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荒野ハチ
2025-08-02 16:19:55
5951文字
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小話
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知恵に染まる
一度染まったものは洗っても落ちない
※ややスケベ
「
………
はぁ」
ゴウンゴウンと音を立てる洗濯機を前に、やや大きめのため息を一つ。
洗濯室に他の生徒の姿は無く、仮に誰かがいたとしても
複数の洗濯機が稼働しているこの騒音の中で僕一人が大きなため息をついたところで
誰にも聞こえはしなかっただろう。
「部屋、戻らなきゃ
…
」
アオガミが待っている。
学園で悪魔による襲撃事件が起こって以降、再び万が一があってはならないからと
何処へ行くにも、いつも僕の傍をほぼぴったりとついて歩くようになった彼。
部屋から洗濯物を出しに来るこのほんの僅かな間であっても、一時たりとも離れようとはしない。
当然今日も、いつものようにここまでついてこようとしていた彼だが、
「すぐそこだから大丈夫だよ」と、僕からやんわり断りを入れて今は部屋で待機してもらっている。
…
そう。ちょっとだけ一人になりたかったから
もちろんアオガミのことが嫌になったわけでは断じて無く、
この浮かない顔を彼に見られて、心配をさせたくなかったから少しだけ離れていたかった
…
というのが理由だ。
というのも最近、少し気がかりになっていることがある。
その気がかりの原因こそが、今自分の目の前で回っている洗濯物。
「ほぼ毎日は、さすがに怪しまれるよな
…
」
普通なら週に一回そこそこの洗濯頻度であろうベッドのシーツ。これが、ほぼ毎日洗濯されていること。
つまり
…
普通でないということだ。
他人の洗濯物なんて僕も気にしないしどうでもいいし、逆に他の生徒もそうだろう。
しかし、シーツのような大物の洗濯物は抱えていれば気にしなくとも目に入ってしまう。
毎日シーツが洗濯に出されている。
他人がこの様子を見て想像する理由なんて、もう一つしかないだろうな
…
毎回「飲み物をこぼした」という理由ではさすがに苦しすぎるし、
ただのきれい好きにしても毎日はやや度が過ぎている気がする。
別に自分の体裁を気にするわけではないけれど、
あらぬ疑惑を抱かれるとやっぱり気分は良くないし
……
それも、
アイツは毎晩一人で自分を慰めてる。なんて噂でも立ったら赤っ恥もいいところ。
一人じゃないし!アオガミとだし!
…
いや、そういうことじゃないな
…
とはいえ人目を避けるようにコソコソ洗濯するのも逆に目立つ。
あれこれ考えるが良い方法や上手い言い訳は何一つ思い浮かぶ気がしない。
この問題はこの場では保留にして、
とりあえず神造魔人が待つ自分の部屋に戻ることにした。
「少年」
部屋に戻った僕を見るや否や、心配したと言わんばかりにすぐに傍に来る半身。
少し心配すぎだよと思いながらも、どこまでも僕を気にかけてくれるその気持ちは嬉しく感じるもの。
「洗濯機が全部使用中で、空くのを少し待ってたんだ」
そんな彼をこれ以上心配させまいと、彼の顔を見上げて僅かに笑顔を作り
やわらかく嘘をついた。
「そうか
…
」
「うん。土曜日だしね。纏めて洗濯する人も多いんだよ」
そう言いながら読みかけの本を手に取り、シーツの無いベッドに腰をかける。
洗濯が終わるまでの時間ならニ章程度は読み進められるだろうと思いながら、挟んだ栞を頼りに本を開く
