎなのだろうか。
「それならええけど。色んな音が鳴って忙しないなぁ。音楽が流れとるみたいじゃ」
「だったら枕にするのやめとけばいいのにぃ。その辺にクッションとかあるんだし、使ったら? まぁ僕も動けないんで取りに行けないんすけどぉ」
「うん……、せやね……
 鳴り止まないメロディーに密着した体温でぬくもるからだ。自分のリズムとは異なる呼吸に合わせて揺れるあたま。くぐもって聞こえる甘やかな木漏れ日のような声に、波間で揺蕩う心地を想起した。
 メロディー付きのゆりかご、あるいは子守唄を歌う母親の腕の中。それ未満の、けれど類似した感覚に、こはくに巣食う睡魔が急速に膨張してそのからだを包み込んでいく。帳が降りるように目蓋が閉じて、絶えず鳴り続けるメロディーの中に意識が沈み込んでいく。
「あれ。こはくちゃん眠たい?」
「ん……
 反応が鈍いことに気づいた時には、腹の上で眠る年少のからだはすっかりと脱力していた。
「ありゃ。もう寝ちゃってる。ほんとに疲れてたんすねぇ」
 視界の端で辛うじて確認できたあどけない寝顔を壊してしまわないようにそっとつぶやく。
 慣れない環境にも食らいついて、常に一生懸命な末っ子へ、おつかれさまと頭を撫でて労いたい気持ちが疼くが、人の気配や外からの感覚に敏感なこはくに触れたらそれこそ心地いい微睡みを台無しにしかねない。
 そうこう考えているうちに、ニキもまた腹部に感じる温もりとほどよい質量に意識が微睡み始める。どのみち動けないし、と睡魔の手招きに抗うことなくニキも目を瞑った。





 ギュグルルルルル!
「ぎゃあっ!」
 爽やかな風が吹き抜ける夏の縁側のように穏やかなふたり分の呼吸だけが満ちていた空間に突如轟音が鳴り響き、凪いだ空気を突き破った。それに続いたのはこはくの悲鳴だ。飛び起きた拍子に音の発信源に拳を突き落とした。本能的な防衛反射みたいなものだった。
「ひぎゃっ! いたい?! なになに?!」
 今度はニキの悲鳴がこだまする。眠っていたニキは突然腹部に感じた衝撃に慌てふためきながら体を起こした。拳を握ったままきょろきょろと辺りを警戒するこはくと目が合う。
「な、なんやすぐそばで天変地異みたいな音が……って、まさかニキはんのお腹の音……?」
「言われてみれば、ちょっと小腹空いちゃったかも……?」
……安眠妨害」
「ごめんごめん。でも、生理現象ってやつなんすから仕方ないっすよ、許して~」
 なはは、とはにかむニキの腹をこはくの手のひらがぺちぺちと苛む。うたたねから醒めやらぬ重たそうな目蓋と子供っぽい仕草が年相応以上に幼く見えて、やけに可愛らしく思える。無意識だろうが、こはくが腹時計で叩き起こされるまでの時間を安眠と評したことにもニキの口角が緩む。枕役としてではあったが、自分との時間を安らかに過ごしてくれたことが分かって心が綻ぶ。
「あ、そうだ。作り置きのカップケーキがあるけどこはくちゃんも食べる?」
「食べる」
 寝起きでまだ傾いたままのご機嫌を直してほしくて提案すると即答された。むくれていた表情がふわっと花開くように緩んで嬉しくなる。自分の手料理を気に入ってくれているのだと、表情の変化でありありと分かってしまう。しっかり者の彼から時たま覗くあどけない素直さが可愛くて、大切にしたいって思う。
「ニキはん、おおきに」
「どういたしまして。さぁて、おやつおやつ~」
 鼻歌交じりにカップケーキパーティーの準備を始める。小腹は空いていても、胸はケーキのように膨らむ甘さで満たされていた。