…
「
……
。何かあれば遠慮なく言ってくれて構わない。だが、君がその必要を感じていないのなら、もちろん私は強要しない」
「えっ?」
まるで予想していなかった突然の言葉に、僕の視線が咄嗟に
手元の本から、少し離れた位置にいる神造魔人に移る。
部屋の出入口付近に立つ彼は、やや心配そうな表情でこちらを見つめていた。
ああ、これはバレている
……
僕が何かしらの悩みを抱えていること。
しかもそれは自分にも多少なり関係するものであろうこと。
思えば、嘘をくつために作った笑顔なんて今やアオガミ相手には全く意味がないだろうし、
いきなりついて来なくていいなんて言われたんじゃ、そうじゃないかと察するよな
…
確かにこういう悩みは、自分一人で抱えるものではなく
二人で解決していくべきことなんだろう。
今後もこの関係を大事にしていきたいと思うなら、尚のこと
…
「アオガミ。こっち」
一度開いた本に再び栞を挟んで閉じ、神造魔人を自分の横に座らせる。
ベッドが彼の重さでギシリと鳴いて僕の右側がやや沈み込み、身体が僅かに彼の方へ傾くのを感じた。
その慣性にそのまま身を任せ、彼の身体に寄り添う。
そうしてゆっくり、自分の中で悶々としていた悩みを吐き出した
_________________
「
……
なるほど。そのせいで他の生徒から疑惑を持たれる可能性があると、悩んでいたわけか
…
」
「うん
…
。そうでなくても、誰かを連れ込んで
…
なんて万が一変な噂になったら、寮則に抵触するかもしれない」
「すまない、少年。私の配慮が欠けていた
…
」
「ううん。アオガミのせいじゃないよ」
その話を聞いて少し落ち込んでしまった様子の彼の頬を、そっと撫でてあげる。
「僕だって、その
……
アオガミとの関係はこれからも大切にしたいって思ってる。だから、何かいい方法はないかなって考えてたんだ」
「方法か
…
」
腕を組み、首をやや傾げて考え込む神造魔人。
どうやら彼もすぐに答えは出てこないらしい。
その様子を見て、少しだけホッとする
……
というのが、実のところ僕自身、解決策が全く思い浮かんでいないわけじゃない。
寧ろ、これ以上ない完全無欠ともいえる答えが出ている。
それは
……
セックスの頻度を一般的なシーツの洗濯頻度に合わせればいい
つまり週一程度にすれば問題ないということ。実に単純明快で且つ確実な解決方法である。
故にもし、この解を彼から提示されたら肯定せざるを得ない。
しかし、急に週一に減らしたところで、現在ほぼ毎日彼の愛を享受しているこの身体は
情けない話だが、一週間のお預けには耐えられないかもしれない
…
アオガミとの時間が減るのは、単純に「嫌」なのだ。
「なら
…
ベッドじゃなくて、床
…
とか」
「君をこんなところに寝かせるわけにはいかない」
こちらの代替え案は即却下されてしまった。
硬い床の上でも自分は気にしないけれど、僕を大事に想ってくれるアオガミはやっぱり気になるのだろう
…
最中も、いつも僕の身を最優先に考えてくれる優しい彼なら
そこまでして自分の欲望を満たそうとは考えない。
となれば、やっぱり___
「洗濯の頻度が増加した。それが問題ならば、
その原因となっている行為に対して、頻度を減らす等の対策を取れば解決するだろう」
うん。そうだよね。そうなるよね
…
僕がよくてもアオガミが許容できないなら、他に方法がないと思う。
学生で寮生活で、そこで他人の目がある以上、全てが自分の望んだ通りやりたい通りとはいかない。
ある程度は妥協しなければならないことも、理解はできる
……
「
…
だが」
「? だが?
…
なに?」
やや下を向き、急に言い淀む。
彼がこういう様子を見せる時は間違いなく、僕に何かを遠慮している時だ。
「教えて?アオガミの気持ち」
「少年
…
」
そんなときはいつも、そっと彼の背中を押してその先の言葉を促す。
僕らの間ではもう定番のやりとりだ。
「私は、正直な気持ちを言うと
…
君との時間を減らしたくない」
「
…
!」
「君と紡ぐ幸福な時間を、減らしたくはない」
こちらの瞳を貫くような真っ直ぐな視線を向けながら
真摯に伝えられる神造魔人の本音
…
先ほどの彼の提案が、彼の本心でないと分かり少し安心する。
「ん。
…
僕も」
彼の目線のやや下から、お返しと
真っ直ぐな視線を彼の金色の瞳に向けて貫き返す
「僕も、アオガミとの時間が減るの
…
嫌だよ」
交わる視線にどんどん熱が籠もっていくのを感じる
…
二人の腕は自然に相手の身体に絡み、お互いを捕らえ合っていた。
トクン
…
ドクン
…
トクン
…
ドクン
…
重なる二つの胸の音が、昨夜の熱い時間の記憶を掘り返し、今この時の気持ちをどんどん昂らせる。
高鳴る鼓動に荒くなっていく呼吸___
互いの口から漏れる乱れ息を貪るようなキスを、何度も
…
何度も繰り返す。
「
…
ふっ
………
んぅ
……
ハァ
…
ん
…
」
情熱的な口づけと抱擁にやがて体幹が崩れ、体格の異なる二つの身体はゆっくりと傾き
シーツのないベッドに沈む____
暫く僕の口内を味わい尽くした神造魔人の口はゆっくりと横へ流れ、
今度はチュッと小さく音を立て首筋に優しく吸いつく。
痕が残らないギリギリのキスを何度も繰り返すと、
やがで生暖かい舌が這い、大きな手はシャツの中を下からゆっくりと弄ってきた。
「あ
………
ンッ
……
だめっ
…
アオガミっ」
これ以上先へ進んで、シーツどころかベッドパッドまで汚してしまったらもう言い逃れができない。
言葉で制止をかけようとするが、欲に正直な身体はもっとと訴えるように彼の身体を抱き返し、その先を乞うてしまう。
矛盾を晒す自分の発言と身体
…
「少年。
……
嘘はよくない」
それこそ毎日のように夜の時間と身体を重ねてきた彼は
僕が本当はどうしたいのかなんてことは当然お見通しだろう。
よって行為を止める素振りは一切見せず、もう片方の手を
ズボンの中へとゆっくり潜り込ませ、下半身を撫でながら少しずつ奥へ侵入していく。
「だ
…
ダメっ
…
! だめ
……
やっ
…
ぁ
…
」
うわ言のように繰り返される上辺だけの制止は、聞き入れられることなく
泡沫のように生まれては虚空へ消えていく。
禄に抵抗しないまま、シャツはめくり上げられて薄い胸が露わになり、半分降ろされたズボンからは期待に膨らんだ局部が顔を出して上向いている。
まだ昼にもなっていないこんな時間から、なんて格好をしているんだろう
…
変わらず僕の制止を聞き流しながら彼は、胸の非常に敏感な小さな突起に吸い付き、
下に侵入した手は臀部を弄り、さらに奥の蕾を太い指先で優しく解していく。
「んっ!ぁ
…
ッ
……
あ
…
ん
…
っ!」
ああ
……
ダメなのに
…
頭では分かっているのに、未だに昨晩の余熱が残るこの心と身体は完全に彼の熱を欲してしまい、逃れる気がない。
休み無く与え続けられる上下の刺激に、
口からは吐息混じりの小さな鳴き声が漏れるばかりで、もはや言葉と形容できるものは出てこなくなっていた。
「少年」
「っ
……
ハァ
…
ん
…
」
「洗濯の頻度が増加したことが問題ならば、どうすれば汚さずに済むのかを考えればいい」
「
………
ぅ
…
」
「私の知恵は、それをどう考える?」
アオガミの顔が少し意地悪く見えた。
絶対に汚すことが許されないこの状況を、まるで
君の知恵で何とかしてみせてほしいと遠巻きに言われているようで。
理性が飛びかけている頭では、知恵などまともに出せないことなど分かっているだろうに。
「ぜんぶ
…
溢さずにっ、受け止め
…
る、からぁ
……
っ」
なんて頭の悪すぎる答えだ。
僕も僕で、何の対策も施さずにこのまま欲しいと乞うて
“汚さないように”という本題からかけ離れたことを言う。
彼から与えられる快楽に最後まで抗えたことも、
彼から注がれる大量の欲熱を溢さずに全て腹の中に受け入れられたことも
今まで一度もないクセに_______
身近な物事や単純なことこそ、いざという時に意外に気づきにくいもの。
“灯台下暗し”なんて言葉があるように、そこに気がついてみれば
どうしてこんなに簡単な事があの時に出てこなかったんだろうと思うことは少なくない。
「
………
ん
…
ぅ
…
」
「少年。大丈夫か」
気が付くと、神造魔人の腕に包まれたまま横になっていた。
気怠さを残す身体、軽く掛けられているタオルケット。
遮光カーテンの隙間から漏れる陽の光は、僅かに暖色が滲んでいる。
ああそうか
……
あの後、僕はアオガミとあのまま____
「Σ!?」
……
あれ?
慌てて上体を起こすと、下にはシーツの代わりにバスタオルが敷かれてあった。
「これ
…
」
「心配しなくていい。汚れていない」
「アオガミが?」
「ああ」
いつの間に
…
最中は夢中になってて全く意識できていなかった。
いや、もうどうにでもなれと思っていたのかもしれない
…
しかしアオガミは、自分も欲のままに僕を抱きながらも、僕の悩みを意識し
しかもその対策を施してくれていたらしい。
どこかで聞いた、“スーパーダーリン”とはこういう人のことを言うのかもしれない。
「そっか。タオル
…
敷けばいいのか」
「タオルの一枚二枚なら、毎日洗濯に出されていたとしても不自然には感じられないだろう」
シーツを汚したくないなら上に何か敷けばいい。
本当に単純な事だった。でも
…
「アオガミ。朝相談した時はそんな話はしてなかったよね」
「ああ」
「いつから?」
「
…
君ならあの場でどんな知恵を出すのか興味があった」
「あの時、ろくな知恵が出せたと思う
…
?」
「
………
」
申し訳ないという言葉をそのまま表情にしたような顔の彼。
きっと最初から「そうすればいい」解が彼の中で出ていたんだろう。
「いじわる」
「
……
済まない」
「
…
ふふっ、怒ってないよ」
「少年
…
」
「嬉しいよ。アオガミがいろんな僕に興味を持ってくれて
…
」
思えば、アオガミとのセックスも随分変わった
…
「やめて」とつい口から漏れれば本当に行為を中断してしまっていた彼が、それは嘘だと分かるようになり、
最中も言葉責めに近い言動まで
……
「けど、アオガミさ。そういうのどこで覚えたの?」
「林檎を毎日のように齧っていれば、悪魔も多少知恵が得られるのかもしれないな」
「? リンゴ?」
どういうことだろうと考える僕に、
アオガミはそっと口づけてきた
「
…
!」
「こういう事だ」
「もう
…
僕のせいにするのズルくない?」
でも、こうしたアオガミの変化の原因が僕にあり、
アオガミもまた少しずつ僕から知恵を得ているのだと思うと、不思議な愉悦感があった。
悪魔に喰われる知恵の実だけでなく、実を喰らう悪魔もその知恵に染まりゆく
……
お互いがお互いのものになっていくようで____
「
……
ねぇ。もう一回」
「了解」
洗濯
………
そうだった
…
洗濯物は昼前からずっと洗濯機の中に残したままだ
…
この時間に干してももうきちんと乾かないだろう。
あとで医科学研究所の乾燥機を使わせてもらおうか
…
そんな事をぼんやり考えながら、まだ少しだけ怠さの残る身体を再び神造魔人に預ける。
そうしていつもの温もりの中で微睡みながら
再び意識を手放した
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